幻想郷・魔法の森上空
「……不味いですね」
『何が?』
上空を飛行魔法で飛びながら哨戒をしていたGhost5の呟きに、通信越しにGhost4が反応した。
2人は前に出るタイプではない。
Ghost5は経験から、ある程度の近接戦は出来るが、スナイパーのGhost4はからっきしだ。
「隊長の方に3名……明らかに人間じゃないのが行きました」
『報告したの?』
「気付いた時は既に隊長達の前にいましたから」
『どうする?』
「私達に出来る事はありませんよ。他に近付く輩がいないか見張るしかない」
Ghost5は、そう呟いた。
なお、Ghost4はと言うと、
『ごめん、また気持ち悪くなってきたから切るね』
ブツッ
Ghost4との通信が切れる。
今頃、乙女の尊厳の危機に陥っているだろう。
「……これは、訓練が必要ですかね?」
Ghost5は、帰ったらGhost4を魔力に慣れさせる事を決めたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、霖之助とGhost6の戦いはと言うと……
「ぐっ……?!」
「やるね」
霖之助が優勢だった。
霖之助は、普段戦う機会は殆どない。
だが、幻想郷でも危険度の高い無縁塚へ問題なく行き来している事からも、最低限の実力はある。
一方Ghost6も、軍人として訓練は受けており、そこらの人間よりは強い。
だが、そこに様々な要因が重なり、Ghost6に不利に働いていた。
一つ、まずGhostは、暗殺が主任務であり、正面戦闘の機会が少ない。
その為、正面戦闘が得意なGhost6は留守番が多く、経験が他の前衛メンバーに比べて少ない。
二つ、種族の差。
霖之助は妖怪と人間のハーフ……つまりは半分は妖怪の血が流れている。
それに対してGhost6は、生粋の人間だ。
元のフィジカルは、霖之助が上なのである。
そして三つ目、経験の差。
Ghost6は、経験が少ない。
留守番が多いのもあるが、何よりまだ若い。
一方霖之助は、これでも博麗大結界成立以前から生きている。
それだけの修羅場は潜ってきた。
これだけ不利な要素が重なって尚、Ghost6が未だ戦えているのは……
霖之助の戦闘機会の少なさ
曲がりなりにも訓練を積んだ軍人である事
そして、霖之助自身も、相手にした事がない銃装備である事。
(どうするべきか……)
霖之助は、思考する。
このままではジリ貧だ。
単純なフィジカルは霖之助に軍配が上がる。
だが、曲がりなりにも相手はプロだ。
霖之助の打撃も、上手く受けて消耗を最小限にしている。
このままぶつかってるだけでは埒が明かない。
「はぁ……はぁ……」
「……疲れてきたみたいだね」
「はぁ……そっちこそ。顔に出してないだけで疲れてるっすよね?」
お互い疲労が見えてきた。
なら…………
「次が最後になるかな」
「そうっすね……これ以上受けられる自信がないっす」
「そうだね……」
霖之助が拳を構える。
型も何もない、喧嘩殺法。
だが不思議と威圧感を感じる。
Ghost6も、盾と愛銃を構える。
「それじゃあ……」
「はい……」
「「最後だ!」」
霖之助が飛び出し、Ghost6も銃を霖之助に向けた。
最後の攻防は一瞬だった。
霖之助の拳は、Ghost6を盾ごと殴り付けた。
Ghost6も負けじと発砲していたが、殴られた衝撃で銃口は明後日の方向を向いていた。
Ghost6は殴り飛ばされ、後方の木に衝突する。
地面に倒れ、ピクリとも動かなかった。
「はぁ……ギリギリだった」
霖之助も残りの力を振り絞っての一撃だった。
「魔理沙達の援護は厳しいかな……大丈夫だと良いけど」
霖之助は静かに、まだ戦っているであろう3人の無事を願った。
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一方、アリスとGhost3の戦闘は、霖之助達と同様泥沼化していた。
「くっ……蓬莱!」
「ちぃ……!」
アリスの人形により、一対多を強いられるGhost3。
さらにアリスから魔法も飛んでくる。
それでいてアリス自身は結構アクティブに動く。
だが、Ghost3はそのような状況でも一度も被弾していなかった。
Ghost3の直感は、最早未来予知の如く正解を引き出す。
アリスの弾幕に対しても、僅かな穴を見つけて退避し、
