Re東方葬想録   作:KUS

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誠斗の本音と玉藻前との決着

「ああもう!どれだけいんのよ!?」

 

霊夢は思わずそう叫んだ。

目の前にはかなりの数の妖怪が並んでいた。

基本低級の雑魚ばかりだが、たまに中堅クラスが混じっている。

その為微妙に気が抜けない。

そうこう叫んでいる間も妖怪達は襲いかかってくる。

 

「見ろ、博麗の巫女。この妖怪たちを。皆あの男を殺す為に集まったのだ。先程の発言は撤回してもらおうか」

「発言?どれの事かしら」

「決まっているだろう。「幻想郷は全てを受け入れる。あんたみたいに過去の事をうだうだ言ってる方が少数派」という発言の事だ」

「人の言葉を一言一句いちいち覚えてるなんてね。歴史編纂者になったらどう?正確に記せるんじゃない?」

 

霊夢は強気に返すが、顔からは若干の疲れが見えた。

幻想郷でもトップクラスの実力者である霊夢だが、流石に数で押されてはキツい。

 

一方の玉藻前は、表情から余裕が見て取れる。

もう勝利を確信しているかのようだ。

 

「それで、撤回は?」

「するわけないじゃない。これだけいても、結局幻想郷の妖怪の数%にも満たないんじゃない?」

「っ……減らず口をっ……」

 

目に見えて顔に青筋が浮かぶ玉藻前。

だがそれでも余裕は崩さなかった。

例え相手が博麗の巫女でも、数では自分たちが勝っているのだから。

だが霊夢の顔は、疲れは見えても、焦りは見られなかった。

 

「気に入らないな、人間風情が」

「やっと出たじゃない。下らないプライドって言う名の本音が」

「っ……消せ!」

 

霊夢の挑発に玉藻前はあっさり乗ってしまった。

だから気付かなかった。

霊夢が微かに、笑みを浮かべていたのに。

 

「ぎぃ!?」

「ぎゃっ?!」

「!?な、なんだ!」

 

突如として霊夢を囲んでいた妖怪の一部が悲鳴をあげて倒れた。

彼らの体には、ナイフが刺さっている。

 

「おっそいわよ咲夜」

「文句言わないの。これでも急いだのよ?」

 

下手人は、当然咲夜だ。

魔理沙の応急手当てをしてアリスに預け、能力を使って霊夢の救援に来たのだ。

 

「それで、お兄ちゃんは?」

「あいつはあいつで決着付けに行ったわよ」

「そう……」

「咲夜、あいつの援護はなしよ。あの顔は1人で決着付けたいって顔だったから」

「わかってるわよ。そこまで私は無粋じゃないし。今は、目の前の連中ね」

 

霊夢と咲夜が玉藻前達に向き合う。

咲夜の奇襲である程度数は減ったが、それでもまだまだいる。

 

「雑魚がざっと30ってとこかしら。あとは中堅。それと大妖怪クラスが1人」

「1秒で終わるわね」

「纏めては無理でしょ?」

「まあそうね。雑魚は片付けられるけど」

 

咲夜に軽口が叩けるくらいには、霊夢にも余裕が戻ってきていた。

 

一方玉藻前はというと、

 

「…………」

「た、大将?」

「……やる」

「大将?」

「殺してやる。ここまで屈辱は6年ぶりだ。2人纏めて八つ裂きにしてくれる!!」

「沸点低すぎじゃない?」

「プライドの塊ね」

 

一回の奇襲でブチ切れている玉藻前に、そうツッコまずにはいられなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

霊夢達の戦場から少し離れた平野で、金属がぶつかり合う音が何度も響いていた。

誠斗とGhost1だ。

 

「ははは、やるな。ここまでの昂揚感を感じられるとは」

「……」

「何か言えよ」

 

無反応な誠斗にGhost1はそうツッコんだ。

だがそれでも反応は返ってこなかった。

 

誠斗はというと、

先程玉藻前たちと戦っていた時と同じように、急所を狙う攻撃を無理矢理逸らしていた。

Ghost1もそれに気付いているが、誠斗とやり合えているという状況への昂揚感が不満を若干上回っていた。

 

「十六夜誠斗。またやっているな?」

「…………」

「まさか俺が急所を狙われただけで死ぬ雑魚だと思っているのか?笑止千万!!」

「……」

「…………本当に何か反応を返せ。こっちも困る」

 

黙ったままの誠斗に、Ghost1はやはりツッコミをしてしまった。

 

