星の白金(ひかり)で断つ運命 作:クルセイダース
爆破の少年と仲直りした以上、もう俺が近くにいる必要はない。まだ年長で鍛えられないため、やることがないのだ。
最初から肉体を鍛えればいいというのは違う話になる。
ただでさえ少年は無個性というディスアドバンテージを持って生まれてしまった。
つまり人間だった俺で言うと、身体に欠陥、もしくは障害を持って生まれたような存在だ。
もし俺と出会わなければ少年は体を鍛えることもしなかったと思われる。
当たり前だろう。その状態で体を鍛えてヒーローを目指せってのは無茶だ。精神的にも本人は必ず無理だと諦める。
空気を読めない人間ならまだしも、少年は空気を読めるし今は問題ないが俺と出会うことなく、あのまま爆破の少年に苛められ続けてたら必ず鍛えることも出来なくなる。精神的な問題で、だ。
そもそも個性がある人間の身体能力と無個性の身体能力は違うようにも感じられる。肉体の構造だろうか。明らかに人間の視点から見たら人外みたいな動きをするヒーローは多くいる。それも増強型でもないのにな。
つまり、個性持ちは肉体強化が一定の量はあるのかもしれない。例えば爆破の少年が分かりやすいが、爆破に対する耐性があったとして肉体強度はどうだ?
強化されてなければ爆破した瞬間に人体が吹っ飛ぶ。
俺たちで言うシアーハートアタックを直撃したような感じだ。
あれは痛かった。
それはともかく、結論を言ってしまえば無個性じゃ必ず限界は訪れるのだ。
いくら鍛えてヒーローになったとして、結局少年は大した活躍も出来ないヒーローになってその道を諦めてしまうだろう。個性があるのとないのとじゃ大きく違うからな。
と……まあ話は戻るが、小さいうちに身体を鍛えると子どもの骨や筋肉はまだ発達途中。
過度な負荷や反復的な動作は、怪我や成長板の損傷につながる可能性があり、怪我のリスクになる。
他にも幼い頃からの厳しい訓練は、精神的なストレスを引き起こして成長速度が下がる危険性もあれば極端なトレーニングが正常な身体的成長を妨げる可能性もあって成長のリスクになりかねない。
何より子供というのは遊ぶのが仕事のようなもの。協調性や問題解決能力の上昇にも繋がるし。
総括すると子供の肉体は壊れやすい。過度なトレーニングは成長するためのエネルギーが著しく低下するのでよろしくない。
肉体に合わせたトレーニングこそベストなのだ。少年は個性特訓は出来ないしな。
え? よく知ってるなって? プラチナ、それは暇だったから本で学んだだけだ。睡眠が必要ないから時間は余りまくってるからな。
完全に先生と生徒みたいになってしまったな……プラチナが生徒か……。
俺はどちらかと言うとプラチナと一緒に先生をやりたいところである。俺たちは一心同体だからな。
いえーいと喜びを示すハイタッチ。
――肉体がひとつしかないから気持ちはだけど。
散歩してたら火事になった。
いや誤解しないで欲しい。
俺が火をつけたわけではないのだ。
俺は白髪男と戦った時くらいにしか火事にはしてないしあれはやつの意味分からない個性の量の攻撃から逃げ回って避けた結果だ。
スタープラチナの目は滅茶苦茶いい。高い場所から人間の街並を見つつ冒険してたら山――確か瀬古杜岳だったか。
そこに子供がひとりで入っていったんだ。
それはもう心配になって思わず覗いてしまうだろう。大人なら自己責任だし気にしないが子供、それも中学生くらいとなると多感な時期。何かあったのではと勘ぐってしまう。
1人だと危ないと警告しようと接近していた俺は急な熱量に思わす顔を守るように腕で覆ってしまう。
人間の部分が出てしまった。
すぐに腕を振るうように動かして熱量の先を見ると驚愕した。
なんだあの火力は!?
俺の知るスタンド使い並だ!! おおよそ1500℃は超えているかもしれない!
時止め!!
使えないか!!
クソッ! こういう時に少年がいれば……いいや居てもどうせ使えないか。まだ精神エネルギーが足りないし居たところで被害者が増えるだけ。
時間がない。
俺の体は精神体! 火傷はない! はず!
全速前進!!
普通に熱い。
すまんプラチナ、俺が勝手に動いたせいだ。
とにかく消火するためには……風だ。
炎を消すほどの――
『シュウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!』
『ゴォオオオオオオ!!』
ビシィイイイイイッ!
秘技。
スタープラチナの肺活量。
かつて
ただ違うことは息を吐くことで強烈な風を起こしたこと。
しかし――
ゲホゲホッ! な、なにィッ!? く、苦しっ! お、俺に影響があるほどの熱!?
