学園主催の写真コンテストが開催され、トレーナーとのツーショット写真で参加しようとするシオン。個性豊かな参加者が集まる中、彼女が納得できるような作品は出来上がるのか。
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【1】
「トレーナーさん! 一緒に写真を撮ってみませんか!?」
ある日の放課後。トレーニングの開始を待っている間に、シオンがそう切り出した。
「写真?」
「はいっす!」
「どうしたんだ、急に」
唐突な提案に首を傾げる。シオンは真剣な表情で話を続けた。
「今、学園のホームページでイベントをやってますよね。"みんなのトレーナーを紹介しよう会"って」
「ん? ……ああ、そういえばそんなのあったな」
学園からメールが来ていたのを思い出す。それほど重要ではなさそうなので、流し見程度でしか確認していなかった。
確か、ウマ娘と担当トレーナーのツーショット写真を学園のウェブサイトに掲載し、後日投票によって人気を競うという内容だったはずだが。
何となく思い出しつつ、手元のパソコンでメールアプリを開く。
「対象はデビュー済のウマ娘……応募方法は掲載する写真を送るだけ……か」
要考を読み上げつつ視線を向ける。シオンがうんうんと頷きを返した。
「学園内でも結構話題になってますよ。あたしたちも参加しましょう、トレーナーさん!」
「……」
やや興奮気味なシオンを前に、少しの間思考を巡らせる。
学園側がこういったイベントを定期的に開催しているのは知っていたが、そういえばほとんど関わってこなかった。いい機会だとは思うが。
……しかし、写真とは。
「うーん……でも俺、写真映りあんま自信ないし……」
シオンがメインのものならいい。ただ、今回はイベントの名前的にもそうではなさそうだし。
ツーショットで出来を競うとなれば、自分のように暗いやつが隣に立つことで、彼女の輝きに悪影響を与えてしまうのではないかと。
「嫌、っすか……?」
「!」
顔を上げると、シオンがものすごく悲しそうな顔で俯いていた。
「そ、そうっすよね……すいません、あたし、一人ですっかり乗り気になってて……トレーナーさんの気持ちも考えずに……」
「し、シオン?」
「いいんです……でも、トレーナーさん、あたしの自慢だから……それで」
呟きを重ねる毎に声が暗くなる。そしてシオンはどんどん涙目になっていく。
これはまずい――
「け、けど、今回はがんばってみようかな! せっかくのイベントだしな!」
「! ほ、ほんとっすか……?」
「あ、あぁ!」
何とか自信ありげな笑顔を取り繕う。上手く出来ているか不安だったが、すぐにシオンの表情に明るさが戻っていくのが分かった。
「よかったっす……ありがとうございます、トレーナーさん!」
ひとまず胸を撫で下ろす。うん、とりあえず元気になったみたいだからよし。
「……」
さて、これで済し崩し的に参加が決まってしまったわけだが。
まあ何とかなるだろう。一抹の不安を濁すように、一旦はそう思考を切り替えることにした。
――――――――――
紆余曲折はあったが、とにかく参加が決まったなら、まずは応募する写真について考えていくべきだろう。
どういったものにしようか。そうシオンにも話したところ、
「そういえば、早く応募した子たちの写真はもうアップされてたはずっす。お手本になるかも」
「なるほど……」
メールに添付されたリンクをクリック。画面がトレセン学園のウェブサイトに切り替わる。
見たところ、すでにそれなりの数が掲載されているようだ。シオンとともに一つ一つを確認していく。
「みんな早いっすね…………う、これは」
「オルフェーヴルのだな」
まさか参加していたとは。
隣で苦い顔をしているシオンの心境を察しつつ、クリックで写真を拡大する。
「……」
