会社の忘年会で神コスしていったらカルト教団に辿りついてしまい神と勘違いされたぜ! 作:オタリオン
筆を持ち、空き部屋にて趣味にふける。
本を読み知識を深めて、美女と共に食事を楽しみ。
外へと出て、自然を堪能し、街へと行って新たな美女との出会いを……優雅だ。
すっかりこの世界の住人。いや、神になったんじゃないだろうか。
そう思いながら、俺は自らの才能を腐らせない為に筆を取った。
大きな木の机の上には色々なものが置かれていて。
俺の手には木の板に穴をあけて、その上にお手製の顔料をつけたものがあり。
そこらへんには丸めて捨ててている“和紙”が転がっていた。
「んーそうだなぁ……んーーー?」
「……あ、あの、ウロボロス様……その」
「何だ? 今、余は忙しい。話なら後にしろ……良い良い。そのままで……んーー!」
「こ、こう、ですか?」
俺はジジイ共の声を無視、筆を立てながら片目を閉じる。
芸術の才も俺にあるもので――そう、絵を描いていた。
メルステラのスケッチであり。
彼女は椅子に座りながら、照れくさそうに笑っていた。
やはり、絵を描くなら美女に限ると実感する。
が、何故か、一号と二号が近くに立っていて非常に邪魔だった。
「いいよぉぉいいよぉぉぉ……おい、退け。邪魔だ」
「じゃ、邪魔って、そ、そんな……うぅ」
「い、いや! ショックを受けるじゃなくて……う、ウロボロス様!! 目的!! 我々の目的は!? 願いは!? 信者たちに謎の事ばかりさせて、特にこれといって……き、聞いておられますか!? ねぇ!?」
「うるさいなぁぁ。ほら、これやるからちょっと待っていろ」
俺は近くにあった丸めた紙を投げる。
奴らはあたふたしながらもキャッチして中を開く。
そうして、眼を瞬かせながらこれは何かと聞いて来る。
「お前たちだ。似ているだろう」
「……え、点と棒と……え?」
「わ、私なんて、四足歩行……うぅ」
「――不服と申すか?」
「「い、いえ!! 何でもありません!!」」
奴らは頭を下げる……それでいい。
俺は再びメルステラのスケッチに集中し…………よし!
「出来たぞ……ふつくしぃ」
「み、見せて頂いても?」
「あぁ存分に見てくれ」
「は、はい…………わぁ! これが私!」
メルステラは口を手で覆いながら歓喜回ったような声を出す。
モナリザもびっくりの名画であり。
俺は彼女に微笑みかけながら「本物の美しさには遠く及ばないがな」と伝える……決まったな。
「わぁぁ……こ、これ、よろしければ……頂いても……あ、す、すみません! 私ったら、不敬を」
「良い。許すに決まっているだろう……持っていきなさい。余はお前に受け取って欲しい」
「……ウロボロス様……私、一生大事にさせていただきます!」
メルステラは大切に絵を持ち満面の笑みを浮かべる。
俺はそんな彼女に気分を良くしながら。
絵を自室に飾って来るように命じた。
彼女はしっかりと返事をして、子供のように嬉しそうに走っていった。
「ふぅ、疲れた……何だ。お前たち、まだいたのか? 暇なのか?」
「ひ、暇じゃありませんよ……お、お願いします。どうか、速やかに我らが願いを」
「わ、私からも、この通りです」
ジジイ共は床に両手をつき、額をつけて願ってきた。
ジャパニーズ土下座であり、これはどの世界も共通なのかと思ってしまう。
俺はため息を零し、奴らを見ながら伝えてやった。
「――だが、断る」
「え!? い、いや、だって、貴方様は確かに!!」
「そ、そうですよ……ま、まさか、嘘を……そ、そんな」
「――早計だぞ。ジジイ共よ」
「「……え?」」
奴らは俺の言葉に目を点にする。
今すぐに楽園を作る事など出来る筈がない。
何せ俺は本物ではなく、ただのスーパーハイパーイケメンでしかない。
大体の事は出来ても、流石に指パッチンで国を作るなんて無理だ。
が、そんな事は言わずに、ただ無言で奴らの視線をやり過ごす。
すると、そのタイミングで扉をぶち破って――ヒルデが現れた。
