バイオハザード 再感染区域   作:masayumi

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欧州で囁かれるバイオテロの予兆。DSO教官として平穏な日々を送るレオン・S・ケネディの元に、不穏な影が忍び寄る。
一方、大学生活を謳歌する双子のメーヴとカイル。しかし、帰宅後の地下室で待っていたのは、父親ではなく「教官」としてのレオンによる過酷な洗礼だった。
「家族を守るのに、現役も引退も関係ない」
忍び寄る危機の足音を背後に、ケネディ親子の「日常と訓練」が交錯し始める。


バイオテロの足跡

DSO本部・地下セクション ― ブリーフィングルーム

 

冷たい金属の壁と監視モニターに囲まれた会議室には、数名の幹部たちが集まっていた。

中央のスクリーンには、赤いアラートとともに表示される映像データ。

崩れた研究所、逃げ惑う研究員たち、そして…不自然な動きをする元人間たちの姿が断片的に映し出されている。

 

「この映像は48時間前、ヨーロッパ某国の民間ラボで送られた最後の信号だ。通常の感染経路とは異なる挙動を示している。内部に何かがいる…」

 

主任分析官の声が低く響く。

 

「レオン・S・ケネディ。引退した身に申し訳ないが、場合によっては君にはDSOの観察部隊を率い、現地の協力者と合流して調査・隔離・場合によっては殲滅を依頼したい」

 

レオンは背筋を伸ばし、静かに頷いた。

 

「ウィルス種は確定していますか?」

 

「判別不能だ。変異が早すぎる。現地の遺体も回収不能でサンプルがない。現場判断を優先することになる」

 

レオンは、数秒だけスクリーンを見つめた。

その目は静かだったが、確実に何かを測っていた。

 

「同時に、もう一つ気になるのが…」

 

上官がリモコンを操作し、スクリーンを切り替える。

そこには、アメリカ東部、ワシントンDC郊外の地図。

 

「最近、国内でも不可解な生体信号の消失が散見されている。まだ確定情報ではないが…万が一、こちらに波及する場合、早期隔離が必須だ」

 

「DCに兆候があるなら、優先すべきです」

 

レオンの声には、いつもより一層冷静な圧があった。

それは、父親の直感だった。

 

「……私生活がDCにあると聞いている。だが任務に私情は入れるな」

 

「入れません。だからこそ何かあれば最速で潰します」

 

一瞬、室内が静かになる。

 

上官はゆっくりと頷き、USBデバイスを差し出し

た。

 

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DSO本部・地下セクション ― 教官室

 

DSOワシントン本部 地下階層   教官専用フロアにてかつて最前線にいた男の足音が、静かに金属床を響かせる。

 

レオン・S・ケネディ。

今や彼はDSO教官部門の主任インストラクターとして、多くの新人エージェントを育てる立場にある。

 

「現場の血の匂いが恋しくはないのか?」

 

後ろから声をかけたのは、現役チーフオペレーターのジャレットだった。

彼の片手にはUSBメモリ、もう片方にはコーヒーの紙カップ。

 

「悪いがもう俺の腰は無理が効かない。脊椎に針金が入ったら、それは引退のサインだろ」

 

レオンは苦笑しながら答えたが、その瞳は冴えていた。

背中にはまだ生きた現場の気配が残っている。

 

「…だが、あんたにはまだ目がある。指導用に見てくれ。これは俺たちの中でも判断が難しいケースだ」

 

差し出されたUSBには、新型ウイルスの挙動と発症前の兆候を示す監視映像が収められている。

レオンは受け取りながら言う。

 

「これを使って訓練プログラムを組むとでも?」

 

「いや。もしかしたら、今の新人たちが本当に必要とする技術は、俺たちが現場で体得したものかもしれない」

 

言外に、この件はおそらく現場に出るという予感があった。

だがそれでもレオンは、あくまで静かにプロフェッショナルの声で言った。

 

