魔都精兵の英雄   作:若人の気紛れ

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思ったより時間がかかってしまった……。


これからの話

──目を醒ます。

 

 そこは暗闇だった。

 しかし周囲を光が夜天の星々の軌道の如く、瞬く間に過ぎては消え、過ぎては消えを繰り返す。

 何度も招かれた神秘に満ちた空間。

 この空間は現実には存在しない、謂わば"夢"の延長線。

 ここはOFAに宿る因子──歴代の継承者たちとの意思と疎通ができる精神世界である。

 

『よぉ、起きたか坊主』

 

 鼻から下の全身を黒いモヤで覆われた僕の前に、頭にゴーグルをかぶったスキンヘッドの筋肉質の男が佇む。

 その隣には、口元まで襟が伸びた赤いコートを着た飄々とした黒髪の男が並んでいた。

 

 「万縄 大悟郎」と「揺蕩井 煙」。

 彼らは先の先頭で大いに役割を果たした、『黒鞭』と『煙幕』の個性を所有していた歴代のOFA継承者の五代目と六代目にあたる人物である。

 

(五代目…!それに六代目…!)

 

 ここでは僕の鼻から下の全身は、黒いモヤのようなもので覆われており、自由に動いたり、会話することが困難となる。

 

『悪いが小僧、今は呑気に雑談している余裕がない。今回は急を要する事態だ』

 

 後ろを振り返ると、崩れかけた壁に寄りかかり俯く、眉間に傷のついたオレンジレッドの髪色の男。その手前には、額にバンダナを巻き、水色の長髪を後ろに一本にまとめた男が立っていた。

 二代目継承者の「駆動敏次」と、三代目継承者「ブルース・リー」。『発勁』の個性は、元々三代目が保持していた個性である。

 

『出久くんも既に推測しているように、今、君たちがいる世界は、私たちが存在していた世界とは、成り立ちから異なる世界なの。その影響かどうかは定かではないけれど、私たちと出久くんとの繋がりが不安定になっている』

 

(!?)

 

 さらに渦巻く暗黒の奥から、顔にヒビ割れたような傷がある寡黙な男──個性『危機感知』、四代目継承者「四ノ森避影」。続けて白いマントを羽織った聡明な女性──個性『浮遊』、七代目継承者「志村菜奈」が姿を現し、OFA(ワン・フォー・オール)に起きた異変を深刻な面持ちで静かに告げる。

 

(一体どういうことですか!?もしかして、世界に順応できなかった『OFA(ワン・フォー・オール)』が消失を……!)

 

 声を震わせる僕の肩に、白髪の痩せ型の青年が手をかけた。決して大きな声ではなかったが、不思議と耳に通る響きを持って届く。

 

『大丈夫だよ。君が懸念しているような内容じゃないから、まずは落ち着いて』

 

 そう肩に手をかけた青年───初代OFA所有者「死柄木与一」が優しく微笑みかけた。

 

『だけど、君と僕たちの交信が隔絶されつつあるのは事実だ。僕たちの"個性"はこの先問題なく使用できるだろうけど、君に助言を与えることは叶わなくなる。君はまだ"OFA"の総てを引き出すに至ってないからね』

 

 確かに、僕が負担なく行使できるOFAの出力は45パーセントに留まっている。また、歴代継承者たちの個性も、まだ完全に扱い切れているとは言えなかった。

 

『でも焦る必要はない。交流は一旦断たれるけど、しばらくの間だけさ。それに僕たちはずっと君の中にいる。………おっと、結局雑談をしてしまったね。それじゃあ、本題に入ろうか』

 

 初代が継承者たちがいる方へ移動し、彼らは暗闇の中のある一点を見つめる。僕も釣られて彼らが見る先を見つめると、此方に向かって歩いてくる人影──黄金に揺らめく"平和の象徴"の面影が、意味ありげに僕に対して視線で訴えていた。

 

『今から話す内容は、外にいる君の友人にも共有しておいてほしい。……君の中の八代目が感じ取った、僕らがいた本来の世界の現状を……』

 

───

 

「…………ク……ぃデク……………おい、デク!!」

 

「はっ!!」

 

──目を覚ます。

 

