【完結】その日、合歓垣フブキは警察に成った   作:曇りのち晴れ男

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第三話 先生とクイズの日

 

『いつもニコニコ!あなたの経営をサポート!【プロ・デュース】です!』

 

「そういえばあの街頭テレビの会社と話したことあるけど、割とブラック寄りだったんだよね。経営困難で僕が呼ばれたらしいけど、指摘したらやっぱり帰れって言われちゃった」

 

「へ~、先生ってそんなことまでするんだ」

 

 何気ない会話を先生とかわしながら街を歩く。

 

 以前先生と出会った日から数カ月がたとうとしていた。

 私たちは週に数回お出かけをするくらい仲良くなり、カラオケや映画館、先生の行きたいといった場所で言うとバッティングセンターやゲームセンターなど、いろいろ行った。

 ヴァルキューレの人たちにも「いつも一緒」なんて噂をされているし、キリノにもからかわれている……。それ自体は構わないが、なんか恥ずかしい。

 

「ねぇ先生、今日はどこ行こうか」

 

「一応パトロールって名目だからね? なんかみんなが気を使って何も言ってくれてないみたいだけど」

 

「スイーツパラダイスもありじゃないかな?」

 

「聞いてる?」

 

 どうやら最近、ヴァルキューレの一部勢力が私たちの時間を作ろうと四苦八苦してくれているみたいだ。私が行かないといけない任務が生まれないよう遠くの任務にも出向いたり、なんだったり……。

 確かに思春期の学生ってそういうの(?)がいるっていうけど……。なんだか申し訳ないような。

 まぁ先生との時間が増えるのであればそれはそれでいい。

 

 街を歩いていると、いつもより人通りが多いことに気づいた。

 屋台の呼び声があちこちから聞こえ、簡易ステージの上ではスタッフが忙しなく準備を進めている。

 

「……なんか、賑やかなような……」

 

 立ち止まって辺りを見回すと、通りの一角に大きな看板が立っていた。

 

『学区合同・早押しクイズ大会

 優勝賞品:某有名ドーナツ店 半年食べ放題券』

 

 その文字を読んだ瞬間、私は何も言わずに先生の方を見た。

 先生も、同じようにこちらを見る。見合い、二人でにやりと笑う。

 ほんの一瞬。

 けれど、その間に交わされた意思疎通は十分すぎるほどだった。

 

「……出る? 出るしかないよね?」

 

「……出ようか」

 

 受付は簡単で、必要なのは二人一組であることだけ。全八組が参加し、一対一のトーナメント形式。

 三回勝ち抜けば、優勝。

 

「警察がこんなお祭りに本気出していいのかな……」

 

 ここまでくると我ながら職務怠慢が極まってきたのではないかと心配になってくる。

 そんな私を見て何をいまさらとでも言いたそうな先生が笑いながら言う。

 

「町が平和だから、こういう大会が成り立つんだよ。フブキがそんなこと言うなんて珍しいね。熱でもある?」

 

「キリノも先生も、私のことを何だと思ってるの?」

 

「……サボり魔……?」

 

 先生の言葉に、私は小さく肩をすくめた。

 否定は……できない。

 

 ▼  ▼  ▼

 

 

「……私たちの拠点では、恥ずかしいことに一部の出入り口でクイズを合言葉にしている場所があるようだが……君はそれすら突破したようだね」

 

 爪切りの音がパチパチと鳴りながら、奴は私に言葉を投げかける。

 ……目が慣れてきたことで知ったが、奴はロボットのような風格をしている。風格というより体のつくりか。

 ヴァルキューレの中で何度か聞いたことがある、カイザー……なんとかいう企業も上層部はこのロボットの形をしていたような。

 

 ……爪なんてあるのだろうか。

 

「まったく……クイズを合言葉にするとは何と脆弱なセキュリティだ。定期監査を増やさなければな。君はクイズが得意だったのかい?」

 

