誠斗視点
霊夢や咲夜と世間話をしながら歩いていると、集落が見えてきた。
人里━━幻想郷で人間が安心して心を休められる唯一と言って良い場所だ。
……例外はあるが
周囲には堀が張り巡らされている。
妖怪が侵入してこないようにしているのだろう。
堀の向こうには塀も見えた。
俺達は門から里の中に入った。
そこは一昔前の日本家屋が立ち並んでいた。
行き交う人々は皆一様に和装だ。
……西洋服の人間がいない以外は大体明治初期の日本に近いだろうか。
「ようこそ、人里へ」
霊夢がそう言い、里を背に手を広げる。
そこには、人々の営みが確かに見えた。
「幻想郷の人間は、基本ここで暮らしてるわ。
殆ど妖怪はいないわね。時々いるけど」
「買い出しとかはここでやるんだよ」
「本はここで買えば良いのか?」
「ここの鈴奈庵って言う本屋でね」
「後は香霖堂っていう里の外の古道具屋。あそこの店主が収集癖があるのよ。
あんた、本読むの?」
霊夢がそんな事を聞いてきた。
咲夜も頭にハテナマークを浮かべている。
まあ、俺は読書が趣味って訳じゃないからな。
「外の情報をな。向こうで何が起きてるのかは知っておきたくて」
「あー、なるほど。なら香霖堂の方がいいわよ。
幻想郷で外の物を扱ってるのはあそこだけだから」
どうやら外の物品を扱っているのは、その香霖堂だけらしい。
後で場所を聞いておこう。
「やあ、霊夢じゃないか」
俺らが話していると、霊夢の後ろから1人の女性が話しかけた。
青いメッシュの入った銀色の髪、頭には初めて見る形の帽子を被っている。
気配は人間のものだ。
だがもう一つ、別の気配も混じっていた。
それは彼女が純粋な人間ではなく、他の種族との混血だと察するには充分すぎるものだった。
「慧音、久しぶりね」
「ああ、久しぶりだ。後ろの2人は紅魔館のメイドだな。
確か名前は………」
「十六夜咲夜です」
「そうだったな。…
………もう1人は初めて見る顔だな。外来人か?」
「十六夜誠斗、外来人だ。こいつの兄」
「上白沢慧音だ。寺子屋で教師をしている。
以後よろしく」
「こちらこそ、よろしく頼む」
俺達はそう言って挨拶を交わした。
それを見届けた霊夢が慧音に話を振った。
「慧音。私達、誠斗に幻想郷を案内してるんだけど」
「それなら鈴奈庵に行ってみてはどうだ?
今なら阿求がいる筈だ」
慧音はそう言って、俺達から見て右前方の方を指した。
あっちに鈴奈庵があるのだろう。
「ありがと慧音」
「どうって事はない。誠斗、今度は寺子屋に寄ってくれよ」
「時間が空いたらな」
「お兄ちゃん、行くよ」
慧音に返答した後、俺は霊夢と咲夜の後を追った。
しばらく歩いて、俺達は一つの建物の前に立っていた。
よく見る二階建ての建物よりは少し小さく看板を構えている建物だ。
看板には大きく「鈴奈庵」と書かれている。
ここが鈴奈庵らしい。
店の中に入ると、そこにはズラッと本棚が並んでいた。
本棚には本が並べられており、中には妖気を放っているものまであった。
………幻想郷関連の本はここで大体買えそうだな。
「小鈴ちゃーん、いるー?」
霊夢が大声で奥に向かって叫ぶ。
て言うか、こいつがちゃん付けで呼ぶやつがいるのか。
俺の霊夢に対する印象は、「面倒見は良いがさっぱりしてる」というものだ。
霊夢の大声に対して、奥から返事が聞こえた。
「はいはい、誰ですか?………あれ、霊夢さん。どうしたんですか?」
「あ、小鈴ちゃん。阿求いる?」
「阿求なら奥にいるよ。さっきまで話してた。