 先代たちとの会話を終えて帰還した僕が意識を取り戻すと、必死な顔をしたかっちゃんが僕の肩を掴んで揺らしていた。

 

「か、かっちゃん!?」

 

「デク……!!………ッたく、バカデケェ仮面ゴリラが現れたと思ったら、テメェがソイツを一人でぶっ倒して、かと思えば一人でボーっと突っ立ったまま動かねーしよ」

 

「もしかして、僕を心配してくれたの?」

 

「アァッ!?テメェは対死柄木戦の『要』だろーが、つーかいつになったら、自分(テメー)を勘定に入れるんだ。A組(アイツら)が泣くぞ!」

 

 そう目を横に尖らせながら、指で僕の胸をドスドスと突く。

 

「ひ、人が踏み潰されそうだったから、つい…って、かっちゃんもその傷!」

 

「こんな擦り傷、舐めときゃ治るわァッ!!」

 

「銃槍は擦り傷じゃないと思うんだけど……」

 

「んで、何があった?『個性』の反動……ってわけじゃなさそうだが」

 

「それなんだけど、実は……」

 

にょん

 

 桃色に輝く羽毛が舞い、二人のすぐ側の空間に、人が三人ほど通過できる程度の穴が開く。暗穴の中から、先程まで対峙していた出雲天花が姿を現し、その後ろに羽前京香と異形化状態の和倉優希が続く。

 

「野郎…!」

 

「クッ…!」

 

 彼女たちの姿を見た爆豪が、両掌を爆発させて威嚇する姿勢を見せると、和倉優希も拳を掲げて身構えた。

 

「優希、拳を下ろせ」

 

「かっちゃんも、警戒しなくて大丈夫だよ。彼女たちにはもう、僕たちへの『敵意』はないから」

 

「デク……」

 

 主と幼馴染の言葉に双方が拳を収める。すると、異形化していた優希の肉体が光の明滅と共に変化し、元の人間の姿に戻る。

 

「変身型の能力…?」

 

「野郎、人間だったのか…」

 

 優希の能力と思われる変化に興味を抱くなか、後ろの京香に軽く会釈をした天花が、二人に向けて一歩歩みを寄せ、深々と頭を下げた。

 

「君たちにいきなり攻撃を加え、君たちの言い分にも耳を傾けなかったことを謝罪します。……本当にごめんなさい」

 

 後ろに控えていた京香と優希も頭を下げ、その異様な光景に緑谷は慌てふためく。

 

「あ、頭を上げてください!悪気があってやった事ではないのは分かってましたから!」

 

「そういう問題じゃないの」

 

「え?」

 

 天花の沈んだ声に思わず聞き返す緑谷。隣にいた爆豪もまた、腕を組んで静観を貫いていた。

 

「近頃、魔都に醜鬼たちを束ねる存在──八雷神と呼ばれる正体不明の集団が現れた。彼女たちの中には、能力を使う男性型の人外たる存在も確認されているのだけれど……男の子であるにも関わらず、私たちと同じように能力を扱う様子を見て、君たちを八雷神と関係あるのではないか、と疑ってしまったの」

 

「それで俺たちに喧嘩を売ったんか」

 

「ええ」

 

 ぽつりと爆豪が納得したように呟くと、頭を上げた彼女が頷く。

 得体の知れない自分たちに対する彼女たちの行動は、日本の安寧を守護する組織として、行き過ぎた面もあったが当然の行動の範囲内に収まる。

 それでも、正義感に満ちた人間を人外の化け物と疑った自分を許せなかったのだろう。

 

「私たちは魔都災害から人々を守るための『魔防隊』」

「君たちが醜鬼から遭難者たちを守っていた時は、もしかしたら欺くための演技かもしれない、といった疑念も抱いていたわ。

 でも、その後の大群や巨大醜鬼を相手に幾度に渡って、自分の身も顧みずに遭難者たちを助ける姿を見て、君たちは敵ではない、とようやく確信できた」

 

 そう言葉を続けて、天花は再度頭を下げる。

 

「改めて、君たちに取った配慮の欠けた対応を謝罪します」

 

