魔王様は現代人ですので。 ~転生したら魔王だったけど滅びたくないので堅実にやります~   作:第616特別情報大隊

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シュナイダー少将の華麗なる戦略

……………………

 

 ──シュナイダー少将の華麗なる戦略

 

 

 シュナイダー少将は前線からの報告を聞いて『そら見たことか』と思わず呟いた。

 ルクス中戦車はおろかルクスII中戦車でも敵戦車には歯が立たないと報告は前々から強力な戦車が必要だと訴えていたシュナイダー少将の言っていた通りなのだから。

 

「失礼な物言いになるかもしれませんが」

 

 そのシュナイダー少将は参謀本部に招かれていた。

 

「私の言ったとおりになりましたな」

 

 シュナイダー少将は参謀本部の主であるクレッチマー元帥に向けてそういう。クレッチマー元帥は苦々しい表情でシュナイダー少将を見ている。

 

「そうだ、シュナイダー少将。君の言うとおりになった。その上で問うが、我々はこの事態にどう対応すべきだ?」

 

「より強力な戦車を開発する以外にですか?」

 

「そうだ。今ある戦力で敵に対抗してもらいたい」

 

「随分と無理を仰る」

 

 クレッチマー元帥からの要求にシュナイダー少将はそう言い放つ。

 

「軍人はいつの時代も与えられたもので戦ってきた。我々もそうしなければならないのだ。君も国を守るために軍人になったのだろう。戦車で遊ぶためではなく」

 

 忌々しい爺さんだとシュナイダー少将はクレッチマー元帥の言葉に思った。

 だが、言っていることに間違いはない。

 俺たちはこの状況をどうにかしなければならないのだ。

 そうしなければ祖国は魔王軍に蹂躙されてしまう。

 

「分かりました。何とかしてみましょう」

 

 そして、シュナイダー少将が動き始めた。

 彼は魔王軍が迫る首都ヴァルシャにベルクフェルト少佐を連れて航空機で向かい、シュタインバッハ大将と合流。

 シュタインバッハ大将は戦車の専門家が来たというのに安堵の息を漏らす。

 

「シュナイダー少将。我々はどうすればいいのだ?」

 

「まずは撃破された魔王軍の戦車ってやつを見せてください。まずは戦術レベルで敵戦車への対応策を立てなければなりません」

 

「分かった。鹵獲した魔王軍の戦車に案内させる」

 

 それからシュタインバッハ大将の部下がシュナイダー少将をアルトライヒ軍が鹵獲した魔王軍のA-34中戦車まで案内させた。

 

「こいつはまた……」

 

 シュナイダー少将は驚きの目でA-34中戦車を見る。

 

「こいつの主砲は?」

 

「口径76.2ミリです」

 

「……魔王軍は正しい選択をしたというわけか」

 

 クソ。俺たちがちゃちな玩具であるルクス中戦車で遊んでいる間に魔王軍はさっさとちゃんとした中戦車を配備してやがったわけだ。

 これで俺たちは大きく出遅れたのが確定したな。

 シュナイダー少将はそう思いながら撃破されたA-34中戦車の各部位を見て回る。

 

「光学系は俺たちのルクス中戦車の方が優れてそうだな」

 

「ええ。魔王軍はまだまだ精密機器の製造が苦手なようです」

 

 A-34中戦車の光学照準器は劣悪というわけではなかったが、アルトライヒ軍のそれと比べるといささか劣る。

 

「だが、これは弱点にはならない。本当にルクス中戦車の主砲は全く歯が立たなかったのか?」

 

「はい、閣下。ルクス中戦車、ルクスII中戦車による撃破報告は一切ありません」

 

「ふうむ。ベルクフェルト少佐、どう思う?」

 

 ここでシュナイダー少将は連れてきたベルクフェルト少佐に尋ねる。

 

「無敵の兵器などというものはありませんよ。どこかに我々の兵器でも対抗可能な点はあるでしょう。技術者などにこの戦車を見せて分析させる必要がありますね」

 

「そうだな。まずは技術者たちに見せてみるか」

 

 そう言いながらシュナイダー少将は次の問題に取り掛かる。

 

「戦術レベルで対抗する手段が生まれたならば、次は戦略的にこいつを無力化しなければならない。戦争が起きる前の情報によればこっちの戦車は数の上では魔王国のそれと遜色ないとのことだった」

 

「であれば、閣下が想定されていた戦い方ができますね」

 

「ああ。戦車を前へ、だ」

 

 シュナイダー少将は戦車を中心とした新しい戦争の在り方を考えていた。

 そして、今まさにそれが正しいかどうかを確かめる機会が来たのだ。

 

「すぐに反撃を計画するぞ。魔王軍に戦車の戦い方というやつを教えてやろう」

 

 シュナイダー少将はそう宣言し、シュタインバッハ大将に作戦を提示しに向かった。

 

 

 * * * *

 

 

 魔王軍中央方面軍司令部では予定より遅れた前進に司令官のワシレフスキー上級大将が地図を何度も睨んでいた。

 

「首都ヴァルシャは遠いな……」

 

 それからワシレフスキー上級大将がそうぼやくように呟く。

 

 魔王軍は北から南にハンマーを振り下ろすように前進している。

 ハンマーの振り下ろされる先は南からじわじわと進んでいる友軍部隊であり、それによって魔王軍は緩やかな包囲殲滅戦を目指していた。

 いわゆるハンマーと金床戦術である。

 

