(貴方達が何者であるのか、しっかりと見定めさせて貰うわ)
魔防隊六番組組長"出雲天花"!
能力"
空間を操作する事ができ、自身や自身に触れている他者を最大半径50km先までテレポートできる!また空間そのものを捩じり裂くことで相手の防御力を無視した攻撃ができるぞ!
(さあ、どう来るのかな?)
「煙幕!!」
下にいる緑髪の少年の全身から、紫煙が噴出されると瞬く間に下方が充満し、隣にいた金髪の少年諸共姿が覆い隠される。
(補足できない……逃亡するつもり……?いや…!)
「
濃煙の中から天花たちの前に飛び出した爆豪が、両手を前に掲げて、爆発を伴う熱烈な光を浴びせる。
「ぐぬッ……!」
(目眩しか…!)
光を腕で遮りながら、腕の隙間から咄嗟に目を開けると、八千穂は迸る光の中から迫り来る、五本の黒い帯状のエネルギーを視認する。
(アレは緑髪の小僧の……!)
「俺を陽動に使ったんだ!シクるんじゃねェぞォ!」
「黒鞭!!」
煙の中から不意打ち気味に射出された黒鞭が、天花の四肢と胴に絡みつく。
「くっ……!」
「捕らえた!」
(この場で一番厄介なのはおそらく彼女…!だからまずは『黒鞭』で拘束して、
そのまま緑谷ことデクが拘束された天花を崖下に引きずり下ろそうと、黒鞭の引きを強くするが、
「まあ、そう来るよね、
にょん
「──ッ!」
縛り上げていたデクの背後に黒い歪みが生じ、落下する天花ごとデクを飲み込み消失する。
「デク!!」
(野郎…!やはり
「何を余所見しておる!」
タンッ!
「チッ、危ねェッ!」
眉間に放たれた弾丸を間一髪で避け、爆破の応用で滞空して距離を取る。
「ほれほれ、どうした。デカい口叩いた割には、随分と慎重じゃな」
「ハッ、勝手に吠えてろ、今文字通り瞬殺してやるからよォ!」
両腕から爆炎をあげて急加速し、火を噴く両掌を前方にかざす。
「獣め、馬鹿正直に突っ込んでくるとは……!私様の高尚なる力の前に、ひれ伏すがよい!」
人差し指を上に突き上げた構えを取ると、彼女の背後に荘厳なる神秘的な黄金色の時計盤が顕現する。
(時計……!粗方推測できるが…!)
背後の時計。仮に爆豪の頭の中に浮上した能力の通りであるならば、目の前の雅な少女は相当の手練れ。爆豪は警戒しながらも勢いを殺さず、両手を前に十字に組んだ攻めと守りを両立させた型を取り、突然の衝撃に備える。
「来やがれッ!」
「
「ぐぅッ……!!」
衝撃は一瞬だった。数発の弾丸が突然目の前に現れ、咄嗟に小規模の爆破で相殺を試みるが、撃ち漏らした僅かな弾丸が勢いよく爆豪の身体を撃ち抜き、鮮血が舞う。だが、
「ある程度は推測できたからこの程度で済んだが……実際に体験すると見えねェもんだなァ!!」
地面に崩れかけるものの、歯を食いしばりながら力強く踏ん張り、ニカッと口角をあげて獰猛に笑う。
「チッ、まさに獣じゃな…!」
(初見で対応された…?いや、まぐれに決まっておる!本能で瞬発的にダメージを最低限に抑えたのか…!」
本来は今の攻撃で仕留めるつもりだったのだが、目の前の男はそれをカウンターで対応し、軽い銃槍を与えるにとどまった。アテが外れた事に、八千穂は内心冷や汗をかく。
「余所見してんじゃねェ!」
BOOOOM!!
「ガハッ!?」
堪らず油断した彼女の一瞬を突き、爆風で彼女の後頭部側に移動した爆豪が彼女の背後の空間を爆破する。直撃はしてないものの、その衝撃は彼女の脳と三半規管を揺らす。
(速い…!?いつの間に背後に…!?それにこの威力、身体強化の恩恵を受けてない私様に直撃せずとも衝撃だけで意識を持ってかれる……!!)
(じゃが……!)
土煙を立てながら、八千穂もまた歯を食いしばる。
「
六番組副組長"東八千穂"!───能力"
"崇高な構え"を取ることで、空間の物理法則を無視して、時間を五秒止めるか、戻すことができる!しかし体力の消耗が激しいため、あまり多用はできないぞ!
