リビングに通されると、そこには朝のティータイムを楽しんでいた義父と兄弟たちがいた
-あ、もうこの部屋家具の配置でさなを冷遇してるのわかるわ…
リビングを見た悠人は、そう内心思う…
見れば、両親もうわぁ…っという顔を一瞬だけしていた…
立派な外見だったその家の中は豪華で煌びやかな感じで、幸せな家庭のお手本のようなモノだったが、リビングにある写真立てや椅子の数を見ると4つごとしかなく、さなの場所はないというのを感じた…
それこそ、五人家族です、っと言われるまで解らないレベル…
彼らはさなを一瞥すると、露骨に嫌悪感を顔に出し、父の自己紹介を聞き、今度は怪訝な顔になる
「弁護士…? 娘が何か不祥事でも起こしましたか? 損害賠償なら、彼女個人の貯金の範囲でやっていただきたい。家は関与しませんよ」
「なに?今度は義姉さん前科もちになったの?…僕たち家族の経歴に傷をつけるような人、家族じゃないからこないでくれる?」
「その通りだ」
義父が新聞を広げたまま、事務的に言い放ち、それを聞いた義弟がそう言い放ち、それに続く義兄…
それを聞いたさなはビクッと反応するが大丈夫だ、と悠人が手を握ると、落ち着いたのか優しく握り返してくれた
それに対して悠人の父は、怒りを抑えながら促されずにソファに腰を下ろすと、鞄から数枚の書類を取り出した…
その動作には、一切の無駄がないが少し震えており、怒りをこらえてるようにも見える…
「…まず、朝早くに来たことを謝罪したい…実を言いますと、今回私はさなさんの『保護』について提案しに来ました…
結論から申し上げます…
本日より、さなさんは我が家で預からせていただきたい…成人するまでの養育権の一切を、私に、いや、我々織崎家に委ねていただきたいのです」
「は……?」
悠人の父の言葉に固まるさなの父親…
そして、理解したのかさなの義弟がブハッ!!と吹くや否や笑いだした
「アハハハッ!!!…預かる?姉さんを…?
価値がまったくないのに?…人生をどぶに捨てるようなものじゃないかっ!!」
ーまさかそんな頭の可笑しい人が弁護士だなんてね!
そう言ってひとしきり笑った後、声も小さくして吹き出すのをこらえながら笑い続ける義弟…
その一方で、義兄が少し吹き出したのち話し始める
「何を言い出すかと思えば。そんな出来損ない、勝手に連れて行けばいい」
「そうだな、そんな出来損ないが二葉家を出てもなんの問題もない」
新聞から目を離さずにそんなことをいう義父…
そんな二葉家の男勢を見て悠人の母親は切れそうになるが、悠人の父親が話し始める…
「……『心理的虐待』、及び『育児放棄』」
その低い声が、リビングの空気を切り裂いた
義父が新聞を下げ、鋭い視線を向ける
「昨夜、彼女から詳細なヒアリングを行いました。食事の隔離、会話の完全拒絶、そして精神的支柱であった創作物の損壊。これらは司法の場において、児童虐待と判断されるに十分な事由です」
悠人の父の毅然とした態度に、義父は鼻で笑う
「馬鹿げたことを。証拠でもあるのかね?」
「さなさん本人の証言、及び、彼女が所持していた『損壊された証拠品』。そして、つい先ほどまでの会話も録音しています」
そう言いながらボイスレコーダーを取り出す父に、眉を潜める男勢…
自分達が、不利になる発言したという自覚があるのだろう…
その表情は苦いモノだった
「そして、さなさんが持っていた破かれたイラストの破片…此方にも、母親の指紋がベッタリと付いてるでしょうなぁ?」
ーつまり、家族で一人の女の子を精神的追い詰めていた、虐待をしていたということになりますなぁ?
母親の顔が、みるみるうちに青ざめていく…
「もし、この件を私が正式に告発すればどうなるか。……神浜大医学部の教授という地位、将来を嘱望される息子さんたちのキャリア。……それら全てが『虐待加害者の家族』というレッテルと共に、世間の荒波に晒されることになる……」
「……脅しか」
新聞から目を離した義父の声が、初めて震えた…
よく見ると、兄弟二人も少し青くなっている…
「いいえ?言ったでしょう?ご提案がありますって…提案というのは、『和解案』の提示ですよ?…さなさんの存在を、貴方方の人生から完全に切り離して差し上げようと言っているのですよ」
そう言うと、今度は一枚の紙を提示する…
「表向きは『全寮制の学校への転校』…は難しいと思いますので、『遠方の親族への委託』、または『信頼している知り合い家族への委託』…まぁ、この場合は『特別養子縁組』が正しいですかな?…そうすれば貴方方の名誉に傷はつかない。……その代わり、彼女の人生には二度と干渉しないと誓約していただく」
提示した紙は、それを了承したことを示すための書類…
沈黙が流れた…
二葉家の人間たちは、互いに顔を見合わせた。そこに「娘を失う悲しみ」は一欠片もなかった。あったのは、「いかにリスクを排除するか」という計算だけ…
「……いいだろう。学費も生活費も、そちらで持つというのなら、こちらに異論はない。元々は最低限の養育費を出す予定だったのがなくなったしな。…条件として彼女が外で『二葉』の名を名乗らないという条件なら、受け入れる」
「……!」
さなが小さく息を呑んだ
あまりにもあっさりと、家族という絆を「ゴミ」のように投げ捨てた彼ら…
悠人は我慢できず、さなの手を力強く握った
「(……こいつら、本当に……! でも、これでいい。これでさなさんは自由になれる)」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ…そのつもりだということも、誓約書で記入済みですから」
「そうか…」
ペンを取り出そうとする義父を見た悠人の母は「大切なものだけ積み込みましょう」
と言い、さなと共にさなの部屋に荷物をまとめに向かった…
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三十分後…
法的に有効な合意書にサインを済ませ、悠人たちは二葉家の門を出た…
荷物を積み込んださなは最後に家を振り返る…
その瞳に映る豪華な屋敷は、もう彼女を縛る牢獄ではない…
「オーイ、もう行くぞさなさん…いや、さなと呼ぶべきか?」
悠人が声をかけると、さなは震える声で、でもはっきりと答えた
「うん……。……私、もう、透明じゃないんだね」
朝日が、彼女の横顔を眩しく照らす
悠人の母がさなを優しく抱きしめ、父は満足げに車のキーを回した
「さて、悠人。家に帰ったらお祝いだ。……さなちゃんの、新しい誕生日の」
「ああ。……ありがとう、父さん」
ーでも、その前にへやづくりだな
そう言いながら乗り込む悠人と笑いながら同じく乗り込むさな…
ーそう言えば…
車が走り出す中、ふと悠人はさなの家だった屋敷を見る…
その屋敷は、なにやら不穏な空気を纏ってるように見えた…
さなが縁を切られるまでは、見えなかったのに…
ーあの家にあのまま住んでて、大丈夫なのかねぇ…?
「(っと、そんな事考えてる暇なかった…取り敢えず、さなの不幸は変えられたけど、まだ未来を変えた、ってわけじゃない…もっと念能力を鍛えないと…)」
そう心構えを新たにする悠人であった…