妖怪の山
「……」
「ちぃっ」
楓が振るった刀が宙を切る。
相手である咲斗は背後にいる。
咲斗が振るった刀を楓は盾で防ぐ。
だが、盾に刀が徐々に食い込んできた。
「(不味い!?)」
楓は咄嗟に盾を捨て、その場から飛び退く。
盾は粉々に砕け、地面に落ちていた。
「化け物が」
「人外にそれを言われちゃお終いだな」
「我ら天狗は、妖怪の中でも上位の種だ。それを、ポンポン殺す人間を化け物と言わずして何という?」
「そいつはそうか」
咲斗は苦笑いしながらそう言った。
自分が化け物である自覚はあった。
「……俺としては殺す気で来られたから先制しただけなんだがなぁ」
「包囲だけだと聞いたが?」
「包囲前の最初の攻撃に殺意がありすぎなんだよ」
咲斗は最初の弾幕を思い浮かべていた。
自分が気付かなきゃ何人か殉職してそうな気がしていた。
「さて、続きを……」
「残念だが……」
「?」
「増援の時間だ」
嫌な気配を感じた咲斗は、咄嗟にその場から飛び退いた。
次の瞬間には、咲斗が立っていた場所に御柱が突き刺さっていた。
「大丈夫かい?」
「神奈子様……」
下手人は神奈子。
なぜいきなり神奈子が増援として来たのか?
偶々近くにいたのである。
早苗と散歩中だったらしい。
とうの早苗は他の戦闘の助けに入っている。
「これまた随分と……神々しい人が」
「連邦軍……わざわざ幻想郷にどんな用事だい?」
「あれ?知ってるんですか?」
「これでも、元々外にいたからねぇ。外の世界で地球連邦を知らないのなんて、赤子や教養の少ない童くらいだろう?」
「さいですか……なら我々がここにいる理由も察しが付くのでは?」
「……」
咲斗の言葉に、神奈子は思考を回す。
相手の軍服の色は黒。
つまりは公安だ。
公安部は連邦軍の対テロ部隊。
つまり、目的は……
「幻想郷に、テロリストでも逃げ込んだか?」
「まぁ、そうなるな」
「……」
「神奈子様?」
神奈子は頭をフル回転させていた。
もし連邦を敵に回すとして、物量は圧倒的に相手が上。
質はこっちが上だろうが……妖怪とて不死ではない。
斬られようが撃たれようが当たり所が悪ければ死ぬ。
おまけに、霊力や魔力を纏った攻撃を喰らえば、妖力と反発して再生が阻害される。
つまり、そういった常識外の力を常用する公安部を相手にするのは相応の被害を想定する必要がある。
おまけに、人里を落とされれば、幻想郷は王手をかけられたも同然になる。
それくらい、出来ない連中ではない。
それに相手が探しているのはテロリスト。
平和で貧困層なんて言葉が過去のものにありつつある外の世界でそんなことをするなんて、どうせ碌な奴じゃない。
そんなのの為に幻想郷……ひいては諏訪子や早苗を危険に晒す選択を、神奈子は取るつもりはない。
「楓……戦闘は停止出来るかい?」
「えっ!?ですが?!」
「これ以上は無駄に死人が出る。それは双方望まないこと。だろう?」
「ああ」
「神奈子様……」
「頼む」
「……はい」
楓は戦闘を停止させるために、その場を飛び去って行った。
「やっと……話が通じる相手に出会えた気がする」
「そうかい……どうやってここに来たんだ?」
「転移装置で。座標がハッキリしてないからランダムで飛ばされたんですけどね」
「一度、私の神社に来い。詳しい話はそこで」
「恩に着ます」
咲斗はそう言って、ニッコリと笑った。
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「はぁ…はぁ…」
森の中を、光は必死に走っていた。
目指す先は紅魔館。
追手を振り切るべく草むらも利用して逃げているが……
「いたぞ!」
「くそっ!?」
直ぐに補足されてしまう。
