魔王様は現代人ですので。 ~転生したら魔王だったけど滅びたくないので堅実にやります~   作:第616特別情報大隊

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鋼鉄の猛獣

……………………

 

 ──鋼鉄の猛獣

 

 

 フォーゲル少尉と彼の小隊は爆撃で被害を出しながらも前進を続けていた。

 作戦目標ミンシクに向けて。

 

『中隊各車、前方に敵戦車だ!』

 

 中隊長からそう警告が飛び、フォーゲル少尉は前方を見据える。

 そこには陣地にダグインしたA-34中戦車が砲塔をフォーゲル少尉たちに方に向けているところであった。

 

「クソ。狙われているぞ。前方の敵戦車、撃て!」

 

 フォーゲル少尉は素早く命令を下し、砲手がA-34中戦車を狙って発砲。

 長砲身75ミリ砲の砲撃は強敵であったA-34中戦車の正面装甲を貫き、これを撃破せしめた。

 撃破されたA-34中戦車が炎上を始め、乗員が脱出していくのがフォーゲル少尉にも見える。

 

「いいぞ、いいぞ。次だ! 11時の方向の敵戦車!」

 

 アルトライヒの戦車兵にはまず狙うべき目標を自分たちを狙っている敵戦車や対戦車砲だと教育される。

 何はともあれ生き延びなければならないというわけだ。

 フォーゲル少尉もその教えに則って、自分たちに砲口を向けてくる目標を最優先に撃破していく。

 

 この戦車戦は激戦で汎人類条約機構軍の戦車も、魔王軍の戦車も次々に撃破されては炎上していった。

 

「クソ。酷い被害だ……」

 

 フォーゲル少尉も思わずそうぼやくほど魔王軍との戦車戦は汎人類条約機構軍にも被害を及ばせていた。

 フォーゲル少尉の小隊もまた1両がやられて2両だけになってしまっている。

 また中隊14両の戦車のうち7両が撃破され、今や戦力は半減だ。

 

『中隊各車、前進、前進!』

 

 それでもミンシクを目指すと言う目標は変わっていない。

 フォーゲル少尉の所属する中隊もグロスアルトライヒ装甲師団の歩兵とともにミンシクに向けて敵陣地を突破していく。

 

 この時点で彼らはまだ知らなかった。

 魔王軍がキーヴァの戦いと同様に縦深防御で疲弊した汎人類条約機構軍を相手に反撃を画策していることを。

 そう、魔王軍は学んでいた。

 自分たちはレヒスタンで負った傷がどのようにしてつけられたかを。

 

「砲弾が徹甲弾残り3発、榴弾はゼロです、少尉殿」

 

「不味いな。補給が必要だ」

 

 ミンシクまで残り4キロに迫り、汎人類条約機構軍の砲兵がミンシクを照準する中でフォーゲル少尉は小休止の時間を得ており、残る弾薬や燃料を計測していた。

 

「中隊長殿、次の補給はいつでありますか?」

 

 フォーゲル少尉は上官である中隊長にそう尋ねる。

 中隊長は下士官からたたき上げのフォーゲル少尉と同じ年齢の陸軍大尉であり、フォーゲル少尉からすると少し頼りない。

 

「分からん。大隊本部からはここで待つように言われているが」

 

「このまま敵と遭遇したら不味いことになりますよ」

 

「分かっているが、撤退は許可されていない」

 

 畜生。司令部はミンシクにこだわりすぎているんじゃないか?

 このまま補給が来なければ敵から手痛いしっぺ返しを食らうことになるぞ、とそうフォーゲル少尉は思ったが口にはしなかった。

 

 彼は知ることがなかったが本来はここで補給が行われるはずだったのだ。

 しかし、航空優勢を握る魔王軍が執拗に後方の輜重兵を爆撃したことと泥濘にはまったトラックや馬車が予定通りに進めなかったことで補給が行われていないのである。

 これはフォーゲル少尉たちだけではなく、ほぼB軍集団の全軍においてそうであった。

 

 この補給が途絶えた状況を魔王軍が見逃すはずもなく、ミンシク方面での彼らの反撃が始まった。

 

 

 * * * *

 

 

 魔王軍中央方面軍司令官イリヤ・ヤコヴレヴィチ・ブリューミン上級大将はミンシク方面での反撃において従来のそれより高度な計画を立案していた。

 

「キーヴァでの反撃は結局はレヒスタンでやられたことをそのままやり返しただけだ」

 

 ブリューミン上級大将は参謀たちにそう言う。

 

「我々はもっと踏み込んだ攻撃を行う。つまりは全縦深に及んで敵を完全に破砕する攻撃だ。突き刺さった釘を抜き取るだけではなく、相手に突き返すのである」

 

 ブリューミン上級大将の考えている攻撃は新しい発想だった。

 ミンシク方面に前進しているB軍集団にただ反撃するのではなく、彼らを完全に蹂躙し、さらには敵地後方まで進出しようと言うものであった。

 これはブリューミン上級大将がこの場で思いついたわけではなく、陸軍参謀本部と大本営が立案して計画したものである。

 

 この攻撃には中方面軍だけで兵員70万、戦車4500両、火砲20000門、航空機6000機が参加する大規模なものとして計画され、ブリューミン上級大将に実行が委任された。

