多額の借金を抱えたウマ娘が返済ついでに賞金王になる話 作:わたっくし
「い、1着おめでとう光莉ちゃん……カッコよかったよ」
「うん、ありがとう緑……」
勝者とは思えない死んだ目をしている私を見てからか、緑は特に深入りせず私を迎えてくれた。
「色々気になることはあるけど、一旦家帰ろっか」
「うん」
借金返済の件は口に出さないよう、例の彼女から釘を刺されている。まあこの件が世に出たりしたら大変だし、私としても困る。
「あ、あと恐らくこれからトレセン学園に通うことになると思う……」
「え!?ほんと!?本当に!?」
「ほ、本当だけど……」
なんでこんなに嬉しそうなんだコイツ。高校では離れ離れになるというのにそんな反応されたらちょっと悲しいぞ。
「へー、そうなんだ。ぶっちゃけ全てを問いただしたい気分だけど、今はスルーしてあげるね」
「そうしていただけると非常に助かります……」
緑、やっぱりお前はいいやつだよ……。
「それじゃ私はここで!光莉ちゃんも夜道に気をつけてね」
「うん、バイバイ。緑も気をつけてね」
さて、これから私は何をするべきか。いずれ試験を受けることになるんだし、今のうちに走り込みでもしておくべきか。久しぶりに靴も新調しなきゃな。
「これから忙しくなりそう……」
涼しい夜の中、星を見上げながら一人ごちた。
×××
「おはよ光莉ちゃん」
「……おはようございます、昨日ぶりですね」
「昨日ぶりだね。ユカリって呼んでくれていいよ」
翌朝。昨日出会った彼女、もといユカリさんが玄関の前に立っていた。朝っぱらからなんだなんだと思えば、まさかの人物だった。
「……というかなんで私の住所知ってるんですか?」
「この前色々調べたって言ったじゃん。大体の個人情報は握られてると思ってくれていいよ」
「ひぇ……」
なんなんだこの人、いやこのウマ娘。早めに通報したいところだが生憎警察に頼る事も出来ない。私に逃げ場はないのか……?
「それで、今日は何の用ですか?これから学校で忙しいんですけど……」
「そうなんだ。実は私も忙しいから、一旦無力化するね!」
「え?」
不意に彼女の手がポケットに入った。あれ、この展開昨日も……
「うぎゃあ!」
膝から崩れ落ちる私を支えるユカリさん。コイツまたスタンガン使いやがった……この人、会話で解決するつもりないのかな……
「それじゃ向かうよ!」
「向かうってどこに……」
「トレセン学園に決まってんじゃん!言い忘れてたけど、今日が転入試験日だから」
「へ?」
れ、連絡くれるとは言っていたけど、こんなすぐにとは思わないじゃん……。
「わ、わたし蹄鉄とかユニフォームとか持ってないんですけど……」
「だいじょーぶ大丈夫。光莉ちゃんなら裸足で余裕だよ」
「絶対無理だけど!?」
「冗談冗談」
ギャーギャー叫ぶ私を気にも留めずひょいっと抱え、車へと向かうユカリさん。
「ちょっと恥ずかしいんですけど……!」
「お姫様だっこの方がいい?」
「やっぱりこのままでお願いします!!!」
痺れて身動きが取れない私はどうすることも出来ない。主導権はユカリさんにある。このまま事務所とかに連れて行かれないよね……
「このまま家まで持ち帰っちゃおうかな」
「怖いこと言わないでくださいよ……」
恐怖と不安に苛まれながら、トレセン学園行きのドライブは始まった。
後で学校に欠席の連絡入れなきゃな……うう、私の皆出席が……。
×××
「はい着いたよー」
窓の向こうを見ればそこはトレセン学園。憧れの舞台が眼前にあることに興奮を隠しきれない。ちょっとだけ校内とか覗いてもいいかな。
「興奮するのは分かるけど今日の目的は試験だから。転入してから沢山楽しんでね」
ぐうの音も出ない正論に私は大人しくユカリさんに着いていく。今更だけどユカリさんって何者なんだろう。顔パスで学園に入校してたしなんらかのコネはあるんだろうけど……
「今日はここで試験が行われるはずなんだけど……あれ?」
試験会場であるはずのトラックでは既に何名かのウマ娘たちがレーンを走っていた。体育の授業だろうか。
「ちょっと係の人に聞いてくる。少しここで待ってて」
そう言ってユカリさんは校舎の方へと消えていってしまった。あんまり見知らぬ土地に1人きりにしないで欲しいんだけど……。
どうしていいか分からず縮こまっていると、レーンの方からウマ娘が1人、こちらの方に向かって歩いてきた。
「どうもー。こんな所で何してるの?あんまり見ない顔だけど」
「ど、どうもー。えーっと、転入試験を受けに来たんだけど、ちょっと色々手違いがあって……」