「訓練に活かせるところは抽出する。だが現場に出るのは…もう、他の若い奴らの仕事だ」

 

「わかってる。…だがもし、DCが騒がしくなったらその時はどうする?」

 

「家族を守るのに、現役も引退も関係ない」

 

一瞬だけ空気が張り詰める。

ジャレットは苦笑し、敬意を込めて頷いた。

 

「そうだな。伝説はどこにいても伝説だ」

 

 

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ワシントン郊外 ケネディ家のキッチン

 

【6:40 A.M.】

 

静かな郊外の住宅街に、トースターの軽い音とオレンジジュースの注がれる音が響いていた。

 

キッチンには、青いエプロン姿のレオン。

黒いTシャツに淡いチェックのルームパンツという定番スタイルで、フライパンを振るっていた。。

 

「メーヴ、トースト焼けたぞ。カイル、シャワー終わったか?」

 

「今行くー!」

 

カイルの声が二階から響く。

メーヴは濡れた髪をタオルでくしゃくしゃにしながら、ダイニングテーブルへ座った。

 

「父さんのトーストって地味に美味しいのずるい。何か秘密あるの?」

 

「企業秘密だな」

 

レオンは小さく笑いながら、ベーコンを皿に盛りつけた。

 

朝食のひととき。

ごく普通の家庭の風景。

けれど、それはレオンにとって訓練より難しい時間でもあった。

 

「今日、実技のレポート返ってくるの。カイルのやつ、またトップ取る気満々よ」

 

「競っておけ。お前らは双子でも、スタイルが違うからな」

 

レオンはそう言いながら、2人の頭を順に軽くポンと叩いた。

だが次の瞬間…ほんの数秒、彼の視線がテレビのニュースへと向いた。

 

『欧州で発生した爆発事故、現地の研究機関の声明は未発表』

 

音声は消していたのに、レオンの目は鋭くなる。

 

「……父さん?」

 

メーヴの声に、レオンはすぐに笑顔を戻す。

 

「なんでもない。ただのニュースさ」

 

だが、心の奥底ではすでに戦闘モードに入っていた。

もし、DCに波及したら。

その時、自分は2人を守れるだろうか…。

 

今はまだ、子どもたちの笑顔を守るために『何も起きていない日常』を演じる時だった。

 

 

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授業が終わり、昼休みになると大学特有の喧騒が廊下にあふれ出す。

カフェテリアでは、長テーブルに数人の友人が集まっており、メーヴとカイルが近づくと自然に空いたスペースが生まれた。

 

「カイル、昨日の英語のスピーチ見たよ。映画の主人公みたいだった」

 

「僕を主演にしてくれるなら、その映画出るよ」

 

得意げに笑うカイルに、メーヴはサンドイッチをかじりながら呆れたように笑った。

 

「この調子で今週末の体育大会もヒーローになるつもり?」

 

「いや、それはメーヴの役目でしょ?プールの女王」

 

そこへ、向かいに座っていた級友のナオミが首を傾げた。

 

「ねえ、2人って……本当に双子なの?」

 

周囲が一瞬静かになった。

だがその問いは悪意あるものではなく、むしろ純粋な興味だった。

 

「全然似てないから、付き合ってるとか思われたことない?」

 

メーヴは笑って首を振る。

 

「よく言われる。でも証拠写真もあるし、生まれた日も時間も一緒。まあ、性格が正反対なのもあるし、信じられないのも分かるけど」

 

「でも、2人とも頭いいしスポーツできるし、顔もいいし……完璧すぎ」

 

「完璧な家族なんてないよ」

 

カイルが何気なく言ったその一言に、どこか現実味があった。

 

 

 

午後4時、校舎の裏手にあるトレーニングルームでは、カイルがパルクール部の仲間たちと練習に励んでいた。

 

「そこは肘を使って振り抜け、カイル!」

 

