「で、何でうちに来るのよ」
「手近で集まれるくらい広い場所……って言ったら紅魔館くらいしかないじゃない」
「はぁ……別にいいけど」
いい笑顔で返す紫に、レミリアはため息を吐いた。
あらかたの戦闘は終了したため、現在は対応を考えるべく紅魔館に集まっている。
「誠斗さ~ん?激しい動きは駄目ってお師匠様に言われたじゃないですか!」
「待て鈴仙、これは不可抗力というやつでな?」
誠斗は腕の件で鈴仙に詰め寄られている。
それを呆れながら見つめている無月とパチュリー、ファングの3人。
かく言うレミリアも、呆れた視線を向けていた。
それはそれとして、4人とも不可抗力なのはそう、という感情もあったのだが。
閑話休題
「それで、連中は何なんだ?」
最初に口を開いたのは妹紅だった。
妹紅自身はこの場にいる見覚えのない顔2名のことも聞きたいが、レミリア達と仲良さそうなのを見て、少なくとも敵ではないと判断していた。
「んー……菫子は知ってそうだったぜ」
「私に投げないでよ……地球連邦軍公安部、連邦政府の……精鋭部隊?」
「正確には、対テロ対策及び執行部隊」
「おお、詳しい……って誰?」
「そういえば……あんたと誠斗って初対面だったわね」
それから、軽く挨拶をして、本題に戻った。
「で、なんでそんな連中が幻想郷に?」
「それは、なぁ?」
誠斗は光に目を向ける。
彼の頭に浮かんだ言葉はシンプルだ。
「こいつ、何をやらかしたんだ?」
である。
通常の公安部部隊だけならともかく、特務隊まで投入されている。
幻想郷の調査もあるんだろうが、隊長が光に執着がある以上、連中に追われていることになる。
事情に深く踏み込むことはなかったが、そうも言ってられない自体となっている。
「……」
「光、悪いが……話したくないはなしだ」
「……俺は」
光は細々と、これまでの経緯を話し始めた。
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「それは……なんというか……」
「災難だったわね」
「は、はぁ……」
光に誠斗とパチュリーからの同情の視線が刺さる。
霊夢はまだ警戒の色が見えていた。
「でも、信用できるの?」
「さぁ……」
「無責任過ぎない?」
「少なくとも、こいつにテロが出来るだけの度胸があるようには思えんからな。
まぁこれで演技だったら……ハリウッドに行けるんじゃないか?」
誠斗の言葉に、「ハリウッド?」となりながら、霊夢は一応納得した様子を見せた。
「だがそいつを引き渡さないと連中は引き下がらないそうだがな」
「隠岐奈……」
「私もいるよ」
唐突に話しに入ってきたのは隠岐奈だ。
隣には神奈子もいる。
「神奈子と……誰だ?」
「摩多羅隠岐奈、紫と同じ、幻想郷の賢者」
「珍しい組み合わせね」
「こいつが侵入者の1人と接触したのでな。話を聞くために連れて来た」
「だけど……事情の説明は要らなさそうだね」
神奈子がそう言うと、隠岐奈もその言葉を肯定するように頷いた。
「だが、念のためだ。こいつを連れて来た」
「ひゃん!?」
「あら、さとりじゃない」
隠岐奈が連れて来たのは古明地さとり。
心を読むことが出来る彼女に、真偽を確かめさせるのが目的なのだろう。
「という訳だ。そこの男の心を読め」
「なんでそう命令口調なんですか……では、少し覗かせて頂きますね」
「は、はい……」
さとりが片目を瞑る。
「で、結果は?」
「白……よりのグレーですかね」
「えっ……?!」
「おい、本人も驚いているぞ」
「まぁ……騙されたとはいえ、事件の元凶ではありますから」
光はその言葉に「うっ」と声を出した。
実際、事件の要因は自分が持ち込んだカバンだったからだ。
「つまり……元凶だけど、こいつが犯人ってわけじゃないってこと?」
「まぁ、そうなりますね」
「……だが、諦めることはないだろうな。こっちで何人か捕まえた以上、な」
誠斗が目を向けたのは縛られている奏多だ。
まだ気絶している。
「じゃあ、迎え撃つの?」
「それしかないわね」
「向こうの指揮官を引っ張り出して、交渉出来れば、あるいは」
「問題は、誰が誰の対応に回るか」
そこだった。
現状、敵の情報が少なすぎる。
「確実に控えの部隊がいる。問題は、そいつらの情報はゼロってとこだが」
「場当たり的に対応するしかないわね」
「そうなると、今分かってる連中だけでも考えないと」
一先ず、情報の共有をすることになった。
「現状、分かってる隊長は4名、内1名は捕縛済み」
「となると、残りの3名ね」