………そっちの男性は?」
霊夢が小鈴と呼んだ少女が、俺の方を見ながら霊夢に質問する。
「そいつは十六夜誠斗。そこにいるメイドの兄貴よ」
「え!?咲夜さんってお兄さんいたんですか!?」
「そこなんだな」
もっと外来人って珍しい的な反応を予想していた。
………いや、知り合いに兄弟姉妹がいたら驚くか。
知らなかった場合は特に。
「初めまして誠斗さん。私は本居小鈴と言います。
この鈴奈庵の店主をしています」
「十六夜誠斗だ。さっき霊夢も言った通り、咲夜の兄だ」
俺が小鈴に挨拶をすると、奥からさらに少女が顔を出してきた。
おそらく彼女が阿求なのだろう。
「小鈴、誰が来たの?って、霊夢さんじゃないですか。
そちらの男性は?」
「さっきも小鈴に同じ事聞かれたんだけど………はあ、誠斗」
「自分で自己紹介しろってか………
十六夜誠斗、咲夜の兄だ」
「………!?さ、咲夜さんのお兄さんですか。初めてまして稗田阿求です。
それにしても意外ですね。咲夜さんにお兄さんなんて」
「さっきから思ってるんだけど、私って普段どう思われているの?」
咲夜が不服を申し立てている。
まあ、匂わせすらしてなければそりゃ驚かれるだろう。
「阿求はね。幻想郷縁起の編纂をしてるの」
「幻想郷縁起?」
「幻想郷のいろんな出来事を綴った書物。
私の事も載ってるんだよ」
咲夜が良い笑顔で言った。
なんだ、俺に呼んで貰いたいのか自分の所を。
「私を探してたって事は幻想郷縁起を探してたんですか?」
「それもあるけど、今回は誠斗の挨拶回りも兼ねてるの」
「なるほど。とりあえず、小鈴、幻想郷縁起持ってきてくれる?」
「はーい。ちょっと待っててね」
そう言って小鈴は店の奥に入って行った。
しばらくして、一冊の本を持って戻ってきた。
表紙には幻想郷縁起と書かれている。
「はい誠斗さん。これが幻想郷縁起です」
「幻想郷で起きた事の他にも、幻想郷の著名な方々の事は大体載ってます。
それで予習なさってください」
「よければ今からでも読みますか?」
「そうさせて貰うか………読書スペースは?」
「あっちです。ついてきてください」
その後、俺と咲夜は小鈴について店の奥の方へ向かった。
霊夢視点
「霊夢さん、ちょっと」
「どうしたのよ?」
「ここじゃ何ですので」
阿求がそんな事を言い、私を手招きする。
私は彼女に着いて行き、店を出た。
阿求が私を連れてきたのは鈴奈庵の横の路地だ。
ここは人気がない。何か聞かれたくない事なのだろう。
「それで、何の用事?」
「誠斗さんの事です」
「誠斗の?」
「はい、単刀直入に言います。
彼の事について、どれくらい知っていますか?」
阿求は私にそんな事を聞いてきた。
誠斗の事か……。
「あいつが外でしてた事と、昔紅魔館にいた事くらいかしら」
「………そうですか」
「ねえ阿求。あんた誠斗の何を知ってるの?」
私が阿求に問う。
こいつは誠斗に着いて何か知っている、ないしは推測している。
誠斗の名前を聞いた時、阿求は一瞬息を呑んでいた。
何か心当たりがある反応だ。
「それで、あいつは何なの?」
「…………霊夢さん。吸血鬼異変は知ってますよね?」
「吸血鬼異変って……」
「はい、貴方がスペルカードルールを制定するキッカケになった異変です」
吸血鬼異変。今から6年前に幻想郷に吸血鬼達が侵攻を仕掛けた異変だ。
スペルカードルール制定前の幻想郷では、一、二を争うほどの異変。
近年の幻想郷では、12年前の禍津異変と並んで最悪と称されている異変だ。