 爪を整え終えた奴は椅子に腰掛けたまま私にそう聞く。答える義理もないだろう。

 

 ……いや。

 

「ねぇ、なんで私がセキュリティを突破できたか知ってる?」

 

「ふむ、君がクイズが得意だからではないのかい」

 

「……不正解。正解は、あんたたちの出すクイズが低レベルだから」

 

「……舐めやがって」

 

 奴が机の上の紙を持つと、私の顔に爪のような何かがぶつけられた。

 きたない。

 

 

 ▼  ▼  ▼

 

 

 最初の対戦相手は、見たところごく普通の生徒ペアだった。

 緊張している様子もなく、どこか観客気分のまま席に着いている。

 

「まぁ、一回戦だしね。私たちにとってはドーナッツをかけた一世一代の大勝負だよ……」

 

 私がそう言うと、先生は小さく頷いた。

 

「油断はしないけど、気楽にいこう」

 

 開始の合図と同時に、問題文がスクリーンに映し出される。

 

『次のうち、キヴォトスにおける公共施設の利用に関する記述として正しいものはどれか』

 

 選択肢を見た瞬間、私は反射的に先生の方を見た。

 先生も、ほぼ同時にこちらを見る。

 

 視線が交差する。

 

「三番」

 

 先生が低く言った。

 

「……うん、三番だね」

 

 私の中でも答えは同じだった。

 警察として日常的に扱う規則だ。

 

 ボタンを押す。

 正解音。

 

『うおおお! 早えええ!』

『二番だと思ったんだけど……』

『あの人勤務中の警察じゃないの……?』

『ん、ズルい』

 

 会場が軽く沸いている。

 なんだか私に突き刺さる指摘が聞こえた気がしなくもないが、気のせいということにしておこう。

 

 次の問題。

 

『人が混雑した状況で、最も優先されるべき安全確保の行動は何か』

 

 今度は、私の方が早かった。

 

「はい」

 

 ボタンを押す前に、先生がちらりとこちらを見る。

 

「誘導路の確保、ですよね」

 

「それ~」

 

 先生が代弁してくれたので私は賛同だけしておく。

 正解。

 

 問題を重ねるごとに、妙な感覚が生まれてくる。

 言葉を交わさなくても、どちらが答えるべきか分かる。

 相手が何を考えているか、なんとなく察せてしまう。

 

「……これ、楽勝だね」

 

 先生が小さく言った。

 

「でしょ~。私たち、最強じゃない?」

 

 一回戦は、ほとんど危なげなく終わった。

 点差も開き、最後は相手が苦笑しながら拍手を送ってくる。

 

「強かったです」

 

「ドーナッツのためには、負けられないからね」

 

 席を立ちながら、私は少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じていた。

 

 一緒に考える。

 それが、思っていた以上に心地よかった。

 

 ■■■

 

 二回戦の席に着いたとき、空気が少しだけ変わったのを感じる。

 周囲の視線が、さっきよりも明確にこちらを向いていた。

 

「……ちょっと注目されてますね~」

 

「一回戦、目立ってたからね。33対4なんて大差だし」

 

 向かいに座るのは、落ち着いた雰囲気の生徒ペアだった。

 無駄口は叩かず、問題用の端末を静かに確認している。

 さっきまでのお祭り気分とは違う、勝ちに来ている空気。

 

 開始の合図と同時に、問題が映し出される。

 

『次のうち、群衆心理が働く状況で最も起こりやすい現象はどれか』

 

 私は一瞬、答えを絞りかけて──止めた。

 選択肢の言い回しが、少し引っかかる。

 

 先生も、同じところで思考を止めたらしい。私もこの問題については少し考える時間が欲しいと思っていた。

 視線が、また交差する。

 

「……二番、かな」

 

 先生の声は、控えめだった。

 断定していない。

 

「うーん……」

 

 私はスクリーンを見つめ直す。

 警察として、現場で何度も見てきた光景が脳裏をよぎる。

 ……いや、そんなに現場見てないかも? 

