凄まじき戦士、最後の砦と成れ 作:後醍醐
「仮面……ライダー?」
自身と同じクラスのサーヴァントか。そんな疑問と共に、ライダーの言葉はこの戦いにおいてはじめて揺れた。
仮面ライダーと名乗った、異形の戦士。
本来、サーヴァントへの通常攻撃は意味を成さない。幽霊に対して、拳銃が意味を成すかという話だ。
だがしかし、今この瞬間ライダーは防御した自身の腕に痛みを覚えていた。
それ即ち、現れた戦士はサーヴァントに対する攻撃能力を有しているという事。
ライダーが警戒を強める中、一方で戦士の腕に抱えられていたマシュはデミ・サーヴァントとしての強靭な肉体のお陰で酸欠状態を脱している所だった。
顔を上げて自身を抱える存在を見やる。
「先……輩………?」
何故そう思ったのか。明確な理由を彼女は挙げる事は出来ない。
酸欠状態で上手く機能していなかった彼女の脳は、仮面越しにくぐもった戦士の声を上手く聞き取れていなかったからだ。
それでも、自身を抱える腕の力強さと雰囲気から少女は安心感を覚えていた。
果たして、
「動けるか?」
「は、はい……あの、先輩……ですよね?」
「ああ」
「その、姿は……」
「答えてやりたいが――――っと」
マシュから視線を外して、戦士はその場を飛び退いた。
間髪入れず、突っ込んでくるのはライダー。
得体のしれない相手に突っ込むのは悪手だ。だが、ライダーの攻撃手段は高速移動を利用しての三次元的ヒットアンドアウェイ。近付かなければ相手に痛打を与えられない。
もう一つ理由を挙げるならば、今の彼女は正常ではないからだろうか。一度引いて態勢を立て直すようなそんな判断を下せなくなっている。
地面を滑るように着地した戦士、呉島優一は腕に抱えたマシュを片膝をついてしゃがみ込む。
「まずは、アイツをどうにかしてからだ。離れててくれ」
仮面にある複眼を真っ直ぐにライダーに向けたまま、優一はマシュをその場に寝かせるようにして下ろそうとする。
身体能力が格段に上がっている。だが、だからといって人一人を抱えて戦い続けるなど不可能だ。
だが、
「待って、ください……!」
少女の手が戦士の二の腕を掴んだ。
「わたしも、戦えます……!」
「だがな……」
「戦えます……!戦います、から……!」
だから一人になろうとしないでほしい。少女の言葉には、そんな感情が滲んでいた。
「……」
一瞬だけ、優一は仮面越しに自身を引き留める少女を見た。
弱弱しくも、しかしその目には確りとした光がある。口だけの言葉ではなく、覚悟を決めた戦士としての色がそこにはある。
「……分かった」
頷き、彼は立ち上がるとマシュを立たせるようにして腕から降ろした。
少しふらつく彼女だったが、しかし優一に寄りかかるような事も無くその両の足で真っ直ぐに戦地に立つ。
「行くぜ」
「はいっ!!」
優一の呼びかけに、マシュは己を叱咤するように腹に力を込めて答えた。
そして、駆け出す。
「ッ……」(厄介な)
鎖を鳴らして逆手に持った二振りの短剣を手に、ライダーは舌打ちする。
駆けてくる二人の敵は、異形の戦士を前においてその後ろに少女が駆け込んでくる形をとっていた。
戦士は大きい。その身長は、2m。加えて、上半身を覆う赤の装甲がマッシブな印象を与えて少女の姿を見づらくしている。
少しの逡巡を挟み、ライダーはその場を飛び出した。
常の彼女ならば、もっと相手を警戒する。速度を活かして見に徹して相手の見極めを第一として動く事だろう。
だが、先の通り今の彼女は通常の状態とは言い難い。その思考は怜悧さなど無く、只管に歪んだ闘争へと傾倒していた。
突っ込んでくるライダー。対して、優一はその複眼をもって相手の動きを正確に見切っている。
「散ッ!!」
「ッ!」
優一の大喝と共に、縦に並んでかけていた二人は左右に分かれて緩い弧を描きながら突っ込んでくるライダーを挟み込むような軌道を取った。
分かれた二人に、一瞬だけ加速が緩むライダー。
彼女からすれば、仕留めやすいのは
しかし、その一方でもう一人の異形の戦士を無視する事は難しい。
