魔王様は現代人ですので。 ~転生したら魔王だったけど滅びたくないので堅実にやります~   作:第616特別情報大隊

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リガンの戦い

……………………

 

 ──リガンの戦い

 

 

 リガンに至るまで魔王軍は強力な縦深防御を展開していた。

 何層にも及ぶ陣地が構築され、それぞれの層が汎人類条約機構軍に少なくない出血を強いてきた。

 

「ようやくリガンが見えてきますよ」

 

 そういうのは中佐に昇進し、同時にアルトライヒ陸軍第2装甲師団の参謀に就任したベルクフェルト中佐だ。

 

「ああ。我々はこれからあれを落とす」

 

 第2装甲師団師団長であり、ベルクフェルト中佐同様にシュナイダー少将の子飼いの部下であるベルンハルト・ザイデル少将はそう言って頷いた。

 

 第2装甲師団は東部戦域軍隷下A軍集団の指揮下でリガン攻略を目指していた。

 

「海軍はやはり動かないのでしょうか?」

 

「分からん。だが、リガン攻略のためには海軍の支援がある方が望ましいが……」

 

 今、汎人類条約機構の海軍部隊はリガンに向けて特に行動を起こしていない。

 というのも琥珀海の航空優勢が確保できず、魔王海軍の潜水艦隊も活発に行動しているからだ。

 汎人類条約機構側には16インチ砲を搭載した戦艦のような強力な水上艦も存在したが、戦艦と言えども潜水艦や航空機には弱い。

 そのためリガン攻略の序章に海軍の姿はなく、陸軍だけでの攻略となった。

 

 まず汎人類条約機構軍はリガンの包囲を画策。

 北西のリガン湾に面するリガンには北東と南西、それから東に大きな道路と鉄道が伸びており、汎人類条約機構軍はその遮断を目指した。

 第2装甲師団を始めとする戦車部隊がぐるりとリガンを中心に半円を描くように機動し、リガンに至る幹線道路と鉄道は遮断された。

 

 すると魔王軍が解囲を目指して激しい攻撃を仕掛けてくる。

 しかし、やはり先の戦いでの重装備の喪失が痛かった。

 魔王軍は完全にはリガンの包囲を解くことはできず、リガン包囲の輪は閉じた。

 

 包囲されたリガン。

 その制圧に向けて汎人類条約機構軍の地上部隊が突入する。

 

 まず始まったのは都市に対する砲撃であった。

 リガンの外縁に設置された魔王軍の防衛陣地を叩くために、砲兵が砲撃を実行。

 だが、砲撃は市街地にまで及び一般市民に犠牲者が出始める。

 

 リガン守備隊の兵士であり人狼のヤーニス・ペーテリス・カリニン軍曹は、そんな砲撃で生じた民間人負傷者の救助に当たっていた。

 

「こっちだ! こっちに怪我人がいる!」

 

 カリニン軍曹に向けて市民が必死に叫んでいる。

 

「今行くぞ! 待っていろ!」

 

 砲撃で崩落した建物の中に閉じ込められている市民をカリニン軍曹たちは救助する。

 救助している際に砲撃が来ることもあるが、それでもカリニン軍曹たちが逃げ出すことはない。

 

「お願い! 娘がこの中にいるの!」

 

 市民が助けを求めるのにカリニン軍曹たちは必死に瓦礫を退かしていき、閉じ込められている市民を助ける。

 

「いたぞ! まだ生きてる!」

 

「よーし! 運び出せ!」

 

 今回、カリニン軍曹たちは市民の救助に成功した。

 まだ幼い吸血鬼の子供が救い出され、カリニン軍曹の部下に手当てを受けた。

 今回は助けられた。だが、多くの場合はすでに手遅れであることが多く、そのことはリガン守備隊の士気に響いていた。

 

「軍曹殿。敵は砲撃で市民を虐殺するつもりなのでしょうか?」

 

 若い兵士も不安そうにカリニン軍曹に尋ねる。

 

「分からん。だが、敵がこの都市を奪いに来ているのだけは間違いない」

 

 カリニン軍曹はこのリガンの生まれだった。

 リガンで幼少期を過ごし、成長してからは軍に志願して入隊した。

 それからルオタニア戦争やレヒスタンの戦いに従軍し、今は故郷リガンの防衛任務に配属されている。

 

 彼はふたつの戦争を前線で体験している。

 そのことで戦争によってどれだけの死者が出るのか──そして、それが兵士だけではなく市民にも生じることを知っていた。

 ゆえに彼は震える思いだった。

 もし、このリガンが戦場になれば……犠牲者の大半は民間人となるだろう。

 

 カリニン軍曹がそう恐れる中、最初に汎人類条約機構軍の部隊がリガンに入り、魔王軍のリガン守備隊との戦闘状態に突入した。

 

 

 * * * *

 

 

 リガンに最初に突入したのはアルトライヒ陸軍第12歩兵師団であった。

 この歩兵師団はリガンの南西部から突入を開始し、魔王軍の防衛線を突破したのちに市街地に入った。

 

 第12歩兵師団所属のカール=ハインツ・メルテンス大尉の歩兵中隊はリガン市庁舎にアルトライヒの双頭のワシの国旗を翻すために前進を急いでいる部隊のひとつであった。

 しかしながら、彼らの前進は巧妙に妨害されている。

 

 メルテンス大尉の前方を進んでいた兵士の胸から突然血が吹き上げる。

 

「狙撃だ!」

 

 メルテンス大尉が叫び、部下たちのはその場に伏せた。

 それからメルテンス大尉たちは遮蔽物として建物に逃げ込む。

 