後からダメージが来た。
そ、そうか……プラチナと違って俺は元人間だ。
その意識によってダメージがあったのか。いや正確には魂が拒否反応を起こした……といったところか。
俺はスタープラチナ。俺はスタープラチナ。俺はスタープラチナ――あっ、ごめん代わってくれプラチナ。ちょっと無理かもしれない。
OKと返事してくれたプラチナに操作権を譲ると、プラチナは特に問題なさそうだった。
とにかく肉体が完全に焼ける前に防ぐことに成功したか。
火傷は……多少こそ残るだろうが早く処理したから問題なさそうだ。意識がなくなって――いや、違う。
スタープラチナの肺活量だけではない。
これは……スタープラチナの瞳だから分かったが、冷気がうっすらと出ている? 火を操る個性じゃないのか?
個性は1人ひとつのはずだが……とりあえず川に飛び込んだ方がいいかも、と告げるとプラチナが抱えて体を冷やしていた。
あとは――これどうしよう。
プラチナなら……うん、無理だよな。俺たち今殴る蹴るしかできないし。
ならやることは一つ!
ひとまずは――
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!』
木をひたすら殴ってラッシュを繰り出し、木を力づくで倒した俺たちは火が山を完全に燃やし尽くす前に白髪の少年を抱えて山から猛ダッシュした。
スタンドの俺たちでは当てが無い。
少年の元へ急いでくれ、プラチナ!!
少年の元へ帰るとご婦人はすぐに連絡してくれたため、白髪の少年は救急車に運ばれて行った。
俺は生命維持のために白髪の少年の中に飛び込む。
そして精神エネルギーを流し込む――まぁ生命エネルギーの波紋に似たような感じだ。
あれとは全然違うのだが、イメージしやすいとしたらあれ。治療出来る訳ではなく人間の心臓マッサージみたいなものだ。
何度も弾かれかけるが、無理矢理堪える。
心臓は動いてるから動かす必要はないだろう。
相変わらず個性の影響でスタンドが入るのは厳しい。何度か強制的に弾かれて透明化することでぶつかるのは避けているが。
やはり適性なのは無個性か。
個性持ちには入り込んでも共に戦うことは無理そうだ。反発力でスペックがかなり上がった俺たちですら弾かれる時点でスペックは関係ないのだろう。
オールマイトのような器が大きそうな存在なら可能かもしれないが……。
それより命に別状はないとのことで一安心だ。
あとは目覚めて話を聞くとしよう。
ご婦人に頭を下げて感謝した俺は目覚めて一人だったら心細いだろう、と睡眠を必要としない俺が椅子に座って目覚めることを待つことにした。
思わず助けてしまったが、この少年……さては白髪男関連ではないよな?
違うことを願いたい。
★★★★
――ここは。
俺、感情の昂りで出力が上がることを知って。
確かお父さんに瀬古杜岳に来てって言って。
それでお父さんは来てくれなくて、それで体が急に燃えて……。
「?」
「う、うわぁ!?」
急に覗き込まれてびっくりする。
紫色の顔をした、ハンサムな顔。全く知らない人。
誰!?
『山。燃えてた。完全には間に合わなかった。すまない』
喋ることが出来ないのかフリップボードに滅茶苦茶綺麗な字でそう書かれていて、顔は少し悲しそうだった。
この人が、助けてくれたんだ。じゃあやっぱり、お父さんは……。
『今は何も考えるな。休んでるといい』
俺の心の内に気づいたのかそう書いたその人に体が押されると背中には柔らかい感触が受け止めてくれた。
ここ、病院だったんだ。
なんなんだろう、この人。
肉体は……オールマイトみたいにムキムキ。フリップボードに書いてたのは全く見えなかった。
こんなヒーロー、知らない。速さだけで言えばオールマイト並かもしれない。
じっと見つめてくる蒼い目は何を思ってるのか分からないけど心配してくれてるのだけは分かる。
……事情、聞かないんだな。