「ウロボロス様!! ただいま戻りました!」
「……ヒルデ? 何故、お前が?」
「お? 爺さんたちもいたのか……いや、そんな事よりも! 此方をどうぞ!」
ヒルデは分厚くだぼだぼのローブを着ていた。
フードを取れば、彼女の可愛らしい耳が姿を現し。
お面のようなものを外せば、彼女のふつくしぃ顔が見えた。
彼女はお面を虚空へと消し、俺の前に彼女は跪く。
そうして、手に持っていたものを“木の板の束”を丸めたものを渡して来る。
俺は彼女に礼を伝えながら、それを受け取る……ふむ。
「……なるほどなぁ」
「え、あ、あの、その“木札”は……ま、まさか?」
「これか? これは――文だ」
「ふ、文? え、誰から」
「決まっている――街の商人だ」
「「……!?」」
ジジイ共は狼狽える……まぁ無理もないか。
ウロボロス教団とは、世界的に見ればテロリスト集団であり。
犯罪者の集まりであるとされているらしい。
ハグレというのはやはり追放者の意味であったが。
まさか、犯罪者で構成されているとは思わなかった。
が、それは何も殺人などの重い罪ではない――いわば、冤罪だ。
聞けば、この世界には他にも宗教があり。
世界で信仰されているのが、“ヘーゼル神教”というものらしい。
何でも、とても美しい慈愛の女神らしく。
神託を受けた“
そいつらがこの世界の法などを定めているようだった。
奴らがダメと言えば禁止され。
奴らが良いと言ったものだけが流通する。
裁判でもそうであり、奴らが有罪だと言えばちゃんとした流れもくまずに罪人となる。
横暴であり、理不尽であり……この教団にいる信者たちは、そんな理不尽野党共の被害者という訳だ。
故郷を追放されて。
どの国でも支援を受けられず。
そのまま野たれ死ぬだけの彼らは。
互いに助け合えるコミュニティを作った。
それこそが、ウロボロス教団であり。
彼らの精神的支柱こそが、ウロボロス神だった。
ウロボロスとは、奴らの宗教でいう邪神で。
破壊と混沌を司る悪神らしい。
信仰する事は禁じられて、見つかっただけでも即刻死刑にされる。
そんな危険な存在であるが。
彼らにとっては、女神ヘーゼルこそが邪神で。
そんな存在が忌み嫌う存在であれば、きっと素晴らしい存在なのだと信じていたらしい。
敵の敵は味方、そういった理論だろう……まぁいい。
兎にも角にも、彼らは世界中でお尋ねものとされている。
追放処分とされたのは、単純に罪人たちを収容する牢獄が一杯だったからや。
一部の理解ある人間や教団の人間が脱獄を手伝ったからしい。
が、彼らは罪人である証として体の何処かに呪印が刻まれていると教えてくれた。
呪印とは、その人間が犯罪者であると示す為の証。
世界のあらゆる機関にて、呪印を持った人間を判別する道具があり。
小さな商店であろうとも、買い物が出来なくなってしまう。
彼らを助ける事は重罪であり、最悪の場合は死ぬ。
だからこそ、追放されたものは完全なる自給自足でもしない限りは死ぬだけだ。
……まぁ、日本でもそうだが、事情を知った上でそれでも協力してくれる人間もいるようだがな。
呪印を受けた人間は社会からのけ者にされる。
が、特段、追われたり捕まったりなどは無い。
考えられるとすれば、呪印を刻んだ瞬間に。
何処へ行こうとも、そいつらの死は確定していると思い込んでいるのだろう。
殺されるか、飢え死にするか。
或いは病気に罹ってそのまま。
だからこそ、罪人のリストも作っていないと当たりをつけた。
実際、街へと出向いた時に、衛兵らしき人間に呪印をつけた人間が徘徊していたと言えば。
そいつらは面倒そうな顔をしながら、それがどうしたと言いたげであった。
助ける事も庇う事もしない。
衛兵からすればどうでもいいようで。
明確な犯罪行為があった時にのみ。
動いたり、その人間たちの手配書を作成したりするのだと聞き込みにて理解した。
つまり、メルステラたちのような隠れてウロボロスを信仰している存在たちは。
認知さえされなければ、面倒な事にはならない。
