「……結界が揺らいだ。侵入してきたわね」
「朝早くから、仕事熱心なことだな」
「隠岐奈、私は霊夢と霊夜の対処に行くわ。昨日予め決めたメンバーもスキマで送る。後は……」
「扉を使って対処要員を送れ、だろ?私の独断と偏見になるが、構わないな?」
「ええ、お願い」
「全く、昨日は自分で送ると言っていた癖に」
「ごめんなさいね。相手の動きが速いのよ」
そう言うと紫はスキマに入っていった。
それを見送った私は舞と里乃を呼び出した。
「舞、里乃」
「は~い」
「なーにお師匠様」
「昨日はいなかった連中の観察を頼んだ。少しでも情報が欲しい」
「は~い」
「了解了解」
2人は相変わらずの調子だ。
まぁ、変に調子を崩されても困るのだが。
「そう言えばお師匠様」
「どうした舞」
「あの子、久しぶりに会ってきて良い?」
「あっ、私も会いたいです!」
「この件が片付いてからにしろ」
「「は~い」」
そう返事をして、2人は私が出した扉に入っていった。
……あの子か。
面と向かって会話するのもいいかもしれないな。
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ブォン
「転移成功」
「うわっ……くっら!?今朝っすよね!?」
「木が高く、葉も生い茂っている……これで日光が遮られてる」
「にしても……隊長、ポータル用意したのに何でバラバラで?」
「蓮介曰く、敵戦力を分散させるのが目的だと。後、時間稼ぎ」
「捜索にリソースを割かせるんっすね?」
咲斗の部隊が転移した先は、暗い森だった。
流石に一寸先すら見えないほどの暗闇ではないが……
それでも視界不良なのは変わらない。
「で、どうするんですか隊長」
「適当に歩くしかないな。最悪これ使えばいいし」
咲斗が出したのは、遭難した時用の転移石。
連邦科学部門の技術の結晶である。
会話を交わしながらも、移動を始める咲斗達。
その様子を、木の上で見ている者がいた。
その人影は木から飛び降り、咲斗に向かって刀を振り下ろした。
「!?」
「ちっ」
あっさりと防がれたことに人影──誠斗は舌打ちをする。
そして、すぐにその場から飛び退いた。
次の瞬間、誠斗が居た場所に棍棒が叩きつけられた。
スヨンの得物だ。
追撃をかけようとスヨンが棍棒を振りかぶろうとしたが……
「待て!」
咲斗の叫びに止められた。
「隊長?」
「大丈夫だ」
咲斗が、一歩前に出る。
その顔に、敵意はない。
「誠斗……だよな?」
「……久しぶりだな」
「心配したんだぞ……10年も、俺も、母さんも、父さんも……」
「なぁ兄さん」
「誠斗?」
誠斗は、ゆっくりと切先を咲斗に向けた。
咲斗はそれに対して驚愕の表情を浮かべる。
「今の俺達は……敵同士だ。感動の再会は後にしよう」
「なん…で?」
「
「……」
「死なない程度に──」
誠斗が咲斗に突貫する。
攻撃は咲斗の頬を掠った。
「やり合おうか」
「っ……隊長を援護しろ!」
咄嗟に悠里が号令を出すが……
何人かが突然弾幕を受けて吹き飛ばされる。
「!?」
「他にも敵がいる?!」
「誠斗の相手は俺がする!周りに対処しろ!」
「「「はっ!」」」
咲斗は命令を下し、誠斗に向き直った。
既に、刀を構えている。
「……」
「じゃあ……初めての兄弟喧嘩と行くか」
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霧の湖
「……やぁ。昨日ぶりかな?」
「そうだな」
湖の畔に立っていたイリアの前に、無月が現れた。
既に刀は抜いている。
「あの館にいるんでしょ?光くん」
「行かせる気はないぞ」
「アハハ!That’s an interesting thing to say, isn’t it?」
「何?」
次の瞬間、イリアは剣を抜いた状態で無月に肉薄していた。
「!?」
「行かせて貰うよ。君を斬ってから、ね?」
「やれるものならな」
「おお、あっちは始めたみたいだな」
「そうみたいね」
無月とイリアが交戦している場所から少し離れた地点。
そこでファングはシャーリーと対峙していた。
「昨日は消化不良で終わったからなぁ……今日はお互い満足いく戦いをしようじゃねぇか」
「残念だけど」
「あ?」
「私は昨日のケガが治りきってないのよ。だから……」
ドゴォーン
「こいつが、あなたの直接的な相手」
「はっはぁ!てめえが話に聞く人狼だな?殺しがいがありそうだぜ!」
土煙の中から出てきたのは、イリア達と同じ制服を着た巨漢。
身長は、2mはあるであろう。
そして……
「酒くっせ?!」
酒の匂いがプンプンしていた。
人狼であるファングにはかなりキツイ。
心なしか、顔も若干赤い。
「大剛……貴方また吞んで来たわね?」
「なんだシャーリー、呑んじゃいかんか?」
「作戦前くらいは控えろって、皆言ってるじゃない」
「酒は俺の血液だ!それに、俺の名前は知ってるだろ?酒仙だぞ酒仙。酒の申し子なんだよ俺は!そんな俺が酒を飲まないなんざ天地がひっくり返ってもありえん!」
「あなたの両親はどんな意図でそんな名前を付けたのよ……」
シャーリーは呆れていた。
主に大剛に対して。
「今、凄い音がしませんでした!?」
「ええ、ファングがいる方ね」
「どうしましょうパチュリー様……」
「美鈴、ファングの所へ。多分、2人いる」
「え?!」
「ファングが対峙しているのは多分話にあった有翼人。
でも彼女、パワータイプじゃなくて魔導士なんでしょ?あれだけの轟音、それなりに強い魔法使わなきゃ鳴らない。だけど、魔力は感じられなかった」
パチュリーの推測は簡単だ。