「敵の抵抗が予想以上に激しいようです」

 

「ああ。我々が予想したより敵は粘っている」

 

 ワシレフスキー上級大将は部下の報告にそう頷く。

 本来ならばすでにハンマーは半分以上振り下ろされていなければならないのに、アルトライヒ軍とレヒスタン軍の激しい抵抗を受けて、ハンマーはようやく半分に到達するところだった。

 作戦の遅延がもたらすのは敵が包囲から脱出する時間だけでなく、準備されている物資の予定以上の消耗もだ。

 魔王軍は後方の補給部隊を全て自動車化している近代的な軍隊だが、それでも兵站には負荷がかかる。

 

「前進を急がせたいが……」

 

「そうなさるべきかもしれません。これ以上の遅延は包囲の失敗を意味します」

 

「うむ。ならば、前線部隊に発破をかけろ。前進を急がせるんだ」

 

 ワシレフスキー上級大将と参謀の意見は間違ってはいなかった。

 彼らは前進を急がなければ包囲に失敗し、戦略目標の達成に失敗する。

 間違っていたとすれば彼らが用いていたドクトリンだ。

 戦車はあくまで歩兵の支援というそのドクトリンが間違っていた。

 

 魔王軍の前進を急ぐ前線部隊から連絡が突然途絶え始めたのは、シュナイダー少将が着任してからのことであった。

 何が起きたのか分からないままに、今度は後方部隊から『敵の攻撃を受けた』との報告が入ったことで混乱が始まる。

 

「敵は我が軍の後方連絡線に進出している!」

 

 魔王軍はパニックに陥った。

 ゆっくりとハンマーを振り下ろしていた魔王軍は、そのハンマーの柄を的に掴まれた形になったのだ。

 

「どういうことだ。敵の反撃だと言うのか?」

 

「間違いありません。敵の反撃です。敵は我が軍の後方連作戦を遮断しながら前線部隊の包囲を目指しています!」

 

 ワシレフスキー上級大将が狼狽え、参謀が叫ぶ。

 混乱した状況にしては彼らは正確に物事を把握していた。

 敵であるアルトライヒ軍が装甲戦力を用いて反撃に出て、前線を突破したのちに魔王軍の伸びた後背を脅かしているのだ。

 

 すでに大きく前進していた魔王軍は攻勢計画の遅れもあって補給が途切れ途切れになっており、戦車部隊や砲兵部隊においてその傾向は顕著であった。

 このまま敵に後方連絡線を遮断されれば、魔王軍は多くの火砲と戦車を失うだろう。それも敵と戦うこともないままに。

 

「後退だ!」

 

 ワシレフスキー上級大将が命じる。

 

「全部隊を後退させろ! 投入できる予備は何でも投入してこれを支援するんだ!」

 

 ワシレフスキー上級大将の素早い命令で撤退戦が開始された。

 魔王軍は大急ぎで来た道を戻り始め、大規模な撤退となった。

 運びきれない重装備は次々に放棄されてゆき、燃料切れの戦車やトラック、橋が壊れて運べなくなった火砲などが道路に捨てられていく。

 

 戦場で無敵のように思われたA-34中戦車も燃料と砲弾がなくては意味がなく、少なくない車両が放棄されていった……。

 

 * * * *

 

 

「上手くいきましたな」

 

 この魔王軍の撤退を引き起こしたのは当然ながらシュナイダー少将だ。

 彼はアルトライヒ軍のレヒスタン駐留軍隷下にあった第3装甲師団と第6自動車化歩兵師団を使ってこの反撃計画を実行した。

 

 反撃計画は魔王軍を先に領内に深く招き入れてから、その伸びた後背を突いて切断するというもので、のちの歴史で『後手からの一撃』と呼ばれるものだ。

 

「ああ。これで我々は危機的な状況を脱した……とりあえず今は……」

 

 シュタインバッハ大将は安堵の息を漏らしている。

 

「そうですな。とりあえず今は安堵できます。しかし、これから先は分かりません」

 

「君の戦術は何度も通じるものではないと?」

 

「当たり前です。当然ながら敵も対応するでしょう。これと同じ手が通じるのはあと1回あれば幸運というところですな」

 

 いずれにせよとシュナイダー少将は言う。

 

「我々にはもっと強力な戦車が必要です。それなくして勝利はあり得ません」

 

「分かっている。その意見には同意するよ」

 

 シュタインバッハ大将がまだ首都ヴァルシャから逃げ出さすに済んでいるのは、シュナイダー少将の戦車のおかげだ。

 これからはシュタインバッハ大将もシュナイダー少将の後ろ盾になり、戦車派閥を支えていくことだろう。

 

 シュナイダー少将はシュタインバッハ大将への報告を終えると司令部を出た。

 

「ベルクフェルト少佐。今回の作戦をどう思う?」

 

 そして迎えの軍用四輪駆動車で待っていたベルクフェルト少佐に彼はそう尋ねる。

 

「参謀本部の老人たちを動かすには十分な戦果かと」

 

「そうか。では、今一度参謀本部を揺さぶらないとな」

 

 シュナイダー少将はベルクフェルト少佐の言葉ににやりと笑い、飛行場に向かった。

 

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