連邦軍の兵士達が着用する強化外骨格。
単純な防弾性能の他にも
身体能力補助
人工魔法、霊術のシステムを内臓
あらゆる環境に対応する防寒、防暖性
そして、熱感知を応用した生体反応感知システム
カメラの視界内であれば、生体反応をすぐにキャッチする。
つまり、どこに隠れようが無駄だった。
特に特務隊のものはカメラ視界外であっても感知してくる
銃撃を回避しつつ、光は思考を巡らせた。
「くっ?!(応戦するしかないのか?!)」
「Encircle them!(包囲しろ!)」
兵士達が光を囲むように展開する。
否が応でも応戦しなければならないらしい。
「This is a final notice.(最終通告だ)
Drop your weapons and surrender.(武器を捨てて投降しろ)」
「……」
「Silence is seen as denial.(沈黙は否定とみなす)」
「……くっ!」
「Fire!」
隙を突いて逃げようとするも、即座に射撃命令を出すマイア。
光は身をかがめながら何とか包囲網を突破しようとするが……
「I won’t let you go!(行かせん!)」
1人の兵士が光に剣を振るう。
寸前で刀を抜き、防御に成功した。
「Keep holding it down!(そのまま抑えていろ!)」
「くそっ!?」
もう1人の兵士が銃を向ける。
万事休すかと光が思った、その時だった。
銃撃をしようとした兵士の手に突然現れたナイフが刺さった。
「Ouch!」
「What?!」
次の瞬間、光と鍔迫り合いをしていた兵士も、蹴り飛ばされた。
「さ、咲夜さん……」
「大丈夫ですか?」
そこにいたのは、咲夜だった。
「な、なんで……?」
「お昼の時間なので、呼びに行こうとしたら、銃声が聞こえまして。
それも、お兄ちゃんが使っているハンドガンではなく、サブマシンガンの」
どうやら、連邦兵の銃声を聞いて駆け付けたらしい。
「光、大丈夫?」
「パチュリーさん……コアさんまで……」
「咲夜……急に時間を止めて行かないで……猛スピードで飛んできたんだから……」
「すいませんパチュリー様」
「今はいいわ。それより……」
「敵、ですね」
改めて連邦兵達がマイアを中心に態勢を立て直す。
「連邦軍……どうしてこんな所に……」
「Why are you here?(なぜここにいるの?)」
「……答える義理はない」
会話は無用。
そう言うかのように、マイアは合図を出す。
すると、兵士達は一斉に武器を構えた。
「パチュリー様、リーダー格は私が」
「ええ、お願い。コア、光を守ってて」
「は、はい!」
コアが光の側に寄り、防御魔法を展開する。
それを確認したパチュリーは、魔導書を開いた。
次の瞬間、咲夜は時間を止めてマイアに肉薄し、思いっきり蹴飛ばした。
「Second Lieutenant?!」
「あなた達の相手は、私よ」
「……Fire!」
「悪いけど、時間をかけたくはないの」
そう言ってパチュリーは火球を展開する。
「火符"アグニシャイン"」
火球が特務隊の兵士達に襲い掛かる。
爆発が起こり、黒煙が上がる。
煙が晴れると、防御魔法を展開している2名以外は気絶していた。
「す、すげぇ」
「いえ……まさかパチュリー様の魔法を防ぐ人間がいるなんて……」
パチュリーはそれを見て、心底面倒くさそうにため息を吐いた。
「時間は、かけたくないのに」
「……」
パチュリーが再び魔導書を開くと、周囲の葉が浮き上がり始めた。
「!?」
「木符"シルフィホルン"」
そのまま、無数の葉が2人を襲う。
葉の雨が収まると、2人は気絶して倒れていた。
「つぅ……あのメイド……」
