スキマ
「…………」
「紫様?」
「藍、侵入者よ。人間が6人」
「っ……!?」
藍の顔が驚愕に染まる。
偶然幻想郷に紛れ込んだ人間はこれまでもいたが、
無理矢理侵入してきた人間は、これまでほとんどいなかった。
紫の記憶では、近いのは宇佐美菫子だろうか。
それほど、人間が幻想郷に無理矢理侵入するという事態は異常だった。
「貴方は霊夢に伝えてきて」
「紫様は?」
「私は対策を練るわ。それに……もう一つ動いてる」
「もう一つ?どこかの勢力が動きを見せたのですか?」
「玉藻前」
「奴が?」
「目的は……報復かしら。彼女、吸血鬼異変で誠斗に傷を負わされたもの」
「…………」
藍は少し黙ってしまった。
玉藻前は、藍と同じ狐の妖怪。
思うところがあったのだろう。
藍は紫に一つの疑問を口にした。
「しかし、本当に報復目的なんですか?
他の目的の可能性も……」
「確かにその可能性もあるわ。
でも、私がそうだと断定したのには根拠があるの」
「それは一体……」
紫は藍の方を見ながら、その根拠を口にした。
「彼女、プライドが高いもの」
ーーーーーーーーーーーーーーー
魔法の森・香霖堂
「誠斗、魔導書はそれで問題ないかい?」
「ああ問題ない」
「そうか、それは良かった」
「じゃあお代を」
「はい、このくらいだよ」
霖之助に会計をしている誠斗を見ながら、私は「やっとか」と思った。
だって物凄く真剣に見てたんだぜ?
おまけにアリスやこーりんと世間話しながら、だ。
長過ぎて退屈だったぜ。
「魔理沙、行くぞ」
「お、終わったか。じゃあこの後付き合えよ」
「何に付き合えってんだ」
「アリスの家に行くんだ。だから付き合え」
「ハァ。アリスはそれで良いのか?」
「大丈夫よ。さっき決めたの」
「外堀が埋められている……」
「ハハハ……見送るよ」
そんな感じで、4人で店の外に出た。
外はいつもと変わらない森だ。
「それじゃあ、またのご来店を」
「ああ、また寄らせて貰う」
「じゃあな、こーりん」
「魔理沙とアリスもまた」
「また来るわ霖之助さん」
そう言ってアリスの家に向かおうとしたその時だった。
向こうの草むらから音がした。
「……!?」
誠斗がそれに反応して刀に手を掛けた。
そんな大袈裟な。
「誠斗、多分野良妖怪だぜ」
「おかしいね。ここら辺で野良はあんまり見ないのだが」
「それに魔理沙、妖怪の気配はしないわよ」
「えっ、そっかぁ?……確かにしねえけどよ」
何なんだ?
ガサガサ言ってるけど。
「おーい、出てこい。怖くねえから」
「動物じゃないんだから」
「…………」
全然出てこねえし、誠斗はまだ警戒してるし……様子を見に行くか。
そう考えて動いたら、誠斗に腕を掴まれた。
「おい魔理沙」
「何だよ、何がいるか確認するだけだぜ」
「無警戒すぎる」
「逆に誠斗は警戒し過ぎだぜ。ウサギかもしんないだろ?」
「この辺にウサギはいないと思うなぁ」
こーりんにツッコまれた。
例えだよ例え。
そんな感じでいると
草むらから、顔らしきものがひょっこり出た。
奇妙な顔だった。
黒いヘルメットっぽいのを被ってて、口元は黒いマスク。
目のとこには黒いグラサンみたいなもんを付けてて、顔は一切分かんなかった。
「ん?何だありゃ?」
「……!?」
「人間……よね?」
「気配は人間のものだ。しかし……何者だ?」
「っ………!?」
なんか驚いてるな。
取り敢えず話し掛けようとした。
その時だった……
ギィン!