……まぁ、流石に素顔を晒して街は歩けないらしいがな。
嵌められる事もある。
襲われるのだって普通だ。
だからこそ、そうならない為に。
大抵の呪印持ちは人の多い所を避けて行く。
結果、文明も無いような辺鄙な場所へと流れたりウロボロス教団のような組織に属するらしい。
ウロボロス教団は山奥にある。
此処は偶然見つけた地下神殿で。
畑などは地上にて少ないがあった。
家畜なども飼育していたが、ワインなどに関しては“優しい”商人から買っているらしい。
この場所は明かさず。
指定した場所にて物品の取引をしている。
一応、この世界の通貨とこの地域でのレート。
それを加味した上で、明細らしきものを見てみたが……案の定ではあった。
「……案ずるな。この場所は教えていない。そもそも、文のやり取りをした相手は私の素性など興味が無い……まぁ街の商人ではあるがな。はは」
「「……」」
ジジイ共は目を瞬かせてだらだらと汗を流す。
今、奴らは俺が馬鹿な事をしてくれたとでも思っているのだろう。
俺はため息を吐きながら、説明しても仕方がないからと。
近くにおいていた箱からあるものを出す。
すると、この場にいる全員が恐怖でそれを見つめる。
それは鈴だ。
何の変哲もない鈴だ。
が、俺が箱から出した瞬間に独りで音が鳴り始めた。
そう、これこそが呪印の人間たちを判別するもので――“罪の音”と呼ぶらしい。
「俺はその商人とコンタクトを取り、幾らかの手土産を渡して、商売についてのアドバイスを貰った」
「あ、アドバイス……な、何故ですか? ウロボロス様の力があれば」
「あぁ俺の力であれば、金などすぐにでも手に入る。が、金よりも最初に解決すべき問題は――お前たちだろう」
「「「……っ」」」
全員が苦し気な顔をする。
俺は別に責めた訳ではないが……まぁいい。
リンリンと煩い鈴を箱へと一旦戻す。
そうすれば音は聞こえなくなる。
俺はゆっくりと三人に視線を向けた。
「さて、それでは授業でもしてやろうか……先ず、呪印に関して。お前たちはそれに対して、どうこうしようと考えた事はあるか?」
「……最初の内は、印を消そうとしたり塗り潰そうとしたり……でも、すぐに戻って。皮膚を剥がしても……だから、諦めました」
「わ、我々もです……呪印は一度つければ、消す事は出来ない。どうしうようも……っ」
「そうだな。これは強力な呪いだ。呪いというものは、“貼る”ものではなく“刻む”ものだからだ」
元の世界との認識に差異はない。
呪いは、目に見えるものではなく。
心や魂に刻まれて、その人間の精神や肉体を蝕む。
この呪印もそれであり、目に見える印を除去しようとも意味はない。
それは単なる印であり、こいつらへの嫌がらせのようなもの――“そう見えるように設計”されている。
本質は、絶対に消えないということ。
後で消す必要が無いからこその呪いだ。
故にこそ、強力だと感じた……まぁ俺には呪いの知識は本のものしかないがな。
「消す事は無理だ。余の……今の力ではな」
「そ、そんな」
「――まぁ問題はないがな」
「「「……え?」」」
俺は立ち上がる。
そうして、机の上に置いていた幾つかの道具を取り出す。
先ず見せたのは、ある鉱石だ。
全員がそれを見て「炭?」と呟く。
「これは黒鉛……神の国ではグラファイトとも呼ぶ」
「ぐ、ぐら、ふぁいと……す、凄そうですね」
「あぁ凄いぞ。宝石のように価値あるものだ」
俺は商人から買ったそれを置く。
それなりの値段ではあったが、持っていた私物の一部を売って買った。
そうして、色々なものを出しながら説明していく。
「黒鉛には優れた導電性がある。細かく砕き粉末状にしたそれ。そして、カーボンブラック……油などを熱して取れた黒い粉末だ。針葉樹から……あぁ山に自生している木だな。それから取れたヤニ。天然樹脂だな……後は、増粘剤となる果物から抽出したペクチンや防腐剤となる大根から抽出したエキスを適切な比率で混ぜ合わせれば……これが出来る」