「五秒戻れ!!」
空間が一瞬で色を失うと、逆再生したかのように事象が逆流し、八千穂が攻撃を受ける五秒前の場面に戻る。
「余所見してんじゃねェ!」
タンッ、タンッ、タンッ!!
右に避けながら、振り向きざまに背後に銃口を向けて弾丸を数発発射。
BOOOOM!!
「ぐゥッ……!!」
「ぬゥッ……!」
爆風に晒されながらも衝撃を回避する事に成功した八千穂。
彼女は魔都関連で多大なる功績を成した名門"東"家の誇り高き秀才である。秀才である彼女は、その誉に胡座を掻くことも驕りもせず、日々鍛錬を欠かさない。その甲斐あってか、身体強化の恩恵を得られずとも、常人を遥かに凌ぐ強靭な身体能力。
しかし、彼女の取ったほんの些細な挙動の変化を目の前にいる天性の才覚は見逃さない。彼女以上のストイックさを持ちながら、以前の彼は彼女とは対照的に、自身の才能に慢心し、自惚れ、傲慢さも感じられた。しかし、幾度もの挫折、焦燥、出逢い、交流──そして、友への謝罪と和解。それらの一年間の濃厚な経験を通して、彼は自身の弱さを認めた"紛うことなき強者"へと変貌した。
(今の動き……
首と頬から銃槍の擦り傷による微量の血を流しながら、荒ぶる外面とは裏腹に、冷静に彼女の数多の変化を見据え、瞬時に立論して考察する。
(表情の陰険さが増した。だが爆破の影響とは別のモノ、おそらく能力の使用による代償…!)
「
「ぐっ…
迫る爆炎の奔流に対し、三度目の能力使用の合図。その刹那、爆心地から五メートル離れた場所に、息を切らしてさらに疲労感が増した彼女が現れる。
(今度は止めたのか……おそらく奴の能力は時間操作。リモコンみてェに数秒の停止、巻き戻し……早送り、はできるか知らねェが、連発はできず、しかも燃費が相当悪りィ。そりゃ、物理法則を無視する能力だ……断定するには情報がまだ少ねェが……)
「だいぶバテちまってるなァ!!弾を撃つ余裕もないってかァ!?」
「こ、此奴……!」
背中にドッと流れる嫌な汗。粗暴で知性の欠片もないような形相の癖に、この男は確実に『
相対した相手に看破されたのは、これで二度目、その焦りが彼女の思考を狂わせる。
(能力に勘付いた相手に長期戦を継続するのは魔都交流戦の二の舞になる……!ならば、ここで全てにケリをつける!!)
「図に乗るでないぞ、小僧ッ!!我が至高の構えの前にひれ伏せぇ!」
「
黄金色の気配を纏った八千穂が、右手を天に掲げて大きく仰け反ったポーズを取ると、此方を見据える爆豪は言わずもがな、あらゆる時流が停止する。
東八千穂が誇る極地、
「勝ち取った十秒、全方位から間断なく銃弾を撃ち込む!!」
停止した時の中、同様に停止している爆豪の周囲を疾走し、弾丸を次々に撃ち込む。リロードしては撃つを繰り返し、この間に放たれた弾数は四十を超えていた。
「これで、終いじゃッ!!」
灰色の景色が色を取り戻し、至近距離で停滞していた弾丸が一斉に空気を抉る。
自身の勝利を揺るぎないものと確信した八千穂が犬歯を剥き出しに笑みを浮かべる。が、それ以上に獰猛な笑みを浮かべた者がいた。
BOOM!BOOM!BOOM!BOOM!BOOM!
「何ッじゃと…………!?」
寸刻先には血で染まる筈の景色が、誘爆した際に発生した爆風で弾丸ごと無惨に吹き飛ばされる。
「隙だらけなンだよ……テメェの未知と羞恥に満ちた珍妙な格好を見て、咄嗟にタイミングを合わせて周囲に俺の汗を散布しておいた…!」
煤汚れと裂傷まみれの痛々しい姿を晒すも、その眼光は依然、鋭い。
「弾丸は射出時と空気の摩擦で熱が生じる。……だから、ニトロを含んだ俺の汗との接触が
絶句。ふと気がつくと、自分が一歩後ろに下がっている事に気付き、抱いたことすらなかった未体験の感情に戦慄する。
もはや目の前の存在は人と醜鬼の範疇を通り越して、ただ単に貪欲なる勝利への執念の塊が人の形を成した、そのような形質の存在に見えてしまう。
「俺ァ、プライドが高ェんだ。だから完膚なきまでの完全勝利、じゃなきゃ真の勝者とはいえねェ」
全身に生傷の絶えない暴獣が、ゆらゆらと、しかし着実に、歩を進めて距離を詰める。
彼女が歯を噛み締め、引き金を引くものの、決着を焦って無駄に弾丸を浪費したせいで、空を切る音しか聞こえない。
(しまった、残弾が…!この私様がなんという不覚を…!)
