【女神転生 】「モルダー、あなた憑かれてるのよ」【相棒】   作:ベイベ後藤

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6話 審判の日

 

 

 ワシントン上空に渦巻く光は、もはや気象現象として説明できるレベルを超えていた。気象局は「異常な電離層の乱れ」と発表したが、モルダーの目には、それが空に開いた「神の瞳」のように見えていた。

 

 モルダーが運転するレンタカーは、一路ニューメキシコを目指して大陸を横断している。後部座席には、体調を崩したギメルがスカリーに看病されながら横たわっていて、助手席では狐の姿に戻ったリサが、窓の外を流れる夜の闇をじっと見つめていた。

 

「モルダー、アルバートはなんて?」

 

 スカリーが、ギメルの額を濡れタオルで拭いながら尋ねた。

 

「ああ。彼はただ一言、『嵐の前の静けさは終わった』と言っていた。……スカリー、彼はナバホの伝承の中に、空から降りてくる『光の戦車』に類する記述があると言っているんだ」

 

「ナバホの神話が、ミレニアムの予言や最新のナノテクノロジーと結びつくというの?」

 

「『真実は一つ』だ、スカリー。それを語る言語が、科学か神話かという違いに過ぎない。……ギメル、メルカバーの降臨まで、あとどれくらい時間の猶予がある?」

 

 問いかけられたギメルは、青白い顔を上げ、震える声で答えた。

 

「……システムの同期率は既にかなり高い状態だと思います。

ネット回線を流れる『感情』がエネルギーとして抽出され、メルカバーを物理層へ押し出すための圧力になっているんだ。おそらく……あと一週間もすればワシントンを中心に、この国はアルカディアの論理に上書きされるはずです」

 

 

 数日後。ニューメキシコ州、ナバホ居留地。

乾いた砂塵が舞う荒野の中に、アルバート・ホスティーンの家がある。

老人は、到着した一行を静かな眼差しで迎え入れた。その視線は、モルダーの肩に乗るジャックフロストの姿や、周りをウロウロしている狐の姿を凝視した。

 

「……遠いところからよく来たな、フォックス・モルダー」

 

 アルバート・ホスティーンは、彼らを家の奥へ招き入れると、焚き火の煙の中に不思議な図形を描き始めた。

 

「空の光は、白人が言うような『科学』の産物ではない。……それは『秩序の病』だ。かつてこの大地に住んでいた先祖たちも、同じような光を見た。

彼らは、それを『空飛ぶ神の檻』と呼んだ」

 

「檻……。ギメルが言っていた千年王国と同じ意味ですね」

 

スカリーが呟く。

 

「そうだ。その檻に入れば、飢えも痛みもない。だが、同時に歩むべき道も失われる。……モルダー、お前が連れて来たその青年こそが、檻の鍵だ。だが、彼を狙う連中は、もうすぐそこまで来ている」

 

 アルバートの言葉が終わるか終わらないかのうちに、外の空気が変わり始めた。

真昼の太陽が突然遮られ、荒野に巨大な影が落ちる。見上げると、そこにはワシントンで見られた光の渦が、この僻地の空にも出現していた。そして、空から降りてきたのはミレニアムが放った、メルカバーの先遣隊であった。

 

「回収しに来たんだ。僕を……そして、この地にある『神の拒絶者』たちを排除するために」

 

 ギメルが絶望の声を上げる。

 

「アルバート、地下へ! スカリー、ギメルを守れ!」

 

 モルダーはDDSを掲げ、以前ローンガンメンがアップデートしたソフトウェアを起動して戦闘体制に入る。

 

「モルダーさん、私に任せて!この大地が魔力を高めてくれてる」

 

 リサが、黄金色の光を放ちながらモルダーの前へと飛び出した。

彼女の姿は変幻し、荒野の風に毛並みをなびかせながら、空を見上げた。

 

「この大地の力を借りて……マハザンダイン!」

 

 リサが大地に手を触れると、砂漠の砂が巨大な渦を巻き、空から降ってくる敵に襲いかかった。

ニューメキシコの乾いた砂塵が、緑色の閃光と黄金色の風によって切り裂かれる。

リサの放った「マハザンダイン」は、ナバホの聖なる大地の魔力を吸い上げ、巨大な竜巻となって空から降り立つ白銀の先遣隊を次々と飲み込んでいった。

 

 スカリーがギメルを抱え、地下室へと滑り込む。

モルダーは、激しく揺れるDDSの画面を凝視していた。ローン・ガンメンによるアップデートプログラムが、周囲の異常な磁場を解析し、戦場に異質な「論理」を投影し始める。

 

「フロスト、僕たちの『現実』を彼らに見せてやれ!」

 

「任せるホー! 砂漠をスケートリンクにしてやるホー!」

 

 ジャックフロストが、モルダーの肩から飛び出し、具現化した杖を砂地に突き立てた。灼熱の砂は、ダイヤモンドダストへと変わり、リサの竜巻に巻き込まれた敵の姿勢を凍結させていく。

 

「モルダー、一旦戻って! 」

 

 外の状況に動じることなく、家の奥からアルバート・ホスティーンが、古びた革の袋を持って現れる。老人の瞳には、混乱も恐怖もなかった。

 

「……秩序の病を治すには、強い『毒』が必要だ。モルダー、この地から西へ向かえ。

グランドキャニオンの地下、『ヴィシュヌ片岩』と呼ばれる最古の岩盤に、この大地の記憶が眠っている。」

 

「そこに何があるんですか?」

 

「カリ・ユガの門。世界が終わり、新しく始まるための『破壊の息吹』だ。

ミレニアムの連中が恐れているのは、管理できない『混沌』の力だよ」

 

 アルバートは、モルダーの手に革袋を押し付けた。中には、ナバホの砂絵に使われる色鮮やかな砂と、見たこともない形状の黒い石が入っていた。

 

「スカリー、行くぞ! 目的地はグランドキャニオンだ!」

 

 アルバートが用意した旧式の四輪駆動車で荒野を疾走する一行。背後の空には、以前としてメルカバーの胎動が迫っている。

 

 夜のグランドキャニオン。巨大な大地の裂け目は、月光を吸い込んで底知れぬ深淵を見せていた。

 

「……ギメル、君が言っていた『同期』を逆手に取ることはできないか?」

 

 モルダーが運転しながら尋ねる。

 

「僕の意識を、もう一度システムのバックドアに繋げることができれば……」

 

「そういうことならローンガンメンに協力してもらおう。彼らならシステム面は大丈夫だ。」

 

 モルダーの言葉に、ギメルは小さく頷いた。

 

 

 到着した彼らは、地質調査用の古いエレベーターを使い、グランドキャニオンの深部へと降りていく。

数十億年前の地層が剥き出しになった地下空洞。そこには、アルバート・ホスティーンが言った通り、巨大な黒い岩盤が脈動するように存在していた。

 

 岩盤の前に立ったモルダーが革袋の砂を撒くと、砂は磁力に引かれるように岩面に吸い付き、複雑な模様――ナバホの砂絵と、DDSの回路図が融合したような魔法円を描き出した。

 

「僕は……この岩盤の向こう側にある『真実』をこじ開ける!」

 

 モルダーが、黒い石を岩盤に叩きつけたのを合図に、人類の運命を決める「審判」が始まろうとしている。

岩盤が割れ、中から溢れ出したのは、光ではない。それは、すべてを無に帰すような、根源的な「闇」――カリ・ユガの胎動だった。

 

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