【女神転生 】「モルダー、あなた憑かれてるのよ」【相棒】   作:ベイベ後藤

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23話 真実は、お前たちの中に

 

四大天使が放つ圧倒的なまでの「光」と、ルシファーから溢れ出す絶対的な「闇」。

その境界線上で、フォックス・モルダーとダナ・スカリーは、人類史上最も矮小で、かつ最も壮大な反逆を開始した。

 

「全出力解放(フル・バースト)……!」

 

モルダーが叫ぶと同時に、DDSがオーバーヒート寸前の悲鳴を上げた。

古代の巨人タロスの「質量」が実体化し、ミカエルの放つ審判の雷火を物理的に受け止める。その背後では、スカリーが大地に膝をつき、地母神の「泥」を情報の海へと流し込んでいた。

 

「ラファエル、癒やしなどいらないわ。私たちはこの痛みと共に、不完全なまま生きていく!」

 

スカリーの声に呼応し、黄金の幾何学模様にひび割れた泥の亀裂が走る。天界の法が、定義不能な原始の混沌によって侵食されていく。

 

「不遜な……! 塵芥に等しい命が、天の意志を拒むというのか!」

 

ウリエルが炎の剣を振り下ろす。その一撃は都市一つを消滅させる威力を持っていたが、モルダーはそれを一歩も退かずに見据えた。

 

モルダーは、左手に握りしめた「父の契約書」を高く掲げた。

 

「ウリエル! お前たちはこれを『法』と呼ぶが、僕にとってはただの呪いだ。……父が娘を売り、神がそれを容認したこの契約は、たった今、僕の手で破棄する!」

 

モルダーは自らの指を噛み切り、流れる鮮血を焦げた紙片に塗りつけた。

 

「DDS……不条理の定義を書き換えろ。この血と、二十年以上の絶望をもって、神々の署名を上書きする!」

 

瞬間、契約書から黒い炎が立ち昇り、四大天使の光を弾き飛ばした。

モルダーという「バグ」が、神々の合意に基づいた因果律を物理的に切断したのだ。

黄金の光は色褪せ、四大天使の姿が透き通り始める。

地上の論理が、モルダーの「個人の意志」という強大なノイズによって崩壊し、天界からの接続が維持できなくなったのだ。

背後で見守っていたルシファーが、低く笑った。

 

「素晴らしい。フォックス、お前は父の罪を背負うのではなく、罪そのものを『なかったこと』にした。……神の法でも、私の混沌でもない、お前自身の『エゴ』が世界を再定義したのだ」

 

光が消えゆく静寂の中、空間の隅から見覚えのある男が歩み寄ってきた。

ウォール街の悪魔、メフィストである。

彼は最高級のスーツを整え、極上のエンターテインメントの結末を待つ観客のように微笑んでいた。

 

「おめでとう、モルダー捜査官。

これにて『法(LAW)』の退場です。……さて、閣下の誘いに乗って『混沌(CHAOS)』へ至りますか?」

 

モルダーはルシファーの差し出した手を拒絶し、スカリーの手を強く握り直した。

 

「……ルシファー。僕はあんたの駒じゃない。……僕はただのFBI捜査官だ。明日もまた、暗闇の中に転がっている不快な真実を探しに行くだけだ」

 

その答えを聞いたメフィストは、意外そうに目を見開いた後、心底楽しそうに肩をすくめた。

 

「……認めましょう、モルダー捜査官。この光景、この『結末』を最前列で観られたことは、私にとっても最高の栄誉だ。……あなたが私に見せてくれたこの最高の不条理劇をもって、ウォール街での『貸し』は、たった今、返していただきました」

 

メフィストは、モルダーの魂に伸ばそうとしていた執着を、未練なく引き戻した。

 

「あなたの魂には、もう手をつけません。

もはや私のような者が触れられるほど、それは安っぽくはない。

神にも悪魔にも染まらず、ただ自らの執着のみで輝く魂を汚すのは、私のような審美家のすることではありませんから」

 

メフィストは陽光に溶け込み、ルシファーもまた、満足げな溜息と共に闇へと消えていった。

 

まばゆい閃光が収まると、そこは元の、埃っぽいローンガンメンのアパートだった。

 

モニターは真っ黒に焼け、バイアースたちが床で荒い息をついている。

窓の外では、いつものワシントンの朝が始まろうとしていた。

世界は何一つ、救われてなどいないのかもしれない。

だが、モルダーの手には、もはや契約書の残骸はなかった。代わりに、スカリーの手の温もりだけがあった。

 

「モルダー……。私たち、何を変えられたのかしら」

 

「何も変えられなかったかもしれない。……でも、僕たちの魂だけは、誰の管理下にもない。……それだけで、今は十分だ」

 

モルダーは、ポケットから一本のひまわりの種を取り出し、口に含んだ。

真実とは、天から降ってくる福音でも、地から湧き出る破壊でもない。それは、傷つき、汚れながらも、自らの足で歩き続ける人間の影の中に、密かに息づいているものだ。

 

ワシントンの通りを、一台の古びたセダンが走り出す。その行先を知る者は、もはや神々の中にも、悪魔の中にも存在しなかった。

 

Voice-Over

 

あの日、四大天使が消えルシファーが闇に帰った後、僕は一瞬だけサマンサの声を聞いた気がした。

 

それは「救済」の感謝ではなく、「忘れないで」という小さく、しかし重い祈りだった。

 

父さんは世界を救うために彼女を犠牲にした。

僕は彼女を救うために、世界(システム)を壊した。

 

どちらが正しかったのか、メフィストの手帳にも、サマエルの数式にも書かれていない。

 

「THE TRUTH IS OUT THERE」

 




(完)
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