「……黒い、塗料?」
「え、絵の具、ですか?」
「いや、違うだろ……でも、うーん?」
三人は机の上に置かれた皿の中の塗料を見つめる。
どろっとしていて黒いそれ。確かに見かけはただの絵の具だろう。
が、こいつはただの塗料ではない。
俺は湿布を作った時の要領で。
和紙の紙片と簡易接着剤を合わせたシールにそれをぺたぺたと塗る。
そうして、三枚作ってから、三人に呪印を見せるように伝えた。
すると、ジジイ共は腕を捲り、ヒルデは首元を見せて来た。
俺はさっと三人の呪印の上からこれを貼った。
「これで問題は解決した」
「え、い、いや、塗料を塗ったものを貼っただけでは……?」
「そうか。なら、自分の目と耳で――確かめてみろ」
俺はそう言って再び箱から鈴を出す。
三人は眉を顰めて――大きく目を見開く。
「え、え、え、あ、え……な、鳴っていない!?」
「ど、どどどどういう!?」
「嘘だろおい!!?」
三人はアホみたいな面をしていた。
が、薄っすらと笑みを浮かべている。
「この塗料は神の国では、導電性塗料と言う……主に、電気の流れを良くする為に使われるが。EMC……電波と呼ばれるものを遮断する効果も持つ。お前たちの国で言うのであれば、魔力波――それを妨害する効果があるといったとことか?」
「「「……!!」」」
三人は驚いていた。
難しい話ではない。
この鈴と呪印は一見すれば、とんちきなものに見えるだろう。
が、実際にはちゃんとしたメカニズムがある。
先ず、この鈴は俺たちの世界でいう受信機に相当する。
そして、体につけられた呪印は発信機で。
こいつらの肉体にある魔力を使用し、特殊な電波を周囲に流していたのだ。
人体に影響が出る程の強力なものではない。
だからこそ、一定の距離でのみしか鈴が鳴る事はない。
最初にこいつらから呪印の説明を聞いた時。
なんとなくそういうものではないかと思っていたが。
幾つかの実験をしてみて、それは正しい事であると分かった。
先ず、ヒルデの鎧が大きなヒントになった。
それは彼女がいる時に行った実験にて。
他の人間と彼女では、鈴が反応を示す距離に僅かながらに違いがあると分かったからだ。
それは彼女が纏っている鎧であり。
アレは金属でありながら、電気の流れが通りにくい性質がある。
絶縁体と呼べるほどではないにしろ、俺の世界には無い不思議な鉱石の鎧だ。
が、それについての考察はしなくてもよかった。
ガラスやセラミックのような性質であり、その性質が僅かでもあればほぼ間違いなく“電波”であると考えた。
そこからは速やかに行動し。
単独にて街へと向かって、信用のおける商人とコンタクトを取り。
市場にて必要なものを揃えて、そのまま、導電性塗料の開発を行い――成功した。
「まぁ神であれば当然の……何を泣いている」
「え、あ、はは……何ででしょうか。私にもよく……は、はは」
「う、嬉しいんだと思います。本当に、本当に……っ」
「俺もです。あの鈴の音を聞かずに済むって分かって……す、すみません。俺」
三人は涙を流しながら笑う。
俺は笑みを浮かべて――立ち上がる。
「良い。許そう……が、こんな事で泣いていてはキリがないぞ?」
「え、それは、どういう……おぉ!?」
俺は一号にポケットの紙を渡す。
「それはレシピだ。そこに書かれている工程を踏んで、さきほどのものを全員分作れ。お前たちの仕事だ。出来るな?」
「「……!! お任せください!!」」
ジジイ共は頭を下げる。
俺が材料は“例の場所”にあると伝えれば。
駆け足で去っていく……ふっ。
「――ヒルデ、街へ行くぞ」
「あ、はい!! 今すぐに――え?」
俺は椅子から立つ。
彼女に声を掛ければ、彼女はフードを被ろうとした。
が、俺は彼女の手をそっと握って止める。
「それはもう――必要ないだろう?」
「……! はい!!」
彼女は笑う。
目にはまた涙が溜まっていた。
俺は彼女から手を離し。
ばさりと衣をはためかせて歩いていく――さぁ神としての仕事だ。