しばらく経ってもその人は手を組んで待っているだけだった。
俺に何か声を掛けるわけでもなく、そこでじっとしてるだけ。
だからなのかな。
「俺、さ……」
ぽつぽつと、口が勝手に動き始めた。
俺の世界は、昔は完璧だった。
お父からの一身の愛、抱いてしまった夢へひたむきに駆ける生き方、妹の冬美ちゃんやお母さんからの応援。
小さな世界は、俺に幸福を齎してくれた。
だけどそんな幸せな世界は呆気なく崩れた。
ある日、お父さんと個性特訓をしていた時に腕が熱くなった。
軽いやけど。
ただの偶然だと思った。
髪が白くなったのも、たまたまそうなったのだと。
ただ、火力に体の成長がついていっていないのだと。
ただ、それだけなのだと信じて。
なのに。
突然お父さんは俺を見なくなった。個性のトレーニングも禁じられた。
弟の、次男の夏くんが生まれた。
お父さんは俺に目を向けてくれない。
見て欲しかった。
ずっと俺は、こっちを見ろと叫んだ。見てくれと叫んだ。
ヒーローになる。
それは、いつかに父から貰った祝福の言葉だった。
オールマイトだって超えられる。そんな言葉に、俺は魅入られていた。虜になった。そうなるんだと心から思ってた。
なのに急に周りが俺の夢を否定した。
言葉をかけても、皆が目をそらす。叫んでも、皆が俺の願いを否定した。
火をつけたのはお父さんだった。
灯された火はもう消えることは無い。過去は消せない。
俺はもう超えたいと思ったんだ。
父の最高傑作。求めていた存在が生まれた。
父に、世界に祝福された子ども。
その時、ようやく俺は失敗作であることを理解した。
いつか、見てくれると思っていた。
頑張って、頑張って、自分が優れた、本当の最高傑作が自分であると理解してくれれば、きっと。
なのにお父さんは俺を見ない。お父さんはずっと、末の最高傑作を見つめていた。
外を見ろと言われた。他の奴らと遊べって。忘れろって。
自分が言ったことはもういいんだと。
ふざけるな、ふざけないでよ。
違う。
俺はヒーローになりたいんだ。
オールマイトを超える。お父さんを超える。
そんな、最高のヒーローに。
ヒーローに、なりたいんだ。
それにたった一言、一度だけ、たったの一度でも良かった。
頷いて欲しかった。
ヒーローになれると言って欲しかった。
例え頂点に、星に手が届かなくたって。
手を伸ばすことだけは許されたかった。
たったの一度。もう一度だけでも、その道を閉ざさないで欲しかった。
その道に、行かせて欲しかった。
「俺、ヒーローになれないのかな……」
「?」
目の前の人は不思議そうに首を傾げた。
――この人に言っても、仕方ないよな。
会ったばかりで。
今話したけどそれだけ。
『なぜ、なれない?』
「え……?」
声が漏れた。
その意図が、分からなくて。
頭の中でその文字が反芻する。
どういう意味なのかと。
『この世界にはサポートアイテムが存在する。ヒーローならサイドキックがいる。例え熱に耐性がなくても』
『独りでやる必要はないしやり方によっては問題ないだろう。ヒーローになりたいならなればいい。誰がなんと言おうと貫くことが大事なんじゃないか』
『ヒーローになりたいならヒーローらしく運命に立ち向かえばいい。胸を張って誇りを持ち、堂々と立ち向かえばいい。人はそれを』
『STAND PROUD』
『そう言うだろう?』
スタンド、プロウド……。
『無論、火力を上げるだけじゃダメだ。時間はまだまだある。対策をして、扱い方を学べばいい』
『対策はまた考えればいい。今は休め、体のダメージが大きいと練習も出来ない。力なら、貸せる』
それだけを書いて、その人は毛布を整えるように肩までかけてくれた。
目元から何かが零れる。
誰かに見て欲しかった。
誰かに言って欲しかった。
誰かに認めて欲しかった。
――星の輝きが、俺の世界を照らした。
★★★★
――ぶっちゃけクズでは?