そいつは誠斗に突っ込んで斬りかかった。
誠斗はそれを受け止めて、相手を蹴り飛ばした。
一瞬過ぎてなにが起きたか理解するのに数秒かかった。
「っ……誠斗!」
「だ、大丈夫か?!」
「大丈夫だ……それより構えろ。一人じゃない」
「一人じゃないって……」
「周りを見ろ」
誠斗の言った通り周りを見ると……囲まれていた。
相手は四人、全員同じ格好をしてる。
一人はさっき誠斗に斬りかかった刀を持った奴。
他は、
盾を持った奴。
余裕そうに立っている奴。
そして、リーダーらしき強そうな奴。
「久しぶりだな……
「Ghost……お前達がなぜここにいる」
リーダーらしき奴の言葉に誠斗が反応する。
明らかに初対面じゃなかった。
私の疑問を代わりにアリスが言ってくれた。
「誠斗、連中と知り合い?」
「……ただの昔の同業者だ」
「“ただの”だとぉ……俺は貴様のライバル、Ghost1だぞ。忘れたのか!」
「ライバルになったつもりはない」
リーダーらしき奴━━Ghost1のライバル宣言は、誠斗にあっさり流された。
おまけに……
「振られちゃったね〜」
「またですか?いい加減諦めては?」
「隊長……諦め悪いっすね。勿論悪い意味で」
仲間からもグサグサ刺されてた。
人望がないのか?
「ええい!兎に角
「誠斗だ。十六夜誠斗」
「誠斗!俺と勝負だ!俺と戦え!」
「…………」
「何だその面倒くさそうな顔は!」
いや面倒だろ絶対。
私もそう感じたぞ。
「あぁ!もう!」
「隊長、地団駄踏まないで」
「ハァ、やっぱりこうなった」
「アハハ、隊長怒りすぎ〜」
Ghost1の仲間は慣れたと言わんばかりに対応してる。
人望がない……のか?
アリスとこーりんも、もう何が何だかって顔してるぜ
「ハァ、まさかその為にわざわざここに来たのか?」
「ふんっ、イケすかない上司からはお前を消せと言われているがな。俺はそんな事どうでもいいんだよ!」
「組織人として言っちゃいけないランキング1位……」
「俺の言ってみたいセリフランキング10位だ!」
「えぇ……」
…………えっとつまり、こいつらは誠斗を殺せと命令されて来た。
でも殺す気なんて毛頭なく、誠斗と決着を着けたいだけ、と。
「誠斗……僕達は何をすればいいかな?」
「……俺にもわからん」
「どうすっか……」
「……付き合わなきゃ一生付き纏われそうだ」
誠斗のセリフからはなんか諦めを感じた。
それがこのやり取りが初めてでないことを語ってたぜ。
「ハァ……付き合ってやる。付き合ってやるから……もう付き纏うなよ!」
「勿論だ。俺は約束を守る男だからな!」
「なんかすいません。うちの隊長が……」
「あっ、大丈夫よ……」
「営業妨害に……なってないっすよね?」
「大丈夫だよ」
「良かったっす……」
なんか仲良くなってる……
その横で、誠斗はGhost1と話し込んでいた。
「よし、やるぞ
「だから誠斗だって……後ここじゃだめだ。店に被害が出る」
「むっ、確かにそうだな。ならあっちでやり合おう。原っぱがあった」
「さいですか……」
「お前達も戦っとけ。ポーズは必要だからな」
「「へっ?」」
「わ〜お」
そう言ってGhost1は誠斗と向こうに行ってしまった。
残ったのは、突然の戦闘命令に固まった二人と、理解した一人。
いきなりの事に思考が追いつかない私達3人だった。
「…………ってことなんだが」
「……あっち行きましょうか」
「そうするか」
「じゃあ僕達はそっちに行こうか」
「……はいっす」
アリスとこーりんは、さっき話してた相手とそれぞれ誠斗と別方向に歩いて行った。
残ったのは……私と、余裕そうな奴。
「じゃっ、君が僕の相手だね〜」
「……マジか」
「よろしくね〜」
なんか……勝てる気がしないんだが。
余裕差の面で。
ーーーーーーーーーーーーーーー
香霖堂付近・森
「……そう言えば、自己紹介がまだだったわね。アリス・マーガトロイドよ」
「魔法使いか」
「あら、よく分かったわね」
「昔から勘が良い方なんだ。俺はGhost3」
「それはコードネーム?本名は?」
「捨てた。犯罪者に付けられた汚れた名だ」
「……そう、詮索はしないわ」
アリスはGhost3にそう言った。
名前を自分で捨てた事には驚いたが。
名前を大事にしろとは言わない。
それは無責任だって分かっているから。
「じゃあ、始めましょうか」
「人形?」
「上海に蓬莱よ。私の自慢の子」
「人形使いか……面白い」
Ghost3が刀を構える。
アリスも人形に戦闘態勢を取らせる。
「それじゃあ……」
「参る」
Ghost3の突撃と同時に、上海と蓬莱も攻撃を開始した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
香霖堂付近の森・アリスとGhost3の戦場の反対側
「ここなら思う存分戦えるだろう」
「大丈夫なんすか?あんた、戦闘員じゃないでしょ」
「ふむ、確かに僕は普段戦わない」
霖之助は否定せず肯定した。
実際彼は、「大人や男がするのは無粋」という理由で弾幕ごっこはしていない。
だが……
バギッ!