 

「三番じゃない?」

 

 珍しく、意見が食い違った。

 

 一瞬だけ、沈黙が落ちる。

 相手チームの指が、すでにボタンを押さんばかりになぞっているのが見えた。

 

 時間はない。

 

「理由、聞いていい?」

 

 先生が、短く言った。

 

「……言葉の定義かな。“起こりやすい”って書いてある。だったら、一番見るのは──」

 

 そこまで言ったところで、先生が小さく息を吸った。

 

「……なるほど」

 

 次の瞬間、先生が頷く。

 

「三番だ」

 

 先生がうなずいたことで確信を持ち、私がボタンを叩いた。

 

 正解音。

 

 相手チームが、わずかに肩を落とす。

 胸の奥で何かがほどける感覚がした。

 先生に指示をもらい戦うだけじゃない、一緒に意見を討論して賛成してもらえる。それが妙に嬉しかった。

 

 次の問題は、数字が絡むものだった。統計、確率、傾向。

 今度は、完全に先生の領分だ。

 

 私自身仕事をサボるためにマクロを組むくらい勤勉だとは思っているが、その問題はかなり大きめの暗算を要する問題だった。

 私は答えを出そうとして止まった。ちょっとここまでになると苦手かも……

 代わりに、先生を見る。

 

「あ~……。先生、いける?」

 

「うん」

 

 先生の顔には雲一つない。

 短いやり取りで十分だった。

 

 ボタンが押され、正解。

 

 問題が進むにつれて、呼吸が揃っていくのを感じる。

 一回戦のときよりも、ずっと鮮明に。

 

 言葉にしなくても、

 相手が今、何を考えているか分かる。

 

「……これ、思ったより緊張するね」

 

 私が小さく言うと、

 

「うん。でも、フブキと一緒なら、悪くないかな」

 

「え?」

 

 先生の声は、歓声に埋もれてうまく聞けなかった。

 

 最後の問題が終わり、得点が表示される。

 

 僅差でこちらの勝ちだ。

 今回相手もかなり善戦してきたので少し危なかったといえるだろうか。

 

 会場から拍手が起こる。小さな町の大会でもここまで盛り上がるものなんだな……。

 

 席を立つとき、私は気づいた。さっきまで感じていた緊張が、いつの間にか安心感に変わっていたことに。

 

「……ね、先生」

 

「なに?」

 

「意見が違ってもさ。ちゃんと聞いてくれて、ありがとう」

 

 我ながらいい笑顔でニコッと先生にそう伝える。

 先生は一瞬、驚いたように目を瞬かせてから笑った。

 

「フブキの意見はちゃんと納得できる理由があるからね」

 

 その言葉が、胸の奥にすっと入ってくる。

 一緒に考えるだけじゃない。

 一緒に選ぶ。

 

 その感覚が、私の中で静かに形になっていった。

 

 次は、決勝。

 

 ──あの賞品が、ぐっと現実味を帯びてくる。

 司会の横にショーケース式で展示されているドーナッツ半年食べ放題券。あれを見るとどうしてもよだれが垂れてきてしまって、いけないいけない。

 

「うへへ……半年食べ放題……じゅる」

 

「どうしたのフブキ……」

 

 変な笑い声すら出てきてしまった……。

 

 ■■■

 

 決勝戦の席に着いた瞬間、会場の空気がはっきりと変わった。

 

 ざわめきが、期待を帯びた音に変わる。

 観客の視線が、自然と中央の二組に集まっていた。

 

「さぁさぁ! 

 決勝に進んだのは──美食研究会! 

 赤司ジュンコ&鰐渕アカリペア!」

 

 歓声の中、向かいの席に二人が座る。

 片方は赤い髪の小柄な女の子、赤司ジュンコ。

 もう片方は、女性にしては身長が高めの金髪、鰐渕アカリ。

 確かどちらも大食いで、とくに後者に関してはブラックホールの胃袋を持つと聞いたことがある。記録にしてホットドッグ120個、ラーメン15杯、餃子80個だっただろうか。

 ……化け物? 