速度は勝っている。だが、その他の面は分からない。
この逡巡が、分水嶺。
優一とマシュは、態々攪乱の為だけに二手に分かれた訳ではない。
二人の狙いは、地面に転がった大盾にある。
駆け抜ける刹那に、マシュはコレを回収。ライダーがコレに気付いた時には、既に大盾が振り被られ回避を求められていた。
バックステップ。間一髪でこの一振りを回避し、反撃を――――
「そこだ!」
「くっ……!」
着地の一瞬の硬直を見切られ、優一の左廻し蹴りがライダーの後頭部を襲った。
咄嗟にしゃがみ込む事でコレを回避。だが、相手の攻撃は終わっていない。
振り抜いた左廻し蹴りをそのままの軌道で引き戻して軸足を入れ替え、身体を捻りながら右足を大きく振り上げたのだ。
振り下ろされる踵落し。その一撃は宛ら、断頭台の処刑斧。
咄嗟に、ライダーは両腕を頭上でクロスするようにしてコレを防いだ。だが、彼女の足元はクレーターとなって大きく陥没。一撃の威力が窺い知れるというもの。
何より、この一撃を受け止めた結果ライダーの足は完全に止まった。
「やあっ!!」
「ガァ…………!?」
遠心力とダッシュの勢いを乗せた横薙ぎ一閃が、ライダーの脇腹を捉えた。
まるで、玩具。吹き飛ばされて、地を跳ねて、ライダーは倒壊したビルの壁面へと強かに叩きつけられる。
舞い上がる粉塵。その破壊痕の中心で、ライダーは張り付けのように、鉄筋コンクリートを砕いて減り込んでいた。
そこに迫る、追撃。
「ハァアアアアッッッ!!!」
右拳を引き絞った、戦士の姿。
ダッシュによる慣性を上乗せした右ストレートは、その勢いを一切揺らがせる事無く無防備なライダーの胴体へと突き刺さる。
先の衝撃以上の粉塵が舞い上がった。
崩れていく壁面。舞い上がった粉塵が風に流れる中、異形の戦士は足元を見るようにその視線を下していた。
「甘い、人ですね…………」
口の端から零した血を拭う事も出来ず、ライダーは呟く。
大の字で転がった彼女は、最早戦う事はおろか立ち上がる事も、指の一本動かす事は出来ない。
サーヴァントは、霊体だ。人のように血を流す事はあれども、その流れた血というのは本物の血液という訳ではない。
魔力さえあればいい。霊核という心臓部を魔力で構成された皮で覆ったものがサーヴァントなのだから。
裏を返せば、霊核を破壊されればサーヴァントは消える。
そして、ライダーは先の
壁に叩きつけられた時点で消える事が決まっていたライダー。追撃を受ければ、その消滅は更に速まっていた事だろう。
だが、戦士はその拳を打ち付ける事は無かった。より正確には、消滅する事が分かり穏やかに口元を緩めたライダーの表情を視認した瞬間、その拳の矛先は彼女の胴体をズレてその隣の壁へと勢いよくつきこまれる事になった。
結果、ビルの壁面は大きく崩壊し、しかしライダーは完全に消える前に己に勝った戦士へと言葉を掛ける事が出来ている。
「その甘さを抱えて……戦える、と……?」
「……何と言われようが、勝ったのは俺達だ」
「…………ふふっ……そう、ですね……ええ、その通り…………では、貴方たちの道行きに、祝福を……」
やっと消える事が出来る。そんな内心はおくびにも出さず、自身を下した戦士と少女へエールを送り消えていったライダー。
その消滅を見送って、優一は息を吐き出す。同時に、身体が光に包まれその後には元の姿へと戻った少年の姿が。
「……」
その表情は、何処か晴れないものだった。爪先で足場の瓦礫を突いて、ため息を零す。
不意に、駆け寄ってくる足音が一つ。
「先輩!ご無事ですか!」
「……マシュ。ああ、俺はこの通りピンピンしてるさ」
心配を顔に張り付けて駆け寄ってきた少女へと、優一は片手を上げた。
思う所があっても、勝ちは勝ちだ。
何より、
盾を脇に置いて、慌ただしく少年の状態を触診しようとする少女。
そんな二人のやり取りを、一つの影が遠方より見下ろしていた。
「へぇ?……こいつは、面白れぇじゃねぇか」
その赤い瞳は、宛ら獣のソレ。
闘争の終わりは、未だに見えない。