外の世界の遊園地は、夜でもうるさかった。
光が多すぎて、暗がりというものが存在しない。
「ほら、着いたわよ」
紫が指さした先にあるのは、いかにもな外観のお化け屋敷だった。
安っぽい骸骨の看板。色あせた血糊。入口から流れてくる悲鳴のSE。
「……これ、作り物だよな」
「ええ。たぶん」
たぶん、という言い方が引っかかる。
列に並ぶ間、紫はやけに機嫌がいい。
腕を組み、ゆったりと周囲を見回している。
「こういうの、幻想郷にはないわね」
「そりゃそうだろ」
「だって、向こうは本物しかいないもの」
軽い調子で言うな。
順番が来て、中に入る。
途端に、空気が変わる……気がする。
暗い。
湿っぽい。
音が近い。
「ひっ」
自分でも情けない声が出た。
横を見ると、紫は普通に歩いている。
歩幅も変わらない。呼吸も乱れていない。
「そんなに怖い?」
「……怖い」
「作り物なのに?」
分かってる。
分かってるから余計に怖い。
次の角を曲がった瞬間、白衣の人形がガタッと動いた。
反射的に立ち止まる。
「っ……!」
「ふふ」
笑われた。
「安心しなさい。噛まれないし、呪われもしないわ」
「そういう問題じゃない……」
自分の声が、やけに小さく聞こえる。
紫は一歩前に出て、あえて人形の前に立った。
間近で覗き込み、首を傾げる。
「出来は悪くないわね。間の取り方が少し雑だけど」
「評価するな」
「だって、怖がらせるために作られてるんでしょう?」
そう言って、振り返る。
「貴方、こういうの、苦手なのね」
否定できなかった。
しばらく進む。
何度か「うわ」とか「やめろ」とか言いながら。
終盤に差し掛かったあたりで、紫がふと足を止めた。
「あら」
「……なに」
「まだ、こっちの外の世界には――」
少し間を置いて、楽しそうに言う。
「本物が残ってたりするのね」
「……は?」
意味を考える前に、背筋がぞわっとした。
「ひえっ」
完全に反応してしまった。
紫はそれを見て、満足そうに笑う。
「冗談よ」
即座に言われても、心臓は戻らない。
出口の光が見えてきて、ようやく息がつけた。
外に出た瞬間、妙に現実がうるさく感じる。
「……二度と来ない」
「あら、楽しかったじゃない」
「俺がなにを見てそう思った」
紫は少し考える素振りをしてから、首を傾げた。
「ねえ」
「なに」
「貴方、私は平気なのに、幽霊は怖いの?」
間髪入れずに続く。
「それって、失礼じゃない?」
返す言葉がなかった。
紫は笑ったまま、人混みの中を歩き出す。
自分は一歩遅れて、その背中を追った。
遊園地の明かりは、相変わらず眩しかった。