幻想郷が博麗大結界で覆われた影響で、妖怪達の力が弱まった。
そんな妖怪達は吸血鬼に太刀打ち出来ず、多くが軍門に降った。
最後は紫達が解決したらしい。
「それがどうかしたの?」
「吸血鬼異変の首謀者は知っていますよね?」
「ええ、確かレミリアよね。私も最近知ったけど」
「……異変当時、彼女の配下の内特に恐れられた者が4人いました。
彼らは紅魔四天王と呼ばれたそうです」
「紅魔四天王……」
紅魔四天王、初めて聞く名だ。
名前的にレミリアの部下の内、特に強い4人の事だろう。
「紅魔四天王が恐れられたのは、何も強さだけじゃないです。
確実に命を刈り取る。彼らに会えば、命乞いをしなければ助からなかったとされています」
「そんな奴らがいたのね。
………待って、今の紅魔館の強いメンバーはレミリアを除いて4人」
フラン、パチュリー、美鈴、そして咲夜。
レミリア以外の紅魔館の面々で強いのはこの4人だ。
前にレミリアから、咲夜が来たのは5年前って聞いた。
となると、残りは3人。
「………1人足りない?」
「今の紅魔館の人達を思い浮かべたんですね」
「ええ、レミリアと咲夜を除いて、四天王って呼ばれそうなのは3人……
そいつらの二つ名とかないの?」
「あります。
華人小娘、凶狼、鎌鼬、そして死の旋風」
「華人小娘って、1人は美鈴か……
残りの3人……」
初めて聞く名だ。凶狼、鎌鼬、死の旋風。
名前からして、2人は狼とイタチの妖怪だろう。
パチュリーもフランも、どちらとも関係ない。
じゃあ死の旋風はどうだろうか。
パチュリーはスピード型とは言えない。
フランは、その気になればそれくらいの速度は出せると思う。
でも、フランの戦闘スタイルと違いすぎる。
じゃあ一体誰………待って、誠斗が紅魔館にいたのは……
『誠斗くん、お久しぶりですね』
『ああ、6年ぶりか』
『ふふ、貴方がここからいなくなって6年よ』
誠斗が紅魔館から離れたのは……6年前……
「まさか……」
「はい、断言しますが……」
阿求が声を震わせながら言う。
「紅魔四天王の一角、死の旋風は……おそらく誠斗さんです」
阿求がそう推測を口にした。
キャラ・用語集
上白沢慧音
種族:ワーハクタク
能力:歴史を食べる程度の能力(人間態時)、歴史を創る程度の能力(ハクタク形態時)
人里で寺子屋の教師をしている女性。自警団の纏め役もしている。
人間とハクタクのハーフ、但し後天的なもの。宿題を忘れた生徒には頭突きを喰らわす。
本居小鈴
種族:人間
年齢:15歳
能力:如何なる文字でも理解できる程度の能力
人里で鈴奈庵という本屋を営んでいる少女。霊夢がちゃん付けで呼ぶ珍しい相手。
能力故か、大体の本はスラスラ読める。阿求とは親友。
稗田阿求
種族:人間
年齢:15歳
能力:一度見た物を忘れない程度の能力
幻想郷の出来事や妖怪について纏めた「幻想郷縁起」の編纂者。人里の名家、稗田家の九代目当主。
御阿礼の子と呼ばれており、これまで何度も転生を繰り返してきた。なお、前世の記憶はないらしい。
吸血鬼異変
本編の6年前にレミリアが起こした異変。
大まかな流れは原作に準拠している。
紅魔四天王
吸血鬼異変で大暴れしたレミリア配下の妖怪達。
華人小娘、凶狼、鎌鼬、死の旋風という二つ名を持つ4人。
妖怪達と幻想郷縁起には記されたが、実際は美鈴以外の面々の詳しい情報は不明。
禍津異変
本編の12年前に起きた異変。
吸血鬼異変と並んで、現代の幻想郷で発生した異変の中で最悪と称されている。