コーチの声に応じてカイルは軽快な動きで壁を蹴り、鉄骨の足場を跳び越えていく。

その体はまるで猫のようにしなやかだった。

 

一方、メーヴは温水プールでの水泳部の練習中。

青い競泳用水着を着てスタート台の上に立った瞬間、空気が張り詰めた。

 

「50メートル、全力で!」

 

メーヴが飛び込むと水面が鋭く割れ、まるで魚のような美しさと力強さで水を切って進んでいく。

タイムを確認した仲間が小さく歓声を上げた。

 

「メーヴ、また更新してる!信じらんない!」

 

彼女は静かに息を整えながら、プールサイドに上がった。

その背筋には、日常の中に戦うための鍛錬が滲んでいた。

 

 

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夕暮れのワシントン郊外、オレンジ色に染まった空の下、赤のハマーH2が軒家の前に止まった。

 

「今日、パパさんの訓練の日だったよね」

 

メーヴがスポーツバッグを肩に担ぎながら言う。

 

「うん。やっぱり、ちょっと緊張するな」

 

カイルは小さく笑った。

普段は明るく冗談を飛ばす彼も、あの父親としてではないレオンと向き合う時は自然と背筋が伸びる。

 

 

 

家に入るといつものリビングの灯りは落とされており、廊下の奥、地下室へと続くドアが開いていた。

 

「着替えて来い。10分以内だ」

 

レオンの低く落ち着いた声が響く。

いつもの穏やかな父親の声とは違う…鋭く、命令に近い口調。

 

「了解、教官」

 

カイルとメーヴは顔を見合わせると、互いにニヤリと笑ってから走り出した。

次の瞬間、二人とも、もう学生の顔はどこにもなかった。

 

   

 

 

地下の訓練室には無機質な照明と冷たい空気が漂っていた。

モニターに映し出された仮想敵のデータ、床には傷の跡が幾重にも走り、壁には打ち込まれたナイフが突き刺さったままになっている。

 

「スタン弾使用。範囲内であれば容赦しない。構えろ」

 

レオンの声音は冷たく、まるで任務中の指令官のようだった。

普段の父親らしい温もりは一切ない。

彼の目に映るのは、訓練生としての双子だけだ。

レオンは壁に打ち込まれたナイフを引き抜くと、ゆっくり指先で撫でた。

 

「本物の刃が飛んできたとき、お前たちは一秒で死ぬ」

 

その言葉と同時に、天井からスモークが落ちた。

視界が霞む中、低く鋭い爆発音とともに訓練用スタン弾が炸裂。

 

「っ……!」

 

カイルはとっさにメーヴの手を引いて身を伏せ、咄嗟の判断で遮蔽物の陰へ逃れる。

 

「二秒遅れたら、失神してたぞ」

 

レオンの声が通信から響いたかと思うと、次の瞬間、床の仕掛けが作動。

左右の壁から鋭く飛び出すゴム製のブレードが襲い掛かる。

 

「左、来る!」

 

叫んだのはメーヴ。

彼女は滑るように身を翻し、体重移動で勢いを殺しながらナイフを構える。

仮想敵のホログラムが出現すると、カイルが正面から接近して背後に回り込む。

 

「三秒で制圧しろ。人間は三秒もあれば殺される」

 

レオンの命令に、双子は呼吸すら止めるようにして動いた。

動作は完璧ではない。

だが、汗と土の匂いの中に、生への執着だけが浮かんでいた。

 

制圧、確保、再展開。

訓練が終わる頃には、2人とも膝をつき、肩で息をしていた。

 

「まだ甘い。生き残れる保証はない」

 

「……でも、やる。死ぬつもりなんかないよ」

 

カイルがぎり、と奥歯を噛む。

レオンはその言葉に、初めて少しだけ口角を上げた。

 

「なら、あと三セットだ」

 

「……っ、地獄かよ」

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