ざわざわ
としてくれればまだよかった。
シーンという音すらない耳が痛くなるほどの無音。
俺と藍が歩く音だけが、土を蹴る音が響く。
「なぁ、これ、脱いで帰るべきじゃなかったか?」
「そんな、とんでもない」
「そうは言うがな…」
人里の喧騒が消え、モーゼのように人ごみが裂け道が出来る。
ヒソヒソという言葉すら聞こえない、良くも悪くも畏れに触れて生きてる幻想郷の人里ならでは反応。
「大名行列じゃねぇんだぞ」
「花嫁行列みたいなものです」
「せめて婿にしてくれ、婿でもねぇけど」
「紫様を家に入れたいと?」
「そういう話でもねぇんだわ」
「はぁ、まぁその辺りは旦那様が紫様と話あってください」
「だいたいなんだ、その旦那様ってのは、いや聞きたくない、言うな」
「それは、もう、紫様の旦那様ということですよ」
「聞きたくない言うなって言ったろうに」
「紫様との事は遊びだったと?」
「あの女で遊べる男がいたら、そいつは高天原でハーレム作れるわ」
「それはそうでしょうね、紫様を騙してその気にさせるとか逆に旦那様にふさわしすぎるでしょうね」
「はは、言えてる」
「紫様がその気になってるというのは、ご否定されないので?」
「正直お前はどう思う?俺には解からん」
「はぁ、鈍いのか慎重なのか」
「慎重すぎる程でいいんだよ、紫相手は」
「確かにそうですが、紫様にも原因はありますが…。」
「そもそもなぁ、俺の住んでる所で近所で紫がなんて呼ばれてると思う?若奥様だぞ」
「はぁ」
「俺は、田舎の旧家の令嬢と駆け落ちしたことになってた」
「ふふふ」
「笑うんじゃねぇ、いやまぁ、他人にどう言われても気にしてなかったけど、いや今も気にはしてないんだが、さすがにこれはなぁ」
人里を歩く俺たちに視線もやらず、時折頭を下げたまま、俺達が通り過ぎるまで顔を上げない人までいる。
「俺は、目を合わせたら呪われる呪物か」
「敬意と畏れですね」
「こえーよ、幻想郷での八雲の名を舐めてたわけじゃないが」
「まぁ、普段は紫様が歩いていてもこうはなりませんよ」
「紫は紛れるの上手いだろうしな」
そんな中、誰かと一瞬目があった、が即座に人ゴミの向こうへと消える。
「おい、今白黒の魔女が目が合ったとたん、逃げてったぞ」
「霧雨魔理沙ですか、まぁ、面倒なのに絡まれなかっただけ良いのでわ」
「一回話してみたかったんだがな」
「捕まえてきましょうか?」
「やめろ、そこまでするもんじゃない」
「そうおっしゃるなら」
また、誰かと目が合う、瞬間音も無く空へと飛び立ち彼方へと消えて行った。
「おい、ゴシップ新聞記者が、無音で空の彼方に飛び去ったぞ」
「旦那様の威光です」
「この服の魔除け効果じゃねぇか」
「そうとも言いますね」
「うげぇ」
もう少しで人里から出る、という時に
「あら、藍さん」
緑の髪の少女が話しかけてくる。ある意味凄い勇気だが、彼女なら納得だ。
「ああ、守矢の…。」
東風谷早苗、空気を読まない現人神は周りに流されない。
「そちらの方は?」
「ああ、こちらは紫様の…。」
「紫に世話になってる客だ、客」
言葉を遮る、余計な事を言うなと視線で藍に目配せをし…。
「ああ、紫さんの彼氏さんですか?」
「なんでそう思った?」
「だってその服…。」
まぁ、婿入り衣装に見えるか…。
「痛いカップルが着てる恋人の名前が書いてあるセーター見たいですもん」
「ぐほっ」
「ほら、もう腕に八つの雲、しかも紫でって、八雲紫は俺の腕の中って言ってるみたいですよ」
「げほっげほっ」
「あ、こんな事してる場合じゃなかったです、お使いの途中でした、紫さんのお客さんも良ければ守矢にご参拝ください、うちの神社は恋愛成就もやってますよ」
せき込む俺を無視するように駆け抜けていく。
「もう、帰る」
「はい、人里を出ましたら隙間でお送りします」