【女神転生 】「モルダー、あなた憑かれてるのよ」【相棒】   作:ベイベ後藤

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Digital Ghost編 2話

 

 

「……天海市。そこはかつて、日本政府の肝入りプロジェクトで次期情報都市制作のモデル地区に指定され、デジタル・ネットワークによって管理された『理想郷』になるはずだった。」

 

 桜井の静かな声が、FBI地下室のスピーカーから響く。

モニター越しに映る彼の横顔は、数年前の地獄を今もその目に焼き付けているようだった。

 

「アルゴン社という企業が、市民の魂を仮想世界『パラダイムX』を通して収集しようと暗躍していたんだ。そのバックには『ファントムソサエティ』という国際規模の組織がいる。」

 

「……僕の追っている『マニトゥ計画』と酷似している。こちらは、先住民族に伝わる精霊の名を冠した計画で、同じく人間の魂を集めようとしているらしい。

肉体はただのケースに過ぎない、というわけだ」

 

「魂が共通点か……。

佐々木は、そのプロジェクトの脆弱性を突こうとして、逆に飲み込まれた可能性があるな」

 

 桜井が手元のキーボードを叩くと、モルダーのPCに未知の実行ファイルが転送された。アイコンは、銃の形をした奇妙なデバイス――GUMPを模している。

 

「モルダー捜査官、君の端末に特殊なプログラムをインストールした。

僕が改良した『COMP』だ。

これを使えば、通常の通信網では不可視化されている『異物』――生体マグネタイトを可視化できる」

 

「生体……何だって?」

 

「悪魔、と言えば君には通りが良いかな。データという形を取った、意志を持つエネルギー体さ」

 

 モルダーが、そのファイルを開いた瞬間、画面上のワシントンD.C.の地図に、血のように赤い脈動が浮かび上がった。

バックボーン・サーバーの深淵から、無数の触手のようなノイズが全米に広がろうとしている。

 

「……信じがたいが、僕の直感はこれが正解だと告げているよ、スプーキー。

フロヒキーから聞いた通り、君は腕の良い技術者だ」

 

「褒め言葉は事件が終わってからにしてくれ。

……今から僕が、君のスマートフォンを中継点にして、その空白地帯のサーバーへバックドアを作る。

君は現地へ向かってくれ。物理的な接触が必要なポイントがある」

 

 モルダーは愛車のキーを掴んだ。

 

「分かったよ。……ところで、君のそのトレーラー。アメリカで走らせる気はないか? 」

 

 

 メリーランド州郊外。ワシントンD.C.の華やかさから切り離されたその場所には、地図上では「森林保護区」と記載されながらも、周囲を厳重な高電圧フェンスで囲まれた一画がある。

 

 公式記録には存在しない、NSA(国家安全保障局)の極秘通信中継局。

古ぼけたコンクリートの、その施設は深夜の静寂の中で、不気味なほど静まり返っていた。

 

 モルダーは、車を木陰に隠し、懐中電灯と、桜井によって「改造」されたスマートフォンを手に車を降りた。

 

「……スプーキー、聞こえるか。ポイントAに到着した。

フェンスの向こう側に、窓一つない巨大なコンクリートの塊が見える。あれが通信局か?」

 

 耳に装着した無線イヤホンから、微かな電子ノイズと共に桜井の声が返ってくる。背後では、日本の道路を走る大型トレーラーのサーバー群が演算を行っているような、低く唸る駆動音が混じっていた。

 

『ああ、間違いない。

公式には1980年代に閉鎖された信号傍受施設のようだが、今この瞬間も、そこからは全米のバックボーン・サーバーを揺るがすほどの膨大なトラフィックが流出している。

……モルダー捜査官、スマートフォンのカメラを施設の入り口に向けてくれ』

 

 モルダーが指示通りに端末をかざすと、画面上の「COMP」アプリが起動した。

通常のレンズが捉える風景に重ねるように、赤黒い光の奔流が施設全体を血管のように覆い尽くしているのが見える。

 

「……信じられないな。肉眼では、ただの古い建物だが、この画面越しだと巨大な心臓が脈打っているように見える」

 

『それが生体マグネタイトの密度だ。

その施設自体が、巨大な召喚儀式の回路として機能している。……いいか、今から入り口の電子ロックを開ける。

内部に入ったら、地下三階のメインフレームを目指してくれ。そこに佐々木のIDが最後にログインした形跡がある』

 

