魔都精兵の英雄   作:若人の気紛れ

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少し展開が強引過ぎたかも……。


考えるより先に

──数分前

 

 互いに厳しい目つきを浴びせ、両者の間に一触即発の緊張感が漂う。

 

「八千穂たちを放して」

 

「だったら先ずテメェが銃口下げろや」

 

 右手をショットガンに変化させた"東日万凛"が銃口を向ける先には、意識を失った実の姉を肩に担ぎ、遭難した兄妹を脇に抱えた爆豪勝己がいた。

 二十分前、緑谷と爆豪が遭難者を保護した頃、出雲天花からの応援要請を受けた羽前京香は、七番組各員と共に現場に急行。発信された座標の元に、二つのチームに分かれた後、日万凛と朱々は途中、六番組の若狭サハラと遭遇する。事情を聞いた彼女をそのまま回収すると、日万凛が運転するジープは、座標が指し示す場所に直行した。

 

 そして、張り詰めた剣呑な雰囲気を醸し出す現在に至る。

 

「先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはコイツだ。俺ァ降り掛かる火の粉を吹っ飛ばしただけ、所謂正当防衛ってヤツだろ」

 

「確かにいきなり発砲した行為は短絡的だったかもしれない。だけど、もう少し冷静に場を収めようとは考えなかったの?」

 

「コイツが話聞かずバンバン撃ってくるからこうなったンだろうがッ!」

 

 移ろう日万凛の視線の先に動く人影。爆豪から少し離れた岩陰に身を隠すと、岩の後ろからサムズアップを送る。

 

(位置についたよ!)

 

(いつでもやっち救出作戦いけるよ〜)

 

 交渉が決裂した際、自身の能力で手のひらサイズとなった七番組の駿河朱々、その彼女を隊服の中に忍ばせた六番組の若狭サハラが、日万凛の合図が出次第、人相の悪い彼を取り押さえて東八千穂を救出する算段を立てていた。

 

(後ろに一人……いや、気配からして二人。全r……葉隠と同じような個性でも使ってるのか?ちっ、メンドくせぇ)

 

(どうせこれ以上話していても平行線を辿るだけ。それに、八雷神の刺客の可能性もある彼を野放しにするのは、どの道危険すぎる)

「最後通告よ。八千穂たちを放して」

 

「テメェらの組織は話聞かん奴しかいねェンか」

 

 この世界に来てからというのも、碌な人格にとことん出会わない爆豪の苛つきが、段々と怒りのボルテージを沸々と上げていく。

 要求に応じる気はないと判断した日万凛が待機している二人に合図を送ろうと、武器化していない左手を上げた瞬間、

 

『日万凛さん!そちらに醜鬼の大群が迫っています!』

 

「何ですって!?」

 

 寮で待機していた"大川村寧"から、無線で醜鬼襲撃の知らせを受ける。

 その数秒後、彼女の知らせ通りに、大量の醜鬼の集団が迫ってきた。ソレらは地響きを立てて、すぐさま距離を詰めてくる。

 

「くっ……朱々、サハラ!作戦変更よ!醜鬼の大群を殲滅」

 

BOOM!!

 

 七番組副組長として、二人に指示を下す途中、熱を持った光が、彼女の横を通過し、醜鬼の先頭集団が突如として爆ぜた。

 

(今の爆発は……!)

 

「日万凛ちゃーん、やっち達保護したよ〜」

 

 振り返ると、元のサイズに戻った朱々とサハラが、先程まで爆豪が抱えていた兄妹と八千穂を腕に抱えて駆け寄ってきた。

 

「八千穂!……アンタいったい何のつもり?」

 

 二人に八千穂らを投げ渡した張本人、こちらに背を向けて蒼く燃え盛る醜鬼の屍の上に立つ、爆豪勝己に問い正す。

 すると、先程の苛つきを見せていた表情と態度は鳴りを潜め、静かに口を開く。

 

「魔防隊は、テメェらの世界にとっての"ヒーロー"みたいなモンなんだろ?

