星の白金(ひかり)で断つ運命   作:クルセイダース

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火の始末

帰りたくないらしい。

大変困った。

俺の目的はこの白髪の少年を家へと帰すことである。

 

「どうせ俺のことなんて心配していないんだ。だからお父さんは来てくれなかった! 俺のことはもうどうだっていいから!」

 

そんなことは無いと声を掛けてやるのは簡単だろう。

誰だって出来る。

しかしそれはこの子の親を知らないやつが言えることじゃないのだ。

だが流石に1週間も親に連絡なし、顔を見せることもなしだと心配どころか死んだと思うかもしれない。

 

『一度帰ってみよう。会えなくなるのは凄く辛い。もう、二度と会えなくなるのは寂しい』

 

――俺のように。

プラチナのように。

もう会いたくても会えない、かけがえのない存在がいるのなら。

大切な人と会えるうちに会いに行った方がいいのだから。

 

「……分かった……」

 

果たしてその気持ちは伝わったのだろうか。

それは分からない。

少年が白髪の少年ではなく俺を見つめていたのは気になったが、俺は少年とご婦人に帰りが遅くなることを伝えると、白髪の少年に案内してもらって家へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――デカ。

家に着いて思ったのはそれだった。

本体の家と同じくらいの広さがあるのではないだろうか。

和風っぽい家だ。というか屋敷。

手を繋ぐ形で連れてきたが、完璧に迷子の子供。

俺は親になったつもりはないのだが。

なかなか開けるつもりはないようだ。

どうするべきか。

とりあえず軽くコンコンと叩いてみた。

 

壊れることはなく、音に気づいたのだろう。

足音が聴こえる。

 

「はい、どなた――」

 

出てきたのは初老の女性だった。

親ではないだろう。話を聞いた限りお手伝いさんがいると聞いた。

いつもなら威厳のある立ち振る舞いをするが、今回はそういう空気でもない。

ぽん、と白髪の少年を前に出す。

 

「燈矢……坊ちゃん……? ああ、これは夢!? いいえ確かに無事に……! 皆心配していたのですよ! もう1週間も行方知れずで――!」

「……ごめん」

 

信じられないものを見たかのような反応をしたかと思えばすぐに駆け出し、白髪の少年に触れていた。

心配していたことが分かったからか謝っていたが、本題に入らねばならない。

 

『無事であることをこの子の母親と父親に伝えて欲しい』

「そっ、そうでした! すぐに冷さんと、炎司さんにも連絡をしないと。ええっと……その、貴方は?」

『この子を保護してた者だ。通りかがった時に山火事になったのが見えて』

「そ、それは……本当ですか!? この度は本当に……! 誠にありがとうございます……! すぐに連絡して参りますので、その色々とお話されると思われますしぜひ上がってください」

 

恩人という形にしておけば両親は会ってくれると思ったが、どうやら上手いこといきそうだ。

嘘はついてないしな。

正確には見かけたから助けた、という違いはあるが。

 

 

 

 

「と、燈矢兄ぃいいい!」

「ほ、本当に燈矢兄が……よ、よがっだあーっ!!」

 

真っ白な髪をした二人が出迎えた。

片方の少女は白髪の少年に似ており、ちょっと赤い髪がある。もう片方の少年は男らしさのある、少しいかめしい顔をしていた。

そんな二人は泣きながら白髪の少年を押し倒してもみくちゃになっていた。

どうやら兄弟仲は悪くないらしい。

白髪の少年も実感したのか涙が浮かんでいた。

1週間も経っていたら死んでしまったかと思うのもあるかもしれない。

――俺が勝手に連れて行ったから死体とかないわけで。

そこは申し訳ないなと見ていて思った。

落ち着くまで俺は何もせずに胡座を掻いて見守っていたが、少しして俺の方を見てきた。

 

「と、ところで……この、ムキムキの人は?」

「あ、ああ……俺の恩人。名前は……そういえば聞いてない……」

星の白金(スタープラチナ)

 

確かにちゃんと名乗ることはしていなかった。

俺は自分の名前を書いて見せる。

 

「書くの速い! 綺麗な字! 燈矢兄を助けてくれてありがとうございました!」

「ありがとうございました。変わった名前だな……」

 

ボソッと次男が言っていたが聴こえている。

俺にとっては誇らしい名前だ。

本体の、かけがえのない仲間が付けてくれた名前。これ以外の名前を俺は、俺たちは名乗るつもりはない。

ひとまず気にするな、と言うように頭をポンポンと叩いてサムズアップしといた。

 

「喋れないんですか?」

『そう』

 

