凄まじき戦士、最後の砦と成れ   作:後醍醐

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 ライダーのサーヴァントを退けた一行。

 しかし、彼らの行軍は順調には進まなかった。

 

「説明してくれるわよね?」

 

 腰に手を当てて、目を三角にするオルガマリー。

 彼女からの追及は分かっていた優一は、頭を掻くと口を開いた。

 

「説明って言われても、俺だって詳しく話せる訳じゃないんすよ」

「詳しくないって……あなたねぇ……!」

 

 元々余裕がないせいか、今のオルガマリーは常にもまして神経質。

 一方で、優一は優一で精神的なストレスのせいか言葉の端々に棘が見え隠れしている。

 空気が悪い方に流れようとしていた。少なくとも、この二人をこのまま放置すれば苛立ちを募らせて怒鳴り続けるオルガマリーに対する、優一の堪忍袋の緒が切れて悲惨な結末を迎えかねない。

 そんな状況に対して、パンッと柏手の音。

 

「お二人とも、落ち着いてください」

 

 両手を打ち合わせたマシュの言葉を受けて、二人の視線が彼女へと集まった。

 

「サーヴァントを退けたとはいえ、この場が危険である事には変わりがありません。先ずは、レイポイントを目指しカルデアとの繋がりを強化。物資などの補給を済ませるべきだと思います。先輩のお力が不明瞭であるとはいえ、現状の戦闘状況では必須。特にサーヴァント戦ではその……わたしだけでは敵いませんので……」

「マシュ……」

 

 顔を伏せるマシュ。そんな彼女の頭を、優一は優しく撫でた。

 戦う事は恐ろしい。しかし、その一方でマシュは自身が先輩と呼び慕う少年が戦場に出る事に対しても少々思う所があった。

 異形の仮面戦士。その力は、まず間違いなくサーヴァントとの真正面からの戦闘を可能とする能力を有している。それこそ、先のライダーとの一戦も態々マシュが出なくとも問題は無かっただろう。

 ただ、彼を一人にしたくなかった。その一心は、嘘ではない。

 マシュのインターセプトのお陰で、オルガマリーはその茹った頭を僅かに冷やす事が出来た。

 そこから、数度の深呼吸を挟んで、改めて件の少年へと向き直る。

 

「……とりあえず、移動しましょう。詳しく説明できないというなら、その道中で構いません。分かる範囲での説明を」

「ああ」

 

 一応の収まりがついた。少なくとも最悪を回避したと言って良いだろう。

 その後、記録を取って後々に情報を精査するために端末を起動し録音の手はずを整えて三人は目的地へと歩き出した。

 

「ええっと、何処から話すべきっすかね?」

「……とりあえず、あの姿の名前は?」

「ああ…………仮面ライダー。仮面ライダークウガだ」

「ロマニ」

『生き残ってるデータベースを軽く浚いましたけど、結果はゼロですね』

「そう……仮面ライダー、クウガ……」

 

 顎に手を当てて、オルガマリーは考え込む。

 彼女の知識の中にも、仮面ライダーという語句は無い。しかし、その一方で彼女は件の戦士より感じた圧倒的な神秘は凄まじいものがあった。

 黙り込んでしまった所長に代わり、マシュが質問を口にする。

 

「先輩は、生まれつきその力を?」

「いや。アークル……ああ、ベルトの事な。コレを出せるようになったのは数年前だ」

「出せるようになった?」

「ああ。元々、小さい時から俺はある夢をよく見てたんだ」

「夢……」

「ああ。人間を殺す事を儀式にした怪人と、その仮面ライダークウガが戦うって夢さ」

「……」

「何でそんな夢を見るのかは、俺も分からない。ただ、意味はあったな」

 

 意味はあった。優一は左拳を握って僅かに視線を落としてから、頷いた。

 力があったからこそ、彼はマシュを救う事が出来た。戦う事に良い印象が無くとも、それでも優一にとってはその一つがあるだけでも心がほんの少し軽くなる。

 一方、考えに沈んでいたオルガマリーが顔を上げた。

 

「ベルトはいつでも出せるの?」

「ん?ああ、そうだな」

 

 ほら、と優一が示せば彼の腰の辺りに光と空間の歪みが発生し、服の上にベルトが現れた。

 その様子を観察しながら、オルガマリーは目を細める。

 

「置換魔術?投影……は違うわね。ねぇ、取り外せないの?」

「無理だな」

 

 優一は首を振り、思い出すのは初めてベルトを出現させた時の事。

 留め具などが無く、上下に動かして外そうとしても寧ろ下手に動かすと皮膚が引っ張られるような感覚で痛みを覚えた。

 外科的手段などで或いは、という話だが。如何せん、ベルトを見られるならば未だしも出現させるところを見られてしまえば言い訳のしようもない。

 