俺とプラチナはそう思った。
いや目的の、オールマイトを超えるために子供を作るってクズだろ。しかも話を聞いた限りでは愛情もあったもんではない。完全にデザイナーベイビーと同じだ。
長男から乗り換えて末の子供に押し付けようとしている。そんなので自分が最初に焚き付けた子供が諦めると思ったのだろうか。
この子の親が誰だかは知らないが裁くべき存在のようだ。
とりあえずオラオラの刑には一度した方がいいかもしれないな。そして反省してもらおう。
確かにオールマイトは俺の目から見ても凄まじい存在だ。30――いくらかは忘れたがそれくらいから前から突如現れた新星らしいし。
俺が知らぬ間に平和の象徴と呼ばれるようになっていた存在だ。
だからといってオールマイトを超えるという理想を子供に押し付けるのは違うだろう。
何をするにせよ、今俺が離れればこの白髪の少年はどうするか分からない。
治るまでは近くに居てやった方がいいだろう。
心配ない、このスタープラチナの手に掛かればトランプなど遊びには困らないからな。
俺の精密動作性を無礼ないで欲しい。
無事に退院出来た白髪の少年を、俺は少年とご婦人に会わせた。
『こっちは俺がお世話になっている母方様。こっちは少年だ。特にご婦人は夜遅いというのに救急車を手配してくれた』
「あの……轟、燈矢です。その件はありがとうございました」
「緑谷引子です。気にしないで。スタープラチナくんが急に火傷をした子を連れてきたからびっくりしたけれど、無事でよかった」
「ぼ、ぼぼ僕は緑谷出久です。あの、えっと……よろしくね、轟くん」
「……ああ」
迷子の子供のように俺を度々見つめてくる。
人が苦手なのかは知らないが。
少年なら炎を溶かしてくれるだろう。
頑張れ少年。
俺に黄金の精神を見せてくれ。
「それで、その……一つ! 聞いてもいい!?」
「……何だ?」
「轟くんってどんな個性!?」
「……は?」
「僕ね……僕は他の人たちが発現するよりも遅くて、無個性で……それで苛められたりしてたんだ。だから他の人の個性が気になって分析しちゃうようになったというか知りたい欲求が大きいというか」
それは違う。
それ“黄金の精神”じゃなくてただの“オタク”なんだ、少年……。
「無個性……」
「あっ、今はスタープラチナさんっていうそこに居る人が僕の個性だから違うんだけどね!」
「え? 個性!?」
『事情はいずれ話す。気にするな』
「いや気にするなって気になるけど!? 喋れるというか……筆談だけどこんな人間みたいにちゃんと会話が出来る個性なんて俺聞いたことないよ! 人型というか完全に異形型の人間だし! 探せばある程度会話は出来る個性はあると思うけど、全然違うじゃんか!」
そう言われても個性じゃないからだし人間の魂が入ってるのと元々本体が存在する精神体だからなのだが、ご婦人が居る中で話せるものではない。
今は気にしないでくれ。
「……俺の個性は炎を扱う個性なんだ」
「炎を!? すごいなぁ! シンプルだけど強くて目立つ個性! 炎の出力によって遠距離から近距離までこなす上に空まで飛行出来る個性! 街中じゃあまり高い出力は出せないって言うデメリットこそあるけれど対ヴィランにおいては強力な個性で――」
「な、なんなんだこいつ!? 何を言ってるかさっぱりなんだけど!」
『オタク』
それとしか言いようがない。
他に書く言葉は浮かばなかった。
「それに……そんな凄い個性じゃないよ……。俺、火に対する耐性がないから火力が大きいと長時間使えないし。お母さんの、氷に対する耐性が色濃く受け継いだみたいだから……つっても年下に言っても仕方がねえか」
「どうして?」
「……?」
「氷に耐性があるならその分炎を超えるレベルで冷やすことが出来るんじゃないかな? それこそ耐性がギリギリ持つくらい冷やしたらそれまでは最大出力で戦えると思うし。ほらエンデヴァーだってずっと炎は出せないから冷却する必要があるよね。より強力に冷却可能なサポートアイテムを使ったりサイドキックの人にやってもらったり水の中に入ったりとか色々と温度を下げていけば火力がいくら高くても問題ないと思うし個性も身体機能の一つだからダメージを負わないギリギリの出力で身体に馴染ませていけば――」
「……すまん、聞き取れない」
『要約すると火傷しない程度の出力を常に維持して身体に慣れさせ、少しずつ上げていく。常に体を限界まで冷やす。あとは俺が書いたのと同じ』
『個人的には熱の操作に慣れて一部ではなく体全体に行き渡らせて負荷を減らしたりとかもありかもしれない』
「……! 考えたこと無かった……今まで火力を上げることしか教えてもらってないから……」
やっぱりオラオラすべき人物らしい。
氷に耐性が強いなら少年の言う通り体が耐えられるほどの出力の氷で冷やせばいい話だ。個性がある世界なのだからそれくらいの出力を持つ人物もいるだろう。
負荷を分散すればその分攻撃した時の炎のダメージも減らせるだろう。
理想としては本体の仲間のスタンド、
肉体から切り離せばよりダメージも減らせるだろうし。
絶望するにはまだ早い。
時間はかかってもゆっくりと対策していけばいいだけの話。
ただ恐らく、氷の個性は使えないのかもしれない。本人は自覚ないし、下手にあるって書かない方がいいだろうな。
発動条件が分からない以上、期待させて絶望させるわけにはいかない。
ひとまずこの白髪の少年をお家に帰すとしよう。
多くの声を頂いたのもあり、連載へと切り替えました。
ランキングもかなり上まで行って、大変恐縮です。
とりあえず考えた結果、最終的にはハッピーエンドルートにしたいと思います。
応援してやってください。本当に流されて消えるだろう、と単発予定だったので何も考えてなかったので。