そんな中で、誠斗がボソッと何かを呟いた。

当然それを聞き逃すGhost1ではない。

 

「何か言ったな?俺にも聞こえるように言え」

「…………れたんだ」

「はい?ボソボソ言うんじゃない」

「疲れたんだ。もう」

 

出てきた言葉は先程も聞いた言葉。

だが、さっきと違ってまだ続いていた。

 

「もう疲れたんだ。戦いになれば、体が勝手に急所を狙う。俺の異能じゃないからな、きっと本能レベルで刻まれてる。わかるか?殺す気がなくても、目の前に出来るのは死体なんだ」

「……」

「もう……見たくないんだよ」

「嘘だな」

 

誠斗の吐露に、Ghost1がそう言い切った。

 

「嘘…?何言ってんだ?」

「前半部は本音なんだろうな。だが「見たくない」は嘘だな。そんな顔だ。嘘を見抜くのは俺の特技なんだよ」

「……」

「何か別の理由をありきたりな理由で虚飾して自分を納得させているな」

「はは……あんたカウンセラーになったらどうだ?」

「自覚ありか。まだマシだな」

「ほんと……それだけ知識あってなんで特殊部隊にいるんだ?」

「知識があるだけだ。カウンセラーなんて俺には向かん。今から言う質問に答えろ。本当の理由はなんだ」

 

Ghost1が誠斗に疑問を投げる。

誠斗はその質問に対して、ゆっくりと口を開いた。

 

「怖いんだよ」

「……何がだ。まさか自分とか言わないだろうな?」

「そのまさかだGhost1」

 

誠斗の言葉にGhost1は驚いた。

それを表に見せないのは流石と言ったところか。

 

「なぜ自分が怖い?」

「なあ、さっきも言ったよな。体が勝手に急所を狙うって」

「言ったな。だが、繋がりが見えんぞ」

「……殺しは嫌だ、疲れた。そう思ってるはずなのに……心のどこかに楽しんでる自分がいるんだ」

「!?」

「俺は……化け物なんだろうな」

 

誠斗の目に浮かんでいたのは、諦観だった。

本人は殺しはしたくないのに、体はそれを求める。

その矛盾が彼を苦しめていた。

 

「もうさ……普通に生きたいんだ。幸いにもこれは戦闘にならなきゃ出て来ないからさ」

「……都合がいいな」

「ほんとにな」

 

幻想郷での日常は、誠斗の苦しみを和らげていた。

それでも誠斗の中には、ある種の自己否定があった。

 

「……これが本当の理由だ。どうだ?満足か?」

(面倒だな。このまんまじゃな……)

 

Ghost1は思案する。

今のままで決着がついてもGhost1的には納得がいかないし、不完全燃焼にもほどがある。

かと言って自分が誠斗をどうにか出来るかと言うと、はっきりYesとは言えない。

Noとは言わない理由は、一応「これならいけるか?」という案があるからだ。

だがそれも根本的な解決になるのか?と言うとNoと言えるし、そもそも解決方法なのか?という疑問もある。

 

「悪いが……さっさと終わらせよう」

「そうかそうか……なら、俺もこうするとしよう」

「?」

 

次の瞬間、Ghost1が拳銃を抜いて発砲した。

咄嗟に誠斗は回避をするが、それでも肩を銃弾が掠める。

それと同時に誠斗の肩に焼けるような激痛が走る。

 

「てめえ……」

「気が変わった。殺し合いをするつもりはなかったんだがな……こうすればお前もその気になるだろ?」

 

Ghost1の案。

「こっちが殺す気で行けば向こうも覚悟決まるだろ」という力任せにもほどがあるやり方だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「奇術「ミスディレクション」」

「夢符「封魔陣」!」

 

霊夢と咲夜のスペルが、低級妖怪たちに次々襲いかかる。

攻撃を受けた妖怪たちが地面に倒れ伏す中、玉藻前は2人の動きを観察していた。

 

腐っても大妖怪。怒り狂っても、それで冷静さを失うようなことはなかった。

 

「ちっ、大将!」

「俺たちであいつらを相手するんで、いつものように」

「……頼むぞ」

 

低級妖怪たちが全滅しそうな段階で、玉藻前の周囲に構えていた2人の妖怪が霊夢と咲夜に襲い掛かろうとしていた。

それなりに強い彼らが戦うことで、玉藻前に敵の情報を渡す。

彼女が長年使い続けてきた手法だ。

 

「博麗の巫女!覚悟ぉ!!」

「死ね!紅魔のメイド!!」

 

