誠斗視点
「ん?もう朝か」
俺は肌に朝日を感じながら目を開いた。
目を開けると、小綺麗な天井が見えた。
………何処かのホテルか?
「あっ、お兄ちゃん起きた?朝ご飯出来たから準備してね」
俺が困惑していると、扉を開けて咲夜が顔を覗かせた。
朝飯が出来たらしい。
(そうだったな。俺は帰ったんだっけな)
何せ、昨日は色々あったからな。
紅魔館に帰ってきていたのを失念していた。
あの後、フランを治療して解散となった。
俺は6年振りに戻った自室で死んだように眠った。
ベッドで寝るのが久し振りすぎて、随分と熟睡したらしい。
体から久し振りに疲れが取れていた。
俺は食堂に行く為に朝支度をする。
と言っても、靴を履いて刀を拡張領域に仕舞うくらいだったが。
昨日は刀を仕舞うのも忘れていたらしい。
まあ、それだけ色々あったのだ。
支度を終えて食堂に行くと、そこにはパチュリーさんと美鈴がいた。
咲夜は飯の支度だろう。
レミリア様とフランは……今日は寝ている日か。
「おはようございますパチュリーさん」
「おはよう誠斗。昨日はよく眠れた?」
「ええ、ぐっすりと眠れましたよ」
「そう、それは良かったわ」
食堂に入って最初に挨拶をしたのはパチュリーさんだった。
パチュリーさんは本を読んでいた。
魔導書らしいが……昔の文字なのか何て書いてあるのかちんぷんかんぷんだった。
「今日は幻想郷を回るんだったかしら?」
「はい、霊夢が案内してくれる予定です」
「そう。なら咲夜も連れてってあげて。
今日の昼は仕事ないし。それに、折角再会したお兄さんとの時間も上げたいしね」
パチュリーさんがそう提案した。
俺としては断る理由はないし、話したい事もあるので丁度良かった。
「あっ、そう言えばパチュリーさん。今度飛行魔法の魔導書を貸してくれません?」
「それまた急に、どうして?」
「移動に不便だと感じたので。あと、霊夢に引っ張って飛ぶのはあいつの負担になりますし」
「ふふ、そう。わかったわ。
ご飯を済ませたら大図書館に来なさい。序でに霊夢が来るまで教えてあげる」
「えっ?いいんですか?」
「別に良いわよ。昔も魔法を教えてあげたでしょ?あれと同じよ」
俺はパチュリーさんの提案に甘んじさせて貰うことにした。
パチュリーさんの元なら、軽くなら使えるようになるかもしれないからな。
「誠斗、おはようございます」
「おはよう美鈴」
「いやー、こうして誠斗くんがいると落ち着きますね。
型がピッタリ嵌ったみたいな」
「…………そうだな」
「……美鈴?」
「………あっ」
美鈴の言葉を聞いて少し俺は昔を思い出した。
パチュリーさんが美鈴に咎めるような視線を向けた。
美鈴も失念してたのか直ぐに謝った。
「すみません、デリカシーがなかったですね」
「……大丈夫だ。確かにもう昔みたいな賑やかさはないだろうけど……。
それでも前を向かなきゃな。じゃないとあの人達も草葉の陰で泣くぞ」
「そ、そうですよね。あはは……」
「…………(よく言うわ。そう言う貴方が一番前を向けてないのに)」
俺は美鈴にそう言って席に着いた。
美鈴も申し訳なさそうな顔をしながら席に着く。
しばらくして、咲夜が食事を持ってきた。
その後、急いだようにコアが部屋に滑り込んできた。
朝食を終えた後、俺は大図書館でパチュリーさんから飛行魔法の指南を受けていた。
だが………
「…‥上手く、出来ない」
「適正がないのね。今日中は無理だわ」
魔法を使用するにも適正が必要だ。
俺の適正は支援系、属性は雷。
飛行魔法は移動系の風属性。
俺の適正外だ。
つまりは、俺は今日も霊夢に運ばれる事が確定したという事だ。
………あいつに何回世話かければいいんだ?