 頭を下げられた二人は顔を見合わせる。

 はじめから糾弾するつもりもなかった緑谷は言わずもがな、爆豪も多少の言いたい事はあるものの、彼女の真意と謝罪の時点で、責め立てる気は失せていた。

 誤解も解け、敵意も向けられていない。もう争う必要はないのだ。

 

「顔を上げてください、出雲さん。さっき言った通り、悪気がない事は分かってましたし、僕たちへの攻撃も、あなたたちの良心と組織の職務に準じた故の正当性のある行為です」

「ですから、お互い水に流しましょう。もう誤解も解けたんですから」

 

 緑谷が手を差しのべる。

 

「……君は優しいんだね。ありがとう緑谷くん」

 

 差し伸べられたその手を天花は握る。互いに互いの手を強く握り締め、両者の間にあった未知への隔たりは、綺麗にさっぱりと消え去った。

 

──────

 

 遭難者を七番組が現世に送り届けた報告を受けた天花は、二人に突然こんな事を言い出した。

 

「君たちを魔防隊寮の管理人にスカウトします」

 

「アァッ?なんでそうなンだよ?」

 

「その提案、喜んでお受けしてもいいですか?」

 

「アァッ!?なんでそうなンだよ!?」

 

 唇を噛み締めながら顔を赤らめた京香と優希が遠く離れた岩陰に移動した後、天花の提案と緑谷の承諾に爆豪が声を荒げる。

 

「だってかっちゃん、この世界の僕たち、住所不定、無戸籍、無一文なんだよ!それに、かっちゃん怪我してるじゃないか!」

 

「テメェが俺に気を遣うなや!つーか、そういう時は普通『保護』だろ。なんで俺たちがコイツらの雑用をしなきゃなんねーんだよ」

 

 発言に噛み付く爆豪に、天花が答える。

 

「君たちの存在は、この世界の理を捻じ曲げるほど重大なの。君たちは先刻の津々浦々で私たち六番組と、京ちん率いる七番組から一定の信頼を得た。けれどそれだけでは、役満三拍子が揃ってる君たちを看過して『保護』し続けるには、存在があまりに重すぎる」

「特に、私たちの組織のトップである総組長は、日本、将又世界を脅かす異分子と判断すれば、真っ先にあなた達の排除に動くでしょう」

 

「……つまり、僕たちが保護されるためには、その総組長からの信頼を得なければならなくて、そのためには魔防隊に貢献しなければならない、という事なんですね」

 

「チッ、ちっせーな。だったら戦闘員が相場だろうが」

 

「……悪いけれど、男の子は魔防隊にはなれないの。そういう組織だから、これに関しては呑み込んでほしい」

「きっと君たちの存在はすぐに魔防隊中に知れ渡って、明日には組長会議の議題にも挙がるでしょう。そこで君たちにも会議に出席してもらうわ」

 

「言っとくが、俺たちは此処に長居するつもりはねェぞ。俺たちは一刻も早く雄英に戻んなきゃなんねェんだ。俺ァ顔金玉野郎の術中に嵌まって飛ばされた線も捨ててないからな」

 

(顔金……)

 

「それなんだけど、かっちゃん……」

 

 悪態を吐く爆豪に、先代たちとのやりとりを思い出した緑谷が、その内容を伝える。

 緑谷の口から語られる内容に、意外にも爆豪は、それに対して静かに耳を傾けていた。

 

─────

 

「それじゃあ、組長会議を始めよっか」

 

 翌日の昼頃、魔都の中央に位置する、魔防隊十番組の拠点も兼ねている魔防隊総本部。その会議室にて、九名の女傑が一堂に集っていた。

 京香の装備品として会議の出席が許可されている和倉優希は、今まで経験のないほど張り詰めた空気に開始早々息が詰まりそうになっていた。

 中央に据えられた長机。その周囲に魔防隊の各組長たちが着席している。

 彼女らの目の前に置かれた数枚の資料に、本日緊急の議題の渦中にある、彼らの名前が記されていた。

 

「本日の議題は、昨日(さくじつ)、六番組並びに七番組と交戦した二人の少年の処遇について」

 

