凄まじき戦士、最後の砦と成れ   作:後醍醐

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 声が出ない。喉が張り付き、呼吸が細くなる。

 

(これが、サーヴァント……!)

 

 知識がなくとも、一目見ただけで理解させられた。

 拳を握りながらも、引き下がろうとするその足をどうにかその場に留めつつ呉島優一は冷や汗をその頬へと伝わらせていた。

 格闘技をしていた関係上、彼にもある程度の戦いへと臨む心構えというものがある。だからこそ、スケルトンなどの怪物を相手にも臆することなく戦う事が出来た。

 だが、目の前の存在は違う。ただの人間がどうこうできるような領域を逸脱した超存在。

 優一が冷や汗を流す後ろで、オルガマリーは顔色を真っ青を通り越して白くしながら全身を振るわせて涙目になっている。

 魔術に造詣が深いからこそ、この状況の絶望がより鮮明に分かってしまうからだった。

 

 現れた女。騎兵(ライダー)のサーヴァントは、表情の伺えない影の宿った顔を三人へと向ける。

 

「ああ……良いですね。何れも、見目麗しい」

 

 機械的な平坦な言葉がその口から零れ落ち、両手それぞれに握った柄頭に長い鎖のついた杭のような短剣が金属の擦れ合う音を響かせた。

 ゾワリ、と背筋の産毛が逆立つような感覚と共にライダーの気配が増す。

 

『魔力反応が増大してる!?来るぞ!三人とも!!』

 

 ロマニの悲鳴と共に、ライダーが動く。

 その姿勢を低くして、突っ込んでくる。優一が見えたのはそこまでだ。

 

「ッ!」

「えっ………!?」

 

 振り返る暇もない。後ろへとバックステップしながら、硬直していたオルガマリーを巻き込むようにして全力で後ろへと転がった。

 代わりに迎撃に動いたのは、マシュ。

 

 デミ・サーヴァントである彼女は、人でありサーヴァントである、という特異な状態。その身体能力、反射神経は常人を凌駕するものだ。

 

「くっ………!」

「良い反応ですね、お嬢さん」

 

 大盾を持って、迫りくる短剣の刺突を阻む。

 硬質な音が響き、マシュは己の腕に伝わる衝撃に腹の底が冷えていくのを感じた。

 

(怖い……)

 

 内心に溢れた感情が、水が砂に染み込むように全身に広がっていくようだ。

 今は、まだ対処できている。相手のサーヴァントが持つ白兵戦能力がそこまで高くなく、且つ()()()使()()()()

 だが、自身を中心として燃え盛る街を駆け回りながら小さく抉るように一撃離脱を繰り返してくる相手というのは如何に防御力が高くとも精神が削られていた。

 

 じりじりと追い詰められるマシュを見やり、駆け出そうとする優一。

 だが、そんな少年の腕を掴んでオルガマリーは引き留める。

 

「ッ、所長!放してくれ!」

「今あなたが突っ込んで何が出来るの!?無駄死によ!無駄死に!アレを見ても、まだ突っ込むの!?」

 

 半狂乱になりながら、オルガマリーが示すのは今まさにぶつかり合う二騎のサーヴァントたち。

 駆け回るライダーに対して、追えないと判断したマシュはその盾を用いた敢えてその場に立ち止まった待ちの戦法。

 だが、それは戦いと呼ぶには余りにも一方的だ。

 確かにライダーは、マシュの盾を突破できない。だが、マシュはマシュでライダーに対する明確な反撃を行えずにいた。

 カウンダ―をしようにも、そもそもの速度が違うのだ。受け止めて、反撃に移ろうとした瞬間にはライダーの姿はマシュの攻撃が届かない場所にある。

 嬲り殺し。蛇が執拗に、何度も何度も獲物へと噛み付く姿を想起させた。

 オルガマリーは言葉を続ける。

 

「サーヴァントは、一側面とはいえ歴史に名を遺した存在なの!英霊を相手に、一流の魔術師だって真面に戦うなんて出来ないの!そんな存在に、あなた一人が突っ込んだ所で意味がないわ!」

「ッ……!」

「とにかく、逃げるわよ!レイポイントを見つけて、そこでどうにかできる手段を見つけなくちゃ!」

 

 オルガマリーの言葉は正しい。サーヴァント相手に、生身の人間が立ち向かったとしても一瞬で物言わぬ肉塊に成り果てるのが落ちなのだから。真正面から戦える者など、例外でしかない。

 だが、

 

「!ちょ、ちょっと!!」

 

 握られた手を振り払う優一。

 抗議の声を上げるオルガマリーだが、少年の意思は固かった。

 

