【女神転生 】「モルダー、あなた憑かれてるのよ」【相棒】   作:ベイベ後藤

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Digital Ghost編 5話

 

 

 ワシントンD.C.の中心部にそびえる石造りの巨塔、旧郵便局タワー。

観光客が、その歴史的な建築に目線を向けているその真下、厚いコンクリートと古いレンガに囲まれた廃区画に、モルダーは潜り込んでいた。傍らには、体を淡く光らせるモコイが、まるで慣れた散歩道のように先行している。

 

「……スプーキー、内部へ侵入した。ここは郵便局の地下というより、巨大な変電所か……あるいは、神経系のモデルルームだ」

 

 モルダーが懐中電灯で照らした壁面には、かつての輸送システムが血管のように張り巡らされ、その中を液体のようにうねる生体マグネタイトが流れていた。

 

『聞こえているよ、モルダー捜査官。

僕のモニターでも、スミソニアン一帯のエネルギー値が限界突破している。

ファントムソサエティは、アメリカ建国以来の「記憶」が蓄積されたこの土地の霊的磁場を、アメンティの起動エンジンに利用しているんだ。ちなみに目的地は、さらに50メートル下だ』

 

 桜井の声は、かつてないほどに研ぎ澄まされていた。

日本にいる彼は今、改造トレーラーの演算リソースを使い、米国の政府系ネットワークに偽の信号を送り続けて、モルダーの存在を不可視化している。

 

「……チミ、足元に気をつけて。この先の空気、ちょっと酸っぱいネ。……電子が焦げてるカナ」

 

 モコイが警告を発した直後、通路の突き当たりにある巨大な扉が、重々しい音を立てて開き始めた。

そこから現れたのは、これまでとは一線を画す、異様な威圧感を放つ影だった。それは、中世の騎士のような甲冑を纏いながらも、全身から光ファイバーの触手を垂らした悪魔。その手には、高電圧のエネルギーを帯びた長槍が握られている。

 

『……出たな。「魔人」――ホワイト・ライダー。ヨハネの黙示録を模して、ファントムソサエティがこの地に配置した四騎士の一柱だ。アメンティの門を守る、電脳空間の処刑人だよ』

 

「黙示録の騎士か。……僕の信仰心では、あんな物騒な得物を抱えた男を説得するのは無理そうだ」

 

 モルダーはシグ・ザウアーを構えたが、相手はデータと霊体の混合体だ。通常弾では足止めにすらならないことを、彼はこれまでの戦いで学んでいた。

 

『モルダー捜査官! スマホのCOMPを、僕の直通回線に同期させろ。

モコイさん、時間稼ぎだ。「ラクカジャ」で防御を固めてくれ!』

 

「スプーキーを信用だね、ボク。チミ、後ろに隠れてネ。」

 

 モコイが空中で複雑な印を結び、周囲に緑色の防護障壁を展開する。直後、ホワイト・ライダーの長槍から放たれた「電脳の矢」が障壁を叩き、凄まじい衝撃波が地下空間を揺らした。

 

「スプーキー! まだか。モコイの障壁が持たないぞ!」

 

『……今だ! プログラム、転送完了!

モルダー捜査官、それは使い捨てのブースト・コードだ。一度しか撃てないが、そいつの属性を強制的に反転させる!』

 

 モルダーは画面に現れた「REVERSE」の巨大なアイコンを、力一杯タップした。

スマートフォンのレンズから、純白の閃光が放たれる。それは攻撃ではなく、ホワイト・ライダーを構成する「オーダー」を書き換えるウイルスだった。

 

 死を司る騎士の動きが、一瞬だけ止まる。

その鎧の隙間から、ノイズが噴き出し、ホワイト・ライダーは苦悶の声を上げながら膝をついた。

 

「……今のうちに、奥のメインコンソールへ!