少女の方が聞いてきた。

スタンドというのは基本喋る存在ではない。

オラオラとかは口から自然と出るのだが、長年喋らなかった影響だろうか。喋れたのかすら覚えてないし、口から言葉がまず出てこない。スタンドによっては普通に喋れるので自我がある俺は話せるはずだが。

まぁスタープラチナの速度ならば困ることは無いからこのままで良いだろう。個性という存在にしてる以上は喋れないけど筆で話せる方がまだ理解出来るかもしれないことだし下手に喋ると話すべきではない内容も話す危険性がある。

スタープラチナの秘密は語ってはならない。俺たちの、異物の世界の情報がこの世界に流れてスタンド使いが出現されては困る。

それに筆談なら考えて書けばいいからそう言ったミスも防げるという利点がある。

俺の存在は口外すべきではない。あの白髪男以外に狙われるようになったらたまったもんじゃないし。誰が敵になるか分からない。

個性という超常が当たり前になった世界でスタンドという個性とは異なる力。

国のトップは間違いなく俺を調べようとするだろうしな。

 

ふと音が響く。

視線を向けると赤と白の半々となった髪の少年が覗き込んできていた。

年は少年と同じくらい。つまり5歳か。

 

「しょーと……?」

 

兄弟の中で緊張が走った。

相当面倒な関係みたいだ。

ふと本体と娘の、数年ぶりの再会を思い出す。

――これはちょっと違うな。

 

「焦凍。お父さんに怒られちゃうよ。行こ?」

「だって、燈矢兄帰ってきたんでしょ!? 俺も会いたいよ!!」

 

少女と次男が赤と白の少年を抱えて部屋から出ていく。

やはり色々と問題がありそうだ。

その原因は父親、か。

 

「燈矢!!!!」

 

そう睨んでいたら爆音が玄関の方からした。そうして、どしどしと、重量級の足音と共に何かが近づいてくる。

部屋に入ってきたのは、大男だった。

俺の本体のような体格を持っている。

二メートル近いだろう身長と筋肉量。恵まれた体躯を持ちながらそれは努力によって鍛え上げられていたというのがすぐにわかった。

赤い髪はまるで炎のように立っている。

 

「燈矢……燈矢ッ!!」

 

その男は白髪の少年を押し潰す気なのだろうかと思うレベルの勢いで強く抱きしめていた。

心配していた、だの今までどこに居たんだの、何があったんだの怒り混じりでも子を心配する親そのものだ。

しかし白髪の少年は少年の方で逆上して怒っていた。

来なかったのはお父さんだろ――と。

ひとまず放置しながらもう一人の気配に目を向けた。

真っ白な髪と肌。どこか儚げ雰囲気を持ちながら温和そうな表情で。少しだけ気弱そうに伏せられた瞳。

息子であった白髪の少年が無事だったことをちゃんと確かめることが出来たのもあるのだろう。

安堵からか瞳にはうっすらと涙が浮んでいる。

言い争いにはどうやって入るべきか迷っているようだが。

仕方ない。俺が止めるとしよう――

 

 

 

 

 

 

パァン!!

 

その時、時が止まった。

――正確には空気。

全力で両手を叩いただけなのだが、破裂したような音のせいだろう。

とにかく一度落ち着いて、話し合いをすべきだ。

空気を変えたら冷静になるだろう。

そう、思ったのだが。

 

「俺はヒーローになるんだ! この人が認めてくれた! 俺ならなれるって!!」

「ダメだ!! まだそんなことを言っているのか!!」

 

すぐに再熱した。

うーん難しいな。

ただのクズ、つまり毒親ならば問答無用で裁くことをしていたのだが、親としての愛情を確かに持っている。

白髪の少年が自らの肉体を傷つける力があるから辞めさせて別の道を行くように言ってるのだろう。

俺もプラチナも子を思う親を裁くことはしない。

俺たちが裁くのはあくまで悪人なのだ。

当てが外れたな……。

 

「お父さんが俺に言ったんだ! なのになんで今更、否定するんだよ!? 俺はずっとなりたいって言ってるのに!!」

「仕方が無いだろう!? お前の体質ではあまりにもリスクがありすぎるんだ! 命に関わるんだぞ!? いいか、ヒーローだけじゃないんだ! もっと! 外を! 世界を見るんだ!!」

「またそうやって!! 俺はヒーローになる! 絶対になるんだ!!」

「っ……いい加減にしろ!! 燈矢!」

 

