多額の借金を抱えたウマ娘が返済ついでに賞金王になる話   作:わたっくし

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第5話 打倒黄金世代

 

視点:セイウンスカイ

 

 

 今回のレース距離は2000メートルの右回り。枠番は、事前にじゃんけんで決めておいた。外枠から順にエル、ヒカリちゃん、私、グラスちゃん、キングの順だ。つまり私は丁度真ん中の位置。

 

 ゲートに入り、隣を見やる。

 

(……正直、そこまで速そうは見えないなぁ……)

 

 見た感じガチガチに緊張しているし、靴も本格的なレース用には見えない。……というか、スニーカーなんじゃないの、あれ……。

 

(まあ、いいか)

 

 真に警戒すべきはグラスちゃんの方だ。ここ最近ぐんぐん実力を伸ばしてきている。キングだって例外じゃないし、勿論エルだって強敵だ。悪いけど、ヒカリちゃんにはここらで現実というものを知ってもらおうかな。

 

『スカイさん、凄い!あんなに颯爽と逃げ切るなんて……』

 

……あわよくば、ヒカリちゃんに尊敬されたいなー…なんてやましい気持ちもあったりなかったりする。いやまあ、友達として仲良くなりたいしね、うん。

 

『位置について……よーい……』

 

「………?」

 

 瞬間、ヒカリちゃんの雰囲気が変わったような気がした。張りつめていた表情が、一気に覚悟が決まったかのような表情に。

 

『スタート!』

 

(うわっ!)

 

 ヒカリちゃんが非常に綺麗なスタートを決めた。今まで私が見てきた中で一番のレベルのをだ。グラスちゃんたちも驚きを隠せていない。おかげでハナを取られてしまった。

 それどころか、ぐんぐんとリードを離されてしまう。この異常なペース……、もしかしなくても……

 

(……大逃げ!)

 

 作戦として実在することは勿論知っていたが、実際に行動に移されたのは初めての経験だ。まさかヒカリちゃんが大逃げなんてね……。

 

(……これは、一筋縄ではいかないかも……)

 

 私の中で彼女の認識を改める。彼女も私たちの立派なライバルだ。

 

(ひとまず、様子見かな……)

 

 ここで焦ってはいけない。いつかチャンスが訪れる。その時が、攻め時だ。

 

×××

 

視点:エルコンドルパサー

 

 

(……なんだか、ヒカリちゃん、めちゃくちゃ疲れてマース……)

 

 スタートダッシュこそ良かったものの、少しずつフォームや呼吸、ピッチなどが乱れてきていて、今にもセイちゃんに追い越されそうな状態になっている。チラッと、セイちゃんの苦笑と呆れが混ざったような表情が垣間見えた。

 

(悪いけど、ヒカリちゃんはここまでデスかね)

 

残り800メートル。末脚を溜め始める。グラスやキングもそろそろ仕掛けてくるタイミングだろう。

 

……ヒカリちゃんがセイちゃんに追い越される、一歩手前の瞬間だった。

 

(……ケッ!?)

 

不意に彼女の足が崩れ、前のめりに倒れかけていた。

 

×××

 

視点:グラスワンダー

 

 

 第四コーナーに差し掛かった辺りからでしょうか……。彼女がセイちゃんに追い抜かれそうになったその瞬間、一度全身から力が抜けたかのような体制になってしまったんです。危うく、顔面から倒れそうな体制に。

 

 思わず背筋が凍りました。いくらウマ娘といえど、顔面から倒れてしまっては無事では済みません。……最悪の場合だって有り得ます。

 しかし私たちはどうすることも出来ず、ただただ彼女を見守っていた、その瞬間でした。

 

(……ッ!)

 

 彼女の雰囲気が、一変しました。同時に、倒れかけていた体制から、力強く一歩を踏み出し、再び加速を始めました。

 

 しかも、その加速は留まるところを知りません。

 

「や、ヤバっ」

 

 我に返ったセイちゃんが再び彼女を追いかけますが、その差はどんどん開いていくばかりでした。無尽蔵のスタミナを持っているかのような、その時のヒカリちゃんの走りは、まるで人が変わったかのようでした。

 

 ……まるで、私たちではない何かに追われ、焦燥に駆られているかのような……。

 

×××

 

視点:ヒカリ

 

 

 スタートダッシュは上手く決まった。これだけは誰にも負けない自信があるんだよね。問題はその後な訳で……

 

(し、死ぬ……)

 

 私は絶望的にスタミナがない。戦法的に沢山のスタミナが必要な大逃げを選択する癖に、絶望的にスタミナがない。

 

(せめて短距離だったらなぁ……)

 

