何も起きない日々   作:地軸

1 / 15
何も起きない遊園地

 外の世界の遊園地は、夜でもうるさかった。

 光が多すぎて、暗がりというものが存在しない。

 

「ほら、着いたわよ」

 

 紫が指さした先にあるのは、いかにもな外観のお化け屋敷だった。

 安っぽい骸骨の看板。色あせた血糊。入口から流れてくる悲鳴のSE。

 

「……これ、作り物だよな」

 

「ええ。たぶん」

 

 たぶん、という言い方が引っかかる。

 

 列に並ぶ間、紫はやけに機嫌がいい。

 腕を組み、ゆったりと周囲を見回している。

 

「こういうの、幻想郷にはないわね」

 

「そりゃそうだろ」

 

「だって、向こうは本物しかいないもの」

 

 軽い調子で言うな。

 

 順番が来て、中に入る。

 途端に、空気が変わる……気がする。

 

 暗い。

 湿っぽい。

 音が近い。

 

「ひっ」

 

 自分でも情けない声が出た。

 

 横を見ると、紫は普通に歩いている。

 歩幅も変わらない。呼吸も乱れていない。

 

「そんなに怖い?」

 

「……怖い」

 

「作り物なのに?」

 

 分かってる。

 分かってるから余計に怖い。

 

 次の角を曲がった瞬間、白衣の人形がガタッと動いた。

 反射的に立ち止まる。

 

「っ……!」

 

「ふふ」

 

 笑われた。

 

「安心しなさい。噛まれないし、呪われもしないわ」

 

「そういう問題じゃない……」

 

 自分の声が、やけに小さく聞こえる。

 

 紫は一歩前に出て、あえて人形の前に立った。

 間近で覗き込み、首を傾げる。

 

「出来は悪くないわね。間の取り方が少し雑だけど」

 

「評価するな」

 

「だって、怖がらせるために作られてるんでしょう?」

 

 そう言って、振り返る。

 

「貴方、こういうの、苦手なのね」

 

 否定できなかった。

 

 しばらく進む。

 何度か「うわ」とか「やめろ」とか言いながら。

 

 終盤に差し掛かったあたりで、紫がふと足を止めた。

 

「あら」

 

「……なに」

 

「まだ、こっちの外の世界には――」

 

 少し間を置いて、楽しそうに言う。

 

「本物が残ってたりするのね」

 

「……は?」

 

 意味を考える前に、背筋がぞわっとした。

 

「ひえっ」

 

 完全に反応してしまった。

 

 紫はそれを見て、満足そうに笑う。

 

「冗談よ」

 

 即座に言われても、心臓は戻らない。

 

 出口の光が見えてきて、ようやく息がつけた。

 外に出た瞬間、妙に現実がうるさく感じる。

 

「……二度と来ない」

 

「あら、楽しかったじゃない」

 

「俺がなにを見てそう思った」

 

 紫は少し考える素振りをしてから、首を傾げた。

 

「ねえ」

 

「なに」

 

「貴方、私は平気なのに、幽霊は怖いの?」

 

 間髪入れずに続く。

 

「それって、失礼じゃない?」

 

 返す言葉がなかった。

 

 紫は笑ったまま、人混みの中を歩き出す。

 自分は一歩遅れて、その背中を追った。

 

 遊園地の明かりは、相変わらず眩しかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。