初撃に対して、2人はそれぞれ対応する。

霊夢は結界を貼りながら回避行動を取り、

咲夜は能力で移動し、妖怪を囲むようにナイフを配置する。

 

「相棒!」

「ぬん!」

 

咲夜が配置したナイフを、妖怪は即座に妖術で弾く。

だがそれでも、数本は刺さってしまっていた。

 

「面倒な能力だな」

「それはどうも。悪いけど、すぐに終わらせてもらうわよ?霊夢の援護もあるし」

「抜かせ!」

 

咲夜は妖怪の攻撃をいなしながら相手の動きを分析する。

妖怪の身体の周りから微かにエネルギーを感じる。

おそらく妖術を使って身体強化をしているのだろう。

その為か攻撃は徒手空拳が中心だ。

だが、戦い方は力押し一辺倒……

 

突如として、妖怪の前から咲夜が消える。

 

「な!?また能力か!どこだ!」

 

妖怪は周囲を見渡す。

そして、後方の少し離れた場所に咲夜を見つけた。

妖怪はすぐに襲いかかる。

 

「今度こそ死ね!」

「………………

 

 幻世「ザ・ワールド」」

 

咲夜がスペルを宣言した瞬間、妖怪の周りにナイフが展開され……

 

妖怪をまるで針の山のようにした。

 

「こっちは終わりっと……霊夢の方は……」

 

咲夜が霊夢の方を見ると、そこには黒焦げになった妖怪と、悠然と立つ霊夢の姿があった。

 

「助けはいらないみたいね」

「何?心配してくれたの?」

「別に」

「なんか最近、私に当たり強くない?」

「強くないわ。別にお兄ちゃんが取られたなんて思ってないから」

「全部喋っちゃってるじゃない」

 

余裕があるのか、お互いに軽口を叩く2人。

そんな2人の前に、玉藻前が立つ。

 

「…………」

「一応聞くわ。諦める気は?」

「あると思っているのか?部下がやられたくらいで諦めたらこの名が廃るわ」

「大妖怪なりの矜持ってやつ?」

「そうだ。それにな………ここで諦めては死んだそいつらに示しがつかんのでな。

 

 必ず貴様らを退け、あの男を殺す」

「交渉決裂……ね」

 

霊夢はそう呟くと、お祓い棒を玉藻前に向ける。

咲夜もナイフを構えた。

 

次の瞬間、玉藻前が猛スピードで霊夢に突っ込んだ。

霊夢は咄嗟に結界で防御する。

だが、玉藻前の拳はその結界にヒビを入れる。

 

「おっも……?!」

「舐めるなよ……博麗の巫女」

「そうね……プライドだけは一丁前のやつだと思ってたわ」

 

霊夢はそう言うと、改めて得物を構える。

咲夜も、先程よりも警戒を強めた。

 

「さて……始めようか」

 

そう言うと玉藻前の周りに火の玉が現れる。

さらに彼女は、自身の身体に妖力を纏わせ始めた。

 

次の瞬間、彼女の周りを漂っていた火玉が一斉に霊夢と咲夜を襲った。

霊夢は結界を貼りながら空を飛ぶ。

一方の咲夜は、能力でその場から離脱して、玉藻前の周りにナイフを配置した。

時間が動き出すと同時に、玉藻前をナイフが襲う。

だが…………

 

「ふん!!」

「なっ!?」

 

ナイフは拳一つで一瞬で薙ぎ払われてしまった。

いくら先程見せたやり方だとしても、あっさり対処されたことに咲夜は動揺する。

 

「霊符「夢想封印 散」!」

 

玉藻前に対して、次は霊夢が上空から攻撃を仕掛けた。

だが玉藻前は、その弾幕に対して、突っ切るという手段に出た。

そして上空にいる霊夢に拳を振るう。

霊夢は驚きながらもその拳を回避する。

 

「纏った妖力で防御力を上げたのね」

「ほう……わかるか?」

「そりゃ、霊力や魔力でも同じことは出来るからね」

「まあいい。空中戦と行こうか」

 

そう言って玉藻前と霊夢は戦闘を始めた。

お互いの弾幕が交差しながらも、肉弾戦までしている。

 

一方、咲夜はと言うと……

 

「どうにかして、隙は作れないかしら」

 

玉藻前の隙を探っていた。

現状、霊夢との戦闘に集中しているように見えて、こっちへの警戒も忘れていない。

その為、上手く隙を作れない状態だ。

 

そんな時、咲夜の頭に一つの記憶が過った。

数日前、誠斗に自分の能力の伸び代を聞いた時のことだ。

 

