多額の借金を抱えたウマ娘が返済ついでに賞金王になる話 作:わたっくし
レースで勝てばお金が手に入る。これこそがこの世の絶対的真理だ。重賞なら、その額は更に膨れ上がる。ジャパンカップの賞金なんて、5億円にも達するらしい。
そうして手に入れた賞金を私は……
「こ、今回分のお金です!」
「うん、オッケー。きっちり300万ね。……それじゃあ残りの19億9700万、頑張って返してね!」
「……か、…」
「か?」
「返せるかあああああああああああああああああ!!!」
私、佐藤光莉ことウマ娘ヒカリはひょんなことから20億の借金を背負ってしまった。
話は少し前に遡る……
×××
某日、私は友人とともに新しく出来たレース場へと足を運んでいた。その名も海鳴レース場。地元にこんな大きなレース場ができるなんて初めてのことだったので、案の定会場はたくさんの人でごった返していた。思った以上にウマ娘の姿も多い。
「ほら光莉ちゃん!レース始まっちゃうよ!今日はシンボリルドルフさんのレース見に来たんでしょ?」
「わー待ってまって!そんなに引っ張らないで!」
弁当に見とれていた私の首根っこを友人がぐいぐいと引っ張ってくる。殺す気か。
「うわー、見てこれ!すっごい人の数!」
「私の町、こんなに人いたんだ……」
いざレース会場に入ってみればそこには圧倒的な人の数。シンボリルドルフ効果があるとはいえまさかここまでとは思っていなかった。
「ただのエキシビションマッチにこんなに集まるなんて、みんな暇だねー」
「それって自虐のつもりで言ってる?」
おかしな発言をする友人を後目に私はトラックへと視線を移す。ここからじゃ遠いので愛用の双眼鏡の出番だ。
「えーっとえーっと……」
ピントを合わせながらゲートの方向を探す。
「あれー?全然見つからないんだけど……」
「30倍の双眼鏡なんて買うからだよ。10倍でも十分なのに……」
何やら右から聞こえる正論は聞き流しておいて、引き続きゲートの位置を探す。
しばらく探しているとレンズいっぱいに顔のようなものが写った。慎重に倍率を下げていくと、そこにはマイクを付けたお兄さんとお姉さんが。
(そっちじゃないんだよな……)
そうして、放送席から視線を移そうとした時だった。
(……あれ…何?)
放送席の近くに建てつけられている、立ち入り禁止の倉庫。そのドアの小さな窓から見える景色。まだぼやけていてうまく見えないので、倍率を20倍、30倍とどんどん上げていく。
(黒服の男……)
……明らかにおかしい。黒服の男がいることもそうだし、そもそも倉庫の中で人が立ち続けていること自体おかしい。
(あ、人が入っていく)
倉庫に入っていった男は、黒服に指を2本立てた後、なにやらコインのような物を受け取った。指の本数と受け取った物が釣り合ってない気がする。
そうしたら男は踵を返し、倉庫の中から出て行ってしまった。
(……なんでいきなりピースしたんだろ?)