 だったら、命助けて敵を潰す。それがテメェらの職務だろーが。

 俺を疑って足手纏いするくらいなら、そこでガキ共相手に子守唄でも歌って、黙って見てろ」

 

 そう淡々と突き放すように言い放つと、掌からの爆破で後続集団に突撃し、次々と醜鬼達を蹂躙する。

 

「……ほんとうに何なのあの男?」

 

「言ってくれるじゃない……っ!」

 

 男の言葉が脳内に反芻し、堪らず拳を握り締める。しかし同時に、副組長としての責務を全うするべく、頭を切り替えて二人に指示を送る。

 

「朱々、自分たちも八千穂と遭難者を守衛しつつ醜鬼の殲滅に専念!サハラも力を貸して!」

 

「了の解!」

 

「今日は5分でやるよ〜!」

 

 隣の二人もやる気十分のようで、それぞれ能力で巨大化、または黄金のオーラをまとって身体能力を強化し、臨戦態勢を取る。

 

(発破をかけられたみたいで癪だけど、確かに自分たちは人々の平和を守るために存在する魔防隊。上等じゃない…!)

「行くわよ!」

 

 彼女たちが足を踏み出した瞬間、

 

ズズズ……

 

 遥か遠方の山が動いた。

 

──────

 

 暗雲満ちる魔都の空の一角にて、虚空が生じる。

 それはまるで光さえ飲み込む黒渦のように、地を這う煙を砂塵ごと巻き上げ、吸い込み擦り潰す。

 常人には到底到達出来ない離れ業。それをたった一人の若齢の乙女が実現させていた。

 しかしその境地に達するのは決して生優しいものではなく、長年の血を吐くような鍛錬と、醜鬼との戦闘を繰り返し、遂にこの領域まで昇華させたのだ。

 

天御鳥命(アメノミトリ)・最大出力」

 

 口角を持ち上げながら、上空に作り出した簡易的なブラックホール──彼女の集大成そのものが、少年が噴出した紫煙を全て剥ぎ取り、覆い隠された地表が徐々に明らかになっていく。

 

「くそッ……!」

 

 ほんの十秒も経たずに、煙を殆ど吸い上げられ、苦悶の表情で地面にしがみつく緑谷の姿が露わになる。

 彼は両腕を地面に突き刺して、身体が吸引されないよう固定して耐え忍ぶ。しかし、そんな無防備となった彼に、質量を持った風圧と砂塵の飛礫が襲いかかる。

 さらに断崖の上には、緑谷を再び捕捉した天花が、彼の両腕を空間で捻り切ろうと手印を結んでいた。彼の両腕付近に、ミリミリと空間が裂ける音が響く。

 

「これで詰み、だよ…………ッ!?」

 

 天花が静かに宣告する。だが、地面に這い蹲る少年の瞳は、まだ何も諦めていなかった。それどころかむしろ、眼差しは果てしなく熱いものが宿り、力強く燃えていた。

 

(……耐えろ、耐えるんだ……!!肺が潰れようと……腕が捥げようと!)

 

 吹き荒れる空気と反重力に緑谷は必死に耐え続ける。しだいに空間が歪み始め、緑谷の腕が巻き込まれかけた瞬間、

 

ボゴンッ!!

 

「なっ──!?」

 

 見下ろしていた天花の身体が、地中から岩盤を貫き現れた黒い鎖により、宙に押し上げられた。

 

──────

 

 僕の推測が正しければ、二種類の空間操作の内、攻撃性能のある歪みを生じさせるには、その場所を目視する必要があり、そこから手印、空間の生成、空間圧縮による断裂、といった特定の順序を踏まなければならない。

 確かにブラフの可能性もあるけど、彼女が僕に空間断裂で攻撃する時は、必ず地上の何処かしらから僕を視ていて、上記と同じ順序で空間断裂を発動させていた。

 だから煙幕で僕の姿を目視不能にし、的を絞らせない事で空間断裂を一時的に使用不能にされた、という思考に誘導する。

 もちろん、この煙幕の中にワープして直接叩きにくる可能性もまだ捨てたわけじゃない。けれど、彼女には散々『浮遊』、『黒鞭』、『煙幕』の個性のみを見せつけて、『危機感知』で攻撃を何度も防いできた。

 そういった相手に視界不良の中、近接戦闘を仕掛けるのは得策でないと考えるのではないだろうか?

 なぜなら、一度黒鞭に捕まった彼女は、黒鞭の特性の厄介さを知っているからだ。

 それに加えて、彼女も複数の個性を操る僕を相手に長期戦は避けたいはず。そう仮定するなら、早急に仕留めたい、けれど遠距離攻撃は封じられ、近接はリスクが高い。

 そうなれば、相手は一度思考から外していた空間断裂を選ばざるを得ない。

 空間断裂は周囲の空間を物体ごと巻き込む技。だから、それを応用した技で『煙幕』を消散させて、丸裸になった僕をそのまま仕留めに来るだろう。

 

