魔王様は現代人ですので。 ~転生したら魔王だったけど滅びたくないので堅実にやります~   作:第616特別情報大隊

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魔王海軍

……………………

 

 ──魔王海軍

 

 

 魔王海軍の主力艦隊は3つの海域に展開している。

 

 ひとつはポラリスクを母港にし、北極海に展開する北極艦隊。

 ひとつはネヴァグラードを母港にし、琥珀海に展開する琥珀艦隊。

 ひとつは南部のセヴァストラを母港にし、ノクス海に展開する南方艦隊。

 

 魔王海軍が整備を急いでいるのは魔王国の心臓部に繋がる海を守る琥珀艦隊と南方の穀倉地帯に繋がる海を守る南方艦隊であった。

 

 その南方艦隊で新しい戦艦が就役することになり、ヴァヴェルはエレーナとともにそれに立ち会った。

 

「陛下。これが戦艦アドミラル・キーロヴァです」

 

 そうヴァヴェルに新しい戦艦の就航を見せるのはひとりのスキュラの女性──スヴェトラーナ・レオニードヴナ・フェドロヴァだ。

 彼女は魔王海軍参謀総長にして海軍上級大将である。

 

「ふむ。これまでの戦艦より巨大になったな」

 

「はい。ですが、海軍としてはこれでもサイズを抑えた形になります」

 

 戦艦アドミラル・キーロヴァは口径38センチ3連装砲を積んだ戦艦だ。

 排水量35000トンで速力は28ノットという超弩級戦艦である。

 

 それは魔王海軍が就航させた艦艇の中ではまさしく最大級のものであり、海軍の誇りとなるべきものであった。

 しかし、フェドロヴァ上級大将の目は冷めている。

 

「分かっているよ。君はまだこの手の戦艦に価値はないと思っているのだろう?」

 

 その様子にヴァヴェルは苦笑して指摘した。

 

「いえ。そのようなことは……」

 

「だが、君は前々から言っていただろう。我々は潜水艦と航空機を主力とすべきだと。君の書いた本は読ませてもらってるから知っている」

 

 フェドロヴァ上級大将は魔王海軍の潜水艦乗りから、今の地位に就いた人物だ。

 彼女は次世代の海戦は三次元的に行われるものであり、二次元的な動きしかできない水上艦の役割は減っていくだろうと著書『潜水艦隊』に記している。

 特に彼女がやり玉に挙げたのは戦艦だ。

 

 戦艦はこの時代においてまだ多くの海軍の主柱であった。

 しかし、それを脅かすものとして空母という航空戦力を扱う艦艇が生まれ、空軍においても対艦攻撃を可能にする航空機が開発されている。

 そのような状況において戦艦の役割は大きく縮小したと、そうフェドロヴァ上級大将は断じていた。

 

 魔王海軍はいわゆる海洋(ブルーウォーター)海軍(ネイビー)ではなく、沿岸(ブラウンウォーター)海軍(ネイビー)の域を出なかった。

 海を越えて兵力を投射する必要もなく、守るべきは自国の海岸線だけであり、やるべきことはそう多くない。

 

 そのような魔王海軍においてフェドロヴァ上級大将は魔王国の沿岸部は陸上基地から展開する航空戦力と潜水艦、そして少数の水上艦で守ることができると論じた。

 そこに戦艦の必要はないと彼女は断言している。

 

 しかし、戦艦はこうして新しく就役していた。

 

「私も将来的にずっとこの国の沿岸部を守り続けるだけならば、大型艦はそこまで必要ないと思っている」

 

「……将来的に、ですか」

 

「ああ。50年、100年先を考えれば今のうちから大型艦の建造ノウハウと運用のドクトリンを確立しておく必要があるだろう」

 

 フェドロヴァ上級大将にヴァヴェルはそう語った。

 

 それを見ていたエレーナは思う。

 ときどきヴァヴェルは見たこともない未来の話をしているかのように話すと。

 その様子はまるで未来から来たタイムトラベラーのようだと思った。

 

「無論、先ばかり見ていて足元の石に躓くことがないようにするつもりだ。導入される戦艦は現在建造中のアドミラル・ゴルシコヴァとアドミラル・ネヴェリスカヤ、アドミラル・マカロヴァの3隻限りとし2隻ずつ琥珀海艦隊と南方艦隊に配備する」

 

 残るリソースは航空戦力でも、潜水艦でも作っていいとヴァヴァエル。

 

「……ご理解に感謝します、陛下」

 

 フェドロヴァ上級大将はとりあえず今はそれで納得していた。

 

 だが、同時に疑問がわく。

 この国が存続し続ければ50年、100年後には外洋に乗り出すのだろうかと。

 そうなるとそのとき海軍は誰と戦うことになるんだ?