 

 ジュンコちゃんは肘をついてこちらを眺め、にやりと笑った。

 

「決勝までくれば、あとは楽勝ね! ドーナッツ食べまくるために絶対勝とうねアカリ!」

 

「ジュンコさん、油断してはだめですよ。

 ここまで来てるってことは、相手もちゃんと強いってことですからね★」

 

 アカリさんは落ち着いた声でそう言い、端末に視線を落とす。軽口の裏に、確かな集中力がある。

 

 ──強いな~……。

 

 直感的に、そう思った。

 

「……楽しそうですね~」

 

 私がそう言うと、先生は小さく頷いた。

 

「うん。でも、油断は禁物だ」

 

 開始の合図。

 

 最初の問題が表示される。

 

『次のうち、栄養素の吸収効率に最も影響を与える要因はどれか』

 

 まずい、最初からこちらに分が悪い問題だ。選択肢はどれも冷静に考えれば正解・不正解がわかるが、相手は思考しなくとも答えがわかるその道のプロだ……。

 ジュンコちゃんの指が、迷いなく動いた。

 

「はいはい! 咀嚼回数!」

 

 正解音。

 

 会場が沸く。

 

『さすが美食研究会~!』

 

 私は一瞬だけ唇を噛んだ。

 ──速い。

 

 次の問題。

 

『多数の人間が同時に判断を迫られる状況で起こりやすい認知の偏りは?』

 

 今度は、先生が先に反応する。

 

「はい。集団同調性バイアス」

 

 正解。

 

 点差は、つかない。

 

 その後は察する通り、問題が進むごとに互いに一歩も引かない展開になった。

 答えを知っているだけでは足りない。

 回答者はあくまでもペアのボタンを押した方。どちらが先に押すか、その判断が勝敗を分ける。

 

「ふふ~、いいねぇ。

 こういうの、燃えるじゃん?」

 

 ジュンコちゃんが楽しそうに笑う。

 

「アカリ、次は私が行くから」

 

「分かりました

 でも、さっきの傾向だと次は──」

 

 二人の間でも、呼吸が合っているのが分かる。

 

 こちらも同じだった。

 

 先生が視線だけで合図を送る。

 私は、ほんのわずかに頷く。

 

 「任せたよ、フブキ」

 

 次の問題。

 

『スープの「ヴィシソワーズ」を作る時に欠かせない野菜はどれでしょう?』

 

 な  ん  だ  そ  れ  !

 

 そんなお洒落なスープ知らない! 

 私は反射的にボタンを押してしまった。もちろん答えなんて知らない。本当に反射的に動いていた。

 ただここでボタンを押さなければ、間違いなく美食研究会は正解する。

 

 この問題を答えられてしまうと次の最終問題で正解した方が勝ちになってしまう。

 ここで四分の一を当てれば勝利は確定するんだ……。

 

 先生の反応を、待ってみる。

 

「……え? フブキ?」

 

 ──先生に聞いてもだめだった……

 

 相手もこちらを見ている。

 会場が静まり返ってしまう。

 

 その視線に、私の汗腺はどくんどくんと一生懸命働いているが、どうしようもない。

 

「……あ~、四番?」

 

「ざんねーん! 不正解! よって美食研究会チームに一点入ります!」

 

 視界から告げられたのは、残酷な現実。ここぞというときに四分の一を当てられなかった……! 