「無傷とはいかなかった……テメェが、ロードローラーを投げつけられるくらいの力がなくてつくづく助かったって、本当に思っちまった…!」
──もっと強くならねェと、憧憬も、夢も、
この一年で何度も知った歯痒さを呑み込み、右手にパチパチと火花を灯し、熱を収束させる。熱を孕んだ赤い光を携えて、棒立ちの八千穂の前に仁王立ちする。そして──
「よってッ!こんなトコで俺はァ!止まるワケにはいかねェんだよォッ!!」
BOOOOOOM!!
熱を帯びた掌が、地面に足元の地面に振り下ろされる。
「ガッ…ハッ……!!」
耳に反響する轟音、そして共に伝う熱と衝撃を最後に、八千穂の意識は闇へと落ちた。
──────
一方、爆豪と分断された緑谷は、絶え間なく出現する空間の裂け目から逃れるべく、『浮遊』の個性と身につけた反射神経と柔軟性で縦横無尽に魔都の空を駆けていた。
しかし、緑谷の進行方向を予知するかのように、先行する先々で空間の捩れが音を立て、じわじわと緑谷を追い詰めていく。
(穴に取り込まれて転送された時、黒鞭が一瞬弛緩した隙を突かれて逃げられた。でも、出雲さんの能力について分かった事がいくつかある)
一つ、彼女の能力は空間操作であり、①自身と触れている者を対象に、空間のゲートを通してワープ、②空間そのものを歪みで捻り裂いて防御を無視した攻撃への転用、の二種類である。
一つ、空間を捻り裂く攻撃には、転じる際の順序が必要であり、①手印を結び、②空間の歪みが生成される際に軋むような音が発生し、③殺傷能力を持つまで数秒のタイムラグが生じる。
一つ、移動用の穴のタイムラグはほぼ無いに等しく、連続使用も可能。
(黒霧と似たような能力だけど、攻撃性に関しては、彼女の方が厄介…!でも、厄介なのは能力だけじゃない……!)
にょん
「どこに行くのかな?」
「ッ!!」
ドガッ!!
考察と回避を続けていた緑谷の頭上に、ワープした天花が、飛行する彼の頭に蹴りを叩き込む。だが寸前に緑谷が上に上体ごと振り向いて体勢を変え、両腕を壁にして防ぐ。
(また防がれちゃった…)
叩き込まれた足を緑谷が振り払うと、今度は拳を握り締めて、再び打撃を繰り出そうと構える。
(危機感知で咄嗟に腕で防いだけど、この人の一撃……華奢な身体からは想像出来ないくらい重い!体術も相当鍛えられているんだ…!)
緑谷が黒鞭で再び捕らえようとするものの、再度穴を展開した天花は易々と回避する。
(生半可な攻撃は避けられる!このままワープを介したヒット・アンド・アウェイと空間断裂を用いた遠距離攻撃で攻め続けられたら、一方的に潰される…!だったら…!)
このままではジリ貧。この状況を打開するには、まずは相手の厄介な空間能力を封じなければならない。
確かに強力な能力ではあるが、個性と同様、一見隙のない能力だろうと、完全無欠がないように、何かしらの弱点が必ずある。
『緑谷、俺の個性を!』
「煙幕!!」
『浮遊』を解除し、窪んだ盆地のような場所に降りた緑谷が、精神世界の六代目の声と共に『煙幕』を再び全身から広範囲に展開。辺り一帯の土地を煙で覆い隠す。
(煙幕で空間全体を覆い隠した。僕の推測通りなら、これで暫く能力が制限される筈……!ここからは一か八かの大博打…!紡がれた"個性"の力を、彼女に見せつける…!)