「グッ?!」
「戦わないだけで、戦えない訳じゃないんだよ」
霖之助はGhost6の元まで踏み込んで、シールドを殴りつけた。
「……マジっすか」
「今は得物がないからね。
Ghost6は、悟った。
「あ、これ勝ち目ないわ」と。
ーーーーーーーーーーーーーーー
魔法の森・香霖堂から離れた森の中
「クソッ!」
魔理沙は必死だった。
相手から絶え間なく飛んで来る弾幕。
その回避に必死だった。
「逃げないでよ〜」
「逃げるに決まってるだろ!」
「死なないからいいじゃん」
「死ななくても痛いもんは痛いんだよ!」
魔理沙の相手━━Ghost2は、その手に持つ二丁のアサルトライフルから弾丸を絶え間なく発射していた。
だが、着弾地点には弾痕はあっても、弾丸はない。
それがGhost2が授かった異能だ。
能力はそのまま空気を操る。
この能力は理論上、一般的に空気とされる気体さえあれば何でも出来る。
空気で壁を作って防御する事も、空気で弾丸を作る事もだ。
着弾地点に弾丸が残っていないのは、
能力で固形化された空気が着弾の衝撃で霧散したからだ。
一応、使用のし過ぎで周りの空気が不足し、酸欠になる恐れもあるが、
ここは屋外。おまけに森の中。
空気の供給が途切れる事はない。
「当たれ当たれ〜」
「ほんと、その調子のまま撃ってくるな!怖えんだよ!」
「え〜、この軽快さじゃないと調子でないからな〜」
「ああもう!」
戦いは、始まったばかりだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
魔法の森周辺・平原
「……ここなら、思う存分戦える」
「…………」
「さあ
「誠斗だ。いい加減覚えろ」
誠斗は若干ウンザリしていた。
名前を間違われるのはこれで三回目だ。
最初の時はしっかり名前で、呼んでいたのに。
こいつの記憶力はどうなってるんだ。
誠斗はそう思わずにはいられなかった。
「ウィn……ゴホン誠斗、何を考えている」
「その聞き方だと別の意図に聞こえるんだが……」
「細かい事はいい。それで、何だ」
「……なぜ上層部は今更俺を狙う。俺の辞職はリリス公認だぞ?」
「ふん、俺達に命令を出したのはダストだ」
「ああ、あいつか」
誠斗は合点がいったのか納得の表情を見せる。
ダスト、誠斗やGhostに指令を出していた組織━━FIAの幹部だ。
組織麾下の特殊部隊や殺し屋を道具としか見ていない人物だ。
そんな彼の性格を、誠斗もGhostも良く知っていた。
だからその名を聞いただけで理解したのだ。
「道具が自由になるのが気に食わない」
こんな私情丸出しの理由だろうと。
「さて……構えろ」
「…………」
Ghost1はそう言うと、2本の軍用ナイフを取り出した。
これが彼の得物だ。
音も立てず、何人もの標的の喉を掻き切って来た。
一方の誠斗も、刀を抜く。
お互いに、準備は出来た。
「さあ……」
「ああ」
「「行くぞ」」
そう二人がぶつかり合おうとした、その時だった。
ドカーン!
二人の間の地面が突如爆発した。
(!?魔力でも霊力でもない……妖力か!?)
