凄まじき戦士、最後の砦と成れ   作:後醍醐

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 世界が揺れる。思わぬ状況に、優一は目を見開いて咄嗟に椅子の背もたれを掴んだ。

 

「な、何だ!?地震か!?」

「いや、これは……!」

 

 直後、一瞬だが電灯が明滅した。

 揺れが収まり、警報が響く。

 

「……何が起きてる?」

「ッ、今のは爆発だと思う」

「爆発!?火薬でも扱ってるのか?!」

「魔術関連で使ったりするだろうけど、この規模の爆発は流石に……絶対に無いとは言えないけど、今はレイシフトの為の大切な時間だ。流石に、そんな実験をしてる暇も必要性も無いさ。とにかく、ボクは管制室に向かうよ!呉島君は――――」

「俺も行くぜ。魔術とかは分からねぇけど、それでも何かしら起きてるのなら人手は多い方が良いだろ」

「……身の安全を守るのが最優先だからね?それだけは、肝に銘じておいて」

「ああ」

「それから、通信用の端末を肌身離さず持っておくこと。元々、レイシフト先での通信も加味して設計されてるから、性能はお墨付きさ」

「それも了解」

 

 説得の時間も惜しい。そんな内心を含んだやり取りを経て、二人は部屋を飛び出した。

 カルデアの廊下は、嫌に静まり返っている。しかし、その一方で嗅覚には明確な異常を叩きつけてきていた。

 

「煙のニオイか……?」

「ちょ、待っ……!く、呉島君、速い……!」

 

 ロマニを振り切る様な速度を出しながら、優一は鼻を鳴らす。

 煙のニオイが濃くなっていく方を目指して走り、やがて辿り着くのは惨状。

 

「っ……!」

 

 頬を撫でる火災の熱気と、もうもうと立ち込める黒煙。破損した機材や瓦礫がその破壊の威力を声高に主張してくる。

 優一に少し遅れて辿り着いたロマニもその惨状を目の当たりにして、目を見開いた。

 

「こ、れは……!」

「ドクター!ここから、どうする!?」

「ッ、発電量が不足してるんだ。ボクは地下の発電施設に向かうよ。呉島君は、要救助者の捜索を」

「分かった」

「ただし!炎や瓦礫には近付き過ぎない様に。後、もうすぐ隔壁が降りる筈だ。それまでには退避をしておくんだよ」

「それも、了解だ」

 

 再度念押しして、ロマニは破壊された管制室を飛び出していく。

 その背を見送って、優一は改めて管制室へと足を踏み入れた。

 炎を躱して、瓦礫を避けて生きている者が居ないかを探す。

 老若男女問わず、誰でも良かった。話した事がなくとも、顔合わせをした事がなくとも、誰かが生きていてほしかった。

 果たして、

 

「……居た……!」

 

 瓦礫の影に見えた人影。

 咄嗟に駆け寄り、そこで見つけるのは菫色の少女。

 

「あっ……せん、ぱい……」

「マシュ!」

 

 頭から血を流し、マシュ・キリエライトはそこに居た。

 駆け寄った優一は、眉間に皺を寄せつつその傍らへと膝をつく。

 

(足か……!)

 

 優一は、唇を噛んだ。

 人間の大腿部には、大動脈が通っている。ここを、何かしらの要因で足を押し潰されて損傷した場合、押し潰してくる対象を取り除いたと同時に大出血を起こしかねない。

 呉島優一は医者ではない。しかし、救急キットがあれば最低限の応急処置が出来る程度の知識を有してはいた。

 故に、分かってしまう。目の前の少女は、救えないのだ、と。

 

「ッ……!」

 

 握った拳から、血が滴る。目の前の少女に、何もしてやれない自分が情けなくて、悔しくて。

 その堅く、固く、握りしめられた拳へと何かが触れた。

 ハッと顔を上げれば、血を流した事で青白くなった顔色の少女の指先が伸ばされているではないか。

 音が遠のく。

 

「せん、ぱい……てを…………」

「ああ……!」

 

 多くを語る必要はない。振るえる指先を、血に濡れながらも力強い手が握り返す。

 

「あっ……」

 

 生きた熱が、指先から注ぎ込まれるようだった。

 

 そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心清く 身体健やかなる者よ これより 運命の 旅路へと 歩み出せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が晴れた。

 

「ッ――――!」

 

 意識が戻った瞬間、呉島優一は勢いよくその場で跳ね起きていた。

 膝立ちとなり、突然動いた事で揺れた身体を地面に手を突く事で支えながら彼は周囲を見渡す。

 

「こ、こは…………何処だ?」

 

