リムルに喰われる悪魔に転生してしまった…… 作:てきとーでいこう
綺麗に舗装された石畳の道を歩く。
噴水のある近くの広場では子供が楽しそうに走り回っている。
商店街ではヴェルダナーヴァをモチーフにした商品がたくさん売られており、非常に繁盛しているようだ。
「……あんな何もなかったところからここまでか」
浮遊島ヴェルグレイが人を受け入れ始めてから早数年。
すでにこの都市は世界的に有名な観光地となっていた。
ここ数年まず仕事、次に仕事、さらに仕事だったからな。
途中で遊びに来てくれたルドラたちがどれだけ救いだったか……
ルドラが久しぶりに手合わせしようぜ、って言われたのに飛びついたからな。
もしかしたら俺も戦闘の楽しさに目覚めたかもしれん。
いや、それは違うな。
多分仕事から逃げれるからだわ、うん。
好き好んで疲れることしたくねぇよ。
とはいえずっと執務室に籠るのもキツいからな。
こうやって定期的に歩いているのである。
空を見上げると薄く結界が貼ってある。
この転スラ原作にあったレオンの国エルドラドを参考にした街全体で魔法陣を描くことによって完成した極大結界である。
その硬さは
そしてさらにここにはヴェルダナーヴァがこの島を浮かせている仕組みである信仰心をエネルギーに変換する技術を用いてさらに結界を張っている。
うん、完璧である。
そりゃあ正義之王みたく権能じゃないから完全無欠とはいかないがそれなりの強度を誇るのだ。
実のところこの仕組みを作るのにだいぶ苦労した。
なんかヴェルダナーヴァはなんともないというふうに権限渡してくれたけどなんだこれ、バカむずいんだが。
俺に渡されたのはヴェルグレイに関するもののみだからこれでも技術のほんの一部なんだろうがムズすぎる。
創造神の技術を甘く見てたわ。
そんなことを考えながら歩いていると目的地についた。
ここが俺の仕事場であり、ここヴェルグレイの目玉の建造物。
豪華にそれでいてどこか質素にも見える荘厳な神殿。
ヴェルグレイア神殿。
ヴェルダナーヴァが祀られている……だけでなく謎に俺も祀られている場所。
最初聞いた時は頭抱えたわ。
散々ルドラにバカにされるしよ……
神殿を通り自分の執務室に向かう。
この都市に関するものの基準は大半用意した。
法とかも自由に考えて提案できるようになっている。
まぁできた法案は一度俺がチェックして許可出すか決めるけど。
とはいえ俺がこの都市に干渉するのはこれくらいである。
必要な組織も『
あとはそっちに丸投げして俺はこれからのんびりと生活をする、という予定……だったのだが──
「何、これ」
執務室に置かれた何やら高級そうな紙の嘆願書。
嫌な予感がし、顔を引き攣らせながらフィリエルへに尋ねる。
「見ての通り嘆願書です」
「絶対面倒なやつだよねこれ」
「内容見ればいいんじゃないですか?」
「……君、本当に変わったね。前はヴェルア様のおっしゃることなので、みたいな感じだったじゃん」
「そっちの方がいいですか?」
「いえ、ぜひ今のままでお願いします」
これ以上変に持ち上げられてたまるか。
慣れなさすぎてちょっとむず痒いんだよ。
それはともかくこの嘆願書だ。
どれどれ?
……ふむ。
なるほど──?
「要は俺に仲裁をしろと?」
「失礼」
俺が持っていた嘆願書を取り上げてフィリエルはその内容に目を通す。
「戦争が終わったのですが賠償の話に入りたいが相手が交渉に応じず、応じたとしてもまともな対応をしないのです。このままでは我が国にとっても相手の国にとってもいいことはありません。どうにかヴェルダナーヴァ様をお救いになったヴェルア様のお力添えを賜りたく……とのことです。おっしゃる通り仲裁ですね」
「だよなぁ。……こっちを勝手に巻き込まないでくれないかな……んなの勝手にやってろよってのが本音」
「ヴェルア様を慕っている者が見たら正気を疑うような言葉ですね」
「俺は向こうが崇めてるヴェルアじゃないからな」
「では断りますか?」
「……そうしたいのは山々だけどさぁ」
まぁ無理よな。
今はまだヴェルダナーヴァの聖地ってことて持ってるけど時間がたったら?