 桜井の指がキーボードを叩く乾いた音が響き、施設の重厚な鉄扉が音もなく解錠された。モルダーは息を呑み、闇の中へと足を踏み入れる。

内部は、外観の古めかしさからは想像もつかないほど、最新鋭の光ファイバー網と、異様なまでの冷却設備に満ちていた。

通路の壁面には、幾何学模様を模したような配線が走り、その一つ一つが不気味に明滅している。

 

「スプーキー、ここは冷えすぎている。……それだけじゃない。空気が妙に……震えているんだ。かつてアラスカで見た、オーロラの下にいるような感覚だ」

 

『気をつけろ。空間の位相が歪み始めている。現実世界と電脳空間の境界が、生体マグネタイトによって融解しているんだ。

……モルダー捜査官、画面を見ろ! 反応が出た!』

 

 スマートフォンの画面が激しく点滅し、警告音が鳴り響く。

レーダーの円周上に、複数で移動する光点が現れる。それは通路の天井から、蜘蛛のように這い出してきた。

 

 それは、人間の形をしていなかった。

剥き出しの回路図のような皮膚を持ち、無数の電子部品で作られたような脚。中央には、不気味に発光する一つのレンズのような「眼」が蠢いている。

 

「……何だ、あれは。政府が開発した、新型の警備ロボットか?」 

 

『違う! 悪魔だ。……種族は『魔獣』。

ネット上のジャンクデータと、異界の霊体が融合して生まれた、オルトロスだ!』

 

 二つの犬のような頭部を持ちながら、その体は完全に機械化された悪魔。

オルトロスは、モルダーを認識するや否や、電子音のような咆哮を上げ、口部から高圧の電磁パルスを放ってきた。

 

「冗談だろう。どうやって戦えって言うんだ!」

 

『そのスマホを構えろ! 僕がトレーラーのCOMPから、防衛用の悪魔を転送する。……同期まで、あと……インストール完了! 行け!』

 

 画面が輝き、モルダーの指が無意識に「EXECUTE」をタップした。

スマートフォンのスピーカーから、現実の物理法則を書き換えるような高周波のチャントが鳴り響く。

次の瞬間、モルダーの目の前に小さな、しかし力強い光の粒子が集束した。そこに現れたのは、和紙で作られたような緑色の体と、白い瞳を持つ悪魔。

 

「ボクはモコイさん。お手伝いしようか?チミ」

 

 古びた玩具のような姿をした、種族『夜魔』。

モコイは、オルトロスを見ると、その小さな手から、和紙を模した無数の呪符を放ち、オルトロスの電子回路に貼り付けた。

 

「……今のは、一体何なんだ? スプーキー、僕のスマホから折り紙が飛び出してきたぞ」

 

『折り紙じゃない、僕の「仲魔」だ。

彼らは、デジタル信号に変換された意志そのものさ。……感心している暇はない。

地下からの生体マグネタイトの反応が、さらに巨大化している。

佐々木の魂が、メインサーバーに取り込まれる寸前だ。』

 

 モコイの呪符によって一時的に動きを封じられたオルトロスを尻目に、モルダーは暗い地下階段を駆け下りた。

 

 地下三階。そこにあったのは、巨大な円柱状のサーバクラスターだった。

その中心部には、一人の男――佐々木が、虚空を見つめたまま吊るされていた。

 

 彼の背後には、巨大なトーテムポールのような形状をしたデジタル・インターフェースがそびえ立ち、その頂点からは、「魂の奔流」が天へと昇り続けている。

 

「……これがマニトゥ・プロジェクトの正体か。奴らは、本当にネットワークを使って『魂』を吸収しているのか……」

 

 モルダーの呟きに答えるように、サーバーの唸り声が、巨大な咆哮へと変わった。

佐々木の肉体から抜け出した影が、地下空間の天井を覆い尽くしていく。

 

『モルダー、佐々木を救うには、そのメインフレームの物理接続を遮断するしかない。だが、邪魔をしてくるはずだ。

僕がここからシステムのOSを揺さぶる。

君は、その隙にコンソールの『心臓部』を叩き壊せ!』

 

「分かった。……やってみよう、スプーキー!」

 

 二人の「スプーキー」が、電子の海で一つの真実に手をかけようとしていた。

 

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