 

 これだけの大戦力で行う攻撃はただミンシク方面での反撃を行うだけではない。

 キーヴァの戦いが突出した汎人類条約機構軍にトラックで体当たりするだけのものだとすれば、今回の作戦は戦車で確実にひき殺すに等しい攻撃だ。

 

 この中央方面軍の反撃に連動して北部方面軍と南部方面軍も反撃に出ることになっている。つまりはルオタニア戦線以外での大規模攻勢になるのだ。

 

「我々は1日も早く祖国の大地から敵を駆逐しなければならない。そのためにはこの作戦の成功が不可欠だ」

 

 ブリューミン上級大将はそう言い、参謀たちと実行に向けて準備を進めていく。

 

 そして汎人類条約機構軍がミンシクを目指す途中で補給切れになったのを見計らって作戦は開始された。

 

 最初に火を噴いたのは魔王軍の誇る砲兵隊であり、重砲から自走多連装ロケット砲までもが動員され、一斉に火を噴いた。

 それが補給が切れて立ち往生していた汎人類条約機構軍に襲い掛かり、彼らの地獄が始まったのだ。

 

 今回の砲撃は前線部隊を粉砕するものだけではなかった。

 魔王軍の砲撃は事前に深く敵地に入り込んだ前進観測班(FO)が誘導し、後方の予備戦力まで粉砕するものであった。

 砲撃だけではなく航空攻撃も並行して実行されている。

 Tru-2攻撃機が猛威を振るい、補給が切れている汎人類条約機構軍は対空砲火を打ち上げることもできない。

 そのままTru-2攻撃機は汎人類条約機構軍の兵士や戦車を吹き飛ばし、彼らの戦力を削り取っていく。

 

 そして、一連の砲爆撃が終わったのちに魔王軍が戦車を先頭に反撃を仕掛けてきた。

 

「戦車前進、戦車前進!」

 

 その戦車部隊の1個中隊をレーベデフ大尉が指揮している。

 彼はリガン解放の戦いののちにこの中央方面軍に師団ごと移動し、この反撃作戦に参加していたのだった。

 

「いよいよこれで人類どもを祖国から駆逐できそうだな」

 

 無理なミンシク攻撃を目指したせいで補給が切れていた汎人類条約機構軍からの反撃はほとんどなく、レーベデフ大尉たちは汎人類条約機構軍の残余戦力を撃滅しながら突撃していく。

 

「この先の橋を友軍が確保しているはずなのだが……」

 

 レーベデフ大尉は大隊本部から友軍が橋を確保しているという知らせを受けていた。

 しかし、先頭を進んでいるのはレーベデフ大尉たちのはずであるが……?

 

「いたぞ、友軍だ」

 

 レーベデフ大尉がそう言う先には魔王軍の戦闘服姿をした人狼たちがいた。

 彼らはレーベデフ大尉たちを見つけると橋を守るために作った陣地から親しげに手を振ってくる。

 

「まさか俺たちよりも先に進んでいる部隊がいたなんてな」

 

 レーベデフ大尉はキューポラから身を乗り出してその人狼たちに声をかける。

 

「そりゃあそうさ。俺たちは空から展開したんだからな」

 

「空から?」

 

「聞いてないのか? 俺たちは空挺師団だ」

 

 そう、橋を確保していた人狼たちは空挺部隊だ。

 彼らはこの戦いに全面的に投入されていた。

 このように進軍に必要な橋を確保しておくことや、敵飛行場の制圧、司令部や通信設備へのゲリラコマンド戦などを展開している。

 

「へえ。空からパラシュートで降りるってやつだろう。それが今の技術で可能だって言われても、俺には想像もできないね」

 

「ははっ。そうかもな」

 

 未だ魔王国でも空の旅というのは一般的ではなく、レーベデフ大尉には空から降下する空挺部隊の気持ちは理解できなかった。

 

 

 * * * *

 

 

 フォーゲル少尉は逃げていた。

 魔王軍の大規模な反撃が始まったとき、彼の戦車は燃料も弾薬もなく、戦うことはできなかった。

 彼らにできるのは戦車を捨てて逃げるということだけだった。

 

「畜生。なんて日だ!」

 

 フォーゲル少尉はそう何度も悪態をつきながら、後方に向けた逃走を続けている。

 彼らは途中で戦死していた歩兵から短機関銃や小銃を拾い、それで武装して前線が崩壊していく中をひたすらに安全な後方を目指して走っていた。

 

 途中で車両を見つけても全て燃料切れ。

 どうやら燃料の問題はフォーゲル少尉の戦車だけではなかったようだ。

 

「ダメです、少尉殿。このトラックの燃料切れです」

 

「畜生。友軍がいるところまであとどれくらいだ?」

 

「分かりません」

 

 彼の上官であった中隊長はすでに戦死している。

 撤退するときに魔王軍の戦闘機に機銃掃射を受けてしまい、それが原因で死んだ。

 今はフォーゲル少尉が残った中隊の指揮を執っている。

 

「畜生。魔王軍の連中め……」

 

 フォーゲル少尉は魔王軍を呪いながら、戦線後方への脱出を試み続けた。

 

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