しばらくして、霊夢が紅魔館に来た。
「よう霊夢。おはよう」
「もうおはようって時間じゃないと思うけどね」
「もう10時よ」
紅魔館の正門前で、俺、霊夢、咲夜の3人は駄弁っていた。
美鈴はまだ門の前にはいない。
「それで、何処へ行くんだ?」
「人里よ。これから行く機会は幻想郷の中じゃ多い方だろうし、先に場所と道順は把握しときなさい」
「それなら歩いて行きましょう。ここからならそう遠くはないわ」
咲夜の提案は理に適っている。
買い出しなんかは基本人里だろう。
なら、飛ぶより歩いた方が道がわかりやすい。
……それにしても
「咲夜、お前の口調の切り替え基準がわからん」
「そう?」
「昨日は思いっきり口調崩れてたわよあんた」
「あれは……その……お兄ちゃんに会えたのが嬉しかったから……」
咲夜が顔を赤らめ、その顔を隠しながら恥ずかしそうに言った。
………今日、咲夜の様子を見る限り、普段はクール系と言った感じだった。
そんな咲夜が、こういう反応をするのは……謂わゆるギャップ萌えというやつか。
そんなこんなで俺達3人は、人里に向かって歩き出した。
道中は特に何もなく、只々野原が広がっている。
歩いている中で、不意に霊夢が俺に質問を飛ばして来た。
「ねえ誠斗、あんたについて気になった事があったんだけど」
「何だ?俺が外で何をやってたかは前に説明したぞ」
「だから、情報の洪水を説明とは言わないっての。
そうじゃなくて、あんたのあの高速移動の事よ」
霊夢が気になっていたのは、俺の高速移動についてだ。
昨日、フラン相手に使ってたな。
「昨日のアレの事か?」
「そう、アレ」
「アレは俺の異能だ」
「異能?能力って事?」
霊夢は若干困惑した。
直ぐに察しは着いたみたいだが、
「俺の能力は
「スロウ?」
「霊夢、お兄ちゃんの能力は幻想郷風に言えば時間の流れを遅くする程度の能力よ」
「ああ、その名の通り、時間を遅くする。咲夜の下位互換だな」
咲夜は時間停止、俺は時間遅延。
どっちが強力かは明白だ。
「あー……つまりは時間を遅くして移動する。だから私達には高速に見える。
初見じゃ加速系と誤認するわね」
「お母さんや兄さんも、最初は加速系だと思ってたみたいよ。お父さんだけは違ったって言ってた」
「普通に強いと思うわよ。相手に無条件でスピード差を付けられるんだから」
「ところがどっこい、無条件じゃないんだよこれが」
俺は肩を竦めながらそう言った。
実際、この能力は強力な部類だ。
だが、強い能力にはデメリットも付き物。
「こいつを使うと、脳に負担が掛かるんだ。
通常よりも時間が遅くなるから、脳が処理する情報は普通より少なくて済む」
「それの何処がデメリットなの?逆にメリットになってない?」
「霊夢、使っている間は確かにメリットよ。でも……」
「長時間使えば、脳がそのスピードを普通だと誤認する。
その状態で元に戻せば……」
「情報の洪水が、一気に脳に叩き込まれる」
「その通り、特に俺の能力は殆ど止まってるに近いくらい遅くなる。
能力を解除した時の負担も大きい」
この能力、これだけ大きな効果を齎す強力な部類の能力だと考えるだろう。
でも、デメリットでそれらを打ち消してくる。
使う時間が長い程、脳がスローに慣れる。
何度も倍速で見ると、たまに通常の速度になると違和感を感じるようなアレだ。
この場合は倍速じゃなくてスローだが。
遅い流れに慣れて、普通の流れに戻ると、速く感じる。
ただ、動画を見るのとは訳が違う。
自分以外の全ての時間が遅くなるのだ。
解除した瞬間、四方八方から情報が脳に叩き込まれる。
一気に大量の情報が流れ込めば、当然処理限界を迎える。
そう慣れば、体に悪影響だ。最悪は…………
「俺のこんな感じだ。理解したか?」
「ええしっかりと。あんたって普通に説明出来るのね」
「俺だって人間だ。学ぶ生き物だ。
しばらく経ったら忘れるかもだけど」
「なんじゃそりゃ」
霊夢は俺の脛を蹴る。
それを見た咲夜が切れて、危うく喧嘩が起きかけた。
俺は2人を必死に止めた。
普通に辞めてほしい。
そう云えば、昨日のフランとの戦い、いつものように体が急所を狙う事をしなかったな。
フランは吸血鬼だからちょっとやそっとじゃ死なないが………普段とあの時で何が違った?
用語解説
拡張領域
誠斗が使用している物。一見魔法のような物に見えるが、れっきとした科学による産物。
無機物をレーザーで粒子レベルに分解し、拡張領域が搭載されているアクセサリに保管する。
分解の際には特殊な電子バリアで対象を覆い、雲散しないように対策されている。
誠斗は腕輪型を所持。