……今思えば、あの行為をただの「ピース」と受け取るような純粋な頭がなければ、今よりか借金の額は幾分かマシになっていたのかもしれない……。
「何してんの光莉!もうゲートイン完了しちゃったよ!」
「あっ、うんオッケーオッケー」
明らかに異常な現場を目撃したことには間違いないが、いったん私の意識はレースに向けることにした。
「またゲートが見つからない~~~!!!」
「だから倍率下げなよ!なんで30倍にしてんの!」
×××
「いやー、すごいレースだった」
「圧巻だったね~」
一瞬にも感じたし、一生のようにも感じた不思議なレースだった。
「光莉ちゃんも来年はトレセン学園だね!」
「…いや、だから私は普通の高校行くんだって……」
彼女の名は緑。幼稚園の頃からの幼馴染だ。ちなみに髪色は銀色。緑要素が全く入っていない。
幼稚園から中学まで同じクラスになったりならなかったり。時には疎遠にもなったりしたが、なんだかんだ一番仲がよい友達だと思う。
……様子が変わったのは去年。たまたま私が出走したレースを見てから、執拗にトレセン学園の入学を勧めるようになってきた。別にそのレース自体は二着だったし、特にいいとこもなく終わったと思うんだけど……
「絶対光莉ちゃんはトレセン学園に行くべきだよ!」
行けるもんなら勿論行ってみたいのが噓偽りない本心だが、私程度の実力のウマ娘では、奇跡的に入学試験に合格したとて、実力の波にもまれて1年もせず中退するのがオチだろう。
そして何よりも、お金がない。
「学費なら私が出すから!!!」
「出させるわけねーだろ!!!!!」
さすがに友人に学費を出させるカスウマ娘になるわけにはいかない。緑の実家が金持ちだったとて、それとこれとは話が別だ。
……
「ほら、向こうでグッズ売ってるよ。緑はこれ買いに来たんでしょ?」
「あ、そうだった!売り切れる前に早く行かなきゃ!」
私の手を取って走り出す緑。人の密集地帯を走り抜けているせいで、ガシガシと体がぶつかりまくる。いつの間にか緑ともはぐれてしまった。
プルルとポケットのスマホが震える。
『ごめん!!!夢中になって走っていたらはぐれちゃった!グッズ買えたらお知らせします』
「了解です」と返信した後、私は行く当てもなくレース場をプラブラと徘徊し始める。今日は第12Rまであるそうで、人が減る気配は全くしない。
(弁当でも買っとこうかな……)
スマホでおすすめのお店を探し、位置を調べながら歩いていく。さすがに2000円くらいあれば足りるよね。しばらく地図にしたがって歩いていくと、視界の端に立ち入り禁止の貼り紙されたドアが現れた。
(……さっきの黒服の人がいた倉庫……)
いつもの私ならさっさと通り過ぎてしまうような場所であるが、いかんせん先ほど双眼鏡で観測した光景がどうも気になってしまい、私の足は自然と倉庫の方へと向かっていった。
チラッと窓の隙間から倉庫の中を確認してみる。そしてそこにはやはり先ほどの黒服の男。
正直めちゃくちゃ怖いが、好奇心に負けた私は、誤って入った、という体裁を心の中で用意して倉庫のドアを開いた。
ガチャリ
案の定、黒服がギロリとこちらを睨んできた。一気に心臓が跳ね上がる。お、落ちつけ、私。こういう時は挨拶が大事だ。全ての人間関係は挨拶から。
「こ、こんにちはぁ……!」
片手を上げ、ガチガチ震える作り笑い。そして私は“いつもどおり”5本指を立てて挨拶した。してしまった。私なりの元気な挨拶のつもりだったのだが……
「なっ……!?」
予想に反して、黒服は驚愕の表情で私を見つめた。彼は私の顔と、掲げた5本の指を数回交互に見比べると、ゴクリと喉を鳴らす。
「……嬢ちゃん、正気か? 『5本』だぞ?」
「えっ?」
「ここでの『1本』の意味を知っててやってんのか?」
さっきの男が立てた“2本”。あれがただのピースじゃないと気付くのに、私はあまりにも時間がかかりすぎた。
しかし、こういう時に限って後に引けなくなるのが佐藤光莉という生き物なのだ。私は意味も分からないまま、コクコクと力強く頷いた。
「は、はい。5本で、お願いします」
私の迷いのない返答に、黒服の顔が引きつる。しかし彼はすぐに「ククッ……」と不気味な笑みを漏らし、懐から一枚の鈍く光るコインを取り出した。
「いい度胸だ。こんなが子供が『ミリオン・レート』をご所望とはな……」
「み、みにおん……?」
「ほらよ。無くすなよ」
渡されたのは、真鍮色の重たいコイン。 そこにはデカデカと“『RATE x1,000,000』”と数字が刻まれていた。
(いち、じゅう、ひゃく……面倒くさいからいいか)
六桁以上の数字はパッと見で判断できないから苦手だ。
「今回は3階のHルームに“ヤツ”がいる。灰のスウェットに白のキャップだ。……ちなみに俺は4番が来ると思うぜ、嬢ちゃん」
「は、はい」
よく分からないまま適当に頷いた後、私は倉庫を後にする。
(3階のHルームって言ってたよね……)
怖いけど、引き返す理由もなかった私は、黒服の男が言っていた“ヤツ”に会うことにした。
Hルームに佇む、"ヤツ"とはいったい……!?