「やあ!」
目の前の兵士を斬る。
もう結構倒したのに……まだまだいる。
「貰った!」
「あっ?!」
その声が聞こえた瞬間、後ろを向いたらそこで兵士が剣を振りかぶっていた。
「妖夢さん!」
鈴仙さんが指先から放ったレーザーが後ろにいた兵士を吹き飛ばした。
レーザーって、あんなに吹っ飛ぶものなの?
「大丈夫ですか?」
「うん、何とか」
私の死角を埋めるように鈴仙さんが背後に立つ。
周りには、まだまだ敵が大勢。
「全く、たった2人に何をやっている」
「中尉……」
兵士達の中から、一人の女性が出てきた。
他の人と違って生身。
それに手には棒を握っている。
美鈴さんが似たようなの持ってた気がする。
その瞬間だった。
大きな音と衝撃と共に、私と鈴仙さんが分断されたのは。
「鈴仙!?」
「なにこれ?!地面が持ち上がってる!?」
鈴仙が立ってた場所とその近場だけがせり上がってた。
何かの能力?
「妖夢さん、気を付けてくださいね!」
「わ、わかった!」
私はそう返して目の前に集中する。
半分は鈴仙の方に行ったのか、数は減ってる。
それでも、一人で相手するには多い。
(いやいや!不安になってどうする!)
パシンと自分の頬を叩く。
まずは敵の数から……
20はいるよねこれ?
その時、今度は別の場所から大きな音が鳴り響いた。
あっちは、妹紅さんが戦ってた方だ。
「お、おい!退避しろ!巻き込まれるぞ!」
「なんだよあれ……!」
目に映ったのは、氷と炎の衝突。
あっちこっちが燃えて、凍って……
地獄絵図という表現が良く当てはまる。
「中尉、退避を」
「逃げてどうする」
そう言って女性は棒をクルクル回しながら構えた。
どうやら、このままやる気らしい。
「……」
「走吧」
女性が振りかぶった棒を、私は楼観剣で受け止めた。
「良い反応だ」
「ぐっ……」
お腹に蹴りが諸に……
「うわ?!」
「ちっ」
痛みに呻いてた私に対して、容赦なく棒を振り回してきた。
咄嗟に屈んで回避したけど……
「ひゃっ?!」
避ける余裕もないくらい次に次にと振り回してくる。
やばいやばい。
「ちょこまかと……」
「足止めする!」
次の瞬間、周囲の草が浮かび上がったと思ったら……
私のことを一斉に襲った。
しかもこれ、刃物?!
「つうぅ……」
「悪いが、逃げる兎を追うのが面倒な性分なのでな」
一般兵にも……能力持ち……
周りにもドンドン集まってきた。
「……」
「投降するつもりは……なさそうだな」
「残念だが……」
そう言うと、女の人は懐から拳銃を取り出した……
って、不味い?!
咄嗟にその場で転がり回って銃弾を回避した。
結構ギリギリ……危なかった。
「中々粘るな」
「……」
「あまり舐めないで欲しいですね」
強気に言ってみたはいいものの……状況は最悪なまま。
人数は不利だし、全員がそれなり以上に強い……
鈴仙がいれば……でも分断されちゃってるし……
と思っていたら、せり上がった地面の上──鈴仙さんがいる方から爆発音が聞こえた。
それと同時に私の前に鈴仙がレーザーを乱射しながら飛び降りてきた。
「鈴仙!」
「下がってください!幻波「赤眼催眠(マインドブローイング)」!」
鈴仙が放った弾幕が兵士達に襲い掛かる。
全員、防御を取ったり、回避を試みたりしていたけど……
それでも大半が被弾してダウンしていった。
でも、まだまだ残っている。
「……貴様の相手をしていた者達はどうした?」
「私の能力で無力化しました」
「詳細は……話す気はないか」
どうやら鈴仙は、彼女の「波長を操る程度の能力」で敵を全員無力化したらしい。
つまり、私たちは目の前の敵に集中出来る……
「妖夢さん……」
「残りは10人。それぞれ5人ずつ」
「わかりました」
私たちはそれぞれ構えた。
唯一生身の女性の人……私はその人に向けて突貫した。
「!?」
人符『現世斬』
私のスペルは……容易く棒で防がれた。
やっぱり……強い。
「中尉!」
「っ……!?」
他の兵士が振るってきたブレードを咄嗟に防ぐ。
だが、これじゃあ女性がフリーの状態だ。
攻撃を受ける前に、防いでいたブレードを弾き、そのまま兵士を斬り倒す。
間髪入れずに女性の攻撃を受け止める。
「くっ……」
「互角か……」
その場はお互いに後退する。
だが、相手の方が人数はいる。
「中尉を援護しろ!」
残りの3人が銃撃を加えてきた。
私は猛ダッシュしながら弾幕を躱す。
……今だ!
幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』
3人を横一文字の斬撃で全員撃破する。
「うわ?!」
「ちっ」
背後から突然振るわれた棒を咄嗟にしゃがんで回避した。
全然気配を感じなかったんですけど?!
「(外したか)」
「はあ!」
反撃で振るった楼観剣はあっさりと防がれた。
でも……
「こっちは二刀流だ!」
白楼剣で女性に突きを放つ。
だけど……その攻撃は思わぬ防がれ方をされた。
「!?あなた……」
「……っ」
手で……刀身を鷲掴みにしていた。
掴まれている部分から……血がツーっと流れている。
「……」
「……一つ、質問してもいいですか?」
「なんだ……?」
「どうして……光って人をそんなに狙うんですか?」
私が話を聞いてからずっと感じていた疑問。
外の世界の組織が幻想郷の存在を知った。
それで調査に来るのはわかる。
脱走した人を追うのもわかる。
でも現地の人……私たちと交戦して……関係を悪くしてまで彼のことを追う理由がわからない。
「どうして、か……やつはテロリストだ。それだけで追う理由にはなる」
「彼は……冤罪と聞きましたが」
「冤罪……か。それは悪いことをしたな」
「だったら!」
「だが、やつは脱走の際にテロリスト2名の脱走を幇助した。それだけで追う理由になる」
「っ……」
「連中は表向き理想やら綺麗事やらを語ってはいるが、結局は自らが絶対正義と妄信して、他者を平気な顔で犠牲にする。
そんな物を野に放った時点で、やつもあれらと同じ、無辜の民草を脅かす害虫だ」
その言葉の後、女性は私に蹴りを入れて後ろに飛び退った。
「それで、答えに満足出来たか?
出来たのなら是非とも引き渡しをお願いしたいのだが」
痛みに呻きながら、私は前を向いた。
今の話を聞いて、一瞬だけ間違ってるのはこっちでは?と思ってしまった。
でも……客観的に見て間違っているのが私たち側でも……
「……お断りします」
「?」
「私は……幽々子様から、紫様からこの場を任せてもらいました。
例え間違っていたとしても、私だけ勝手に抜けるのは、お二人の信頼への裏切り……
ここは断固として抵抗させて貰います」
「……そうか。見上げた心意気だな」
相手が棒を構える。
……流石に疲労が溜まってきた。
だから、次で決める。
「……行くぞ!」
「これで最後です!」
人鬼『未来永劫斬』
女性と、一瞬の交差。
「……」
「はぁ…はぁ…私の勝ちです」
「……そうらしい…な」
後ろからドサッという音が聞こえた。
……なんとか勝てた。
私は疲れからか、それとも安堵からか、その場に座り込んだ。
その後、鈴仙が早々に合流してきた。
なんでも不意打ち幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)で全員無力化してきたらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
悟と妹紅の戦況は、拮抗していた。
周囲の草木は燃え、あるいは凍っており、戦闘の激しさを物語っている。
「(互角……このままじゃ埒が明かないぞ)」
「(面倒だな。まるで死を恐れていないかのように突っ込んでくる)」
悟は妹紅を不気味に感じていた。
普通の人間なら大なり小なり攻撃を受けたら防御姿勢を取る。
だが、妹紅はそれを取らずに突っ込んでくる。
彼女が不老不死であることを知らない悟からしてみれば、それは酷く不気味に映った。
「(……仕掛けるか)」
悟は地面を踏み込み、妹紅に一気に肉薄する。
これまで中距離戦に徹していた相手が突然自分から肉薄してきたことに、妹紅は一瞬反応が遅れた。
その一瞬で、悟の右手が妹紅の腕に触れた。
手が触れた瞬間、妹紅の腕が凍り付いていく。
「っ……このっ!」
「……っ」
咄嗟に蹴りで反撃する妹紅。
悟は後方に飛び退って回避する。
「ふぅ……全身を凍らせるつもりだったのだがな」
「こいつ……(大丈夫だ。溶かせば……)」
凍った腕に炎を充てる妹紅。
だが……
「っ……(腕がっ)!?」
凍った腕を戻すどころか、腕そのものが溶けていった。
凍っていた部分全てがだ。
あるのは、溶けて出来た水だけ。
「お前……凍結の能力じゃないのか?!」
「ふむ……似ているが違うな」