門が開く前に、アメンティの基幹システムに直接プラグインを差し込め!」

 

 モルダーは跪く騎士の傍らを駆け抜け、最深部のホールへと飛び込んだ。

そこにあったのは、無数の真空管が巨大な脳の形に組み上げられた、前時代の遺物と未来の技術が混濁した「アメンティの心臓」だった。

 

 中央のモニターには、全米の主要都市の地図が映し出しされ、そのすべてが「CONNECTED」という文字に書き換わろうとしている。

 

「……ここが、偽りの神話の出発点か」

 

 モルダーは震える手で、スプーキーから託された「最終解体プログラム」を宿した外部デバイスを、メインフレームのポートへと差し込もうとした。

 

「……やめておけ、モルダー。それを差し込めば、周辺もろとも、この街ごと消し飛ぶことになるぞ」

 

 背後から響いた、聞き覚えのある冷ややかな声。

モルダーが反射的に銃口を向けると、そこには黒のレザージャケットを着た男が、片方の口角を吊り上げて立っていた。

 

「……クライチェック。生きていたのか」

 

「しぶといのが長所なんだ分かるだろ?……銃を下ろせよ。

俺は今、シンジケートの使い走りをしているわけでもないし、もちろん、あの『ファントムソサエティ』とかいう、古臭い秘密結社気取りの連中に従っているわけでもない。」

 

「……スプーキー、聞こえてるか。厄介な客だ。アレックス・クライチェックがここにいる」

 

『誰だって? ……待て、バイタルデータがおかしい。モルダー捜査官、そいつの左腕……』

 

 スプーキーの指摘通り、クライチェックの左腕は精巧な義手になっていた。

彼はその義手で、アメンティのメインサーバーの一部を軽々と叩いた。

 

「……驚いたな。日本のハッカーか。

君が今やろうとしている『強制シャットダウン』は、ファントムソサエティが仕掛けたトラップだよ。

プログラムを走らせた瞬間、この地下にあるマグネタイトが臨界点に達して爆発する。

奴らは、証拠隠滅のためにワシントンの一部を消し去るつもりだ」

 

「……信じろとでも言うのか? お前の言葉を!」

 

 モルダーが銃を構えたまま問うと、クライチェックは肩をすくめた。

 

「信じる信じないは勝手だが、俺はアメンティの『中身』を盗み出しに来ただけだ。

……ファントムソサエティは、このシステムで『神』を呼ぼうとしているが、俺は、その『神』をオークションにかけたいと思っている。利害は一致しているはずだ。……違うか?」

 

 モルダーは、スマートフォンの画面越しにスプーキーと沈黙を共有した。

日本のスプーキーが、凄まじい速度でサーバーの深層を再スキャンする。

 

『……その男クライチェックの言う通りだ。

シャットダウン・コードの背後に、自爆用のサブルーチンが隠されている。……危なかった、モルダー捜査官。

この男、敵かもしれないが、今は情報の確度が高い』

 

「……わかった。クライチェック、君の提案を聞こう」

 

「話が早くて助かるよ。日本のハッカーさん、

俺が、今からこの義手をコンソールに直結させる。

君は俺の脳をバイパスにして、システムの『核』だけを抜き出してくれ。

爆破プログラムを回避しながら、アメンティを物理的に切り離す。……君ならできるだろう?」

 

『……ハハッ、とんでもない要求だ。だが、面白い。……やってやるよ。』

 

 桜井の不敵な笑い声が響く。

モルダー、スプーキー、そしてクライチェック。

三つの意思が、ワシントンの地下深く、滅びの門の前で、危険な共同戦線を結ぼうとしていた。

 

「……モコイさん、周囲を警戒してくれ。何が来ても通すな。」

 

「ボクに、まかせてヨ。でもこの男、あんまり好きじゃないカナ……」

 

 モコイが姿を消し、ホールの入り口に霊的な結界を張る。

電子の冥府が、最後の産声を上げようとしていた。

 

 

 クライチェックが精巧な義手をメインフレームの端子へ直結させた瞬間、地下ホール全体が青白い電弧に包まれた。

 

「ぐっ、ハッカー……早くしろ! 俺の脳が焼き切れる前に!」

 

 クライチェックの顔が苦悶に歪み、義手を通じて彼の神経系に「アメンティ」の膨大な生データが逆流し始める。それを、日本にいるスプーキーが間一髪のタイミングでフィルタリングし、自爆プログラムを回避しながら中枢データを抽出していく。

 

『……やってるよ! クライチェック、その義手の出力を、あと15%上げろ。

モルダー捜査官、そのままコンソールの監視を続けてくれ。……来るぞ、システムの管理者が!』

 

 ホールの大型モニターが一斉にノイズを発し、一人の男の姿を映し出した。端正なスーツに身を包み、冷徹な眼差しを湛えた老紳士だ。

 

「……フォックス・モルダー捜査官。そして、アレックス・クライチェック。

君たちの足掻きは、歴史の必然という濁流の前の砂城に過ぎない。」

 

 老紳士の声が、ホールのスピーカーから重層的に響き渡る。

 