人形の攻撃も、そこに来ると分かってたかの如く、最小限の動きで避ける。
これで異能ではないのだからタチが悪い。
だが当然、万能ではない。
いくら分かっても避けられない質量で攻撃すれば良いだけな上、
無警戒だと直感は上手く働かない。
だが、その弱点をアリスは突く事が出来る状況ではなかった。
「このっ!」
アリスの人形が斬り捨てられる。
これで三体目だ。
「にしても……似合わないわね」
「?」
「そんな近未来チックな格好に、刀って」
「…………!?」
アリスから出た言葉は、戦いとは全然関係ない話題だった。
露骨だが、時間稼ぎのつもりだった。
望み薄だが、魔理沙か誠斗、霖之助が来てくれれば御の字だった。
因みにGhost3は……ショックを受けていた。
割と気に入っていたスタイルを正面切って「似合わない」と言われたのだ。
普通は落ち込む。
「ねえあなた達は……」
「…………」
「もしもし?」
「はっな、なんだ」
Ghost3は放心していた。
ショックがデカすぎた。
「……あなた達と誠斗は……どういう関係なの?誠斗は同業者と言っていたけれど」
「因縁があるのは隊長だけだ。しかも一方通行」
「それだけ?」
「それだけだ。奴とは仕事上の関係しかない」
「そう……」
話題が尽きた……というよりは、時間稼ぎになる話題が見つからないのだが。
「もういいか?俺としてはこんな仕事早く終わらせたい」
「あら、付き合ってくれないの?」
「君との時間は楽しく感じる。先ほどの雑談も、今の戦いもだ」
「ならなぜ?」
アリスは疑問を感じた。
彼からは、一瞬嫌悪を感じた。
「この仕事の主目的は
「……」
「たかが辞めただけの殺し屋1人。しかも危険性もない相手。
なぜ、実際に被害を出す危険因子より奴を優先するのか。俺には理解出来ない」
「そう……あなたの事、少し分かった気はするわ」
アリスは納得した様子を見せた。
ようは気に入らない仕事をさっさと終わらせたいと。
「さて、続きを始めよう」
「さっきまでの戦いで充分ではないの?ちゃんと仕事やってるっていうポーズは」
「上層部とは何とも面倒な人間でな。現場には出てない癖に、やれ足りないだの、やる気がないだの」
「苦労してるのね……」
アリスはちょっとGhost3に同情した。
そんなに面倒な上司なのか、と。
「(チャキ)……」
「…………(スゥ)」
お互いが再び構えた……その時だった。
Ghost3の背中に、ナイフが突き刺さっていた。
アリスはそのナイフに見覚えがあった。増援だ。
「咲夜!!」
「大丈夫アリス?」
「ええ、何とかね」
「なら大丈夫ね」
アリスの横にはいつの間にか咲夜が立っていた。
どういう経緯かは知らないが、咲夜が増援として来てくれたのだ。
「にしてもどうして?」
「買い物の帰り、偶々霊夢と会ったのよ。そしたら異変だから手伝えって」
「断ろうとしたのね」
「ええ、でもお兄ちゃん関連だって言うから……」
「それなら誠斗の方に行くんじゃないの?」
「……………霊夢にこっち行けって言われたのよ」
咲夜は物凄く不満気な態度だ。
背後がメラメラと燃えてるように見えるくらいには。
アリスは心の中で思わずブラコンと呟いてしまった。
「……とにかく、霊夢があなたを私のとこによこしたって事は、他の2人は」
「霖之助さんは勝ったわよ。魔理沙は苦戦中」
「……魔理沙の方に増援は?」
「いらないわよ。あいつなら何とかするだろうしって霊夢が」
「ハァ……」
一応、霊夢なりの魔理沙への信頼の表れだろう。
それにしたって酷いが。
Ghost2の実力は、あの4人の中で2番目だと、アリスは感じていた。
「さて……まだやる気?」
「くっ……一体どこから」
「教えないわよ。マジックの種を明かすと思う?」
Ghost3は必死に頭を回転させる。
背後から飛んできたナイフ。
その下手人と思わしき人物は、何もないところから急に出てきた。
転移の類ではない。魔法陣もそれらしき物もなかった。
じゃあ何だ……
そして、Ghost3は一つの仮説にたどり着いた。
何もない虚空から人が現れる。
これを引き起こせる力は……
「時間…停止か」
「ご名答。早かったわね」
「ハハハ……嘘だろ」
Ghost3は乾いた笑いをあげた。
いくら勘が鋭くても、時間を止める相手にどう対処しろと言うのだろうか。