「……見て分かった。あんな存在に挑んだ所で、瞬殺される。そんな事は、所長。アンタに言われなくても分かる」

「なら「でもっ!!」――――っ」

「俺は、アイツを、マシュを、身代わりにするために一緒に居た訳じゃない。死地に送り込んで死なせるために、手を握った訳じゃない!!」

 

 何もできなかった。爆破された管制室で、死へと向かう少女の手を握る事しかできなかった。

 それこそ、魔術が使えたのならもっと何かできたかもしれない。それが小さな棘となって彼の心に突き刺さっていた。

 

 何より、()()()()()()()()

 

「……どれだけ咆えても、貴方が素人である事には変わりがないわ」

「確かに、俺は魔術とか知らねぇし、世界の命運だとかそう言うのも理解してるつもりはない。けど、」

 

 真っすぐに、二つの視線がぶつかる。

 

「――――素人にだって、出来る事はある」

 

 瞬間、優一は己の腰の前に両手を翳した。

 光が集まり、空間が歪む。

 

「!そ、それは……何なの?」

 

 オルガマリーは、息を呑んだ。

 光と歪みの中で、優一の腰には服の上から一本のベルトが巻かれていた。

 バックル中央に灰色のクリスタルを備えたベルトは、魔術師であるオルガマリーからすれば破格ともいえる神秘を内包している。

 目を剥いた彼女に背を向けて、優一は戦場へと向き直り――――駆け出した。

 

「――――変……身ッ!!」

 

 赤が輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呉島優一は、幼い頃から何度も同じ夢を見た

 

 それは、一人の心優しい男の物語

 

 戦いを忌避しながら、しかし人々を守る為に泣きながら拳を振るうその姿

 

 何度も何度も夢を見ること数年

 

 ある時突然、優一は力を得る

 

 未確認生命体第4号

 

 またの名を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は、最悪だった。

 

「――――悪くはありませんが、この程度ですか」

「あ……ぐ……っ」

 

 首を掴まれ、盾は地面に転がっている。

 マシュの細い首を掴んで宙へと吊り上げるライダーは、その握力を調整し首の骨を折らず、ギリギリ窒息しない程度の力加減をもって少女を弄んでいた。

 本来、彼女はここまでサディスティックな性質(タチ)ではない。戦闘においては冷酷に一般人の被害を許容するとはいえ、そもそも他人に対する興味が薄い方。

 荒れているのは、汚染の影響か。

 どうにか首を掴んでくる腕を外そうと藻掻くマシュだが、その筋力差とスキルの有無によって剛力が離れる事はない。寧ろ、藻掻けば藻掻くほどにライダーは嬉々として手の力を強めて、緩めマシュの呼吸を操った。

 

(せん……ぱい……)

 

 酸欠で、脳が麻痺し始めていた。ぼんやりとする意識。

 そんな中で、少女が思い浮かべたのは一人の少年の姿。

 変わっている黒髪の彼は、手を握ってくれた。

 苦しくて、寂しくて、痛くて。自身の背後で死神が鎌を振り上げているのが分かる、そんな状況で彼の手だけが暖かかった。

 サーヴァントには遥かに劣る戦闘力であったが、それでも互いに背を預けてスケルトンなどの怪物を相手取っていた瞬間は、とても心強かった。

 出会って1日と経っていない。だが、少女にとって少年の存在は正しく英雄(ヒーロー)だった。

 

(どうか……ごぶじで…………)

 

 意識が堕ちる。その刹那の事。

 

「なっ……ぐぅっ!!」

 

 ライダーが、その横槍をガードできたのは偶然の事だった。

 横合いから、まるで大型車でも突っ込んできたかのような衝撃が襲い掛かる。反射的に腕を曲げてこの一撃を防御する姿勢をとったが焼け石に水。

 掴んでいたマシュの体を放り出すようにして、ライダーの体は大きく吹き飛ばされていた。

 地面を転がるライダー。一方で、宙を舞う形となったマシュは、しかし動けない。

 つい先ほどまで首を絞められていたのだ。受け身はおろか、意識すらハッキリとしない状態。

 そのまま地面に叩きつけられる――――事はない。

 

「うっ…………?」

 

 硬い地面ではなく、固い肉のような感触。

 ぼんやりとした意識のまま、目を開けたマシュの視界に飛び込んできたのは鮮烈な赤。

 

「……何者ですか」

 

 起き上がったライダーが問う。

 先程まで自分が甚振っていた少女を両腕で抱えた異形の戦士。

 黒い下半身。両ひざ、両足首にそれぞれ金のプロテクターとリングが輝く。

 上半身は、赤。筋肉を思わせる赤い装甲を有した胴体を覆うプロテクターに加えて、両腕には赤い籠手。

 何より、その頭部。

 赤い複眼が輝き、力強い角が二本並び立ったフルフェイス型の仮面に覆われている。

 戦士は、少女を抱えたまま答えた。

 

「――――仮面ライダー」

 

 

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