「アメンティは、もはや止まらん。魂という『触媒』は既にネットワークの深層へ溶け込んでいる。

君たちが、今抜き出そうとしているのは、神の抜け殻に過ぎないのだよ」

 

「アンタの言う『神』とやらが、ワシントン市民の意識を奪うことだと知れば、大統領も黙ってはいないぞ!」

 

 モルダーがモニターに向かって叫ぶが老紳士は、わずかに口角を上げただけだった。

 

「私は大統領顧問団にいるがペンタゴンも、アメンティの一部になることを望んでいる。

人は肉体の死を恐れ、永遠のデジタルな安寧を求めているのだ。……さて、掃除の時間だ」

 

 合図と共に、ホールから新たな影が現れた。それは黙示録の四騎士が二柱――「レッド・ライダー」と「ブラック・ライダー」。

 

「……いらないネ、増援なんて!」

 

 結界を守るモコイが悲鳴に近い声を上げる。赤い剣を構えた騎士と、秤を手にした黒い騎士が、データの奔流を纏いながらモルダーたちへ肉薄する。

 

「スプーキー! まだ終わらないのか!」

 

『あと1分だ! モルダー捜査官、時間を稼げ!』

 

「……1分か。長い1分になりそうだな」

 

 モルダーは残弾数を確認し、シグ・ザウアーの銃口を迫り来る騎士へと向けた。その時、義手に繋がれたままのクライチェックが、血走った目で笑った。

 

「おい、ハッカー。俺の義手の中に、お前がさっき使った『REVERSE』の残骸があるはずだ。そいつを、俺の神経系経由で全体にバラ撒け! 自爆は俺が……俺の意識で押さえ込んでやる!」

 

『……正気か、クライチェック! お前の脳が消滅するぞ!』

 

「……俺は、しぶといんだよ、やれ!」

 

 桜井の指が、運命のキーを叩いた。

クライチェックの体から、目も眩むような黒と金の光が爆発的に放たれた。それは「REVERSE」を増幅させた霊的ノイズとなり、襲い来る四騎士のプログラムを根底から崩壊させていく。その隙を見逃さず、スプーキーがアメンティの「核」を完全に切り離した。

 

『……抽出、完了! アメンティ、システム・ダウン!』

 

 地下ホールの真空管が一斉に破裂し、赤い「CONNECTED」の文字が消え去った。

静寂が戻ったホールで、クライチェックは義手を端子から引き抜き、そのまま床に崩れ落ちた。

モルダーが駆け寄ると、クライチェックは荒い息をつきながらも、微かに目を開けた。

 

「……データの『核』は、お前のハッカーに送った。そいつを……オークションにかける時は、俺にもマージンを入れろよ」

 

 そう言い残すと、彼はその場から姿を消した。

 

 数日後。

ワシントンのホテル。佐々木は無事に意識を取り戻し、スカリーのケアのもと、日本への帰国準備を進めていた。

 

「……モルダー。結局、アメンティ計画の証拠は、あの地下の爆発で全て消えてしまったわ。現場にいたっていう人物も国防高等研究計画局や大統領顧問団から外れて姿を消したわ。」

 

 スカリーの言葉に、モルダーは窓の外のワシントン記念塔を見上げながら、静かに答えた。

 

「……ああ。だが、真実は消えていない。海の向こうに、この事件のすべてを記録している男がいるからね。」

 

 手元のスマートフォンが、短く振動した。

 

『佐々木の帰国便の手配は終わったよ、モルダー捜査官。今回のデータは僕のサーバーに厳重に封印しておいた。いつか、奴らがまた現れた時のためにね。』

 

「助かるよ、スプーキー。……ところで、君のトレーラー。いつかアメリカで実物を見せてくれる約束、忘れていないだろうな?」

 

『……フッ。そのうち、君が「信じられないような場所」で会えるかもしれないよ。それじゃあな。』

 

 通信が切れる。

モルダーは、画面を見つめ、少しだけ晴れやかな表情で、スカリーに向き直った。

 

「……さあ、行こうか。次の『X-ファイル』が、僕らを待っている。」

 

 ワシントンの空は、いつものように高く、どこまでも続いていた。しかしその深層では、今も電子の鼓動が、新たな神話を紡ぎ続けているのかもしれない。

 




メガテンXファイルの本編には出せなかったので今回クライチェックを出してみました。
一応は敵役なんですがドラマでも完全に敵とは言えない動き回る良いキャラです。
実はヒロインのスカリーよりも先にモルダーにキスをしてます。笑
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