【女神転生 】「モルダー、あなた憑かれてるのよ」【相棒】   作:ベイベ後藤

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Xファイルを作ったクリス・カーター氏のミレニアムが少しだけ混じるけど知らなくても問題は無いと思います。


メガテンXファイル 『アルカディア編』
1話 理想郷の合言葉


 

 メリーランド州。怪しげな電子部品と古い雑誌が山積みになった、ローン・ガンメンの本拠地は、今夜もサーバーの排熱と安コーヒーの匂いに満ちていた。

 

 バイアーズ、フロヒキー、ラングリーの三人が、解析中の衛星通信データについて言い争っていたその時、防犯カメラのモニターが激しく明滅した。

 

「……モルダーだ。ひどい面構えだぞ、まるで一週間不眠不休で宇宙人を追い回したみたいだ」

 

 フロヒキーが皮肉を飛ばす間もなく、モルダーが重い鉄扉をこじ開けるようにして入ってきた。その手には、一枚のmicroSDカードが握られている。

 

「……これを調べてくれ。差出人は不明だが、封筒には『X-ファイルの欠落したパズル』とだけ書かれていた」

 

 バイアーズが怪訝そうにカードを受け取る。

 

「モルダー、君も知っての通り今の時代このサイズのカードに国家機密のデータを詰め込むことだって可能だ。不用意に読み込ませるのは――」

 

「わかっている。だが、そのカードの表面を見てくれ」

 

 顕微鏡を通さずとも、カードの裏側に刻印された微細な文字が見えた。そこには、かつてモルダーが、宗教絡みの事件で見た天使の符号が刻まれていたのだ。

 

「……分かった。ラングリー、スタンドアロンの環境を構築しろ。ファイアウォールは三重だ」

 

 ラングリーがキーボードを叩き、解析用の端末が起動する。カードがスロットに差し込まれた瞬間、モニターは激しいノイズに包まれ、やがて漆黒の画面に純白の文字が浮かび上がった。

 

『理想郷へようこそ。パスコードをどうぞ!』

 

 無機質だが、どこか甘くささやくような合成音声。

モルダーは吸い寄せられるようにキーボードの前に立った。

 

 バイアーズが止める間もなかった。モルダーの指が、彼が長年その言葉を盾にして戦ってきた「呪文」を打ち込む。

 

「……TRUST NO ONE」

 

 エンターキーが叩かれた。

次の瞬間、端末のモニターから現実のものとは思えないほどの高輝度な閃光が放たれた。

 

「モルダー! 離れろ!」

 

 バイアーズの叫びも虚しく、モルダーの意識は爆ぜた。

視界がホワイトアウトし、脳に直接0と1の奔流が流れ込む。かつて体験したアブダクションの時のような浮遊感、そして絶対的な静寂。

次に彼が目を開けたとき、そこはローン・ガンメンの隠れ家ではなかった。

 

「……ここは……」

 

 モルダーは目を見開いた。

空はどこまでも澄み渡り、気温は心地良い春の日のように保たれている。

足元には、一分の隙もなく手入れされた芝生が広がり、遠くにはクリスタルのように輝く尖塔がそびえ立っている。そこに、一人の少女が立っていた。

 

「おめでとうございます、モルダー捜査官。あなたの『資格』は承認されました」

 

 少女の瞳はサファイアのように清らかで、生身の人間が持つ「不確定な揺らぎ」が一切排除されていた。

 

「資格だと? 僕はただ、カードの中身を確認しただけだ。……ここはどこだ? バーチャル・リアリティの類か?」

 

「ここはアルカディア。ミレニアムの叡智が到達した、精神の千年王国です。

ここでは肉体の苦痛も、真実を追い求める飢えも存在しません。なぜなら、すべての真実は既にここにあり、すべての幸福は約束されているからです」

 

「……真実が既にある、か。FBI捜査官にとっては廃業宣告だな」

 

 モルダーは皮肉を投げたが、少女は微笑みを絶やさなかった。

 

「あなたは『誰も信じるな』と入力しました。それは、あなたが現実世界を疑っていたという証明です。……ですが、安心してください。

ここでは、あなたの心に空いた穴を、完璧な形で埋めることができます」

 

 少女が指し示した尖塔のふもと。

柔らかな陽光が降り注ぐ広場に、一人の少女の後ろ姿が見えた。

幼い頃の記憶に焼き付いている、あの夜に消えた姿。

 

「……サマンサ?」

 

 モルダーの足が、ひとりでに歩みを始める。

サマンサは既にこの世にはいない。

彼女の宿命と、その魂の結末を、モルダーは、かつて自分で受け入れ、葬ったはずだった。だが、目の前に立つ少女の「存在感」は、記憶という言葉では片付けられないほどの生々しさを持って、彼の魂を揺さぶった。

 

「兄さん……ずっと待っていたのよ」

 

 振り返った少女の笑顔。それは、「もしもの未来」の輝きを放っていた。

 

 

 現実世界のローン・ガンメン本拠地。

 

「モルダー! 返事をしてくれ!」

 

 バイアーズがモルダーの肩を掴んで揺さぶる。だが、モルダーはモニターの前で動かぬまま、瞳から光を失っていた。

心拍は極端に遅く、まるで深い瞑想状態にあるかのようだった。

 

「……ダメだ、バイアーズ。モルダーの脳波は完全にこのシステムと同期しちまってる。

無理に引き剥がせば、彼の意識は二度とこっちの世界に戻ってこれない」

 

 ラングリーが冷や汗を流しながらキーボードを叩く。画面には、無限に繰り返される文字列が流れていた。

 

『WELCOME TO ARCADIA... WELCOME TO ARCADIA...』

 

 その時、ドアが激しく開かれた。飛び込んできたのは、息を切らしたダナ・スカリーだった。

 

「モルダー! ……これはどういうことなの?」

 

 スカリーは、光を失った相棒の瞳と、モニターに映る異様な文字列を見て、凍りついた。

 

「スカリー、モルダーが……持っていかれた。……『アルカディア』という、電子の檻にな」

 

 スカリーはモルダーの手を握った。信じられないほど冷たい。

 

「……モルダーは戻ってくるわ。戻ってこなければならない。

彼が追い求めてきた真実は、こんな都合のいい理想郷の中に転がっているはずがないもの」

 

 0と1で構築された神話の世界、アルカディア。

モルダーを待ち受けるのは、救済か、それとも……




メガテンのナンバリングで真IIは独特の世界観で好きです。
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