「1人は俺と無月さんで相手した特務隊の剣士。多分、異能持ちじゃない」
「もう1人は白髪の剣士だったな。髪をまとめてた」
「「!?」」
神奈子が言った特徴に、誠斗と咲夜が一瞬反応した。
一部以外気付かないほど一瞬だったが。
「後1人は……」
「……」
「霊夜よ」
「誰?」
紫が呼んだ名前に、レミリアは疑問を口にした。
この場で霊夜を知っている者は、殆どいない。
「霊夢の姉……話は聞いてたけど……」
霊夜のことを説明した紫の顔は……悲痛なものだった。
「霊夜は霊夢の9つ上の姉よ。明るくて、人を守りたいって心の底から思っていた子」
紫が話を始めると、全員が静かに耳を傾けた。
「人懐っこくて、私や隠岐奈、華扇にもすぐ懐いた」
「……今でも思い出すな。私が霊奈に会うために神社に来た時、霊夜は分かりやすく目を輝かせてた」
紫と隠岐奈の言葉の節々から、懐かしさが感じ取れた。
だが、その表情はすぐに一変した。
「あれは……12年前のことよ」
「何が……あったの?」
レミリアが恐る恐る聞く。
紫は、表情を歪ませた。
「その日、霊夜は人里の友達と山菜を探していたわ。
そこを、妖怪に襲われた」
「「「「!?」」」」
「博麗の巫女を疎む一派だった」
「ただ、肝心の博麗の巫女を襲う勇気はなかったのか、娘の霊夜を標的にした」
「……狡い連中だ」
妖怪の中には、人間を徹底的に見下す者もいる。
ただ、結局は百姓のような力を持たない普通の人間を襲い、巫女のような力のある人間を避ける。
玉藻前のような巫女などにも強気に出る者の方が少ないのだ。
霊夜を襲ったのも、そういった小物だった。
「それで……どうなったの?」
「霊夜はボロボロになりながらも妖怪を蹴散らしたらしい。
ただ……」
「?」
「共にいた友人が瀕死の重傷を負った」
「……」
「霊夜はすぐに人里に彼女を運んだわ。ただ、それが悲劇の始まりだった」
紫の言葉に全員が息を吞んだ。
「人里に着いた霊夜を待っていたのは……人間達からの拒絶」
「どうして?嫌われるような子には……」
「そこには霊夜の能力が、関係してくるの」
「あの子の能力は「神を降ろす程度の能力」。能力だけを見るなら、綿月妹の上位互換と言える」
「依姫様の!?」
一番驚いたのは、依姫の部下だった鈴仙だ。
次に、彼女と戦った経験のある霊夢、魔理沙、レミリア、咲夜。
「依姫が降ろせるのは、八百万の神々。一方で、霊夜は人間が信仰する全ての神が対象」
「つまり、西洋や大陸の神様もってことか?」
「そう、その通り」
「チートじゃない……」
レミリアが思わずそう呟いた。
「当然だが、人間に扱える代物じゃない。それに、降ろした神はあくまで使役じゃなく自身の身体を貸す形で力を借りる。だから、最悪乗っ取られる」
「一度、能力を暴走させたことがあったわ。その時は私と霊奈で止めたから、なんとかなったけど……森の一部が消滅したわ」
そこで、全員が理解した。
人里の人間が霊夜を拒絶……いや恐怖していた理由を。
「……それから、詳しい経緯は分からないけど、霊夜の能力が暴走した。
その結果、人里の2割が壊滅した」
「目撃者が、物理的にいなくなったのか」
「そうよ誠斗。霊奈と私、華扇も止めに入って、それ以上の被害拡大は防げたわ」
「……」
「代償に、霊奈は重傷を負い、その傷が原因ですぐに帰らぬ身となった。魔理沙の兄も、この件で亡くなったと聞いた」
「……ああ」
「霊夜の遺体は見つからなかったわ。恐らく、身体が耐え切れず消滅したんだろうって、結論付けたんだけど……」
「実際は、外の世界に飛ばされていたとはな。恐らく、強大なエネルギーで時空間が歪んだんだろう」
隠岐奈はそう言って、話を閉めた。
「……霊夜は私で対処するわ」
「紫……私も、行く」
「霊夢……」
霊夢はすぐに霊夜の相手を志願した。
姉のことが、気になるのだろう。
「紫、白髪の剣士の相手は任せてくれ」
「あっ、私も」
咲斗の相手は、誠斗と咲夜が駆って出た。
「あの二刀流は俺が相手する」
「おっ、じゃあ私も!」
「いいの?」
「吸血鬼異変での負い目もある。少しは功績を上げんとな」
イリアの相手には無月とファングが志願した。
「一先ず、固定メンバーはこれで決まりとして、後はその時の判断で私がスキマで送るわ」
「俺はどうすれば……」
「お前は留守番だ護衛対象」
「あっ……はい」
光の留守番は速攻で決まった。
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ドン!
