多額の借金を抱えたウマ娘が返済ついでに賞金王になる話   作:わたっくし

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第3話 初勝利

 

視点:緑

 

 

「うわ~、やっとグッズ買えたよ~」

 

 早く光莉の元に戻らなくては。今頃迷子になってたりしてるんじゃないだろうか。彼女は幼い時から道に迷いがちなのだ。

 

ひとまずメールで現在地を聞いておこう。

 

『グッズ買い終わりました!今どこにいますか』

 

 程なくして返信が来る。

 

『良かったね』

 

『私は今、パドックにいます』

 

「へ?」

 

 大急ぎで観客席に向かい、パドックを見下ろしてみると、そこには死んだ目をした光莉が、係員に半ば強引にパドックの奥に誘導されていた。

 

「何してるの光莉ちゃん……」

 

×××

 

視点:光莉

 

 

 ああ、どうして今、私はゲートに立っているのだろう。さっきまで向こうで観戦していたはずだったのに、今は何百人の観衆の目の中でレースなんて、冗談じゃない。

 

(……でも、やるしかないんだ)

 

 ここで逃げたって、結局は何も変わらない。逃げるのは現実ではなくレースの中での話だ。

 

(大丈夫。まだ衰えてないはず)

 

『全バゲートイン完了。出走準備が整いました』

 

 心臓を落ち着かせる。

 

 ゲートの開錠と同時に……スタート!よし、今回もうまく決まった。何の取柄もない私の唯一の得意分野と言っても過言ではないスタートダッシュ。

 

(どうにか先頭をキープして、終盤まで持っていければ……!)

 

 勝てるかもしれない…!私はほんの微かな期待を胸に脚を走らせた。

 

 

………

 

 

 ああ無理だわこれ絶対無理だ無理無理スタミナ持つわけない死ぬ死ぬ死ぬ息切れで死んでしまう。

 

 さっきまで勝てるかも…!とか思っていた自分をぶん殴りたい。丸1年間まともに走ってないんだからそりゃ無理だわ普通に考えて。

 

 というかそもそも何で私は今こんなに必死で走っているんだ?

 

 緑とお出かけして、たまたま黒服の男を見つけて、たまたま5本指を立ててしまって、たまたま2000円を賭け金にしてしまって、たまたま20億円の借金を背負ってしまって……

 

(今更っ……だけどっ……不運すぎないか……私っ…!)

 

 元はと言えばあの女も悪い。どう考えても20億円なんて払えそうにない見た目の女子中学生に、何も言わずに賭け金を受け取るなんて、絶対に確信犯だ。

 

(レースが終わったら……一回だけ殴りにいこ……)

 

 現実逃避をしている間にも、無情にも現実は差し迫ってくる。ラスト600メートル。なんとか先頭はキープ出来ているが、もう限界が近い。軽く後ろを振り返ってみる。2番手との差は、既に1バ身もない。

 

(ああ…、ダメだ。追い越されちゃう。そうしてそのまま私は……)

 

 最下位になり、賞金は貰えず。代わりに多額の借金を家に持ち帰り、人生に行き詰まる。そして最終的に辿る結末は……

 

(……死)

 

 瞬間、私の脳内に軽い走マ灯が流れた。まだ齢15歳のヒヨッ子ではあるが、それでも数えきれないほどの沢山の思い出がある。楽しかった記憶も、悲しかった記憶も、全て流れ尽くし、綺麗さっぱりになった私の脳内。そして最後に私に残っていた思いが……

 

「死にたくないっ!!!」

 

 力強くターフを踏む音が聞こえる。正直、ここからの記憶は一切ない。記憶があるのはゴール板のターフに寝転びながら、電光掲示板に表示された「一着:ヒカリ」の景色だった。

 

×××

 

 

「ひ、光莉ちゃん、本当に一着取っちゃった……」

 

 言葉には驚きがあったものの、内心ではそれほどでもなかった。正直、一年前に彼女のレースを見た時から、私は彼女の実力に気づいていた。

 光莉ちゃんの走り、フォームや位置取りのセンスなどは、あれは天性のものだと思う。間違いなくトレセン学園でも通用する。これを機にトレセン学園にも興味を持ってくれれば嬉しいんだけど……

 

「それにしても最後の光莉ちゃん……」

 