もうあそこ行かなくていいよね、ってなったら結構まずいのだ。
都市については丸投げしたが俺だってここが消えて欲しいわけじゃない。
だって俺の拠点だし。
だからこんなまだ出来立ての都市では「え、いやです」って簡単には断れないわけだ。
断っても多分んなの聞いてからはわけないだろ、と納得してくれるかもしれないが多少は印象悪くなるだろうしな……
「まぁ、受けるしかないよな。理想にされるのは嫌だけどやっぱ理想って便利なんだよ」
街の発展の資材とかでもヴェルア様のためなら、とかいって格安で持ってきてくれたりするしな。
ここでこの恩恵を手放すわけにはいかん。
「では、そのように」
んじゃあ英雄らしく頑張りますかね。
浮遊島ヴェルグレイ、外賓応接室。
まさか俺がここで仕事をする羽目になるとは。
いつもはこういうやつは丸投げしてるからな。
まぁ仕方ない。
これもこんな立場になった俺が悪い。
リムルも大変だったな、こりゃ。
見てる分にはなんとも思わんが身をもって体験するとどれだけのことかがよくわかる。
なんて考えるのをやめて目の前の光景を見る。
やってきた2国の外交官。
互いにあーだこーだと言い争ってばっかりで進展がない。
一応耳を傾けてはいるが少し話したと思ったら話がずれてまた最初から、これの繰り返しである。
いい加減聞いているのも飽きてきたのでそろそろ終わりにしてほしいのが本音だ。
「どう思われますかな、ヴェルア殿」
俺に書類を送ってきた国ではない方の外交官が俺視線を向ける。
いやこっち向くなよ。
「……何がですか?」
「はぁ、わからんのですか。今までいったい何を聞いていたのか。我が国とそちらの国どちらを支援するのかと尋ねておるのです。まああちら側の言うことを聞いてこの場を設けているのですからすでにわかりきったことですがな」
はぁ?
なんでそんな話になってるんだよ。
「私の立場は常に中立です。私が用意するのは互いに話せる場所であって私の意見ではありません。それに、そもそも私の提案に賛同したのはそちらでしょう」
「かの有名なヴェルア殿の提案を大っぴらに拒めるとでも? その状況を知っている状態での提案はもはや脅迫と言っても過言ではないのですよ、ヴェルア殿」
いや、俺は別に脅迫した覚えはないんだが……
《解。政治的な外交が原因と思われます》
というと?
《
要するにあの人の提案を断るなんて何事だ、あの人のことが嫌いなのか、って勘違いされる可能性があるってこと?
《その通りです》
なるほどな……これがまだ個人レベルならまだしも国家全体がそういうふうに受け取る可能性もあるわけか。
それこそヴェルダナーヴァを崇めている国家からすれば。
「……すみませんでした。そこには配慮が至っておりませんでした。謝罪します」
「……」
頭を下げる。
これは脅迫と言われても過言ではない。
いくら俺がそのつもりなくても今の状況が脅迫に似たものになっているのだから。
「顔を上げてください。こんな姿を見られればまた何か言われてしまう」
「っ!」
「冗談ですよ、まさかこんな素直に謝罪されるとは思ってもみなかったので……謝罪は受け取ります。それと、申し訳ありませんでした、ヴェルア様。嫌味を申し上げてしまい、お詫びします」
互いに頭を下げ合う。
そして漂う気まずい雰囲気。
「……まぁ、どっちも悪かったということで……」
「……ですね」
改めて会談に戻る。
そこからは話は早かった。
俺からは特に意見を出したりはしないが先ほどよりも少し緊張がほぐれたのだろうか。
余裕が出てきたおかげでスムーズに会談が進んだ。
俺が相手の国と組んで自分たちを貶めるつもりじゃないかと気が気でなかったらしい。
ほんと申し訳ない。
無事会議も終わり、解散となった。
戦争も終了しなんとか平和な形でまとまったわけだ。
よかったよかった。
ちなみにこの後今回の一件が広まって俺に仲裁を依頼してくるところが増えた。
やめてください。
俺が死にます、精神的に。
もうこれヴェルグレイの強みにしていいでしょ。
仲裁に至っての場所を用意して、そこでの安全を保証する。
中立だからこそ敵に自分達が会談中を狙って暗殺されたりすることもない。
うん、なかなかいいかもしれん。
そのまんま組織を作ってそっちに丸投げすればいいし。
そうとうやばい案件の時は俺が出る、ってことで。
例えばルドラとかギィとかね。
……そういえばこの前ルドラたちが祭りに行くとか言ってたな。
ミリムも行ってるんだろうか。
人生エンジョイしているようで何よりだ。
◇
その日はなんの変哲もない日だった。
ヴェルグレイの独自の要素としての仲裁。
それを組織体系に落とし込んで俺がいなくても回るようにすることに成功。
満を辞して俺の仕事がなくなってお飾りの領主になった俺は素晴らしい毎日を送っていた。
そんな日のことだった。
「──ッ!」
《告。膨大な魔力反応を確認》
戦いから離れ、事務ばかりしていたおかげで眠っていた戦いの感覚が戻ってくる。
あの時の暗殺者の時のような……いや、それ以上の圧力。
急いで飛び出す。
ここで転移ではなく飛翔を選んだのは俺の心がその可能性を拒否していたからだろうか。
ヤベェやつが出てきたで済めばまだマシだった。
俺が反応した理由。
その魔力は俺の知り合いに似ていた。
該当する可能性があるのは──
そんなわけがない。
脳裏によぎった考えを叩き落とす。
あのイベントは俺が潰したはずだ。
あの、世界がひっくり返るような一大事件の原因は。
だが、本当に?
俺の嫌な予想は常に当たってきた。
そしてその確信は現地に近づくほど深まっていく。
そして思い出す。
今日がその祭の日だったということに。
「……クソがッ!」
目の前に広がるのは火の海。
あちこちで火の手が上がっており、破壊の跡が見える。
そしてそんな破壊を引き起こしているのは他でもない、俺の知り合いの子供。
ミリム・ナーヴァ──
魔王となった悲劇の少女がそこにはいた。
やっぱミリムは魔王じゃなくちゃ。