 ここで重要なのが、いかに相手を同じ場所に留めておく事だ。

 彼女が僕に僅かな敵意を持つ限り、『危機感知』で居場所を把握し、その場所に向けて地面に突き刺した腕から、かっちゃんと分断される前から蓄積させた『発勁』で硬度を補強した『黒鎖』を他の『黒鞭』と一束にして極限まで伸ばし、地中を進む蚯蚓のように潜行させる。

 その間に、煙が晴れて僕の姿が露呈した時、僕が必死に耐えて追い詰められている状態を演じることで、『黒鎖』のカモフラージュを兼ねて彼女の目を僕に釘付けにする。

 そして、到達した『黒鎖』を主軸に、纏まっていた他の黒鞭と共に彼女の全身を拘束。腕は手印を結べないよう、後ろ手に拘束し、ワープで逃げられないよう宙に固定させ、無力化する。

 

 

 察した通り、これは上手く行く保障のない極めて危険な賭けだ。だけど、ワープで瞬間移動しながら戦う相手に勝つには、相手の動きを止める、現状考えられる最良の一手はこれしかない。

 

「勝負だ……!」

 

 地面に腕を突っ込み、手の先から黒鎖と数本の黒鞭を地中を削るように伸ばす。

 布石は既に打った。

 

 空気の流れが変わる。

 張っていた煙幕が上へと昇っていった次の瞬間、吹き荒れる風の猛攻が、僕を薙ぎ払うように襲いかかった。

 

──────

 

 場面は戻り、緑谷の黒鎖が崖上の天花を押し上げ、万が一、地面から脱出されないよう宙に拘束する。

 全身を黒鞭に縛られた天花が逃れるために天御鳥命を発動させるが、

 

「ッ!?」

 

 彼女のすぐ背後にワープゲートが出現する。しかし、頑丈に拘束されているため、その場からゲートに向けて身じろぎ一つ叶わない。

 

「やっぱり、ゲートは空間に固定され、本人が入らなければワープは発動できない!

 そして、物体に干渉できるわけではないから、僕の黒鞭から逃れる事はできない!」

 

(しまった──!)

 

 天花の集中力が思わぬ攻撃で途切れた事で、空を覆っていた黒渦は消え、代わりに全身に緑色の稲光をまとった少年がこちらに向けて跳躍していた。

 

「僕の勝ちです!出雲天花さん!!」

 

 緑谷が叫びながら、天花がいる断崖の上に着地した瞬間、

 

「──隷架拳!!」

 

 頭上から振り下ろされた拳を危機感知で察知した緑谷が、横に回避する。拳が振り下ろされた地面には、大きなクレーターが形成されていた。

 

「ぐっ……!」

 

「大丈夫か!天花!!」

 

 飛び退いた緑谷が前を見据えると、剛健な肉体を誇る首輪のついた魔獣と、その背に乗る腰に日本刀を携えた軍服姿の銀髪の女剣士が、拘束された天花を庇いながら此方に対して身構えていた。

 

(ここで新手──!?)

 

 緑谷も右脚と右手を前にして構える。

 

「天花がここまで追い込まれるのは初めてだ。だが、これ以上危害を加えるというのであれば、此処からは魔防隊七番組組長"羽前京香"が相手だ!」

 

「ちょっと待って京ちん──!」

 

『組長!聞こえますか!!』

 

 鞘から刀を抜いた京香を天花が制止しようとすると、京香の軍服の内ポケットにしまっていた無線から、何やら慌てた様子の女性の声が辺りに響く。

 

「…ッ、どうした日万凛!」

 

『組長がいる方向に、超巨大醜鬼が出現!』

 

「「「!?」」」

 

 次の瞬間、大きな振動が地上を揺らす。地響きの震源と思われる方に目を向けると、高く聳え立つ山よりも遥かに巨大な醜鬼が、岩山を悠々と乗り越えて、巨影を作り見下ろしていた。

 

(いつの間に!?それにこの巨体、京香さんがいない時に、寮で俺と朱々が倒した個体の比じゃない!!)