 元々、私はスプリンターだ。というか今まで1200メートルのレースしか走ったことがない。昨日のレースだって、走り切れただけでも奇跡に近い。2000メートルを走るなんて今までになかったことなのだから。

 

(1000メートルまではっ……、なんとか、持つけどっ……)

 

 ああ、まずい。スカイちゃんの足音が近づいてきた。「ヒカリちゃーん」なんて声まで聞こえてくる。全然余裕じゃねえか……畜生……。それどころかエルちゃんたちの足音まで聞こえてきた。

 

(ああ……追い越されちゃう……)

 

そして、スカイちゃんの左脚が私を追い抜いた瞬間、私の意識は途絶えた。

 

×××

 

視点:キングヘイロー

 

 

(思い出したッ……!)

 

 

 彼女のあの走り、昨日のレースのウマ娘とそっくりだ。ネットニュースの、ほんの小さな一面だったが、とある特異なウマ娘の走りについての記事がまとめられていた。

 

 曰く、棄権したウマ娘の代わりに出走したウマ娘だと。昨今珍しい大逃げを採用し、周りのウマ娘たちを驚かせていたと。そして、後続のウマ娘の追い越されそうになった瞬間、人が変わったかのような走りを見せ、見事一着を取ったのだと。

 

 彼女がゴール板を横切った瞬間の正面写真が掲載されていたが、それはもう凄い表情をしていた。あんまりお茶の間では見せられないような表情を。

 

(それはそうと、……可愛かったわね……)

 

 違う違う。その記事にいた彼女と今走っているヒカリちゃんが同一人物だったということだ。まさかとは思ったが、やはり彼女だったのか。

 

 一体、彼女の走りの仕組みはどうなっているのだろうか。見るからに、制御出来ている感じはしない。無意識の内に駆けているかのような走り方だ。

 

(気になるけど……今はレースに集中ね…!)

 

 彼女との差は大まかに測って8馬身。まだ諦めるような差ではない。

 

(1流のウマ娘として、こんなところで諦める訳にはいかないわ!)

 

 最後の力を振り絞って、私は力強く駆けだした。

 

×××

 

視点:ヒカリ

 

 

(……あ、また気失ってた……)

 

 意識が戻ってきた頃、私はいつの間にかターフの上でぶっ倒れていた。目を開けばそこには綺麗な青空が。終わりなき雲と青のコンビネーション。まさに晴雲。まさにセイウン……セイウンスカイ……。

 

「……あれ、スカイちゃん」

「もう、無事ゴールまでたどり着いたかと思ったら急に倒れてビックリしちゃったよ。ほら、立って」

 

 ひょこん。と私の視界に現れたスカイちゃんが手を差し伸べる。

 

「ありがとう……。ちなみにレースの結果って……」

「やっぱり意識を失ってたのね……。貴方が一着よ。おめでとう」

 

 スカイちゃんの隣にいたキングちゃんが話しかけてくる。良かった……ちゃんと一着取れてたんだ。

 

「因みに2着はエルデース!惜しかったデスが、楽しかったデス!」

「結局5馬身差くらいつけられちゃったけどねー」

「…それは言わなくても良いヤツデース……」

 

 ひとまず模擬レースは勝てたことだし、試験の方も合格かな。チラっとユカリさんたちの方に視線を向けると、秋川理事長も満足気に頷いていた。よし、大丈夫っぽい。

 

「因みに、レースの途中で意識を失いかけた件についてですが……」

 

 グラスちゃんが話しかけながらこちらに歩いてくる。……あれ?…なんだか凄くおっかない雰囲気をまとっているんだけど……。スカイちゃんたちも目を逸らしている。

 

「二度と、あのような走りはしないでくださいね……?」

「ヒッ…」

 

 眼前に迫って、彼女が語り掛けてくる。か、顔が良い……。

 

「本当に、心配したんですから……。思わず血の気が引きました……」

 

 他のみんなも無言で頷く。確かに、傍から見たら意識を失いながら走るなんて危なっかしくて見てられないよね……。

 

 …でも、私はこの走りをやめるつもりは毛頭ない。というかこの走り以外が出来ない"状態"になっている。恐らく、昨日のレース中に刻まれたトラウマが原因になっているのだろう。

 そして、こうでもしないと私はこの先レースで勝っていけない。意識を失う程度でビビっていては到底20億なんて額は稼ぐことは出来ないんだ。

 

「オッケーオッケー、気を付ける」

 

 取り敢えず適当に返事をしておく。また詰められた時は、その時考えるってことで。

 

「本当に分かってるのかしら……」

 

 このキングちゃんって子、鋭い。

 