咲夜に蹴り飛ばされたマイアは、咲夜への恨み言を呟きながら立ち上がっていた。
次の瞬間、背後に気配を感じたマイアは咄嗟に屈んだ。
すると、先程まで頭があった場所を足が物凄い勢いで通り過ぎた。
「!?」
「外しましたか……」
咲夜は蹴りを外したが、冷静だ。
マイアは即座に得物のナイフを構える。
咲夜も合わせてナイフを抜いた。
「……」
「……死ね!」
マイアが振るったナイフを、咲夜は冷静に回避する。
その後もマイアは連撃を行うが……頭に血が昇っているのか攻撃が大雑把だ。
咲夜が時間を止めていないことからも見て取れた。
咲夜はというと、前に相対した玉藻前の方が強かったと感じていた。
まぁ、力が強い部類の妖怪だった玉藻前と、
軍人なだけで異能も何もないただの人間であるマイアを比べるなという話だが。
咲夜としては……さっさと誠斗の所に行きたいのが実情である。
「悪いですが、時間が押しているので」
「ああ?!」
「終わりです」
次の瞬間、マイアの四肢は斬られており、その場に倒れた。
時間を止めて、その間に斬っただけなのだが。
「……」
「くそっくそっ、私を見下すな!」
「……」
恨み言を吐き続けるマイアを他所に、咲夜は誠斗を探すべく再び時間を止めた。
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博麗神社
「隠れていないで出ておいでー」
「悪いようにはしないからさー」
「「(絶対出たくない……)」」
現在、魔理沙と菫子は絶賛潜伏中だった。
相手が悪すぎたのだ。
そもそも、超能力が使えるだけの女子高生の菫子
弾幕ごっこではそれなりに強いが、ガチ戦闘の経験が少ない魔理沙
これでプロの軍人に勝てるかといえば……
そもそも数で上回られている以上、Ghost2に勝利した経験のある魔理沙でも無理だ。
「出てきてください。本当に殺す気はありません」
「信用できるかあ!あんだけ撃っといて!」
「一応、全てゴム弾ですよ?」
「うそぉ!?」
「わーお、本当にゴム弾だ……」
菫子がその場に落ちてた弾丸を拾った。
結構柔らかい。
「なし崩し的に戦闘に発展してしまいましたが、まだ話し合いの余地はあるでしょう」
「……」
「まだ信用は出来ませんか……仕方ないですね」
そう言うとヴィルヘルムは懐からハンドガンを取り出し、その場に投げ捨てた。
「「!?」」
「中尉?!」
「全員、武器をその場に置いてください。全てです。李少尉、こちらに来てください」
「明白了」
言われて来た時英を、ヴィルヘルムはどこからか取り出したロープでグルグル巻きにした。
「?????」
「あなたはその身が武器ですので」
「?????????????????」
腕を縛るのではなく、足を結び、身体を丸ごとロープで拘束してあるのだ。
なお、本人はここまでする必要は?と疑問符が大量に浮かんでいる。
「これで武器は手から離しました。出てきてくれませんか?」
「いや仲間を縛るやつの言うことなんざ信用できるかああ!!」
魔理沙の渾身の叫びだった。
他の兵士達も首を縦に物凄い勢いで振っている。
「……?」
「?じゃねえ!」
「……出てきてますが、大丈夫ですか?」
「はっ、じゃなくて、てめえが言うな!」
何を見せられてるんだろう。
それがヴィルヘルムと魔理沙以外の心情だった。
「こ、これが中尉の……」
「ああ、ワザとボケて相手を引きずり出す戦法だ」
「心外ですね」
「では……」
「特に何も考えてません」
ズコー?!
全員がその場でズッコケた。
いや何もないんかい。
と。
この男、これでもガスマスクを付けている黒服軍人という威圧感バリバリの見た目である。
ドォーン!