パワータイプじゃない魔導士が魔力なしで出せる音じゃないだろ。
である。
「一先ず、ファングの援護お願いね美鈴」
「分かりました」
そう言って美鈴は走っていった。
1人になったパチュリーは、近くの木に目を向けた。
まるで誰かいるように。
「いるのでしょう?出てきなさい」
「そう急かさないでよパチェ」
「ストーカー相手に悠長にするつもりはないのよ、フィル」
誰かが地面に降りる音がすると、何もない場所から1人の男性が現れた。
眼鏡をかけ、中折れ帽を被った青年。
コートを羽織っており、コートの下からは白い制服が見える。
「あはは……ストーカーって、僕達の仲じゃないか」
「よくもまぁ軍に入れたものね。あなたほど集団行動に適さない人は見たことないのだけど」
「スカウトされたのさ。僕の力が欲しいってね。熱烈なラブコールだったよ」
「なら、私のことは諦めてくれるかしら?」
「無理無理。なんたってパチェは……僕の運命の人なんだから」
手を広げて、仰々しく宣言するフィル。
パチュリーはこめかみに手を当てた。
良くも悪くも変わらない彼に呆れているのである。
「それはそれとして、僕も仕事だからさ。
教えてくれない?河野光の場所」
「お断りよ」
「そっかー」
そう呟いた瞬間、フィルの周りに魔法陣が展開される。
「やろっか」
「ええ、そうね」
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魔法の森付近の野原
「見渡しがいいな」
『そうだねぇ』
悟が呟くと、その背後を飛んでいるドローンから由良の同意する言葉が聞こえた。
基本後ろから盤面を操作するタイプの由良は、こうしてドローンで現場を直接見ながら指揮を執る。
それが彼のやり方だ。
現場統制は専ら副官がやっている。
今回は悟が代わっているが。
「さて……釣れたな」
「……気付いていたのか」
木陰から妹紅が出てきた。
後ろには鈴仙と妖夢もいる。
「お、多い……」
「(昨日の人達と同じ格好なのに……威圧感が全然違う)」
妖夢は単純な数に圧倒されていた。
鈴仙は昨日交戦した兵士達との雰囲気の違いに圧倒されていた。
ただ2人とも、間違いなく精鋭である相手に冷や汗をかいているのは共通していた。
「最初から陽動が狙いか?」
「貴様らが刺客…というニュアンスで合っているな?」
「「……」」
お互いに質問を飛ばし合う妹紅と悟。
だが、間の悪さに2人とも黙ってしまった。
次の瞬間、妹紅は悟に向けて炎を放っていた。
「隊長!?」
「妹紅さん!?」
唐突過ぎて、全員驚くことしか出来ていない。
妹紅はというと、今の攻撃に手応えを感じていなかった。
「全く……いきなりだな」
「……!?」
「まぁ……スポーツをやっているわけではないのだから、不意打ちは当然か」
妹紅が放った炎が、段々と凍り付く。
中央には、半身が凍った悟が立っていた。
「(氷の能力者……)炎を凍らせるなんてな。驚いた」
「確かに、氷と炎では炎が有利だろう。魔法でも、氷属性は炎属性に弱い。
だがな……そう言った科学で説明が付くことを、平然と覆すのが異能というものだ。
だが……」
悟が手を払うと共に魔法陣が展開され、妹紅に炎が襲い掛かった。
「妹紅さん!」
「これくらい問題ない」
妹紅は一応炎に耐性がある。
これくらいは訳ない。
一方、悟が出した炎は、彼の氷を溶かしていた。
「例え炎を凍らせられても、外部の炎でこうも簡単に溶けるのでな。こうさせて貰う」
「氷能力者が炎魔法を使うなよ……」
「俺は魔力持ちではないぞ」
「は?」
「これは人工魔法と言ってな、科学で魔法を再現した1人の天才が生み出した産物だ。
俺のように魔力を持たない人間でも魔法を使え、適性のない魔法も使える」
「随分とペラペラ話すんだな」
「機密ではないからな。それに、知ったところで再現は出来んだろう?」
「……」
「それから……」
悟の言葉と同時に、何もない空間から次々と兵士達が現れる。
気配すら感じさせない……光学迷彩。
「伏兵……!?」
「接敵したら囲むように命令してあった。完全に気配は消せんのでな。意識を向けさせて貰った」
悟は、目を薄く開き、薄笑いを浮かべる。
「始めようか。戦いを」
「っ……妖夢!鈴仙ちゃん!」
「「は、はい!」」
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人里・上空
「(懐かしいものだな。あの頃となんら変わっていない)」
上空を飛んでいる勇介は、眼下に広がる故郷を目にして、そう感じていた。
『勇介、配置に着いたぞ』
「そうか。俺が合図を出したら動け」
『ね、ねえ本当にやるの?相手民間人だよ?』
「安心しろ四葉。本気で被害を出すわけじゃない」
『う、うん。分かってるよ?それはそれとして……』
「?」
『後でお説教が必要だね』
「切るぞ」
『待て!逃げるなぁ!』
四葉との通信を勇介はさっさと切った。
決して説教が嫌だと言う訳ではない。
「さて……始まりだ」
そう言って勇介は信号弾を打ち上げた。
次の瞬間、人里が広大な結界に覆われた。
「!?」
「慧音先生?」
「(結界?!誰が!?)」
「さて、何人釣れるかな。1人くらい管理者が釣れてほしいものだが
詠唱した瞬間、多数の魔法陣が展開され、隕石が大量に人里──正確には四葉が張った結界を襲った。
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「全員、付いてきているか?」
「問題ありません」
森の中を歩く集団がいる。
蓮介の部隊だ。
中には玲夜の姿もあった。
玲夜の部隊はどうしたのかって?