「祝福ッ!ヒカリよ、よくぞ一着を勝ち取った!」

 

 あ、秋川理事長。と、ユカリさん。

 

「約束通り、試験は合格だ!正式に、トレセン学園への転入を認めるッ!」

 

 よ、良かった……。これで、やっとスタート地点に立つことが出来た。これから幾度となく強敵とレースでぶつかっていくと考えると……うう、吐き気がする……。

 

「あ、秋川理事長」

 

 スカイちゃんが理事長に話しかける。

 

「因みになんですけど、ヒカリちゃんが転入した場合、どのクラスに配属されるのかな~って……」

「む?クラスか……。ヒカリよ、失礼だが歳はいくつだ?」

「えっと、15歳です。来年高校生になります」

「ふむ……。セイウンスカイ、君たちと同い年だな。同じクラスになるよう手配しておこう!」

「……!分かりました…」

 

 なんと。歳は近いかもと思っていたが同い年とは。ましてや同じクラスになるなんて、面白い偶然もあるもんだなぁ。

 

「セイちゃん、ヒカリと同じクラスになれて嬉しそうデース」

「えっ!?いや、嬉しいけど、そのまあ…」

「照れ隠しね」

「あらあら~」

 

 4人でわちゃわちゃしていて楽しそう。……少し疎外感が……。

 

 ……私だって一緒にレースを走った仲なんだし、ちょっとくらい混ざりに行ってもバチは当たらないよね。

 スカイちゃんの目の前まで来て、手を握る。

 

「私は嬉しいよ、スカイちゃん。これからよろしくね!」

「ち!?ち、近いってヒカリちゃん!ちか」

 

 聞こえてなさそうなのでより顔を近づける。

 

「よろしくね!」

「よ、ヨロシクオネガイシマス……」

 

 顔を赤くして座り込むスカイちゃん、どうしたんだろ。

 

「無自覚なのね……」

「罪な女デース」

「あらあら~」

 

 傍からあることないこと言われてるような気がするがまあいい。ひとまず試験には合格したんだし、今日は家に帰ってゆっくりしようかな……。あ、そうだ。昼マック行ってみたいな。平日の昼マック。

 

「よーし、合格おめでとう、ヒカリちゃん!」

「あ、ユカリさん。やることも終わったので早く帰りましょう。昼マック終わっちゃいます」

「何言ってんの?」

 

 そういう彼女の手には大量の書類やらなんやらが。

 

「ユカリさん、なんですかそれ」

「転入するにあたって必要な書類。今日の内に書いてもらうよ」

「……明日でよくないですか?」

「ダメ。今書いて、すぐ書いて、ここで書いて」

「むむむ……」

 

 ……正直書きたくない。こういう書類系の作業はめちゃくちゃ苦手なのだ。

 

「……書いたらマックおごってくださいね」

「何で私が……って言いたいところだけど、いいよ」

「いいんですか!?」

 

 奢りとなると話は別だ。早い所終わらせてとっととマックへと向かおう。

 

「それじゃあみんな、引き続き学校頑張ってね」

 

 みんなに手を振りながら、レーンを後にする。新しい友達が沢山出来て、嬉しかったな。

 

×××

 

「……ちなみに昨日の3万円は何に使うつもりなの?」

「何って……うーん、まあ、家に入れようかなって思ってます」

「へえ…。趣味とかには使わないんだ」

「使えるなら使いたいですよ……。……私、あんまり家が裕福じゃないんです。父は小さい頃に亡くなって、母は朝から夜まで働きに出かけていて……。…っていうか、全部知ってるでしょ!ユカリさん」

 

 まあ、知ってた。知ってはいたが、改めて大変な境遇だなとは思う。

 

「ですから、初め借金を背負うって知った時は生きた心地がしませんでした。ユカリさんのこともまだ許していません」

「………」

「でも、感謝もしています。あの時ユカリさんと出会わなければ、こうしてトレセン学園に通うことになるなんて絶対なかったと思います」

「それはそうだね」

「母も喜んでいました。……あっ、勿論借金のことは話していませんよ!? ……うまく誤魔化して、3年経ったら言うつもりです」

 

「なので、一応言っておきます。ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします」

 

 強いな、この子は。

 

「それはそうと、書類全部書き終わったのでマック行きしょう!早く早く!」

「はいはい」

「奢るって言いましたからね。全品Lサイズにしますからね。今更取り消したって無駄ですよ!」

「ふふっ。……今日くらいは何でも頼んでよ」

 

 そしていつか、私にご馳走してほしいな。

 

 

 だってキミは、未来の賞金王になるんだから。

 

 




以降、被害者は増えてゆく
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