 残り600メートルくらいだっただろうか、光莉の表情が物凄いことになっていた。一言で表せば……

 

『笑顔のまま涙を流して大逃げする狂気のウマ娘』

 

 まるで何かの恐怖から必死に逃げているかのような表情だった。周りのウマ娘たちもギョッとしていた。あんまりテレビとかでは流せそうにない。

 

……だけど、……あの表情、本当に……

 

「可愛かったなぁ……」

 

 ドキッとさせられたのは私だけではないと思う。

 

×××

 

 

「いや~光莉ちゃん、一着おめでうわ危なっ!!?」

「避けるな!!!お前のせいで、私は今、こんな目に……!」

 

 すんでの所で渾身のパンチが避けられた。結構本気で打ったつもりなのに。

 

「それは違うよ光莉ちゃん。元はと言えば無断で倉庫に入ったキミが悪い。そんなことをしなければ借金も背負わずに済んだ」

「で、でも、そもそも賭けレースの存在そのものが違法で……!」

「まーまー光莉ちゃん!その話は一旦置いといて。それよりも、ほらこれ」

 

 彼女はポケットからおもむろに何かを取り出した。……あれは……札束?

 

「はい、今回の賞金。300万円」

「ささ、さ、さんびゃくまん!?」

「一着取ったんだし、そのくらい貰えるよ」

 

 ほ、本物のお札だ。テレビでしか見たことがない、100万円の札束が、三つ……。殴るのは今度にしておこう…。

 

「そしてー、キミの今後の処遇についてなんだけど」

「う、うん」

 

 可能であればカニ漁船とかで勘弁してほしい。

 

「上層部と話し合った結果、トレセン学園で3年間を過ごしてもらうことにした」

「……え?」

 

 トレセン学園って、あのっ!?

 

「もちろん、ただダラダラ3年間を過ごしてもらう訳じゃない」

「……つまり?」

「この3年間で様々なレースに出走してもらい、沢山の賞金を稼いでもらう。そしてその賞金で、借金を返済してもらう」

「………」

「まとめるとこう。私たちは光莉ちゃんの借金の返済期間を3年延長してあげる。代わりにその3年でレースに出走して、借金全額分20億を返済してもらう。その間トレセン学園では遊んでも良し、走っても良し、おおいに青春を満喫してもらっていいよって感じ」

 

 ……なんというか、最悪死を覚悟していた私にとっては、願ってもない条件だ。

 

「……因みにトレセン学園の入学はどうやって……?」

「それなら大丈夫。私の親戚に秋山って子がいてね」

 

 そう言いながら彼女は帽子を外す。現れたのはウマ耳。……なんと、彼女もウマ娘だった。

 

「まあ一応実技試験は受けてもらうけど、光莉ちゃんの実力なら余裕でパスだよ。光莉ちゃん、自分が思っている数倍は実力あるから」

「そう…なんですね」

「で、どうする?この誘い、受ける?受けない?」

 

 断る理由なんてない。

 

「是非、お願いします」

 

 深く頭を下げる。ついさっきまで殴りかかろうとしていたのは忘れてほしい。

 

「うん、オッケー。それじゃ、準備が整ったらまた連絡するね」

 

 彼女はひらひらと手を振りながら部屋を後にする。……私の手元にあった300万を引き連れて。

 

「ちょ、ちょっと!その300万は私のじゃ……!」

「言い忘れてたけど、獲得賞金の九割は借金返済、残り九分は経費に充てられるからー!これから頑張ってねー!」

 

 彼女の手からひらひらと紙幣が舞い降りる。一枚、二枚……3万円。300万の1%だから、3万円……ってことか…。

 

 ……ちょっと待って。返済に回せるのは稼いだ額の九割だから、逆算すると――――実際には、22億3000万稼ぐ必要がある……。

 

「これって何回レースで勝利すればいいんだ……?」

 

パパっとスマホで調べてみる。

 

「えーっと…?"3年間で総額22億3000万円を稼ぐには、以下の8つのG1レースを無敗で勝利する必要があります"、か……」

 

ふむふむ。無敗でG1を8勝か……。

 

 

 

「……で、できるかああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

誰にも届かぬ叫びが、ここ海鳴レース場の地下一階にこだました。

 

 

【光莉の借金 残り:19億9730万円】

 




※出走するG1にもよる
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