現在は勇介の部隊と作戦行動中である。
「玲夜は俺が見張るから」
という蓮介の命令、悪く言えば我儘だ。
ヴィルヘルムはヴィルヘルムで「水野大佐の方がストッパーになるか」とあっさり承諾したが。
そうこうしている内に森を抜け、開けた場所に出た。
そこには……
「紫……さん」
「待っていたわよ」
紫と、霊夢の姿があった。
近場の木の上には伊吹萃香やレミリアの姿もある。
「呼べる戦力を出来るだけ呼んだ」という感じだ。
「待ち伏せか」
「そうなるわね……
初めまして、地球連邦軍公安部の皆様。
私は八雲紫。ここ、幻想郷の管理者をしていますわ」
「……地球連邦軍公安部、水野蓮介だ。今回の作戦の指揮を執っている」
紫の丁寧な挨拶に蓮介は若干威圧混じりの挨拶を返した。
連邦側からすれば、侵入したとはいえ、先に敵意を向けられ(霊夢と玲夜)、攻撃を受けた隊もいる(咲斗や奏多)。
約1名、自分から仕掛けた奴もいたが(イリア)。
なお、狙ったのはターゲットなので不問にされた。
公安部ではテロリストは基本サーチアンドデストロイ。
投降も許さず皆殺しが基本だ(ここは各隊長の裁量に任せられるが)。
「こちらの要求はただ一つ。河野光の身柄、それだけだ。そうすれば軍を退く」
「なるほど……ですが、飲めそうにありませんわ」
「なぜだ?」
「彼、冤罪らしいじゃないですか」
その言葉に、兵士達から動揺や驚愕の声が出る。
冤罪……つまり罪のない市民をテロリストとして追っていることになるからだ。
「それは、本人の証言だけで判断したのか?」
「いいえ。こちら側に心を読める能力者がいるので、彼女に読ませました」
「なるほど……」
蓮介は納得した素振りを見せる。
このまま平和的に退かせられるかと、紫は淡い願望を抱いた。
だが……
「だが、もし本当に冤罪だとしても、奴の身柄は渡してもらう」
「それは……なぜ?」
「既に、他のテロリストと共謀して脱走している以上、こちら側に見逃す理由はない」
その言葉に紫の顔が険しくなる。
どうやら衝突は避けられないらしい。
少しは戦意が下がっていないかと、後ろの兵士達を見るが、蓮介の発言で持ち直していた。
「紫……」
「そうね……始めましょうか」
その言葉を聞いた瞬間、木の上にいた萃香が猛スピードで蓮介に突貫した。
だが……
「てめぇ……」
「……」
萃香の拳は蓮介を貫いている。
だが、血の一滴も出ていない。
手応えもない。
萃香が感じたのは、まるで水に拳を突っ込んだような感覚だ。
次の瞬間、萃香が顔を後ろに引かせる。
顔があった場所を、弾丸が通り越したのだ。
発砲したのは、ライフルを構えたイーディスだった。
「始めるぞ」
蓮介の言葉と同時に、連邦兵達は左右に展開し始めた。
ちょこっと解説
大剛酒仙
特務隊所属。階級は特務少佐。
無類の酒好きで、作戦中も吞んでいることが殆ど。
なお、アルコールには強いらしい。
それでもほろ酔いするレベルには呑むが。
フィリップ・マクラーレン
特務隊所属。階級は特務中佐。
元帥からのスカウトで特務隊に入ったメンバー。
パチュリーと同レベルで生きている魔法使い。
彼女に初めて会った時、一目惚れした。
それ以来アプローチを続けている。