霊夢視点
私の踏み込んだ疑問に、レミリアとパチュリーは黙ったままだった。
だけど、その沈黙が全てを語っていた。
「沈黙は肯定として見るわよ」
「構わないわ。だって事実だもの」
「……やけにあっさり肯定するわね。
もっと隠すかと思ったけど」
「隠す必要はないもの。今のあの子は、死の旋風ではないのだから」
レミリアは続けた。
「過去は消えない。という言葉があるわ。
でも、これは少なくとも過去を悔いたり、罪を真面目に償った人にかける言葉じゃないわね」
「何が言いたいのよ」
「察しが悪いわね。
あの子は罪を清算していないの?
過去を何とも思ってないの?
少なくとも、あの子は禊を済ませてると思うわ。
だから、もうあの子と死の旋風は関係ないって言いたいの」
「そう………」
レミリアが言いたい事はわかった。
要は掘り返すなと言いたいんだろう。
まあ、誠斗を退治する気はないから問題じゃないが。
「それで、お兄ちゃんの頭の件は」
「ああそうだった、本題はそっちだった。パチェ」
「はあ」
レミリアがバトンパスをすると、パチュリーは溜息を吐きながらも説明を始めた。
「誠斗の脳の損傷はさっきも言った通り、能力の後遺症よ」
「なあパチュリー、普通能力に後遺症なんてあったか?
私も霊夢も、この場にいる全員がそんなのないぞ」
「………まずはそこから説明した方が良いわね」
パチュリーはそう言って、話し始めた。
能力というものについて。
「私達が一般に程度の能力と呼んでいるもの。外では異能と呼ばれているわ」
「へえ〜、そんなんだな」
「異能は別名神のギフトとも呼ばれているの」
「神のギフト?」
なんか、名前からして胡散臭いわね。
「この名前は近世の学者が付けたの。
当時は科学技術も未発達で、錬金術や魔術といった研究手段も失伝していた。
そこで、魔力でも霊力でもない力である異能を、神のギフトと名付けたの」
「………話が繋がんないけど」
「神のギフトと名付けられた理由はあるわ。
異能は本来人ならざる存在が持つ力。
それを人間が行使したんだから、当時は魔物や妖怪と同じ扱いを受けてた。
だからこそ、その学者はポジティブな受け方が出来る名前を付けた」
「それが、神のギフト」
名前の由来はわかった。
でも、
「それが私達になんの関係があるのよ」
「異能の研究者達の間で通説になってるのは、
異能は本来人外が扱う力であり、人間はそれに耐えられる体をしていない。
だから、異能者は何らかのデメリットを抱えるの」
「「「!?」」」
「一応、許容量があって、それを超える使い方をしなければ体に負担はないわ。
でも、超過すればもろに負担が来る。
誠斗の能力の長時間使用による脳への異常も
「じゃあなんで私達は無事なの?能力をお構いなしに使ってるわ」
「人間には、異能への適合率というものがあるわ。
一般的な異能者は、それが普通の人間より高いの。
それでも“普通よりは”程度、だけど稀に、とんでもない適合率を持つ人間が生まれる」
「つまり、私達はその適合率の高い人間だと?」
「そうよ。
…………まあ魔理沙は一般異能者レベルだけど」
「はあ!?何でだ!?」
「単純よ。貴方の能力、魔法を使う程度の能力は、端的に言えば魔法を使う事が出来るだけだから」
「………魔法は魔力がある人間なら誰でも使える」
「そう、実際魔理沙は得意の水属性の扱いで困った事ある?」
「うっ……」
魔理沙が言葉に詰まった。
魔理沙は火力重視な魔法を使う。
それに反して属性は水だ。
実際水属性の扱いは困ってないんだろう。
「私達が問題なく使える理由はわかった。話を戻しましょう」
「そうね。
原因を言うと、誠斗は吸血鬼異変の時に能力を多用したの」