本気の怒鳴り声、とも言うべきか。

白髪の少年が僅かに怯えた。

どうしようかと考えていた俺も流石に間に入る。

これ以上悪化したらまずそうだ。

うーん、人間だった頃の記憶がない以上は本体の記憶に頼るしかないのだが、参考にはならないだろう。悲しいことに。

とにかく一度部外者が入ることでリセットさせる。

 

「貴様は燈矢を助けたという……」

星の白金(スタープラチナ)

「スタープラチナ……聞いたこともない。喋れないのか。ヒーローか?」

 

俺が途中に入ったお陰かヒートアップしていたのが一旦収まる。

俺に視線が集中する。

大男も女性も。

白髪の少年は隠れるように俺の腰布を掴んでいた。

 

『ヒーローと言われれば違う。通りすがりとでも思ってくれたらいい』

「そうか。燈矢を助けてくれたことには感謝するが、これは親子の会話だ。話ならば後で――」

『この子の体質ならサポートアイテムやサイドキックを雇ったり、方法はいくらでもある。考えていけばいい。何故ヒーローであることをそこまで止める?』

『子のやりたいことをやらせてやる。それが親だろう』

 

――久しぶりに感じる脅威的な圧。

発生源は大男で、炎が少し吹き荒れていた。

このスタープラチナの肉体を以てしても冷や汗が流れる。

実際には流れてないのだが、あくまで俺の気持ちだ。

代わろうかと言ってくれるプラチナに感謝しながら俺は真正面から立ちはだかる。

 

「貴様には関係ないだろう! 貴様に何が分かる……!!」

『この子はお前を目指した。そのために歩んできた。お前はこの子のことをちゃんと見ているのか?』

「そんなこと言われずとも知っている! だが、それで……!! 体質のせいで個性を使う度に怪我をする身体で!! どうヒーローになるという!? 全てが無駄になって! 絶望したら! この子はどうなる!? 無理をしなくていいんだ! 燈矢! ヒーロー以外にも道はいくらでも――」

『オラァ!!』

 

思わず手が出た。

吹っ飛んだ大男に急接近し、胸ぐらを掴む。

殴った右頬が赤く染まっており、大男は敵意を宿しながら睨んできた。

 

「き、さま……ッ!!」

『父親の言葉は本人が思っている以上に子に影響を与える。それほどの強さを得たお前は努力したのだろう』

『ならその背中を見続けた子供が本当に諦められると思っているのか?』

「そ、れは……」

 

明らかな動揺。

自覚はあるのだろう。

焚き付けたのはお前だ。否定し続けることが正解なはずがない。

何よりこいつは、()()()()()()()

やっと家族らしくなってきて、なのに家族として過ごすことが出来なかった、本体に。命を散らしてしまったから。俺が、守れなかったから。

――そうなって欲しくない。

今ならまだ、引き返せる。俺が絶対にそうさせない。

 

『親が憧れを否定するな。心配なら見てやれ。その覚悟を持ち、共に歩んでやるのが親だろう。一つ教えてやる』

 

――そう出来なかった人間を、俺はよく知っている。

心配であろうと近くに居ることが出来なかった人間を知っている。

血筋が、運命がそうさせなかった人を知っている。

だからこそ俺が“覚悟”を伝えねばならないッ!

 

『“覚悟”とはッ! 暗闇の世界だろうと深い絶望の中であろうと!! 進むべき道を切り開くことだッ!』

 

 

『見えない未来へと恐怖や不安を抱えながらも一歩を踏み出す――その“覚悟”を抱えて突き進めるのが人の強さ! その“覚悟”は誰であろうと歩みを止めてはならないッ!!』

 

ドドドドドドドド……!

 

 

――ただ自然と頭に浮かんだ言葉を俺は告げていた。

夢を叶えた青年の、『黄金の風』を思わせる存在が浮かんだ。懸命に運命に抗い、決められた“結果”に対し“過程”を真摯に歩み続けたが故に真実に到達し、定められた結果を捻じ曲げ、運命を変えた青年のことを。

 

 

 

 

『人は、希望さえあれば必ず道は見えてくる。あの子の顔を見てみろ。その目で、しかと“見て”みろ。絶望があるか? あの子は既に“未来”を見ているだろう……!!』

 

大男の視線が俺から白髪の少年に移される。

白髪の少年に絶望はない。

強い“覚悟”を持った顔だ。

絶望の未来など考えてなどいない。

運命を受け入れ、それでもなお抗おうとしている精神!

立ち向かわんとする覚悟ッ!

お前はどうなんだ……!