どこかのベンチで優雅に腰掛けているオルフェーヴルと、その足下で膝をついて座り込んでいる彼女のトレーナー。
さながら玉座に君臨する王と、それにかしずく臣下といったところだろうか。
「くっ……悔しいけどやるっすね、あいつ」
「本当にそうか……?」
少なくとも、この構図では主役はオルフェーヴルになっている気がするのだが。トレーナーを紹介するとは一体。
シオンは結構食いついている様子な一方、正直自分の中では困惑の方が余裕で勝っていた。
「つ、次にいこうか」
気を取り直して画面を下へスクロール。
すると、また見慣れた名前が続けて目に入った。
「ジェンティルドンナに、ゴールドシップ……?」
すでに嫌な予感がするが、一枚ずつ拡大していくことにする。
まず、ジェンティルドンナ。
まるで自分のトレーナーをバーベルか何かのように持ち上げ、重量挙げをしているような姿が映し出されている。真顔なのが妙にシュールだ。彼女がパワー自慢であることは知っているが……それにしても一体どういう状況だこれは。
そして、ゴールドシップ。
こちらはもう躍動感が凄いといったところか。横向きに飛び上がって、空中で思い切り脚を伸ばす彼女が画面いっぱいに映っている。
しかし肝心のトレーナーは一体どこに――
「これ、じゃないっすかね? 左側に、靴の先っぽみたいなのが見切れて」
「えぇ……」
本当だ。もうツーショットかも怪しいじゃないか。
おそらくドロップキックで蹴り飛ばされた瞬間を演出しているのだろう。これまたどういう意図かは謎だが……というか、演出だよな? こんな勢いの蹴りを本気で喰らってるわけないよな?
何やってるんだ、あの人たちは。
同期たちの奇行に理解が追いつかず、何だか頭が痛くなってくる。
「どれもインパクト絶大っすね。負けてられないっす」
この子も一体何を目指してるんだろう。
確かにどれも奇抜で目を引きはする。しかしそれはそれとして、まずはイベントの名前、趣旨から思い出すべきだろうとは思った。
「まずは構図からっすね。とにかく今までのを踏まえてみると――はっ」
「?」
ふと何かに気付いたようにシオンが顔を上げる。その顔色はひどく青ざめていた。
「あ、あたしが……トレーナーさんを担ぎ上げたり、跪かせたり、蹴り飛ばしたりしないといけないんすか……?」
「え」
「だ、ダメっす……そんな、そんな失礼なことをぉ……!」
どうやら気付いてくれたらしい。よかった、うちの子はまだまともだった。
まあ担がれたり跪いたりまではまだいいのだが、さすがにウマ娘の蹴りをまともに喰らうのはちょっと。あれで平然としているような人は多分もう人間を辞めている。
「同じ方向性でいかなくてもいいと思うぞ。持ち味をいかそう」
「! そ、そうっすよね。じゃあさっそく外に――」
「……」
さて、ここで一つ悲しいことを思い出してしまう。
チラリと、窓の方を見た。
「外、雨なんだよな」
「…………あ」
そもそもどうして自分たちがトレーナー室で待機していたか。
それはこの予報外れの荒天でコースが使えなくなり、代わりに予約したジムの時間まで暇を潰していたからだ。
そういうわけで外は厳しい。屋内で撮るか、もしくは日を改めるか。
「うぅ……」
いずれにせよ、出鼻をくじかれたような微妙な空気が既に漂い始めていた。
先ほどまでの勢いはすっかり衰え、シオンもしゅんと肩を落としている。
「……あ。でも、それなら」
「?」
ふと思い出したことがあり、再びパソコンを操作する。
デスクトップからフォルダを開くと、そこにはたくさんの画像データが保存されていた。
「他のを見た感じ、最近の写真ばかりでもなかった気がしてさ。前に撮ったので良さそうなのがあったら、それでもいいんじゃないか?」
「な、なるほど」
シオンも頷いてくれた。せっかく盛り上がってきたところだし、何もしないよりはいいだろう。
