魔王様は現代人ですので。 ~転生したら魔王だったけど滅びたくないので堅実にやります~   作:第616特別情報大隊

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リガンは未だ落ちず

……………………

 

 ──リガンは未だ落ちず

 

 

 ブリタニア空軍のレナード・ブリッグス大尉は海上にぞっとする光景を見た。

 炎上しながら沈没していく無数の友軍艦艇の周りに人のようなものが浮いていたのが見えたのだ。

 あれが人だとすれば……ああ、背筋が寒くなる。

 

『ブリッグス大尉。友軍は酷い損害を出しているようですが……』

 

「ああ。だから俺たちが救援に来たんだ」

 

 部下が無線機越しに不安そうな声を上げるのにブリッグス大尉はそう励ました。

 

 しかし、この状態は酷い。空母の戦闘機乗りどもは何をやっていたんだ? とブリッグス大尉は思う。

 数の上では魔王軍の戦闘機に対抗できるはずだった艦載戦闘機が魔王軍の新しいドクトリンの前に敗れたことをまだブリッグス大尉は知らない。

 

「敵戦闘機を視認!」

 

 ブリッグス大尉たちの視界に魔王空軍のChE-3戦闘機が見えた。

 ChE-3戦闘機からもブリッグス大尉たちが見えたのだろう、敵機は急上昇していきブリッグス大尉たちと距離を取り始める。

 

「クソ。魔王軍の戦闘機は相変わらず上昇性能がいいな……!」

 

 魔王軍の航空エンジンは単純な馬力でブリッグス大尉たちのケストレルMk.II戦闘機に優っているだけではなく、過給機の性能でもケストレルMk.II戦闘機に優っていた。

 そのため彼らは空気の薄い高高度での戦闘を得意とする。

 

「気を付けろ! 敵機は太陽を背景に上から降下してくる!」

 

 ブリッグス大尉が発した警告の通りに、敵機は太陽を背にしてブリッグス大尉の編隊に急降下してきた。

 急降下ですれ違う際に魔王軍は口径20ミリ機関砲と口径12.7ミリ機関銃をブリッグス大尉の部下たちの機体に叩き込んでいき、不運な何機かは炎上して高度を落としていく。

 

「敵機のケツに食らいつけ! 敵は格闘戦を苦手としている!」

 

 これまでのブリタニア空軍のレポートによれば、魔王空軍のあのChE-3戦闘機は旋回性能が悪く、格闘戦を苦手としている。

 そして、そのことに間違いなかった。

 

「逃がしはせんぞ……!」

 

 ブリッグス大尉は敵機の背後に食らいつき、敵が振り払おうとするのを追い、敵機の背中から口径20ミリ機関砲と口径7.7ミリ機関銃の銃弾を叩き込んだ。

 しかし、敵機は炎上も怯みもせず、そのまま飛び去っていきブリッグス大尉を振り切った。

 

「何ってこった! 魔王軍の戦闘機は不死身なのか!?」

 

 ブリッグス大尉が驚くのも当然だろう。

 今回の戦いに投入されているChE-3戦闘機は改良型だ。

 エンジン出力が1650馬力に向上された他、コクピットとエンジンの装甲が強化され、燃料タンクも自動防漏タンクになっている。

 この自動防漏タンクは口径12.7ミリ機関銃の射撃にも耐える優れものだ。

 

 ほとんど新型ともいえる性能のChE-3戦闘機の編隊は再び急上昇し、ブリッグス大尉たちを襲った。

 僚機が再びやられ、ブリッグス大尉も狼狽える。

 

「こうなれば敵戦闘機は無視するぞ。敵の爆撃機と雷撃機を叩け!」

 

 ブリッグス大尉はこれ以上魔王軍の戦闘機と戦うのは艦隊を守ると言う目的から反するとして、今も艦隊を攻撃しているTru-2攻撃機を狙うことに。

 

 今はアルファ任務部隊に魔王海軍の第2次攻撃隊が迫っていた。

 今度は雷撃機が対空砲火を引き付け、その隙に爆撃機が巡洋艦を狙っている。

 雷撃機が口径20ミリ機関砲、口径40ミリ機関砲などの対空砲火を受けてばたばたと落とされていく中で爆撃機は巡洋艦に500キログラム爆弾を降り注がせて炎上させている。

 

 ブリッグス大尉たちは友軍の対空砲火に巻き込まれるのを避けるために、急降下爆撃機を叩きに向かった。

 ブリッグス大尉たちの戦闘機編隊が近づくのに急降下爆撃機は交戦を回避するために旋回する。

 だが、ブリッグス大尉たちはこれを追いかけまわして、艦隊の上空から追い払う。

 これだけでブリッグス大尉たちは艦隊を爆撃機の手から守ることができた。

 

 しかし、魔王軍の戦闘機部隊は健在だ。

 彼らの方は爆撃機からブリッグス大尉たちを追い払うべく、再び太陽を背に急降下してきて襲い掛かった。

 ブリッグス大尉たちは可能な限り、爆撃機を追い払い続けたが時間切れとなる。

 燃料が危うくなり始めたのだ。

 

「全機、撤退だ。俺たちの仕事はここまでだ」

 

 ブリッグス大尉はそう言って撤退を開始する。

 運が悪かったのは彼らが背を見せたときに、戦友の仇と取ることを望んでいたクズネツォフ中尉のChE-3戦闘機がブリッグス大尉の機体に背中から機関砲弾を浴びせたことであった。

 ブリッグス大尉は操縦席で砲弾の破片を浴びて負傷。さらに機体が損傷し、琥珀海へと墜落した。

 彼はそのまま琥珀海に沈んだ。

 

 

 * * * *

 

 