 ブリタニア連合王国か、それともさらにその西にあるコロンビア合衆国か……。

 

 まあ、どちらにせよ海軍は今を生き延びなければならない。

 汎人類条約機構はルオタニア戦争の影響を受けてさらに緊密な連携を始めている。

 ルオタニア共和国が汎人類条約機構に加盟するのは秒読み段階だ。

 

「しかし、造船所の人間も頑張ってくれたな」

 

 そんなフェドロヴァ上級大将の心の中の不安をよそにヴァヴェルは造船所の職員たちを讃えていた。

 

 それもそうだろう。この大型戦艦は純粋な魔王国の技術で作られたものではない。

 船体の設計や装甲の配置、火砲の設計まで国家保安委員会(CSS)がブリタニア連合王国から盗み出した技術で作られたものなのだ。

 

 盗んだ技術で完璧なコピーを作るのは簡単なようで難しい。

 その点はこのアドミラル・キーロヴァ級戦艦も劣化コピーに過ぎない。

 それでもこうして形になっているだけ、造船所の職員たちの頑張りは大きなものがあったのだ。

 

 それから戦艦アドミラル・キーロヴァの就航を祝った式典が開かれ、魔王海軍の関係者たちがウォッカを手に海軍の新しい戦力の充実を祝う。

 

「お目にかかれて光栄です、陛下」

 

 南方艦隊長官のクラヴディヤ・ロディオノヴナ・クルガノヴァ大将もこの場におり、フェドロヴァ上級大将を隣にヴァヴェルに挨拶した。

 

「このノクス海の守りは重要だ。最悪、戦艦はそこにいるだけで価値がある。それを利用して守ってほしい」

 

「それはつまり現存艦隊主義ですか?」

 

「そうだ。使ってくれれば嬉しいが、ドクトリンに合致しないのであれば無理をする必要はない。これはある意味では研究のためのものだ」

 

 現存艦隊主義とは艦隊は存在するだけで敵海軍の行動を妨害しえるというものであり、敵海軍戦力の拘束を行うものだ。

 

「その思想は私は消極的すぎてあまり好きではありませんな」

 

 クルガノヴァ大将はそう言って肩を竦めていた。

 

 海軍とは見敵必殺であるべきだという考えは魔王海軍にも存在していた。

 古くからブリタニア連合王国が掲げていた海軍思想は、そこから多くの国に影響を与えていたのである。

 

「よろしい。君のように勇猛な艦隊司令官がいれば我が国も安泰だな」

 

 クルガノヴァ大将の態度にヴァヴェルは笑っていた。

 

 それからヴァヴェルは新聞社の写真撮影に応じる。

 エレーナを右に、フェドロヴァ上級大将を左に置いたヴァヴェルはアドミラル・キーロヴァの艦上でパシャリと写真に写った。

 その写真は魔王国の新聞社で報じられ、国外の人間もアドミラル・キーロヴァの就航について知ることになった。

 

 技術を窃盗されたブリタニア連合王国にても。

 

 

 * * * *

 

 

「これは……」

 

 ブリタニア王立海軍情報部に所属するウィリアム・カーター大佐は目を見開いて、写真に写っているアドミラル・キーロヴァを見た。

 

「これは我が海軍のライオン級戦艦ではないか?」

 

 ブリタニア連合王国は16インチ3連装砲を有するライオン級戦艦を有している。

 写真に写っている魔王軍のアドミラル・キーロヴァはその主砲配置から副砲となる両用砲の配置までライオン級戦艦そのものだったのだ。

 

「そいつの主砲は15インチだそうです」

 

 海軍情報部の分析官であるジョージ・ハリソン少佐はそう言う。

 

「だが、どう見てもこれはライオン級戦艦のパクリだ!」

 

 ハリソン少佐の言葉を聞いてもカーター大佐はそう憤慨していた。

 

「魔王軍にデザイン料でも請求しますかね?」

 

「冗談はやめろ。全く、魔王軍の内通者が海軍内にいるようだな……」

 

「それは保安局が対処しているそうです」

 

 それに問題はそこではありませんとハリソン少佐。

 

「魔王軍はパクリとはいえど、我が海軍の保有する戦艦とほぼ同等と思われるものを出してきました。アルトライヒ海軍ですら、この手の造船技術では我が国に後れを取っているにもかかわらずです」

 

「……連中の技術力は無視できなくなりつつあるというわけか」

 

「ええ。これから連中はさらにその技術を加速させるでしょう。我々から盗まずともです。魔王海軍の潜水艦はすでに我々からの技術漏洩が見られないにもかかわらず、我々の保有しているものと同じ水準と考えられていますから」

 

 ハリソン少佐にそう指摘され、カーター大佐は考え込む。

 

「前に魔王海軍は沿岸(ブラウンウォーター)海軍(ネイビー)だと言う報告があっただろう。今回の戦艦保有はそれを覆すものになりえるか?」

 

「将来的には。今すぐに連中が大艦隊を保有するとは思えませんが、やがてはやつらも海に乗り出すでしょう」

 

「そうなると我が国は危ういな」

 

 沿岸(ブラウンウォーター)海軍(ネイビー)から海洋(ブルーウォーター)海軍(ネイビー)に脱皮するには、戦艦だけではなく空母や補給艦を充実させなければならない。

 今日明日に魔王軍がブリタニア王立海軍の脅威になることはないだろうが、これから先もずっと同じような状況が続くと言う保証もなかった。

 

「すぐに魔王海軍の戦力の再分析を行ってくれ。必要な人材は好きに使っていい。最優先だ」

 

「了解」

 

 アルトライヒ帝国に遅れてブリタニア連合王国でも魔王軍を自国存続の脅威とする論調が語られ始めるのはこの時点からであった。

 

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