悟の口角が僅かに上がる。
「してやったり」という感情が簡単に読み取れる。
「俺の異能は
「とら……?なんだ?」
「こっちでは分かりにくいか。分かりやすく言うなら、万物を氷そのものに変化させる能力だ。俺が凍らせた物は全て氷という物質になる。
今溶けた腕も、俺が凍らせた時点で腕の形をしただけの氷になったというわけだ」
悟の説明を聞き、妹紅は相手の能力について、ある程度は納得をした。
それはそれとして、
「本当にペラペラ喋るな。口が軽いと言われたことないか?」
「ない、と言えば嘘になる。だが喋った所でだ。失った手足は戻らん。それが人間という生き物だ」
「確かにな。普通の人間は一度欠損すればそこが治ることはない。自然の摂理だ」
悟が自身の能力についてあっさりと明かしたのは、話したところで対策のしようがないことが大きい。
凍らされた時点で、悟自身が能力を解除しない限り凍った部位の欠損は避けられない。
おまけに、本人が触れてさえいれば繋がっている・接触している部分にまで氷化させられる。
妹紅のような白兵戦を得意とする人間にとって、悟は相性最悪の相手だ。
触れられれば、最悪死に、最低でも瀕死の重傷は免れない。
普通なら……
「残念だが……」
「?」
「私は自然の摂理に反している人間なのでな」
「何?」
悟の顔が一瞬険しくなる。
妹紅の言葉に、悪い予感を感じ取ったのだ。
次の瞬間、妹紅の身体が爆発四散した。
「(自爆!?自棄でも起こしたか?……いや、これは)」
衝撃から身を守るために取った防御姿勢を、悟はゆっくりと解く。
爆発による炎。
その中に、僅かだが揺らめく人影。
その影には、間違いなく腕があった。
「(腕が治っている……再生系の異能か?いや、それなら自爆する意味が……)」
「知っているか?」
「(待て……再生系の異能、それにこれだけの炎……まるで)」
炎の中から、無傷の妹紅が姿を現す。
『リザレクション』
「フェニックス……」
「不死鳥は……死なない」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
有り得ない……不老不死……だと……
不老不死……全人類が一度は夢見た、科学の到達点。
それを持つ人間が、目の前にいる。
「振り出しに戻ったな」
「ああ、そうだな」
動揺するのは後回しだ。
今は目の前の強敵を攻略する方法を模索しなければ……
……っ!?
「何をボーっとしている!」
「ちぃ!」
入れられた蹴りを、咄嗟に掴んで防御する。
そのまま異能を発動し、足を凍らせ、人工魔法を使用。
足を溶かす。
だが……
「!?ぐぅっ!?」
「(くそっ、面倒な能力だ)」
再生が早い。
自爆する必要性はないということか。
死ぬことがトリガーではないな。
「お返しだ」
「くっ!?」
俺が振り抜いた拳が、相手の顔面を捉えた。
相手はまるでボールのように跳ねながら吹き飛ぶ。
「肉弾戦もいけるのかよ!」
「誰がいつ出来ないと言った!」
お互いの蹴りが交差する。
足が触れ合った瞬間、相手の足を再度凍らせる。
「!?(手がトリガーじゃないのか!?)」
「残念だったな!俺の身体のどこかが触れていれば発動は可能だ!」
精度は劣るが、意表を突くには充分だ。
動揺している隙を突き、空気を凍らせて作った氷柱で彼女を串刺しにする。
だが、再び自爆した。
『リザレクション』
「この!」
不死『火の鳥-鳳翼天翔-』
「火の鳥か、面白い!」
『
空気を凍らせて大量の氷の塊を生成し、無数の火の鳥にぶつける。
耐久力はそこまでなのか、氷塊と衝突した火の鳥はあっさりと消滅した。
氷塊諸共。
「(さっきから何もない所から氷を出してる。多分空気も凍らせられるんだ。
となると……射撃戦は手数で不利。やっぱり近接戦しかない)」
「何を考えている」
『
俺は相手の頭上に跳び上がり、多数の氷柱を形成する。
そのまま雨の如く降らせる。
「くっ……」
不死『徐福時空』
氷柱の雨は、彼女が放った弾幕によって全て融解した。
なら……
「更に巨大な質量はどうかな?」
『
多大な気体を凍らせた影響か、一瞬低酸素状態になるが……
この程度でダウンするのでは公安部の隊長は務まらん。
「さぁ、どうする?」
「(大きすぎる……あれしかない)」
彼女は氷塊目掛けて真っ直ぐに跳び上がった。
何をするつもりだ?
