何も起きない日々   作:地軸

15 / 15
1話とばしてました、1話前に何も起きない帰り道があるので注意


何も起きない…わけじゃない

「あら、あらあらあらあらぁ」

 

白玉楼に戻った俺を待っていたのは、

俺の周りをぐるぐると回りながら声を上げる亡霊だった。

 

「あら、あら、うふふ、あらあら」

 

ぐるぐる、ぐるぐる。

幽霊ってバターになるんだろうか――

そんな現実逃避をしていると、横からふっと気配が割り込む。

 

「まぁ、意外と和装も似合うものね」

 

紫が、いつもの調子で顔を出した。

 

「そりゃまぁ、日本人だからな。で、紫。これ、どういうつもりだ」

 

「単なる魔除けみたいなものよ。

 幻想郷でその衣装に身を包んだ者を、襲う妖怪はいないわ」

 

「襲う妖怪どころか、近づく人間すらいなくなってるぞ」

 

「……そういう効果も、あるかもしれないわね」

 

「もう、紫ったら。素直じゃないんだから」

 

幽々子が、くすくすと笑いながら言葉を挟む。

 

「こんなの、立派な婿入り衣装じゃない」

 

「まぁ……正直、そう思われても仕方ないとは思うぞ。

 早苗なんか、痛いカップルセーターみたいだって言ってた」

 

「そこまで深い意味はないわよ」

紫は肩をすくめる。

「受け取る側がどう受け取るかは、自由でしょう?」

 

「もう、紫ったら」

 

……ああ、これは。

流す空気だ。

 

でも。

 

俺は一度、息を吸ってから、口を開いた。

 

「あのな」

 

紫がこちらを見る。

 

「お前は境界を引いたつもりなんだろうけどな」

言葉を選びながら、続ける。

「お前が引いたっていう事実は、動かせないんだぞ」

 

「……っ」

 

紫が、言葉に詰まる。

 

受け取る側がどう受け取ろうと自由だ。

だが、そう受け取られることを許容したという事実は残る。

 

「……私、やらかしたかしら」

 

「俺が知るか。

 俺はただ、恥ずかしいで終わる話だ」

 

沈黙。

 

「……」

 

「もう、別にいいじゃない。嘘じゃないんでしょ?」

 

幽々子が、穏やかに言う。

 

「でも、本当じゃないわ」

 

紫が小さく返す。

 

「本当に?」

幽々子の声が、少しだけ鋭くなる。

「これっぽっちも、そんなつもりなかった?

 自分のものだって主張して、周りに認めさせたい意図は

 なかったって言える?」

 

「幽々子さん、それ以上は……」

 

さすがに、と思って口を挟むが。

 

「貴方がそんなんだから、紫が甘えるのよ」

 

視線が、俺に向く。

 

「それは貴方の美点でもあるけど……弱いところでもあるわ。

 奇跡が終わるのを畏れる気持ちは分かる。

 でもね、手放す勇気も持ちなさい」

 

永い時を死してなお過ごしてきた存在の言葉が、

正論として胸に落ち、俺を黙らせる。

 

「紫」

 

幽々子は、今度は真正面から向き直る。

 

「貴方の振る舞いが曖昧なのは、今に始まったことじゃないわ。

 でも……自分の気持ちの境界までずらしてしまったら、

 何も分からなくなってしまう」

 

そこにいたのは、

ぽわぽわとしたお嬢様亡霊ではなかった。

 

八雲紫の親友として、

同じ時間を生きてきた“個”だった。

 

「……そうね」

紫が、ゆっくりと頷く。

「そう、よね」

 

「紫……俺は――」

 

「言わないで」

 

紫が、珍しくきっぱりと遮る。

 

「……そして、少し時間を頂戴」

 

揺れる瞳から、目が離せない。

 

「ああ」

 

その返事だけを残して、

紫は背後に隙間を開き――

静かに、その中へと消えていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~(作者:地軸)(原作:東方Project)

博麗霊夢は、死なない。 ▼そう信じられてきた巫女が、 「帰ってこられない場所」に辿り着いてしまった。▼ その傍らには、彼女の帰還に深く関わってしまった一人の人間がいる。▼これは異変解決の物語ではない。▼博麗霊夢が帰るまでの記録であり、▼やがて彼女を待ち、支え、選び続けることになる▼人間側の視点で描かれる物語だ。▼※オリジナル主人公(男性)視点の作品です▼※ハ…


総合評価:201/評価:8.43/連載:24話/更新日時:2026年02月14日(土) 22:57 小説情報

陸八魔アルに転生しました(作者:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス)(原作:ブルーアーカイブ)

そして失敗して反転して嚮導者になりました▼2026年05月03日(日) 18:00 本編完結しました▼2026年05月08日(木) 18:00 嚮導者の後日談完結しました▼2026年05月16日(土) 18:00 絆ストーリー完結しました▼匿名設定解除に合わせてPixivにも投稿を開始しました


総合評価:13648/評価:8.9/完結:33話/更新日時:2026年06月02日(火) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>