「うぐっ……」
「……」
「お、おい……」
仮設拠点の薄暗い廊下。
そこに3人の人影があった。
壁に強く押し付けられている玲夜
玲夜を押し付けている蓮介
それをオロオロしている咲斗の3人だ。
「うぅ……」
「またか」
「……」
「殺してくれる?、ねぇ……誰の許可を得てそんな言葉を口にした?」
「……」
「死ぬことを、いつ俺が許可した?」
玲夜の首にかけられている蓮介の手に、徐々に力が入る。
「蓮介、流石にそれ以上は……」
「黙ってろ」
「っ……」
流石に止めに入ろうとした咲斗も、蓮介の一喝で下らせられた。
「ぁ……れ…ん…すけ」
「自殺未遂23回、自殺願望の吐露が26回……いや、今回で27回」
「……」
「何度言えば気が済む?それとも……その身体に直接刻まないと分からないか?
蓮介の目には、冗談なんてものは映っていなかった。
蓮介は投げ飛ばすように首から手を離した。
背中を打ち付けられた玲夜は苦悶の声を上げながら、座り込む。
「ゲホッ…ゴホッ…」
「咲斗、明日には再び進入を行う。準備しておけ」
「あ、ああ……」
蓮介はそう言うと、奥に歩いて行った。
「大丈夫か玲夜?」
「だい…じょうぶ……私が……悪いか……」
「あれまぁ……」
咲斗が玲夜の背中をさすっていると、後ろから聴き馴染みのある声が聞こえた。
「優希……それに、四葉も……」
「また蓮介を怒らせちゃった?」
「れ、玲夜ちゃん、大丈夫?」
「平気……」
「あの馬鹿も……過保護が過ぎるんだよ……それだけ玲夜が大切なんだろうけど」
「もう過保護なんて領域超えてない?」
「超えてるかもなぁ」
3人は蓮介の顔を思い浮かべる。
発端は玲夜の自殺未遂だ。
それを蓮介が何度も止めていた。
蓮介の中にあった玲夜に対する庇護欲が変な方向に振り切れてしまったのが今だ。
なお、3人とも蓮介を強く責められなかった。
玲夜に対するいい加減にしろという感情が、全員にあったからだ。
「そういえば優希、なんでここにいるんだ?」
「後詰めだよ。念のためのな」
「じゃあ、勇介も?」
「あいつなら蓮介の所にいったぞ」
「なんだかんだ、仲いいよね、蓮くんと勇介くん」
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仮設拠点・ブリーフィングルーム
「……」
「何を黄昏ている」
「……勇介」
ブリーフィングルームに入ってきた男性──勇介に対して、蓮介は静かに反応した。
「また玲夜がやらかしたか?」
「……」
「まぁいい。貴様のそれには興味はない」
「相変わらず腹が立つ物言いだな?」
「事実だ。今は公務中、私情を入れるつもりはない」
「へぇ?なら私情を入れるならどんな気持ちだ?」
蓮介の煽るような言葉に、勇介は静かに答えた。
「よくもまぁ咲斗から愛想を尽かされないものだ。優希と四葉もあいつが愛想尽かさないならと判断基準にしてるようだしな」
「……」
「まぁ、玲夜の非の割合は大きいだろうがな」
「茶化しに来たのなら、明日の準備をしてこい」
「どうした?今日はやけに噛みついてこないじゃないか」
「……何だ?
今この場で一戦交えるか?」
「やめておこう。四葉に一晩中説教される羽目になるからな」
「だったら明日の準備に戻れ」
「了解した司令官殿」
「そうだな。
その言葉に対して、勇介は不敵な笑みを返した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……」
紅魔館の自室で、誠斗は一振りの刀を握っていた。
普段使いしている刀でも、光に渡した予備でもない。
「誠斗?その刀は?」
「昔、ちょっとな」
「でもお前、二刀流は合わないって言ってなかったか?」
「性に合わないだけで、使えないとは言ってない」
光の言葉に誠斗はそう返した。
「俺は刀の手入れをするが、お前は?」
「寝る。今日は色々あったし」
「明日は留守番だからな。素振りでもしとけ」
「うぇ……」
「何か文句でも?」
「いえ、なにも」
光の即答に、誠斗は「そうか」と返して刀の手入れを始めた。
ちょこっと解説
霧雨勇介
地球連邦軍公安部所属。階級は大佐。
蓮介達とは同期で、他からはよく一緒にいる6人グループという扱いだった。
蓮介とは犬猿の仲。
足立優希
地球連邦軍公安部所属。階級は中尉。
蓮介達と同期。軽い性格で、グループのムードメーカー。
東風谷四葉
地球連邦軍公安部所属。階級は少尉。
玲夜とはお互いちゃん付けで呼んでいる親友。
蓮介は蓮くん、咲斗は咲くん呼び。
なお、優希と勇介はそのまま呼んでいる(他と同じあだ名だと紛らわしくなるため)。