さっそくアルバムアプリを開き、中を改めていく。そのフォルダには、今までにレースや取材があった度、記者さんやファンの人たちから送ってもらった画像をまとめていた。
「? あぁっ、この写真」
「パドックだな。はは、君が立ちながら寝てた時のやつだ」
「まさか残ってたなんて……」
「それでこっちはレースの――……」
「何の。次は負けないっすよ」
「……ああ。そうだな」
当然、懐かしい写真もたくさん出てくる。
目的を忘れかけるくらい熱心に、少しの間シオンと思い出を語り合っていた。
「!」
そして、アルバムの残りが数ページとなった辺り。
自分の指が止まったのと、隣のシオンが息を呑んだのはほとんど同時だった。
「……そっか。こんなのもあったんだよな」
深く噛み締めるように、そう呟く。
それはデビュー戦の時の写真。"そのレースでファンになった"という熱い一言と共に、贈ってもらったもの。
太陽のように眩しく笑うシオンと、隣で涙ぐむ自分を収めた一枚。
「ちゃんと覚えてるっす。今でも、昨日のことみたいに」
「俺もだよ」
初めて二人で掴んだ勝利だ。今日まで続く最初の一歩を、忘れるわけはない。
「……応募の写真、これにしてみないか?」
「え?」
「あぁいや……もちろん、君がよければだけど」
つい口を衝いて出てしまった。
きっと、それだけ感慨深かったということなのだろうが。
「……あたしも、とってもいい写真だって思うっす。でも」
言葉を詰まらせるその声からは、大きな葛藤が感じ取れる。
「ちゃんと、たくさんの人に見てもらえるっすかね? せっかくの機会なんだし……あたしは、みんなにトレーナーさんのこと」
「……」
ぽつぽつそう零す姿が、とても愛おしく思えて。
つい手を伸ばして、その頭を撫でてしまう。
「と、トレーナーさん……?」
「ありがとう。でも、さっき言ってくれただろ? "トレーナーさんはあたしの自慢だ"って」
「…………ッ~~!」
もしかして、無意識だったのだろうか。
まるで今の言葉で思い出したように、シオンの顔がかーっと赤くなっていた。
「……君にそう言ってもらえただけで、俺は十分嬉しかったよ。だから、奇抜さとかじゃなくて、君自信がいいって思うものを選んで欲しい」
いつだってそうだ。彼女の真っ直ぐさがなければ、きっとここまでやってこれなかった。
「この写真じゃなくても、満足のいくものができるまで、俺も付き合うから」
「……いいん、ですか?」
「もちろん」
伏し目がちな問いかけに、強く頷いて答える。最初に感じていた不安なんて、今はもう欠片もありはしなかった。
「イベント、一緒に頑張ろうな」
「っ……はいっす!」
この子がこうやって、明るく笑っていてくれるのなら。
きっとまた、俺も頑張れる。
【2】
気が付けば、応募写真の〆切から一ヶ月少々が過ぎた。
些細なものと思っていたあのイベントも、どうも終わってみればかなりの盛り上がりになったらしい。
ネット上で一般公開され、また学園側が熱心に推していたこともあり、かなりの票が集まったとのことだ。SNSはもちろん、一部メディアでも取り上げられていた。
そして結局、自分たちが選んだのはあの写真だった。
色々と工夫して頑張ってはみたのだが、それを超えるような出来のものは撮れなかったのだ。
「……」
そして、再び放課後のトレーナー室。
あの日と同じで今は待ち時間だが、今日は気持ちいいくらいの快晴だ。事務作業が片付き次第、コースへ出ていくことになっている。
ふと、ソファに腰掛けているシオンの方を見た。
コンクールの結果は数日前に公開され、自分もその結果は伝え聞いている。
残念ながら、上位には届かなかったとのことだが。
「…………えへへ」
それでも、色々奇抜すぎたライバルたちの中では、一番いい結果だったようで。
手元のスマホを眺めながら、今日もシオンはご満悦だった。