残念ながら、Ghost3にその対処法は思いつかなかった。
ガチャン
「投降する。これ以上は無駄だ」
「そう……アリス、拘束お願い。私は魔理沙の方に行くから」
「分かったわ。気を付けてね」
そう言って咲夜は消えてしまった。
時間を止めて移動したのだろう。
今頃魔理沙の援護に入っている筈だ。
そう考えながら、アリスはGhost3の手当てと拘束を行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「死ねえええええ!!」
「ふんっ!」
妖怪の攻撃を、Ghost1は上手くいなす。
この程度は朝飯前だった。
だが、もう一体が追撃をかける。
「もらった!!」
「ちっ!」
二体の妖怪……それを相手に、Ghost1は優勢だった。
一方妖怪達は困惑していた。
人間風情に、攻撃を擦りもさせられない事実に。
「クソ!」
「……」
「人間風情がぁ!!」
今度は同時に襲いかかる。
だが、Ghost1の姿が見えなくなる。
二体は急いで後ろを見る。
そこには、悠々と歩くGhost1がいた。
片方の妖怪が攻撃を仕掛ける。
だが、それは叶わなかった。
攻撃の瞬間、彼の視界が上下逆転したのだ。
ナイフの血を拭うGhost1
それが、彼が最後に見た光景だった。
「あ、相棒!?」
「あとは……お前だな」
「よくも……よくもお!!」
残された妖怪は、怒りのまま突進する。
だが、それで出来た隙を見逃す程、Ghost1は甘くない。
ザシュッ
「ぎゃっ!?」
「……」
「こ……の……人間……風情……が」
「最期まで言うことはそれか」
Ghost1は胸に刺したナイフを抜く。
すると、彼の黒いヘルメットが返り血で赤く染まった。
「おーい、ウィ……ゲフンゲフン、誠斗。終わったぞ」
Ghost1の終了報告は、戦場には似つかわしくない軽いものだった。
一方誠斗と玉藻前はというと……
「馬鹿な!?我が眷属が……」
「終わりだな、大人しく下がれ」
「黙れ!」
誠斗の言葉に、玉藻前は激昂する。
怒りのまま放たれた拳を誠斗は刀で受け止めた。
だが、相手は妖怪。
腕力は人間とは比べ物にならない。
誠斗はその力に押され、後退する。
「6年だ……私達妖怪が生きる時の中では、ほんの一瞬。
私はそれが途方もなく長く感じた……
ようやく、ようやく貴様に巡り逢えた……大人しく下がる訳ないだろう!!」
「……」
「私は、貴様を葬る為に生きてきたのだ!!」
誠斗は玉藻前の攻撃を受け続ける。
彼女の憎悪を受け入れていた。
そこに、一発の銃弾が2人の間を横切った。
Ghost1だ。
「何をやっている!」
「邪魔をするなあ!!」
Ghost1は誠斗を抱え、一旦後退する。
そして、彼に疑問をぶつけた。
「お前……なぜ本気を出さない?
攻撃も散漫……いや途中までは完璧だ。無理矢理狙いを逸らしているな?
それに……なぜ受けてばかりだ?」
「俺は……」
「俺は?」
「もう……殺すのに疲れた」
「何だそりゃ?」
誠斗の吐露に、Ghost1は思わず聞き返してしまった。
まさか自分がライバルと見込んだ男がここまで擦れているとは思ってなかったのだろう。
さっきまで魔理沙達といた時も、一切感じなかった。
「殺しに疲れただぁ?」
「疲れたんだ……もういいだろこの話題は」
「うるさい!お前がその調子じゃあ、勝っても嬉しくないわ!!」
Ghost1が叫んだ。
彼は正々堂々勝ちたいのであって、ハンデを自分に課してる状態の誠斗をボコボコにしたい訳ではない。
「何をごちゃごちゃ言っている!」
「ちぃ!来るぞ!!」
「下ろせ!」
「おらぁ!!」
玉藻前の攻撃を避ける為に、誠斗が下ろすよう言うと、
Ghost1は誠斗を思いっきり投げた。
誠斗は上手く着地するが、流石に抗議の声を上げた。
「おい」
「無事なんだから良いだろ」
「そういう意味じゃない」
「私を……」
瞬きの間だった。
誠斗の目の前に、拳を振りかぶる玉藻前がいた。
「コケにするなぁ!!」
「十六夜誠斗!?」
(まずっ?!)
誠斗は動こうとするが、それよりも拳が到達するのが速い。
誠斗は、咄嗟に腕で防御態勢をとった。
だが、いつまで経っても衝撃も、痛みも来なかった。
ゆっくりと、誠斗は腕を下ろす。
誠斗の目に映ったのは……
結界を張り、玉藻前の攻撃を受け止めていた霊夢だった。