 

「俺は……俺の、方だったのか……。足りなかったのは……恐れていたのは、俺の方だったのか……! 情けない……情けないッ!! 間違えていたのは俺の方だった……!」

 

手を離すと、力無く背中から倒れる。

俺がその場から退くと、背中を起こした大男は覚悟を決めたような、何処か優しい目を向けていた。

憎しみにも嫉妬も囚われていない。

息子を見る、“親の顔”。

しっかり、子供を見ている。

 

「燈矢は既に覚悟を持っていた……。……燈矢。ヒーローになりたいか?」

「お父さん……?」

「お前の気持ちを、本当の覚悟を聞かせてくれ。……頼む。今更父親面をする俺を許せとは言わん。だがこれは、必要なことなんだ。ヒーロー以外にも道はある。これから先、どうしても諦めなければならないような、絶望を知るかもしれない。心が折れるかもしれない。それでも……お前は本当に目指したいか?」

 

白髪の少年はそれを聞いて、俯いていた。

深呼吸するように息を吸って吐いて、顔を上げた。

それは“覚悟”の顔。

強く握りしめられた手が力強さを体現している。

――精神のパワーが、溢れ出す。

蒼い、蒼炎を思わせる炎。

もう、大丈夫だな。

 

「なりたいッ! お父さんみたいな、最高のヒーローにッ!! 俺もなりたいんだ!!」

「……!」

 

間違いなく一世一代の表明だろう。

その言葉を聞いた大男は目を伏せて、息を吐いた。

その目はどこか懐かしむような、慈しむような目だった。

 

「燈矢にとって……俺がヒーローだったんだな。俺が父をヒーローだと思っていたように……。わかった、燈矢」

「ほ、本当ッ!?」

「ああ。だが約束してくれ。これからは父さんはちゃんと時間を作る。だから二度と俺の目が届かないところで個性特訓をしないでくれ。これ以上、心配をかけさせないでくれ……。絶対に無理をしないでくれ。

お前の体質にも向き合って対策を講じよう。出来る限りのことを全部やって、改善していこう。これを破らないのであれば、ヒーローを目指していい。約束……出来るか?」

「お父さん……うん……うんっ……! もうしない! 約束する! だから、だから俺にも訓練つけてくれる!? 焦凍だけじゃなくて、俺も見てくれる!? それから……それから! ヒーローに本当になっていいの!?」

「ああ……約束しよう」

 

無邪気に喜び、かと思えば涙を流す。

しかも何故か俺の腹に突撃してきた。懐かれてしまったのだろうか。

忙しい白髪の少年の頭を俺は撫でて、独りごちた。

“やれやれだぜ……”と。

 

「――冷。お前にも言わなければならない。お前にばかり負担を掛けた。許されるとは思っていない。だがこれが俺の気持ちだ。すまなかった……。お前に責任を押し付けてしまった。自分が家族を苦しめているという事実から目を逸らすために、お前にばかり負担を掛けた。苦しみを分かち合うべきだったというのに……!」

 

これ、親がやるものでは?と思いながら慰めていると、大男は奥さんに頭を下げていた。

自分の過ちに気づき、やり直そうと思える人間ならばきっと問題ないだろう。

取り返しのつかないことになる前で、よかったと思う。

 

「炎司さん……顔を挙げてください」

「燈矢のことも焦凍のことも……子供たちのこと、貴方だけのせいではありません。あの人が仰った通り、私にも“覚悟”が足りなかった。もっと早くに向き合うべきでした。ですから……話し合いましょう。今度はちゃんと、お互いの思ってることを全て曝け出して」

「冷……。そう、だな……」

 

――なんだか向こうの関係も良くなりそうだ。

今度は家族間で頑張って欲しいものだ。

後は家族全体で話し合うだろう。

俺はそろそろ少年の元に帰るとしよう。

容赦なく引っぺ剥がして奥さんに渡したあと、軽く会話してから少年の家へと向かう。

その時にまた今度来るように言われたのと大男からも話があるとの事で後日伺うことになった。白髪の少年が俺を引っ張りまくってたのもある。

――その程度の腕力でスタープラチナに勝てると思ってるのかこの子供は。

今は部外者の俺が居たら話しづらいだろう、ということで去ることにした。

次は少年も連れて来なければならないだろう。

少年が死なないか心配である。

なぜならあの大男――No.2のエンデヴァーだった。

確かに強い力は感じたが、納得だ。恐らく俺が日本を去った後にプロとなり、駆け上がったヒーローなのだろう。

名前だけは聞いたことあったが、姿までは知らなかったのもある。

ひとまずは一件落着、だろうか。これからは彼ら次第だろう。

 

 

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