 

「……分かった。私と優希で対応する。だがそっちにいた男はどうした?」

 

『……彼は、我々と醜鬼の大群を全滅させた途端、そのまま其方に向かって飛んで行きました。敵意はないように感じましたが、念のため警戒を…』

 

 京香と呼ばれる女性が部下と思われる女性と話す中、ふと醜鬼が手にかける岩山を視界に入れると、その麓付近を凝視した緑谷が大きく目を見開く。すると程なくして、緑谷が突如巨大醜鬼に向かって駆け出した。

 

「……!?おい、待て!!」

 

 相対していた相手が起こした突発的な行動に、普段滅多な事では取り乱さない京香も、日万凛の報告を遮り驚嘆する。

 

「速ッ──!?」

 

 京香を背に乗せた異形の優希が制止しようと手を伸ばすも、この世界で初めて『危機感知』が発動して爆豪と山岳地帯を登った以来、ずっと両脚に蓄積させていた『発勁』を解放した事で急加速し、彼の白い剛腕を振り切ると同時に『浮遊』の個性を再び使用して上昇する。

 

「逃げた…?いや、まさかあの少年、一人であの醜鬼を倒すつもりなのか…?」

 

にょん

 

「天花!」

 

 無謀だ、と言いかけた京香の隣に、先程まで拘束されていた天花が現れる。その腕には、学生服を来た女学生が抱えられていた。

 

「その子はまさか……!」

 

 勘付いた京香が目を見開く。

 

「ええ、未保護の魔都遭難者。僅かに動く人影を目視した彼は、駆け出したと同時に、彼にとって敵である筈の私を解放した。私の能力であれば、この子を迅速に助けられると考えたのよ」

 

 天花の言葉に、京香は顎に手を当て考える素振りをみせる。しばらくしたのちに緑谷の後ろ姿を見上げながら言葉を溢した。

 

「自分の身の保証よりも、人命を優先……見ず知らずの魔防隊(我々)を信用しているとでも言うのか?」

 

「ええ、けれどようやく確信を持って言える。あの子は、私たちにとっての……」

 

──────

 

 君はヒーローになれる

 

 僕がまだ身の丈に合わない夢想だと思いながら、必死に夢を追い縋っていたあの日、憧れから言い渡された言葉を思い出す。

 逃げ惑うあの子を見た僕の身体は、"考えるより先に動いていた"。

 

 別に示し合わせたわけではなかったが、黒鞭と黒鎖の拘束を解いた僕の意図を理解した出雲さんは、彼女の能力で遭難者を瞬時に救助、そして僕は今──空を飛んでいた。

 三十分近く両脚に蓄積し続けていた『発勁』を一気に解き放った事で、『浮遊』の個性も加味した僕の身体は、弾丸並みの速度で異界の空を裂く。

 

 確かに、この世界は僕らがいた世界ではない。この世界の人々にとって、僕らは歓迎されるべき存在ではないかもしれない。

 

 だけど、例えそうだとしても、無力に踏み潰される命を見過ごす事などできない。

 

 差し伸べる事のできる手を差し伸べないで、僕が受け継いだ"力"は、僕が憧れ目指す"ヒーロー"は、いったい何のために存在するんだ。

 

「誰かに助けを求める人を救えないで……!みんなを救けるヒーローになれるかよ!!」

 

 両脚に限界まで凝縮したエネルギーを一方向に解放した『発勁』と空中機動を可能とする『浮遊』、そして『AIR (エア)FORCE(フォース)』による推進力+『OFA(ワン・フォー・オール)』35%

 

 黒鞭と遠心力を用いらずとも、空飛ぶ弾丸よりも速く駆け付けるオールマイトに憧れ、編み出したもう一つの模倣技。

 

 地を足で蹴ってからここまで僅か十秒足らず。濁った黒色の巨躯が目前にまで迫ったタイミングで、右手に力を溜めて、大きく振りかぶる。

 強靭な肉体を持つ怪物を一撃で倒すには、ただひたすらに目指すは、圧倒的力による一点突破。

 

TYPE(タイプ)-2 疑似100%!!

 

DETROIT (デトロイト)SMASH(スマッシュ)!!」

 

SMAAASH!!

 

 めり込んだ拳を先陣に全身ごと醜鬼の巨体を貫く。許容できない衝撃が全身を駆け巡り、体表がボコボコと隆起して膨らみ、膨大なる血を吹き出す。かつて山をも超える巨体を誇った醜鬼は瞬く間に爆散し、小さく脆い無数の肉片へと還った。

 

───────

 

「すげぇ………」

 

 崩れ去る醜鬼の残骸を見呆けながら、異形化した優希の口から憧れに似た言葉が洩れる。

 自分と対して歳の変わらない男が、山とは比較さえできない醜鬼に怖気付く事もなく立ち向かい、あろうことか一撃で倒してしまったのだ。

 

 和倉優希が抱えるとある夢。

 

 そして彼の目に映った緑谷出久の姿は、彼の目指す夢の遥かなる先を体現していた。

 光を迸りながら空を降りる彼の後ろ姿は、この瞬間、この魔都にいる誰よりも、眩しく見えた。

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