【女神転生 】「モルダー、あなた憑かれてるのよ」【相棒】   作:ベイベ後藤

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間話 氷のデフラグ

 

ワシントンD.C. J・エドガー・フーヴァー・ビル。

連日のサマエル追跡と、アリゾナへの強行軍を終えたX-ファイル課のオフィスには、不気味なほどの「静寂」ではなく、どこか気の抜けた停滞感が漂っていた。

 

ダナ・スカリーは、デスクに置かれた観葉植物の葉が不自然に白く輝いていることに気づいて眉を寄せた。

 

「モルダー、エアコンの設定を変えた? なんだか室内が妙に冷えるのだけれど」

 

モルダーは、自身が淹れたはずのコーヒーから湯気が立っていないことを確認し、カップの縁に小さな氷の結晶が浮いているのを見て苦笑した。

 

「僕じゃないよ、スカリー。……原因は、君の右側にいる『先遣隊』の仕業だ」

 

スカリーが視線を向けると彼女のノートPCのキーボードの上で真っ白な雪だるまのような精霊が、必死に指先から青白い光を放っていた。

 

「ブフッ! マハ・ブフだホー! もっと冷やすホー! データの詰まりを凍らせて砕くんだホー!」

 

ジャックフロストは、まるで激しいスポーツでもしているかのように、せわしなく跳ね回っていた。

彼が着地するたびに、キーボードからはパキパキという硬質な凍結音が響き、液晶画面には霜が降りていく。

 

「ちょっと、フロスト! やめてちょうだい、基板が結露してショートしちゃうわ」

 

スカリーが慌ててPCを引き寄せようとしたが、フロストはそれを素早くかわすとデスクの上で仁王立ちになり、小さな腰に手を当てて胸を張った。

 

「スカリーは分かってないホー! これは遊びじゃないんだホー。立派な『システム・メンテナンス』だホー!」

 

「メンテナンスですって?」

 

スカリーの科学的な疑念が、いつもの鋭さを伴って向けられる。

しかし、フロストは怯むどころか、さらに得意げに鼻を鳴らした。

 

「そうだホー! 最近の電子機器はサマエルの『知恵』のせいで、みんな頭が熱くなりすぎてるんだホー。

あの銀色の蛇たちの論理は、CPUに負荷をかけすぎて、メモリをドロドロに溶かしちゃうんだホー。

僕がこうして定期的に『脳みそ』を冷やしてやらないと、データの記憶力が落ちて、みんなボケちゃうんだホー!」

 

フロストは、モルダーのスマートフォンを指差した。

 

「特にモルダーのは重症だホー。

タロスみたいなデカブツや、地母神さんみたいに重たい連中をDDSに入れてるせいで、この端末は『知恵熱』を出してるんだホー。

僕の冷気こそが、サマエルの熱狂からこのオフィスを守る唯一の冷却装置(クーラー)なんだホー!」

 

モルダーは、冷めたコーヒーを一口啜り、あまりの冷たさに顔をしかめながらもフロストの言動を「プロファイラー」の視点で見つめた。

 

「なるほど。フロスト、君の主張によれば、その冷気は単なる物理的な温度変化じゃなく、不純なデータ―つまりサマエル由来の『熱を帯びた論理』を凍結・排除するための概念的なデフラグだと言うんだね?」

 

「そうだホー! さすがモルダー、話がわかるホー! 僕はただのコメディ担当じゃないんだホー!」

 

フロストは完全に調子に乗った。

新入りのタロスや地母神という、自分よりも遥かに「格上」の存在が加入したことで彼は内心、自分の居場所がなくなることをひどく恐れていたのだ。その焦燥が、彼を「有能なシステムエンジニア」へと駆り立てていた。

 

「よし、仕上げだホー! メインサーバーも4K画質並みに冷やしてやるホー! ヒーーー、ホーー!!」

 

フロストが渾身の力で放った、最大出力のデジタル冷気がオフィスのメインサーバーを直撃した。

 

直後、オフィスのすべての照明が激しく明滅した。

サーバーから「ピーーー」という、断末魔のような異音が鳴り響き、すべてのモニターが真っ白な「ホワイト・アウト」の状態に陥った。

 

「フロスト! サーバーの論理回路が完全に凍結(フリーズ)したわ! システムが過電流で死にかけてる!」

 

スカリーが悲鳴を上げ、必死にキーボードを叩いて復旧作業に入る。

しかし、物理的に凍りついたサーバーは、彼女の命令を一切受け付けない。

 

「え、ええー!? おかしいホー、良かれと思ってやったんだホー……。

あ、モルダー、そっちのDDSはどうだホー?」

 

モルダーは、真っ白にフリーズした自分のスマートフォンの画面をフロストに見せた。そこには、DDS内のタロスが発した、唯一の無機質なログが流れていた。

 

『……周辺温度、適正限界を突破。極低温による超伝導状態への移行。……タロス、快適すぎてディープスリープに入ります。再起動まで、100年待機してください』

 

「あいつ、寝ちゃったホー!? 気持ちよすぎて寝ちゃったのかホー!?」

 

フロストが頭を抱えてのけ反る。

 

結局その日の午後、X-ファイル課の全システムを復旧させるために、スカリーは数時間を費やす羽目になった。

 

フロストは反省の印として、モルダーの冷えすぎたコーヒーを温めるための「お湯」を沸かす係(といっても、ポットの横で見ているだけだが)に任命された。

 

「結局、僕だけが怒られる役なんだホー……」

 

シュンと小さくなり、マグカップの横で丸まっているフロストを見ながら、モルダーは窓の外に広がる、サマエルの「完璧な秩序」が支配するワシントンの街並みを見つめた。

 

論理的で、効率的で、無駄のない世界。

だが、この冷え切った地下室で繰り広げられる、非効率的で騒がしいドタバタ劇だけが、今の彼らにとって唯一、サマエルの計算式に含まれていない、人間らしい温もり―あるいは冷たさを持った安らぎだった。

 

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