 隣を見ると先生は問題が表示されるパネルをじっと見つめている。相手もそうだ。

 

「どんな時も、あきらめちゃ駄目だ、フブキ」

 

 そうだ……まだ最後の問題が残ってる。

 

「なんという接戦! なんという拮抗! この問題で正解したチームの勝利! 最終問題です!」

 

 最後の問題が表示された。

 

『世の中の電化製品は、エネルギー変換効率が低い問題がありますが、投入電力の85%を赤外線に変換できる製品といえば?』

 

 時間が、止まったように感じた。

 

 頭の中に、はっきりとした映像が浮かぶ。

 

 張り込み操作で先生から聞いたあの製品

 ボンネットの上でのあの景色

 先生が、何気ない調子で話していた。

 

 ──あれだ。

 

「はいはいはい!!」

 

 私は、迷わずボタンを叩いた。

 

「ハロゲンヒーター!!」

 

 一拍。

 

 正解音が鳴り響く。

 

 次の瞬間、歓声が爆発した。

 

「決着──!! 

 優勝は、フブキ&先生ペア!!」

 

 視界が広がる。勝ったんだ。私たちは勝ったんだ。

 人目も気にせず飛び跳ね、先生に飛びつく。

 

「やった! やったよ先生! ドーナッツだドーナッツ!」

 

 ジュンコちゃんが、悔しそうにぱちぱちと拍手をする。

 

「いや~、負けた負けた。ドーナッツ警察、強すぎ~」

 

 アカリさんも、静かに頷いていた。

 

「優勝したお二人には、ドーナッツ半年食べ放題券を差し上げます! 明日から使えますので、食べすぎには気を付けてくださいね~!」

 

 賞品を受け取ったとき、

 私はようやく実感した。

 

 半年食べ放題券。

 紙切れ一枚なのに、妙に重たい。

 

 隣を見ると、先生も同じようにあっははと笑っていた。

 

「……半年、だって」

 

「食べきれるかな」

 

「余裕ですよ~。

 二人なら」

 

 その言葉が、自然に口から出た。

 

 大会が終わったあとも、街のざわめきはすぐには収まらなかった。片付けを始めるスタッフの声と、名残惜しそうに立ち話をする参加者たち。

 夕暮れの空気はどこか柔らかく、時間がゆっくり流れている気がした。

 

 私は、手にしたままの紙切れを見下ろす。

 半年食べ放題券。

 

 改めて見ると、少しだけ現実味が薄い。

 

「……これ、本当に使っていいんだよね?」

 

「もちろん。

 ちゃんと優勝したんだから」

 

 先生はそう言って、肩をすくめた。

 その仕草が、なんだかいつもより気楽に見える。

 

「じゃあ」

 

 私は券を軽く振りながら、言った。

 

「明日、さっそく行こ。最初の一回目」

 

「明日?」

 

「うん。どうせなら、先生と一緒に食べたいし」

 

 先生は一瞬だけ考えるような顔をしてから、手に持っていたタブレットを見て少し困ったように笑った。

 

「午前中は用事があるんだ。だから……午後なら」

 

「分かった」

 

 それだけで、胸の奥が少し弾む。

 

 引き換えができる店は、街の中心から少し離れた場所にある。

 評判はいいけれど、普段ならわざわざ行く理由がない、少しだけお高めのドーナッツ屋さん。

 

「距離、結構あるね……。こっそり抜け出すのは結構手間かかるかも……」

 

「じゃあ、休みを取ればいい」

 

 先生が、あっさり言った。

 

 私は一瞬きょとんとしてから、笑った。

 

「そうだね。じゃあ、生活安全局に伝えるのはよろしく……」

 

「先生も一緒に行くから、フブキも行くんだよ……」

 

 生活安全局としては、特に問題もないと思う。

 急ぎの案件も、予定もない。

 

 ──平和だから。

 

 それが、当たり前の判断だった。

 

「午後に、あの店の前で待ち合わせでいい?」

 

「うん。遅れないようにする」

 

「先生が遅れるなら、私も遅れるから大丈夫だよ~」

 

 そんな軽口を交わしながら、帰り道を歩く。

 夕焼けの中で、ドーナッツの話をするのは、なんだか少し可笑しかった。

 

 券を、制服のポケットにしまう。

 念のため、落とさないように。

 

 ドーナッツ、楽しみだな。

 

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