多額の借金を抱えたウマ娘が返済ついでに賞金王になる話   作:わたっくし

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第2話 借金を抱える

 

 Hルームに向かうと、部屋の隅の方に“ヤツ”らしき人がいた。灰のスウェットに白のキャップ。間違いない。

 そそくさと進み、ヤツの元へと向かう。

 

「よ、4番で……!」

 

 先ほど受け取ったコインを見せながら話しかける。取り敢えずさっきの黒服さんの言う通り4番にしておく。

 

「……うん、オッケー。4番のウマ娘で……うん、2000円ね。覚えておく。レースが終わったらまたここに来るように」

「あ、ちょっと待って!その2000円は私の昼食代で……!」

 

 悲しきかな私の声は灰のスウェットの彼女の耳には届かず、何処かへと消えていってしまった。

 

 プルル。緑からのメール。

 

『ごめん!列がすっごい混んでてまだ戻って来れなさそうです!』

 

「りょうかい、焦らなくていいよ……、と……」

 

 ちょうどレースも始まるのでそれを見終わったら緑の元へ向かおうか。そんな呑気なことを考えながら、私はレース場を見下ろしていた。

 

×××

 

 

『1着は7番!ヘンサイジーゴク!続いて2着、8番……』

 

 ……4番はあえなく9着。終盤は前に塞がれていて走りにくそうだったなぁ……。

 ひとまずレースは終わったので緑の元へと向かう。グッズ会場は1階だったけか。私は完全にやるべきことはもう終わったと思っていた。

 

「どこ行くの?」

 

ズシッと肩に手を置かれる。灰のスウェットの彼女だ。その力強さに、まるで足が地面にめり込んでしまったかのような感覚を覚えた。

 

「どこ、行くの?」

「友達のとこ、行こうかな~って…」

「"レースが終わったらまたここに来るように"って言ったよね?」

 

 あー…確かにそんなこと言っていた気がする。完全に忘れていた。

 

「分かったら、付いてきて」

 

 そう言うと、彼女は前へと歩き出した。逃げたらどうなるんだろう――そんなことを考えている余裕もなく、私は足を進めた。

 

「一応言っておくけど…逃げたりしたら、命はないと思っておいた方がいいよ」

 

 瞬間、観客の喧騒が遠のく。……彼女の目は、本気そのものだった。その言葉には、反論の余地を与えないほどの威圧感があった。

 

×××

 

「あのー、私たちは、一体どこに向かっているのでしょうか……」

「いいから付いてきて。もうすぐ着くから」

 

 レース場を歩き回っているかと思えば、いつの間にか人気がない廊下を私たちは歩いていた。こんな通路地図にあったっけ……?

 キョロキョロと辺りを見渡していると、不意に彼女の足が止まった。危うくぶつかってしまうところだった。目の前にはドアが。目的地に着いたっぽい。

 

「入るよ」

 

 彼女の指示通り、部屋へと歩みを進める。部屋の中は何の変哲もない、いたって普通の内装が広がっていた。一つ不自然な点を挙げるとすれば、部屋のど真ん中に椅子があることくらいだろうか。まるで尋問室かのような……

 

 不意に彼女の手がポケットに入った。

 

「はいビリっとするよー」

「え?」

 

 バチッとした電撃音とともに私が最後に見たのは、スタンガンを片手に笑顔を浮かべる彼女の姿だった。

 

×××

 

 

 目が覚める。確か私はレースの予想を外して、見知らぬ女の人に付いていった後、スタンガンで気を失って……

 

「そうして今こうやって拘束されちゃっているわけ!」

「うわっ!」

 

 視界の端から彼女の顔面がスライドインしてくる。不意打ちで声を上げてしまった。自身の身体を見渡せば、縄で椅子に縛られていた。

 

「ちなみになんで今こんな状況になっているかは分かる?佐藤光莉さん」

「な、なんで私の名前…」

「気を失ってる間に色々調べさせてもらったよ。色々とね」

 

 その"色々"はどこまで知られているのだろうか……。

 

「そしてキミが今こうなってる訳なんだけど……」

 

 彼女はおもむろにポケットからコインを取り出した。『RATE x1,000,000』、私がレース前に彼女に手渡したコインだ。

 

「コイツのせい。いわばキミは賭けに負けたんだ。しかも、大負け」

 

 ……薄々気づいてはいたが、もしかするとこれって……

 

「指一本でレート100倍。二本で1000倍。じゃあ、五本だと?」

 

 理解したくないけど、理解してしまった。

 

「……百万倍」

 

「いくら賭けた?」

「別に賭けたつもりじゃ……!……2000円」

 

「ここで問題!光莉さんは今回のレースで背負った借金は総額いくらになるでしょーか!」

「…………」

「ヒント!2000×1000000は!? 数学得意でしょ?」

(得意じゃないです……!)

 

 

「……20億」

 

 

「せいかーい!光莉ちゃんは今回のレースで20億円もの借金を背負ってしまいましたー!」

「ちょ、ちょっと待って!!!」

 

 何から何まで急展開で脳の理解が追い付かない。20億円なんて借金払えるわけないし、そもそも賭けレースは日本じゃ違法で……!

 

「ここ、海鳴レース場地下一階では、秘密裏に賭けレースが行われています!もちろん法律には抵触するし、見つかったりしたら一大事」

「そ、それじゃなんで」

「みんな、飢えていたんだ。今までじゃ体験できなかったような、新しい刺激に」

 

 そうして出来たのがこの海鳴レース場。表では新規のレース場としての役割も果たしつつ、その実裏では富裕層向けの違法賭博場としての役割を併せ持った場所。

 

「そんな権力者の欲望の渦に、光莉ちゃんは運悪く巻き込まれちゃったってワケ」

「そ、そんな……」

 

 地元に新しく出来たレース場。その裏にはこんな事態が広がっていたなんて……。

 

「話を戻すね。光莉ちゃんの借金20億円。もちろんクーリングオフなんて対象にはならないから、どうにかして光莉ちゃんはこの借金を返さなくちゃいけない」

「で、でも20億なんて大金……」

「年間100万を返済に充てるとして、2000年だね。一度は文明が滅ぶんじゃないかな?」

「い、一条超え……」

 

 海外の懲役年のような単位が出てきて私の頭はさらに混乱を極めた。

 

「もしくは、闇市場に自分の身体を出品するとか…」

「そ、それだけは嫌!」

「光莉ちゃんウマ娘だから、5億くらいにはなるんじゃないかな!」

 

 冗談じゃない。自身のどうしようもない現状を少しずつ理解し始め、いよいよ涙があふれ始めた。

 

「そしてもう一つ、光莉ちゃんの身体を生かした返済方法があるよ」

「夜のお店も嫌なんだけど……」

 

 それでも人身売買よりかは全然マシなのかもしれない。めちゃくちゃ嫌だけど。

 

「そっちじゃないよ……光莉ちゃん。ジャパンカップの一着の賞金って、いくらか知ってる?」

「確か、5億円…。………も、もしかして」

 

「光莉ちゃん、今から始まるレース、一枠分だけ棄権で空いちゃってるんだ。……出る?」

 

 極端に視界が狭まっていた私は、迷うことなく頷いた。これ以外の方法が、もう私には残されていなかった。

 

 




ヒカリちゃん頑張って!
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