 見覚えのない世界が、視界一杯に広がっていた。

 崩壊し、瓦礫の山へと変貌したビルの成れ果てたち。空は暗雲が立ち込めており、遠くの空は炎が揺らめくせいか不気味な赤に染まっている。

 呆然と辺りを見回して、優一はある事に気が付いた。

 

「日本、か?」

 

 それは、支柱の折れた道路標識にかかれた文字。

 漢字、そしてひらがなを組み合わせたソレは、優一にとって実になじみ深いものだった。

 頭が混乱する。

 不意に、背後で音がした。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に拳を握りアップライトスタイルを取り乍ら振り返る。

 

「先輩!ご無事でしたか!」

「……マシュ?」

 

 駆け寄ってきたのは、つい先ほどまでとは一新された少女だった。

 目を引くのは、その格好と手に持った巨大質量物体。

 

「……コスプレか?」

 

 思わず、優一がそう問うのも無理はない。

 現れた少女、マシュ・キリエライトの現在の格好はカルデアで見た眼鏡にパーカー。黒のワンピースに赤いネクタイが印象的なものではなくなっている。

 深い黒鉄の鎧。しかしそれは、腹部を守る装甲にはへそが視認できる大きな穴が開いており、オマケに両肩、脇、二の腕の中ほどまで素肌を露出。両腕に装備されているのも籠手ではなくアームカバー。

 下も、ミニスカートの様な丈の腰装備に加えて日焼けを知らない白い太ももがこれでもかと露出していた。

 防具が防具として成立している様には見えない。加えて、彼女は細腕だ。身の丈を超える大盾を持ち運ぶことはおろか持ち上げる事すら難儀しそうな見た目である。

 一方で、駆け寄った相手からの呟きを拾ったマシュもまた首を傾げる。

 

「コスプレ……コスチューム・プレイを語源とする和製英語ですね。アニメやゲーム、マンガといった創作物のキャラクターの様相へと扮する。先輩も、ご興味が?」

「いや……マシュの格好を言ってるんだが……」

「わたし、ですか?」

 

 優一に言われて、マシュは自身の姿を見下ろした。

 

「この姿の事でしょうか?コレは、わたしがサーヴァントとしての力を得た証の様なものでして」

「さ、サーヴァント?」

「あ……先輩は、一般枠の方でしたね。ふむ……」

 

 同業者なら通じる専門用語も、完全な素人が相手となれば話は別だ。

 マシュは考える。そもそも、魔術という分野そのものが閉じた世界。基本的には、秘匿する事が大前提であり例え同じ魔術に造詣の深いものであってもむやみやたらに自分の分野を開示する事はない。

 一応、カルデアに事故的にとはいえ加入する事になった優一も魔術の関係者としての一歩を強制的に歩み出す事になってはいる。

 どうしたものか、とマシュは思案する。

 すると、不意に優一が腕に付けていた端末が振動した。

 

「ん?」

『――――こちら、カルデア!呉島君、聞こえるかい!?』

「ドクター…!無事だったか」

『それはこっちのセリフだからね?電力をどうにか復旧させて、無事だったスタッフを集めてどうにかこうにか管制室の機能を復旧したんだ。まったく、隔壁が降りる前に避難するように言ったのに、レイシフトしてるだなんて』

「……それは、悪かった。ただ、こっちとしても色々とあったんだ」

『とにかく、声だけじゃ詳しい状況が分からない。投影するから、少し待ってくれるかい?』

「ああ」

 

 端末に近づけていた顔を離して、少し。端末に搭載された小さなレンズから光が昇ると、左右に開かれその間に映像が浮かび上がった。

 浮かび上がるのは、疲れた様な、その一方で安堵した表情のロマニの上半身。

 

『映ってるかい?』

「ああ。そっちも、見えてるか?」

『問題ないよ。早速、状況の擦り合わせをしようか』

「そっちの被害は?」

『壊滅的だね。管制室に居たマスター候補は君を除いて全滅。スタッフにも大きな被害が出た上に、運営をギリギリで成立させるような状況だ。そっちは?』

「こっちは――――」

「わたしと先輩の二人のみです、ドクター」

『マシュ!君も無事、だった……ん、だね……?』

 

 割り込んできたマシュの登場に、ロマニの言葉は徐々に歯切れが悪くなる。

 何かあったのか。首を傾げる少女に対して、優一はとある事に思い至りしかし自身の右腕の端末から通信が投影されている関係上その場から動く訳にもいかず左手で頭を掻く。

 

「ドクター?」

『ま、マシュ!どうしたんだい!?すっごく、ハレンチな格好だよ!?』

「ハレ……!?」

「はぁ……」

 

 少年のため息が焦土に零れ流れていった。

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