「「「!?」」」
その時だった、彼らの側に何かが叩きつけられたのは。
叩きつけられたのは……
「霊夢!?」
霊夢だった。
「イッテテテテ……」
「お、おい大丈夫か霊夢?」
「私は大丈夫よ……あんたらは?」
「私もマリサッチもあうんちゃんも大丈夫だよ」
「そう……」
霊夢は身体を起こすと、上空を睨み付けた。
すると、玲夜がゆっくりと地面に降りてきた。
その姿はかなり凄惨だ。
腕は変な方向に複数折れており、額からもかなり出血している。
鳩尾には霊夢の封魔針まで刺さっていた。
かなりの重傷。
だが、玲夜の顔は涼しいものだった。
いや、若干表情が暗い。
「大尉……」
「何、ヴィル?」
「……いえ」
ヴィルヘルムは玲夜を咎めるように声をかけたが、
徐々に塞がっていく傷と、諦観が感じられる微笑みを見て黙ってしまった。
玲夜は鳩尾に刺さった針を何の躊躇いもなく抜く。
大量の血液が軍服と地面を濡らすが、玲夜の傷は直ぐに塞がり、出血も止まった。
カランカランと、落ちた釘から音がする。
折れた腕も、まるで何かが折れるような音と共に、元に戻った。
「……」
「なんだよ……あいつ……」
まさか蓬莱人かと、魔理沙は思った。
一方霊夢は、どうにかならないかと思考を巡らせていた。
不老不死の対処法の一つに封印がある。
だが、今封印道具は持っていない。
「……そろそろ、気は済んだ?」
「……何度も言わせないで」
「そう……じゃぁ」
そう言って玲夜は手を上に挙げた。
何かするつもりかと霊夢達は身構えるが……
次の瞬間、玲夜の腕は斬り落とされていた。
「「「!?」」」
「た、隊長?!」
「……」
腕は何事もなかったかのように再生する。
玲夜は相変わらず諦めきった表情だ。
「霊夢、大丈夫?」
「紫……」
「た、助かった……」
霊夢達の側に開いたスキマから紫が出てきた。
紫は霊夢達の前に出て、玲夜を見据える。
「……」
「……随分と、様変わりしたわね……
霊夜」
「えっ……」
紫が呼んだ名前を聞いて、霊夢の思考が止まった。
「……」
「あなたの神力、それを感じないと、私でも誰だかわからなかった」
「……」
「黙っていては寂しいわ。久しぶりの再会よ?」
「……ねえ、紫さん」
ようやく、玲夜が口を開いた。
その顔からは、喜色とは言わないが喜びを感じ取れた。
「あなたなら殺してくれる?」
その瞬間、紫は弾幕を展開し、突貫してきた玲夜を迎え撃とうとしたが……
ドクン
「あっ……ぐぅ……」
「!? 霊夜?!」
突然、玲夜は頭を抑えて、苦しみ始めた。
片目も変色している。
徐々に、その場から後退していく。
「出てこないで出てこないで」
「れ、霊夜……」
「ちっ」
次の瞬間、ヴィルヘルムが煙幕弾を展開した。
煙が晴れた頃には、玲夜達の姿はなかった。
「はぁ……はぁ……ぐっ」
「大尉、これを」
ヴィルヘルムが渡したのは錠剤が入った容れ物だった。
玲夜はそれを受け取ると、中身の錠剤を大量に口に含んだ。
乱雑に含んだせいか、いくつか零れ落ちている。
「そんな大量に……」
「はぁ……うぐ……」
「……」
「ねぇ……戻った?」
「はい、戻ってますよ」
「……良かった」
「……それと自殺志願はもうやめてください」
「……」
ヴィルヘルムの言葉に、玲夜はだんまりだった。
「……帰投しましょう。隊長がこの様子では」
「はっ」
「ビーコンは……こっちですね」
ヴィルヘルムは腕に巻いている方位磁針に映っている転移ビーコンの反応を頼りに、移動を始めた。
ちょこっと解説
李時英
地球連邦軍公安部所属。階級は少尉。
中国出身で格闘技が得意。
部隊メンバーの比率が日本人に偏っているので、現在頑張って日本語を勉強中。
カタコトでなら喋れるが、まだまだ比喩表現なんかは理解出来ていない。