「ふ〜ん、なんか大変そうだねぇ。ちなみにセイちゃんは〜〜っ!……サボりですっ」
「さ、サボりって……」
バレたりしたら怒られるんじゃないだろうか。現に向こうからもう1人のウマ娘がこちらに向かって走ってきている。
「……今は、何の授業をしているの?」
「今はねー、模擬レース。セイちゃん等の番が来るまですることなくて暇なんだー」
「そうなんだ………まあ、たまにはサボるのも悪くないんじゃないかな。現に私も学校サボってるんだし……」
「お〜?なんだか気が合いそうですな〜、私たちっ!」
確かに気の合う部分があるのかもしれない。そこはかとない緩い雰囲気を楽しんでいると、対面から声が響いてきた。
「こーらー!スカイさんっ!授業中に抜け出さないでって何度も言ってるでしょ!」
「あ、ヤバい。キングがきちゃった。それじゃあ私はこの辺で〜。また機会があればお話ししようねっ!」
そう言って彼女は再びトラックの方へと駆けていった。めちゃくちゃ綺麗なフォーム……
「こ〜ら〜!待ちなさい!」
逃げるセイちゃんを追うキングさん。ふふっ、なんだか楽しそうだなぁ。
もしかしたら、来年同じクラスになってたりして。学年も分からないけども……。
そんなことを考えていると、校舎の方からユカリさんがやってきた。……何やら頭上に猫を乗せた少女を連れて。
「お待たせー。ごめんね、技能試験の方なんだけど、ちょっと手違いが生じちゃって、学園の授業と被っちゃったみたい」
「謝罪ッ!今回は、こちらの手違いで君たちにいらぬ手間を取らせてしまった!」
あ、この人テレビで見たことある。秋川やよい理事長だ。若くして母の学園を継いだ超万能少女。
「そうなんですね。じゃあ、また別日に来る必要が……」
「いや、その必要はないッ!」
「秋川ちゃんが代わりの案を用意してくれたんだ〜」
代わりの案……?というか、理事長をちゃん付け出来る間柄って、一体ユカリさんって何者なんだ……?
「で、その代わりの案って……」
「提案ッ!これから向こうで行われる模擬レースに出走してもらい、その走りを試験の代わりに利用させてもらいたい!」
レース……またレース!?…私、昨日走ったばっかりなんだけど……。
「取り敢えず、トラックに向かおっか」
×××
視点:セイウンスカイ
「……ねぇキング。さっきの子、こっちに向かってきてない?」
「あら、本当ね。隣にいるのは…秋川理事長と……誰かしら?」
レースが始まるまでの暇つぶしに話しかけに行ったあの子。学園じゃ見ない顔だなと思ったら、やはり外部の生徒だった。何やら転入試験を受けに来たんだとか。
「うーん…」
「どうしたの?キング」
「あの子の顔……何処かで見たことある気がするのよね……しかもつい最近……」
「ふーん。私は全く見覚えないけど」
理事長たちが到着した。あの子は何やら顔色を悪そうにしている。
「注目ッ!突然の話で申し訳ないが、今からこの模擬レースに彼女を交えることにした!」
なんと!
「えっと、こんにちは、ヒカリって言います。外部から来ました。転入試験の代わりにレースに混ざっちゃうことになっちゃって……」
(へー、あの子の名前、ヒカリって言うんだ)
お辞儀をしながら、彼女の髪が揺れる。
「そういう訳で、彼女と共にレースを行ってほしい!エルコンドルパサー、キングヘイロー、グラスワンダー、セイウンスカイ、頼めるか?」
「勿論デース!」
「勿論よ!」
「勿論です~」
……あ~あ、ヒカリちゃんってば、運がないなぁ。よりにもよって、クラスで一番強い私たちを相手にしなきゃいけないなんて。
「…セイちゃん的にも、全然オーケーですっ!」
……でも、その端正な顔立ちが崩れる瞬間は、ちょっと見てみたいかも。
×××
軽くトラックを一周して準備運動を終えた私は、息を整えてゲートへと向かう。
「因みに合格条件って決まってたりしますか?3着以内とか、そういうの」
「そりゃあもちろん」
「もちろん?」
「1着以外は不合格とみなすから、頑張ってね!」
「ええっ⁉1着って、無理ですよ!せめて3着とかに……」
「心配無用ッ!昨日の走りを見る分に、キミの実力は本物だ。自信を持って走ると良いぞ!」
あ、理事長も昨日のレース見てたんだ。私は後半の記憶全部飛んでたから何も覚えてないけど…。
(まあ、やるしかないか…)
確かに、ここで1着を取れないようじゃ20億なんて借金は到底返済できない。目指すべきは常に1着。入賞なんかで喜んでいる場合じゃないんだ。
「よし」
ゲートイン完了。心の準備も整った。
果たして、ヒカリは無事一着を勝ち取れるのか……!?