──────
「うーん、完全に姿を上手く姿を隠したね」
濃煙で充満した崖下を見下ろしながら、冷静に相手の出方を観察する。
緑谷が推測した通り、
──しかし、それは所詮その場しのぎにしかならない。
(またさっきみたいに、煙の中から奇襲を仕掛けるつもりかな?それとも、そのまま痺れを切らした私が降りてくるのを、ひたすら待つつもりなのかな?)
前方に盾としての役割を持つ複数の小さなゲートをつくり、いつでも奇襲に対応できるよう警戒する。分断前は少年二人の連携に遅れを取ったが、仮に先程の黒い帯状のエネルギーが迫っても、到達する前に歪みの吸引力が分散させる。
「本当に、ここ最近は色んなことが起きる…」
出雲天花はふとひとりごちる。
この一ヶ月、魔防隊を取り巻く環境は、目まぐるしく流動した。
七番組組長の
そして現に相対している、"桃"の恩恵と同じような能力を行使できる男子の存在。しかも、総組長のように複数の能力を所持し、それを自在に操っている。
八雷神の脅威に備え、七番組組長と共に、人型醜鬼と化した和倉優希の姉"青羽"とも協力関係を結んだ彼女は、緑谷と名乗る少年の事情を聞き、その姿勢や表情、声色から虚偽ではない、と判断。保護及び協力関係の構築も考えた。
──しかし、
(他の組長たちからそう簡単に了承が降りるとは思えない。それに優希君とは違って、彼らの能力は生来のもの。最悪八雷神の刺客と捉えて処断されかねない)
彼らはこの世界にとっての"異端"。黙認するには、余りにも存在が重い。
天花がチラリと、横目で遠くの岩陰にいる人影に視線を送る。
彼女が戦闘不能状態に陥った場合に備えて、また証人という保険も兼ねた、彼女が最も信頼する人たちにも見極めてもらう。
見慣れた二人の姿を垣間見た天花は、笑みを溢しつつ、両手を組んで手印を結ぶ。
「でもまあ、もう終わらせちゃうんだけどね」
──────
「本当に俺と同じくらいの男が、天花さんと闘ってる……」
二人の戦場から二〇〇メートルほど離れた、大きめの岩の陰。そこから頭部をひょっこりと出して様子を伺っていた異形から、驚嘆と呆然が入り混じった声が放たれる。
そして屈強たる白い巨体の広大な背の上には、軍服と帽子に身を包んだ長い銀髪の麗女が、異形の首に繋がれた鎖を手に持ちながら、膝を着いて騎乗していた。彼女もまた、遠方の光景を目に焼き付けながら、別動隊と無線で連絡を取り合っていた。
報告を受け終わったのか、しばらくすると無線を切り、自身が跨る異形に向けて、簡潔に伝える。
「……八千穂が敗れたらしい」
「八千穂さんが!?」
異形の動揺する声に銀髪の女性は頷く。側から見れば主と従者を想起させるが、彼女らのやりとりには、お互いへの信頼関係が滲み出ている。
「今、魔都遭難者を保護した日万凛と朱々、サハラが対応している。……安心しろ、八千穂は気を失ってはいるが、それ以上危害は加えられていないようだ」
「よ、良かった……」
彼女の言葉に剛腕化した腕で胸を撫で下ろす。
しかし、かつて交流戦で自身と日万凛を苦しめた八千穂があっけなく敗れたと聞き、この異形の姿では起伏の少ない表情を曇らせる。
「天花さん……大丈夫ですよね?」
「今は天花が戦場を優位に進めているが……どう転ぶかは最後まで分からん……」
(総組長のような複数能力の所持、天花に限って油断はないとは思うが……)
一抹の不安を抱きながらも、天花の実力を知る彼女は、仲間を信頼せずにどうするのだと、自分に言い聞かせてた刹那、注視していた戦場にて変化が起きる。上空に開いた巨大ゲートが、ブラックホールのように、地上に充満していた煙を吸い寄せ始めたのだ。
「京香さん!」
「ああ、天花のやつ、決着を付けるつもりだ!」
異形の怪物の姿に変身した"和倉優希"が、目の前で繰り広げられる大規模災害級の離れ業に、唾を呑み込み、その光景に身震いを起こす。
そんな彼の主、七番組組長"羽前京香"もまた、いつでも動けるよう剣に手を添えつつ、彼女と緑髪の少年の結末を見届けるしかなかった。
その僅か三〇秒後、彼女の言葉通り、緑谷出久の存在を証明するための戦いは、急転直下の勢いで終結する。