『ど、どう?』

『……停止しか使えないのか?』

『巻き戻し以外は出来る……でもやっぱり精度が……』

『鍛えるならそこだな。序でに遅延の使い方も教えてやる』

『だ、大丈夫?』

『使わずに教えるから問題ない』

 

兄妹での他愛もない会話。

そんな中で、教えてもらった。

 

『咲夜みたいな能力主体型は、色んな力を使わなきゃな。お前は時間停止頼りすぎる』

『ご、ごめん』

『謝る必要はないぞ。まだ18なんだから、経験がなくたって当然だ』

『お兄ちゃんと3歳しか違わないのに?』

『俺は例外側だから参考にするな。さて、まずは遅延を伸ばすぞ。停止とやってることは近いからな』

『うん』

『まず、時間遅延は加速系に間違われやすい。自分以外の時間を遅くしてるからな。自分とそれ以外は全く別の時間を生きてる状態になる。ここは他の時間系と同じ。遅延の強みは、意表の突きやすさだ』

『意表を突きやすいの?』

『ああ、さっきも言ったが、遅延は加速と誤認されやすい。だけどな、実際はさっきも言ったように、能力者とそれ以外が別の時間を生きてるようなもの。だから……』

『認識出来る加速と違って……認識できない?』

『そうだ。遅延は監視カメラのスローモーションでも捉えられない。だから、どれだけ目が良くても認識は不可能だ。同じ系統の能力や魔法でもない限り』

 

遅延……それなら上手く意表が突ける。

咲夜はすぐに実行に移した。

即座に能力で時間を遅くする。

そして、玉藻前に向かって飛び上がった。

練習では上手くいかないこともあった。

だが今回は……

 

「ん?加速か?」

「咲夜!」

 

玉藻前は咲夜が加速したと認識する。

だが、捉えるために目に妖力を集中するも、見えない。

 

玉藻前の体を、咲夜のナイフが一閃する。

 

「ぐっ……」

「上手く……行った」

「ま、まさかっ!?」

 

玉藻前は、咲夜の能力が時間停止だと当たりをつけていた。

だが、玉藻前は咲夜の動きに見覚えがあった。

6年前の……死の旋風と同じ動き……

 

咲夜は追撃でナイフを突き刺すも、玉藻前に腕を掴まれる。

 

「!?」

「甘いわ!!」

 

玉藻前の拳が咲夜の胴体を捉え……

 

咲夜を地面に叩きつけた。

 

「はぁ…はぁ…(再生を……)」

 

傷を癒そうと妖力を集中させる玉藻前。

だがその瞬間、彼女を結界が覆った。

 

「サンキュー咲夜。これで終わりね」

「しまっ?!」

「横取りみたいだけど……これで終わりよ!境界「二重弾幕結界」!」

 

結界の内側に出された弾幕が、玉藻前を襲った。

結界に囚われている以上、満足な回避も出来ず…彼女は防御するしかなかった。

 

弾幕を耐え終えると、結界が解除される。

玉藻前が安堵し、反撃に転じようとした……その時。

 

「おかわりよ」

「!?くっ!」

 

霊夢が弾幕の展開を始める。

玉藻前が必死に回避行動を取ろうとするも……唐突に身体が言うことを聞かなくなる。

 

(な、なんだ?!)

 

ふと、彼女は自身の肩に目をやる。

そこには、咲夜のナイフが刺さったままだった。

 

(まさかあの小娘……私単体を対象に時間を止めたのか!?)

 

玉藻前はナイフが触媒だと判断し、引き抜こうとするも、身体の時間が止められている以上、腕を動かせない。

 

(終わり……だと?まだあの男に傷一つ付けていないのにか!?まだだ、私はまだ……)

「霊符「夢想封印」!」

(あのお方に……認められていないのに……)

 

霊夢の夢想封印が玉藻前に直撃し、大きな爆発を起こした。

それを、地上に叩きつけられた咲夜は見ていた。

 

「終わった……わね。………お兄ちゃん、ちゃんと出来たよ」

 

そう呟いて、咲夜の意識は暗転した。

 

玉藻前の撃破を確認した霊夢は、咲夜の元に降下してきた。

 

「な〜に寝てるのよ。運ぶのが面倒じゃない」

 

咲夜に対して愚痴を言うも、気絶している彼女に届くことはない。

霊夢は、誠斗が走って行った方向に顔を向けた。

 

「誠斗……あとはあんただけよ。

 

 …………ちゃんと勝ってきなさいよ」

 

霊夢はそう呟いた。

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