Re東方葬想録   作:KUS

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第一部 日常への回帰
幻想入り


三人称視点

とある町、もう夜の帳が下りて辺りは暗闇に覆われていた。

時刻は既に0時を回っており、街灯も光が弱く暗闇の中を照らし切れていない。

近くの家の中で銃声が聞こえる。しかし、その銃はサプレッサーが付けられているのか音は銃声だとは思えず針を刺したかのような音にも聞こえる。

その家から1人の青年が出てきた黒いロングコートにフードを深く被っており、口元には黒い口当てをつけている。

このような暗闇の中ではまず気づかれない服装だ。

相手が死亡したことの確認もしない。

銃弾が標的の額に命中する、青年はその瞬間を確かに捉えた。

即死だ。

 

「・・・これで終わりだな」

 

彼の名前は十六夜誠斗。先ほど鳴った銃声の犯人だ。

彼は殺し屋として依頼を受けており、

たった今も裏でテロリストに資金提供を行っていた資産家を始末したところだった。

ただし、彼はもうこの稼業から足を洗おうと考えており今回の依頼を最後に辞めることをクライアントに伝えている。彼はそのまま帰路に着こうとした。

 

(・・・いるな)

 

夜闇の中、彼は背中に刺さるような視線を感じた。

呼吸を止め歩幅を自然に落とす。

誠斗はポケットに手を入れ、中に潜ませていた愛銃に手をかける。

安全装置に指をかけ、ーー次の瞬間。

 

ブォーン

誠斗が銃口を向けた先の何もない空間にスキマが開いた。

 

「こんばんは、十六夜誠斗」

 

その奥から一人の女性が顔を覗かせる。

金色の長い髪、見た目は10代後半くらいだろうか。

誠斗は彼女の事を知っていた。

 

「・・・八雲、紫」

「久しぶりね、6年振りかしら?」

 

八雲紫。

誠斗はもう関わる事はないと考えていた相手だ。

そんな相手が、今目の前にいる。

紫は誠斗の全身を観察するように視線を滑らせる。

見終えた紫は、誠斗に対して口を開いた。

 

「あなた、相変わらずね。殺気、本能、そして才能……どこもまったく鈍ってない」

「……俺の何を知っている」

「何もかもよ。あなたの生まれも、才能も、そして“呪い”も」

 

誠斗の胸が、小さく跳ねた。

まるで何もかも見透かされているような……。

紫はゆっくりと彼に歩み寄り、誠斗の目を真っ直ぐ見据える。

 

「誠斗、あなたの心はもう限界に近いはずよ。

このままだとその才能に呑まれて、あなたは壊れる」

「余計なお世話だ」

「でも事実よ。実際、あなたはもう、どこにも行けなくなっている」

 

誠斗はその言葉に反論しなかった。

彼女が言ったことは誠斗自身、感じていたことだったからだ。

 

「だから、私があなたに選択肢をあげるわ」

 

誠斗の眉がわずかに動く。

 

「選択肢?」

「ええ。

誠斗、幻想郷に来なさい。ようやくあなたを受け入れる準備ができた。

あなたの才能も呪いも、受け止められる場所よ」

 

夜の静寂の中で、その誘いだけが異様に響いた。

 

「……ふざけるな」

 

その誘いを誠斗は即座に吐き捨てた。

 

「お前に同情される謂れはない。勝手に俺の人生に、俺の中に踏み込んでくるな」

「まあ、そう言うと思ったわ」

 

紫は笑みを崩さない。

その余裕そうな表情が誠斗を苛立たせる。

 

「こんな、殺すためだけの才能なんて、俺が望んで得たわけじゃない。邪魔だとも思っている。

だがこれが無きゃこれまで生きてこれなかった。それだけだ」

「ええ、そうね。

だからこそ私は言っているの、“あなたはこのままだと死ぬ”と」

「肉体的には死なないかもしれない。

でも、精神的には間違いなくあなたは死ぬわ」

 

誠斗は更に苛立つ。今すぐこいつの頭に銃弾を叩き込みたい。

だができない。なぜなら、反論ができなかったからだ。

“あの日”から7年、自分は血と死の中を歩いてきた。

あの時からいったいどれほど殺してきた?

誠斗は覚えていない。

任務でも、戦場でもただ効率よく殺してきた。

ただ殺すだけ。

それが彼が天から授かった才能であり、呪いでありーー彼を縛る鎖だった。

今回だって、さっさとこいつの頭を撃ち抜けば良い。

そうすれば鬱陶しいのは消える。

だが出来なかった。

引き金を引くだけの簡単な動作━━だが、指が動かない。

頭の中では撃てばいいと囁く自分が居る。

だが、心の奥底にはもう撃ちたくないと訴える自分が居る。

 

「誠斗、例え殺しの才能を持っていたとしても、あなたはただの人間よ。

だから、壊れる前に新しい舞台でやり直すべきだわ」

「……俺に何をさせたい」

「何も。ただあなたに本当の自分を取り戻すチャンスをあげるだけよ」

 

紫は幻想的な笑みを浮かべた。

誠斗は銃のセーフティを戻しながら紫に言葉を放った。

 

「もうこれ以上、殺すだけの生き方はしたくない。

 殺しだけの人生…………それが一番怖い」

「………それが、あなたの本音?」

「………そうだよ紫、俺はもうこんな生き方をしたくない。

 あいつらと普通に幸せを謳歌して生きる。それが……あの人との約束だ

 あんたの誘いには乗る。だがこれは、俺自身の選択だ」

 

誠斗は銃を下げ、ポケットに入れる。

“もう、逃げない“

彼の顔から、その選択を感じることが出来た。

 

「そう、嬉しいわ。それじゃあ、入って」

 

紫がスキマを開く。

その先は幻想郷に繋がっているだろう。

2人はスキマの向こうに消えて行った。




キャラ紹介
十六夜誠斗
種族:人間
年齢:21歳
能力:遅延(スロウ)
本作の主人公。元殺し屋の青年。
殺しだけの生き方は、ある人物との約束に反すると薄々感じていた。殺し屋を辞めたのもそれが理由。
紫に誘われ、その約束を果たす為に幻想入りを選択した。紫とは面識がある模様。
能力は遅延、東方風に言えば、時間を遅くする程度の能力。
その名の通り時間の流れを遅くするもの。能力行使中は、誠斗以外の全ての時間が遅くなる。
一方、周りは普通に時間が進行している感覚の為、初見では加速系の能力にしか見えない。
要は仮面ライダーカブトのクロックアップみたいな物。

八雲紫
種族:妖怪
年齢:不詳(少なくとも1000歳以上)
能力:境界を操る程度の能力
幻想郷を創造した大妖怪。通称スキマ妖怪。
普段から胡散臭い雰囲気を醸し出している為か、微妙に信用がない。
誠斗を幻想郷へ誘った。彼に対して思い入れがあるようだが?
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