「クッ?!何者だ!」
二人は咄嗟に気配がした方を向く。
そこには、一人の女性がいた。
黒い長髪をたなびかせている、誰もが見たら絶世と評するであろう美女。
だが頭には髪と同じ色の狐耳、腰からも狐の尾が生えている。
一目で人外だと分かる。
そして、その美貌に傷をつけるかの如く、顔には一文字の切り傷が刻まれていた。
「ククク、とうとうこの日が来たぞ」
「何者だと聞いている!」
「黙れ、下等種族風情が私に話しかけるなど無礼であろう」
「何だと?!」
女性はGhost1の抗議には耳も貸さず、誠斗の方を見つめる。
明らかに「感動的な再会」という雰囲気ではなかった。
その目には、憎悪の炎が燃えていた。
「久しぶりだな旋風」
「!?」
「貴様に会える日を心待ちにしていたぞ」
「何なんだ?貴様と奴に、何の関係がある」
「ほう……知らないのなら教えてやろう」
女性はGhost1の質問に反応すると、
顔を歪ませ、狂ったような笑みを浮かべ言葉を綴った。
「死の旋風!忘れたとは言わせんぞ。六年前のあの時、私は貴様に何もかも奪われた。
可愛がっていた長年の部下も、大妖怪としての誇りも、そして私の美貌もだ!
見ろ、この傷を!貴様が私の美しい顔に付けた忌々しい傷だ!
魔力を込められた剣で斬られたせいで癒す事すら出来ぬ!」
女性はそう言って顔の傷を撫でる。
それだけの憎悪を、彼女は6年間燃やし続けて来た。
「あの時の屈辱、今こそ晴らしてくれる!」
「…………」
「どうした?言葉もでないか?」
誠斗は黙りこくった。
彼は、これまで殺して来た相手の顔を覚えていない。
殺しをした事を引きずってはいた。
だが、顔はあっさり忘れてしまう。
彼が抱えていた、矛盾だった。
「……確かに」
「ん?」
「確かにお前には、俺に復讐する権利がある」
「ほう?人間にしては潔いじゃないか。ならそこで……」
「だがな……」
誠斗の言葉に反応した女性の言葉を、誠斗は切った。
そして自分の言葉を続ける。
「悪いが、大人しく復讐される気はない」
「っ……!?お前らぁ!!!!」
「「へい!」」
「私は旋風を殺す!もう一人は貴様らでやれ!!」
女性の部下らしき妖怪は、すぐさまGhost1に襲いかかる。
Ghost1はそれを受け流す。
「クソッ、俺もかよ」
「不満か?」
「不満だクソッタレ!お前の因縁に巻き込まれる俺の身になれ!」
「Ghost1、共闘だ」
「終わったら決着を着ける。それが条件だ」
「OK」
そして二人は戦闘態勢を取る。
二人に向かってくる三体の妖怪。
「この大妖怪、玉藻前様がっ、貴様らを八つ裂きにしてくれるわ!!!」
火蓋は切られた。
キャラ紹介
玉藻前
幻想郷の大妖怪。嘗ては妖怪の山ほどではないものの、それなりの勢力を保持していた。
だが、吸血鬼異変において紅魔四天王と交戦。
自身に長く仕えてきた部下を誠斗に殺された上、自身も顔に傷を負った。
魔力で斬られたため、癒す事も出来なかった。
それから6年間、ただただ誠斗への憎悪を燃やし、復讐を誓った。
設定解説
何で玉藻前は傷を癒せないの?
誠斗は付与魔法を使え、戦闘では刀に自身の属性である雷を纏わせていた。
妖怪は、傷の治癒に妖力を消費する(本作の独自設定)。
だが、玉藻前が受けた傷は魔力を帯びた斬撃によるもの。
この世界には、四つの不可視エネルギーが存在する
霊力・魔力・妖力・神力の四つだ。
これらは基本、相容れないエネルギー。
同じ魂に複数の不可視エネルギーが共存する事は、まずない。
要は、妖力を保持する妖怪に相容れないエネルギーである他の三つのエネルギーで傷を負わせた場合
自然治癒は不可能になる。
一応回復魔法などの治癒方法はあるが、妖怪は基本自然治癒頼みな事が多く、妖力を使用した治癒術が存在しない。
結果、玉藻前は傷を癒せなかった。
世界には稀に、複数の不可視エネルギーを保持する者が誕生するらしい。
確率は圧倒的に低いが。