「舐めるなぁ!」
惜命『不死身の捨て身』
彼女が氷塊に突っ込んだかと思うと……突然大爆発を起こした。
自爆特攻をしたか。
『リザレクション』
「はぁ…はぁ…(不味い……消耗が……)」
息切れ?
……なるほど。
「不老不死は、息切れとは程遠い存在だと思っていたが……人間である以上、疲労という概念からは逃れられないか。
貴様、再生するたびに疲労が蓄積されていくな?
死にはしないが、無限に戦える訳ではなさそうだ」
「……ああ、それがどうした」
「なら攻略法は簡単だ……殺し続ければいい」
『
氷塊の弾幕を再び放つ。
相手は炎の壁で防ぎ始めたが……
「忘れたのか?俺は炎も凍らせられることを」
炎の壁に近付いて氷へと変える。
そこに間髪入れず、人工魔法による炎の波を喰らわせる。
「くっ……」
燃えてはいるが……やはり耐性があるか。
なら凍らせるまでだ。
即座に肉薄し、腕を掴む。
徐々に彼女の全身の氷が広がっていき……
その前に彼女は自爆した。
「っ!?(まだ自爆できるのか!?)」
俺の判断ミスだ……手痛いダメージを貰ってしまった。
だが、向こうの方が消耗は激しい筈……
『リザレクション』
「はぁ……はぁ……」
「もう限界そうだな。これで……終わりにしよう」
『
俺が地面に手を触れた瞬間、辺り一面が氷で埋め尽くされた。
彼女は咄嗟に炎の壁を展開したが、それごと凍らせた。
「最大出力だ。炎なぞ、直接触れてなくても簡単に凍らせられる」
人工魔法で身体を温める。
この異能は……自身の身体すら冷やすのが厄介なところだ。
「終わったか……水野大佐達の援護に行きたいが……この消耗じゃ厳しいかっ?!」
一瞬、猛烈な熱波を感じた。
まさか……まだ!
彼女の炎の氷塊から、炎の羽が飛び出てくる。
「くっ……アイシクr」
「させるか!」
蓬莱『凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-』
彼女が起こした大爆発。
それを見たのを最後に、意識が暗転した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「倒せた……」
妹紅は目の前に倒れる悟を見ながらそう呟いた。
徐々に、凍っていた場所が元に戻り始めている。
気絶したフリもないなと妹紅は安堵した。
「倒せたけど……どこかに援軍に行けることはなさそう」
妹紅の身体も消耗している。
いくら不老不死とて、これ以上の戦闘は厳しい。
妹紅は一先ず、鈴仙と妖夢が来るのを待つことにした。
それを遠くから眺める一機のドローンがいた。
由良が操作しているドローンだ。
『(悟が負けるなんて想定外だ……不老不死とか相手が悪すぎる。
そもそも……それ以外の2人に数で勝ってるのに負けるとか公安部の軍人としてどうなのよ?!いや戦えない俺が何言ってもだけどさぁ!)』
悟含めた部隊の敗北。
由良はそれに激しく動揺していた。
『一先ず、奏多くんの捜索でもしよう……あ~あ、このドローンに戦闘能力があればなぁ』
愚痴を吐きながら、ドローンは飛び去って行った。
ちょこっと解説
中尉
悟の副官。中国出身。
棒術が得意。
悟の異能。程度の能力で言うと「ありとあらゆるものを氷に変化させる程度の能力」
触れたものを氷に変化させる読んで字のごとくの能力。
変化したものは、元の形を保っただけで氷そのものに変質しており、溶かせば水になる。
悟の意思で氷化は解除出来るが、一度溶けたものは二度と戻らない。
触れていればOKで、足だろうが顔だろうが触れていれば凍らせられる。
ただし、一番コントロールが効くのは手。
使えば使うほど自身の体温が下がり、最悪凍る。
なので、適度に身体を温める必要があるのだが、悟は人工魔法で炎を使用することで強引に解決している。