「クソ。魔王軍め。どれだけ狙撃手を配備してやがるんだ」

 

 メルテンス大尉たちの前に狙撃手が立ちはだかったのはこれが初めてではない。

 魔王軍は狙撃手の育成に熱心であり、歩兵小隊に選抜射手という中距離の狙撃を行う狙撃手を配備している。

 これによりリガンの戦いにおいても多くの魔王軍狙撃手が迂闊にも市街地に入り込んだ汎人類条約機構軍の兵士たちを屠ることになった。

 

「大尉殿。これじゃあ動けませんぜ」

 

 メルテンス大尉の歩兵中隊は先ほど大通りを進んでいたが、それがどこからからの狙撃によって大通りに面する建物の中に押し込められてしまっている。

 そのことをベテランの曹長がメルテンス大尉に指摘した。

 

「分かっている。まずは狙撃手を探し出さなければならん」

 

 メルテンス大尉はそう言って建物から慎重に手鏡を出して大通りの様子を把握する。

 大通りの先にあるホテルの窓から僅かに光が瞬くのをメルテンス大尉は見た。

 間違いない。狙撃銃の光学照準器の反射だ。

 

「あのホテルの3階の窓に狙撃手がいる。スモークグレネードを展開させたら、機関銃で牽制射撃を加えてホテルまで突っ切るぞ」

 

「了解です」

 

 それからメルテンス大尉と部下は一斉にスモークグレネードを大通りに向けて投擲。

 白い煙幕が発生して大通りを包む中、軽機関銃を持った兵士が外に飛び出てホテルの窓に向けて牽制射撃を実施する。

 

「行け、行け、行け! 突撃だっ!」

 

 敵の狙撃手が窓から顔を出せないようにしたい状態でメルテンス大尉たちは一斉にホテルに向けて突撃していく。

 しかし、相手の狙撃手は勇敢であった。

 機関銃の牽制射撃が行われている中でも狙撃を行い、メルテンス大尉の隣にいた曹長が胸を撃たれて地面に崩れ落ちる。

 

「足を止めるな! ホテルに突っ込め!」

 

 メルテンス大尉は曹長を助けるために立ち止まることなくホテルに突っ込んだ。

 それからホテルの中で銃撃戦が発生する。

 メルテンス大尉は短機関銃を手にホテル内の狙撃手たちと交戦し、手榴弾から何まで使って2名の狙撃手を排除した。

 ひとりは狙撃手で、もうひとりは観測手だ。

 

「クソッタレめ」

 

 狙撃手を片付けてメルテンス大尉はそう吐き捨てる。

 狙撃手たった2名を片付けるのに大量の弾薬を消費した。部下も死んだ。

 また補給を受けなければこれ以上は前進できない。

 

「このホテルを陣地にするぞ。バリケードを構築しろ。急げ、急げ!」

 

 メルテンス大尉はそう命じ、血なまぐさい空気になったホテルを陣地化していく。

 その様子を見ながらメルテンス大尉はタバコをふかした。

 彼はストレスを受けるたびに自分がタバコを吸っていることに気づいた。

 このままじゃあ、戦争で死ななくても戦争が終わる前に肺がんであの世行きだなと彼は皮肉げに笑う。

 そんな彼を見た部下たちはこの戦闘のあとでもタバコをふかして笑っているメルテンス大尉を見て少し不気味さを感じたのだった。

 

 

 * * * *

 

 

 リガンの戦いは市街地戦だ。

 魔王軍守備隊は降伏するつもりなどなく、1日でも長くリガンを守り抜き、友軍による解囲を待つつもりであった。

 

 そのため戦闘は激しい市街地戦となっている。

 建物のひとつひとつ、部屋のひとつひとつを制圧していき、そのたびに大量の血が流れる地獄のような戦いである。

 

 リガンの戦いは守備側は絶望的だったが、攻撃側にとっても悪夢のような戦場となっていた。

 

「また戦車がやられた」

 

 第2装甲師団の師団長であるザイデル少将が愚痴る。

 

「例の新兵器の仕業ですか?」

 

「ああ。捕虜が携帯対戦車擲弾発射器と呼んでいる代物だ。それによる被害が大きい」

 

 ベルクフェルト中佐が尋ねるのにザイデル少将が唸りながらそういう。

 

 魔王軍は成形炸薬弾を使用する無反動砲を投入していた。

 いわゆるRPG-7携帯対戦車擲弾発射器の魔王国版であり、敵戦車を撃破する能力を歩兵に与えていた。

 そして、汎人類条約機構軍はその対戦車兵器による被害を出しつつある。

 

「歩兵からは戦車による支援を求められているが、このままだとかなりの車両を失うことになりそうだ……」

 

 第2装甲師団は現在は歩兵の支援に当たっていた。

 それは機動力が生かせず、塹壕を超える歩兵を支援するのと同じような任務となっている。

 機動力による戦車主体の戦いを信奉するシュナイダー少将の子飼いの部下たちであるザイデル少将とベルクフェルト中佐には厳しい局面だった。

 

「いっそリガンを放置して前進することを進言してみますか?」

 

「それは無理だろう。A軍集団司令部はリガンの港湾設備を使った補給を考えている」

 

 リガンの港湾施設を獲得しなければこれから先に進むのは難しいとザイデル少将。

 

「では、どうあってもリガンを奪うしかありませんね」

 

「ああ。それしか方法はない」

 

 ベルクフェルト中佐の言葉にザイデル少将はそう言い、深くため息をついた。

 

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