 最も視線の集まる長机の上座に、彼女は居た。

 魔防隊総組長"山城恋"。『生命の極み』、『地球の答え』と称される彼女からは、圧迫感に似た異様な重厚感が放たれている。

 

「昨日、六番組が魔都遭難者の捜索中に遭遇し、のちに交戦。彼らは本来男性が持つ事の出来ない、『桃』による恩恵に似た能力……彼らの話だと『個性』と呼ばれる力で、天花と組員の八千穂を返り討ちにしたそうよ。相違ないわね、天花?」

 

「はい」

 

 総組長の視線に動じることなく、端的に肯定すると、会議室に小さなどよめきが起こる。

 

「彼等の名前は『緑谷出久』と『爆豪勝己』。折寺中学卒業後、雄英高校ヒーロー科1年A組に所属。……政府に問い合わせてみたけれど、そのような名前の戸籍も学校も確認出来なかったそうよ」

 

「では、彼らは人間ではないのでしょうか?」

 

 桃色の髪を上に一束にした少女──一番組組長"多々良木乃実"が疑問を呈する。

 

「そう結論付けるのは早計よ。私たちはまだ資料に記された彼らの事しか識らないのだから」

 

 木乃実の言葉に、豊満な肉体と波打つ長髪を誇る妙齢の女性──九番組組長"東風舞希"が冷静に見極めるよう進言する。

 

「それにしても、全人口の八割が異能を持つ超人社会ねえ……超常が日常に、って響き、夜雲さん好きだなー」

 

 張り詰めた空気の中で、毛先にメッシュの入った明るいな女性──五番組組長"蝦夷夜雲"の声が陽気に響く。

 

「はっ、まさか夜雲、ソイツらの話を鵜呑みするつもりか?そもそも、異世界から来たなんて話を信じるわけねえだろ」

 

 背中まで伸ばした金髪に鋭い目つきをした番長風の女性──二番組組長"上運天美羅"が口を尖らせる。

 

「……『魔都』もある意味異世界にあたると思いますが……しかし、男が能力を行使するなど、私は八雷神である可能性も視野に入れるべきかと」

 

 肩に乗った柔らかみのある金髪を手入れしながら、白い肌をした外国人女性──"ワルワラ・ピリペンコ"が無表情に言う。

 

「で、でも、このおふたりは、天花さんたちに一切傷を負わせなかったんですよね?もしかしたら、悪い人たちじゃないのかも……なんて…」

 

 そう弱々しく水色髪の小柄な女性──三番組組長"月夜野ベル"がおどおどと言葉を発する。

 

 各々が二人の情報が載った資料に目を通すなか、七番組組長"羽前京香"が凛々しく声を上げて、皆に呼びかける。

 

「私は緑谷と天花の戦いの顛末を見届けて、彼らは我々が対峙するべき敵ではない、との判断を下しました。実際に交戦した天花も同じ気持ちです」

「確かに、男性であるにも関わらず、能力を持つ彼らは、この世界の理に大きく影響を及ぼすものであり、八雷神でないのかと疑いを持つのも無理はないでしょう」

「しかし、彼らはまだ齢十六の高校生。また彼らの醜鬼の討伐や遭難者たちに対する救助活動等を加味して、彼らの処遇を熟考し、公正かつ公平な判断が下されることを切に願います」

 

 京香の声が会議室に蔓延る重苦しい空気を切り裂く。その時、コンコンとドアを叩く軽やかな音が聞こえ、十番組の備前銀奈が会議室に入ってきた。

 

「恋さま、お二人をお連れしました」

 

「ありがとう、銀奈」

 

 銀奈が組長たちに軽く一礼すると、扉を開けて、外にいた二人の少年を中に招き入れる。

 白いワイシャツを身に包んだ二人の少年が長机の下座に立ち止まると、恋は穏やかに口を開いた。

 

「それじゃあ、始めようか」

 

「……!」

 

「……ケッ」

 

 その言葉を皮切りに、緑髪の少年が掌を握り締め、ポケットに両手を突っ込んだ金髪の少年が心底退屈そうに不貞腐った声を鳴らす。

 

 緑谷出久と爆豪勝己。二人が何者で、この世界にとって善か悪か。

 その行く末を決める会議が始まった。

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