「……先輩は、誰かに相談しようとは思わなかったのですか?」

「んー……まあ、そうだな。言ったとしても解決できるとは限らないだろうし、そもそも誰に相談すれば良いかも分からないしな」

「それは……そうですね。もし仮に、魔術関係の家に見つかれば大変な事になっていたかもしれません」

 

 不用意な発言でした、とマシュは頭を下げた。

 彼女が言うように、魔術関連の者にバレれば何が起きるか分からない。

 生きたままにバラバラにされるかもしれないし、生きた人形のような有様で精神を破壊されるかもしれない。

 魔術師は、根源へと辿り着くためならば手段を択ばない。世間一般で極悪非道と揶揄されようとも、ソレが己の目的に到達する手段となるのなら躊躇いなく行使するだろう。

 三人の中では、もっとも魔術師であるオルガマリーも否定の言葉を口にする事はない。

 

 そのまま、2,3言葉を交わしていれば不意に繋いであった端末から声が響く。

 

『ご歓談中申し訳ないけど、三人とも。この先の橋の辺りにサーヴァントの反応を確認したよ』

「ッ、気付かれてるの?」

『ええっと……反応的には、まだ……だと思いますよ?ただ、橋の中ほどに陣取ってる様子で、ぶつかるのは避けられないかと』

「迂回路は?」

『川が広い上に、他の橋は落ちるか壊れてますね』

「~~~~っ!儘ならないわね……!」

 

 癇癪を起しそうになったオルガマリーだが、どうにか自制すると肩を落とした。

 迂回路が無いのなら、サーヴァントが居ようとも進まなくてはならない。

 

「変身、しとくか?」

「…………副作用はないの?」

「疲れるだけだな。後々休息が取れるなら、大丈夫だ」

「そう……分かったわ。許可します」

 

 オルガマリーが頷き、彼女へと通信機を渡してから優一は意識を集中させる。

 

「変……身ッ!」

 

 現れる、異形の戦士。

 

「……成功だな」

 

 赤い装甲を持った状態へと変わり、優一は呟く。

 

 成功。先ほどのライダーとの一戦でも変身できたのだからできて当然。そう思われるかもしれない。

 しかし、実の所を話すならば呉島優一に変身できるという確固たる確信はなかったりする。

 そもそも、彼はアークルを出現させられるようになってから()()変身を試していた。ライダー戦では、通算で三度目の変身。

 その成功した三度目より以前の二度は、何れも変身は出来たが長くはもたない未完成体(白いクウガ)だった。

 変身は直ぐに解けて、極度の疲労感から意識を失い半日ほど昏倒していた事もある。

 この理由は、簡単な事だ。

 

 力を持つだけの一般人と覚悟を決めた戦士の差。

 

 前までの優一は、前者だった。強大な力を有しても、その精神性は一般人のソレ。清い心であったとしても、戦士としては落第もの。

 一方で、今の優一は後者。戦うための心を備え、他人(マシュ)のためにその力を振るう事を決めた戦士としての第一歩を踏み出している。

 

 警戒しながらも三人は、橋の前にまで辿り着いた。

 

「居るな」

「居ますね」

『二人とも油断しないように。かなりの魔力反応――――二人とも、後ろだ!!』

「ッ!?マシュは、所長を!」

「は、はい!」

 

 ロマニからの悲鳴のような報告と同時に、優一は動いていた。

 呆けるオルガマリーをマシュの方へと押し出して、自身は三人の最後方へと躍り出る。

 間髪入れず、変身している事で強化された聴覚と視覚が自分達の方へと飛来してくる何かを察知した。

 咄嗟に腕を振るい、複数飛んで来る何かを弾き飛ばす。

 

「ッ、短剣……いや、短刀……まあ、どっちでも良いか」

 

 地面に転がった丈の短い刃物を見下ろして、優一は壊れた街を仮面越しに睨みつけた。

 

「カカカ……我ガ刃ヲ弾クカ」

「……」(遠いな)

 

 現れた、黒衣の何者か。

 距離は凡そ四間(約7m)。踏みつぶすには、少々骨が折れる。

 それだけではない。

 

『サーヴァントが二体……!?呉島君!君の目の前に居るのは、暗殺者(アサシン)のサーヴァントだ!』

「アサシン……忍び寄るのもお手の物、って事か」

「先輩!橋のサーヴァントが来ます!長物を所持している事から、恐らく槍兵(ランサー)かと!」

「挟み撃ち!?本当に狂ってるじゃない、この聖杯戦争は!!」

 

 喚いて頭を抱えてしゃがみ込むオルガマリーを挟んで、優一とマシュはそれぞれに構えを取った。

 闘争が始まる。

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