「あいつは命知らずなの?」
「知らなかったのよ。私達も、当の本人も」
パチュリーが表情を暗くしながら言った。
その顔からは後悔が見てとれた。
「あの子、これまで能力を使ったことがなかったの。
だから本人も、私達も気付かなかった。能力の代償にね。
気づいた時にはもう遅かったわ。
私の魔法でもどうにもならないレベルになってた」
「………パチュリー」
「あの時ほど無力感を感じた事はなかったわ。
“動く大図書館”の名折れよ。脳の傷すら治せなかったんだから」
パチュリーはそう言って話を締めた。
「パチュリー様、お兄ちゃんを治す方法は……」
「………ないわ。私も模索し続けてるし、研究もしてる。
元々回復魔法は外傷には強いんだけど……内傷には弱いのよ。
最上級の回復魔法でも、あそこまで進んだ損傷を癒すのは難しい」
「そ、そんな」
咲夜がフラッしたのを支える。
余程ショックだったんだろう。
「パチュリー、研究はどのくらい進んでんだ?」
「まだ術式構築のための理論すら出来てない。
誠斗の寿命までに終わるかって所よ」
「じゃあ、治る見込みはないって事か?」
「見込みゼロってわけじゃないわ。
何かサンプルを手に入れたり、そっち方面の魔法の使い手がいたりしたら可能性はある」
「だってよ咲夜、可能性はあるってんだから、元気出せよ」
魔理沙が人を慰めるなんて珍しい。
咲夜も、魔理沙の言葉に気力を取り戻したのか、少し立ち直っている。
「咲夜、後で永遠亭に行くんでしょ。
お見舞いの品を持ってくるから、届けてくれる?」
「はい、わかりました」
「私も研究に戻るわね」
「ありがとね2人とも」
そうして2人は、それぞれ離れていった。
咲夜がレミリアから品を受け取り、私達は永遠亭に向かって飛んでいた。
魔理沙も「どんな奴か見てみたいぜ」って言って着いてきてる。
「そう言えば、魔理沙のお兄さんってどんな人なの」
「唐突だな………私もよく覚えてないんだよな。
何てったって、私と霊夢がまだ物心ついてない時なんだ」
「そんなに昔なの?」
「ああ。兄貴はなもういないんだ」
「えっ……」
「12年前の、禍津異変。兄貴はそれに巻き込まれて死んだ。
親父曰く、生意気な小僧だったてさ」
「……………」
「お袋もそれで一緒に逝っちまったらしい」
「ごめん、配慮が足りなかった」
「別に良いさ。酷いだろうけど、私に兄貴の記憶なんて殆どないからな」
「…………」
「霊夢どうしたの?
さっきから黙って」
「霊夢………」
「魔理沙、大丈夫だから。
咲夜、その禍津異変ね………
私のお姉ちゃんが起こしたの」
「!?」
「私も魔理沙と一緒で、お姉ちゃんの事なんて殆ど覚えてない。
紫も、その異変の事は何も教えてくれなかった。
唯一覚えてるのは、私に向かって楽しそうに笑ってくれてるお姉ちゃんと、
それを見守ってるお母さんの顔。
それだけが……とても鮮明に焼き付いてる」
私はそれっきり黙ってしまった。
重い空気のまま、私達は永遠亭に向かった。
霧雨魔理沙
種族:人間
年齢:16歳
能力:魔法を使う程度の能力
二つ名:普通の魔法使い
前話で紹介を忘れられた原作主人公(ごめんよ〜)。
魔法の森で霧雨魔法店という何でも屋をやっている。
元は人里の大手道具屋、霧雨店の主人の娘だったが、出奔した。
弾幕はパワーと考えており、使用魔法は火力偏重。
盗み癖もあるが、大分大人しくなったらしい。
禍津異変
12年前に幻想郷で起きた異変。
霊夢の姉が引き起こし、魔理沙の兄が死んだとされる異変。
この異変で、人里の二割が壊滅的な被害を受けている。
吸血鬼異変と並び、幻想郷史上最悪の異変とされている。