博麗神社から隙間を抜けて辿り着いたのは、和風の屋敷――白玉楼だった。
「本当、妙な事になってるのね」
目の前の亡霊姫は紫を見るなり、
「紫?……あら、ちょっと違うのかしら?」
と首を傾げる。
さすがは紫の友、といったところか。
そこから一通りの説明が始まったが、正直なところ、
今の俺にできることは、目の前で魂魄妖夢がお茶と茶菓子を並べる様子を目で追うのが精一杯だった。
ふよふよと舞う半霊に、思わず手を伸ばしかけて――さすがに失礼だと自重する。
幽々子が、こちらに視線を向ける。
「いつ終わるか分からない奇跡に、あなたはいるのよ。
まぁ、私が言わなくても分かっているでしょうけど。
それでも、その奇跡をかみしめるのは悪いことじゃないの。
今を謳歌しなさい。終わってからでは遅いのだから」
「さすが、死を司るお姫様は言うことが違うな。肝に銘じておきます」
そう答えてから、紫を横目で見る。
「紫、お前もこういう雰囲気を出せよ。上品で美しいやつ」
出来るのは知ってるが、当分見てないな。
「あら、美しいなんて嬉しいわ。
どう? 紫なんて捨てて、私にしてみない?」
「だめよ幽々子」
紫が即座に割って入る。
「もう彼は、私で手一杯らしいから。
他なんて、本物になれないわよ」
ぎゅっと首に腕を回してくる紫の腕を、軽く戻しながら、
「まぁ、夢みたいなもんだしな」
と呟き、離れた場所に座る妖夢の半霊に、つい未練がましく視線を向けてしまう。
「あ、そうそう幽々子。お部屋、貸してくれる? 泊まれる場所」
「いいけど、あまり騒がしくしないことね。
私はいいけれど、妖夢には刺激が強いでしょうから」
「ゆ、幽々子様!
こんな人を泊めるなんて、私は反対です!
さっきから私に、いやらしい視線を向けてます、この男!」
「いやらしくねーよ。半霊を見てただけだ。
……まぁ、ぶっしつけな視線になったのは謝る。物珍しかっただけだ」
「半霊も私です!
物珍しいのは分かりますけど、それだけじゃない気がします!」
「あー……まぁ、なぁ?」
言葉に困って、紫に話を振る。
「あー、ちょっと耳を貸しなさい」
紫が妖夢の耳元に身を寄せ、ひそひそと囁く。
「あんまりいい予感がしないんだが?」
「……は、破廉恥です!
変態です! 分かりました、分かりましたって! もういいです!」
紫から離れるように逃げていく妖夢を、やっぱりか、と視線で見送る。
「いいんすか、あれ?」
白玉楼の主――幽々子に声をかける。
「いいのよ。
紫が妖夢を揶揄うのも、いつものことだもの」
おー白玉楼の風呂ってこうなってんのか」
一人露天の湯舟で湯につかり空を見上げる、暗がりの幻想郷の空は外の世界より星の輝きが強く見える。
嘘っぽいと思ってしまう俺はいったい何をみてるんだろうか。
「よかったじゃない、紫、いい人が見つかって」
壁を隔てた女湯から声が響く。
「まぁね、不思議な物だけど悪くはないわ」
「もう、素直じゃないのね、そんなんじゃ、逃げらたり誰かに取られちゃうわよ?」
「あら、逃がさないし選ぶのは私よ」
「そういう事じゃないのよね」
「大丈夫よ、彼はもう私の体に夢中でまえだって私の胸を」
「そこまでにしとけよ、妖怪ババア!!」
さすがに黙っていられなくなった声を上げる
バシャーンと隙間が開いて隣に落ちてきた紫が目に入る
「ちょっ、お前ここ男湯」
魅力的な姿でこちらを見下ろす紫が挑発的に
「で、誰がババアかしら」
「お前だよ、風邪ひくぞ座れ」
壁の向こうで
「本当に、良かったじゃない」
ともう一度声が響いた