 アルファ任務部隊は空母の火災をダメコンで消し止めたが、艦載機はほとんど使い物にならなくなってしまった。

 そのためホークスワース中将は生き残った巡洋艦1隻と駆逐艦2隻に空母を護衛させ、後方に戻し、残った戦艦2隻と巡洋艦1隻、駆逐艦2隻でリガンへの突入を目指した。

 

 魔王海軍は全力を挙げたが、ホークスワース中将のアルファ任務部隊を仕留めそこなった。

 そして、魔王軍はその代償をすぐに払うことになる。

 ホークスワース中将指揮する汎人類条約機構軍の艦隊はリガン湾に入り、リガンに向けて艦砲射撃を開始したのだから。

 

 戦艦ドミニオンとインビクタスが装備する15インチ砲がリガンにその砲口を向けて艦砲射撃を実施。

 リガンの市街地に立てこもる魔王軍守備隊を狙ったこの砲撃は恐ろしいほどの効果を上げた。

 市街地は炎上し、魔王軍が陣地化していた建物は消し飛び、魔王軍の戦闘員も市民も区別なく殺害された。

 

 だが、それでもリガン攻略の決定打にはならなかった。

 リガンの市街地は崩壊して、月面のようなクレーターだらけの姿になったが地下下水道などに魔王軍は潜み、抵抗を続けたのだ。

 

 さらに2隻の戦艦は弾薬がある限り艦砲射撃を行ったが、一度航空攻撃を退けた彼らは油断してしまっていた。

 密かに近づいた魔王海軍の潜水艦が2隻の戦艦に雷撃を加えて撃沈したのだ。

 沈没していく戦艦ドミニオンからホークスワース中将は駆逐艦によって救助されたが、大勢の乗組員が船とともに沈んだ。

 この作戦はそのような結果で終わったのだった。

 

 こうして敵の陸からの攻撃に耐え、海からの攻撃に耐えたリガン。

 大勢の犠牲者を出しながらも魔王軍守備隊は粘り強く抵抗を行い、汎人類条約機構軍に大量の出血を強いている。

 通りには狙撃に倒れた汎人類条約機構軍の兵士の死体が転がり、その近くには対戦車擲弾発射機で破壊されて炎上するルクス中戦車が。

 無数の肉と鉄の屍が積み上げられる地獄は前線の将兵たちにとってずっと終わらないように思えた。

 

 しかし、その終わりは唐突に訪れた。

 魔王軍北部方面軍がリガンの解囲作戦を再び実行したのである。

 

「戦車前進!」

 

 1000門あまりに火砲の砲撃に加えて、作られたばかりの強力なA-34中戦車とKW-1重戦車が大量に投入され、リガンを包囲する汎人類条約機構軍の包囲部隊に襲い掛かる。

 

 レーベデフ大尉もA-34中戦車に乗って作戦に参加していた。

 

「進め、進め。我々に勝利を!」

 

 レーベデフ大尉はそう叫び、敵の陣地を歩兵とともに蹂躙する。

 このとき魔王軍はようやく進軍速度を戦車に合わせていた。

 魔王軍の装甲兵員輸送車に乗った歩兵は戦車とともに進み、徒歩で進む一般の歩兵師団を待つことなく敵の縦深防御を踏みにじって前進していく。

 ワシレフスキー上級大将は数多くの失敗から学び、絶対に失敗できないリガン救援作戦にその学びを発揮したのである。

 

「敵の対戦車砲!」

 

 ガンッ! とレーベデフ大尉のA-34中戦車が金属音を響かせるが、A-34中戦車にダメージはない。

 

「敵の対戦車砲は豆鉄砲だな」

 

 依然として口径37ミリ対戦車砲や2ポンド砲が主力の汎人類条約機構軍に魔王軍の戦車部隊は完全には止められず、陣地はあっけなく蹂躙されて、装甲兵員輸送車から降車した歩兵が一斉に塹壕を制圧していった。

 

 この知らせは汎人類条約機構軍も把握することになる。

 

「不味いぞ……。このままでは……」

 

 勢いよく包囲部隊に食らいつき、食い荒らしていく魔王軍を前にしてA軍集団司令官でありアルトライヒ陸軍所属のディートリヒ・ヴォルフ上級大将は慌てていた。

 魔王軍は汎人類条約機構軍が構築した陣地を瞬く間に崩壊させて後方の空軍基地にまで進出しつつある。

 さらに悪いことに魔王軍はその勢いでA軍集団隷下のいくつかの師団を逆包囲しそうだったのだ。

 

「リガンはまだ落ちないのか?」

 

「ダメです。抵抗が激しくまだまだ時間がかかります」

 

 リガンの抵抗は未だ潰えておらず、汎人類条約機構軍を釘づけにしている。

 

「……やむを得ない。リガン攻略は一度破棄し、撤退して体制を立て直す」

 

 ヴォルフ上級大将はそう決断し、リガン攻略計画を放棄して全部隊に撤退を命じた。

 

 魔王軍はこれにリガンの敵討ちだとばかりに追撃を仕掛け、汎人類条約機構軍は少なくない重装備を放棄する羽目になった。

 

「これがリガン……」

 

 レーベデフ大尉たちは陸と海からの砲撃で、空からの爆撃で破壊されたリガン市街地を呆然と見つめる。

 

「なんてこった。ここまで酷いことになるなんて……」

 

 レーベデフ大尉たちはこんな地獄のような光景を作り出した汎人類条約機構軍への怒りを燃やした。

 それから彼らはリガン解放を宣言し、リガンの生存していた女性たちから接吻と花束を送られたのだった。

 

 リガンは解放されたが、戦争は続いている。

 次に汎人類条約機構軍が攻撃の重心を置いたのは南部の都市キーヴァだ。

 

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