Dr.ロマンのブルーアーカイブ   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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第三部が発表されたら続きます。


第一章 暫定楽園都市キヴォトス
第一節 遮光(1/2)


 

 

ボクの名前はロマニ・アーキマン。

 

人理保障という命題を掲げて設立されたフィニス・カルデアという組織において、若輩の身ながら医療チームのトップを任された人間だ。

 

若くして責任ある立場に任命されたのは偏にボクが優秀だったから…ではなく、ここでは世間には秘匿された魔術や魔術師が数多く在籍しており、そちら側の知識を充分に理解した人材が必要不可欠だからだろう。

 

特に勤務先であるカルデアの南極基地は機密性を高めるため永久凍土で覆われた山脈に建設された究極の僻地である。資材一つ搬入するだけでも莫大なコストが発生する状況では技術の多芸さも職員に求められる重要な要素の一つで、予期しないトラブルにも柔軟に取り組む必要があった。

 

その点においては凡ゆる知識を必死に詰め込めるだけ詰め込んで準備しておいた甲斐があったというものだ。

 

しかし、如何に万全を整えて優秀な人員が揃っていたとしても…完全に不意を突かれては対処が難しい。

 

あれは人理保障を担う最初の作戦が開始される直前。

突如として発生した“内部犯による爆弾テロ“によって重要設備の殆どが破壊された挙句、作戦の要となるマスターが補欠要員の一人だけを残して全滅してしまったのだ。

 

これだけでも組織として半壊以上の被害を被った形だが、更に犯人は人類の歴史も含めて地球上の何もかもを焼却すると宣言。このままでは2016年以降の未来が完全に閉ざされると予想され、生き残ったスタッフが絶望を味わったのは言うまでも無い。

 

…だけどそのまま諦める選択肢を選ぶ訳にはいかなかった。

人理を継続し人々の未来を保障するカルデアの理念は、そのままボクという人間の命題にもなっていたからだ。

 

幸か不幸か肩書だけは一番上だったボクは仮の指揮官としてカルデアを再編成し、補欠だったマスターとあの子を人理焼却の原因となる特異点の修復に送り出す事になった。

 

その過程は実に困難を極めたと言える。

全てにおいて素人といえるマスターと荒事に向かないあの子は常に紙一重の冒険を何度も繰り広げ、少しずつ成長を遂げたとはいえその道のりは常に命の危険が伴っていた。肉体以上に精神の摩耗は並々ならぬものだったろう。

 

そして艱難辛苦を乗り越えた先で待っていた最終局面。黒幕であったアイツとの直接対決ではあらゆる手段を講じても突破口が一つしか見出せず、ボクは最終手段…いいや、あらかじめ決まっていた事を成すべく正体を現した。

 

…ロマニ・アーキマンは人間としての名前であり、英霊としての座に刻まれた真名は魔術の始祖王、ソロモン。

人理焼却の犯人であるゲーティアが巣食う肉体の持ち主であり、引導を渡せる唯一の通告者でもある。

 

…だからボクは己の全てを棄却する事で、同じ身体を共有するゲーティアを亡き者にしようとした。

それがボクという存在の完全なる消滅だとしても。

 

…勿論、死ぬのはとても怖かった。

これまで人間として積み上げてきた大切なものを失うのが、何より恐ろしかった。

 

……でも、後悔なんてまったくしていない。

 

素晴らしい光を見た。

眩いほどの明日を観た。

この世全てが焼却され、何もかもが手遅れになった世界でも、諦めず純粋に足掻く希望があんなにも輝いて見えると識ったからだ。

 

…だからこそ、ボクは訣別の時を受け入れた。

 

優柔不断な性格だが考えに考え抜いて下した判断だったし、長年に渡る悔恨をボクなりにキチンと精算した結末である。このまま綺麗さっぱりボクの存在が消えたとしても本望だと、納得していたというのに。

 

「どうしてボクがここに居るのか…君は分かるかい?」

 

気が付けば、周囲は朝靄のような柔らかい日差しが差し込む路面電車の座席に早変わり。いつの間にかそこに腰掛けていたボクは対面に座るもう一人の乗客…傷だらけの少女に向かって問いを投げ掛ける。

 

『……私のミスでした』

 

しかし、こちらの問いに対して返ってきたのは自白に近い呟きだけ。

罪悪感を感じさせる淡々とした声色の割に録画された映像のような冷たい印象を受けるのは何故だろうか? ガタンゴトンと小気味良い音だけが流れる摩訶不思議な空間の中、ボクと彼女の二人だけが実像を結んでいる。

 

『私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況』

『大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々』

『あの時の私にはわかりませんでしたが……今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。…それが意味する心延えも』

 

淡々と吐き出されるのは深い懺悔の感情と謝罪の数々。

どうやら彼女は以前どうしようもないほど選択肢を間違えてしまった結果、取り返しのつかない絶望を味わったらしい。言葉の節々に後悔の念が滲み出しているのはそのせいだろう。

普通ならこんな重い話を打ち明けられたとしても理解が及ばずに敬遠するか、適当な返事でお茶を濁して煙に巻く場合が多いはずだ。

 

ただボクに限って言えば、傷だらけで話す彼女を見ていると…どうしても過去の記憶が揺さぶられてしまう。

真新しい傷と真っ赤な血液。致命傷に近い状態であっても苦悶の声すら漏らさずに健気な笑みで平常を装う姿は、本人の意思とは関係なく純粋であれと設計された挙句、限られた空間でしか生きることを許されなかった子を強く想起させたからだ。

 

担がされた重荷を煩わしく思う発想すらなく、痛々しいまでの自己犠牲を宿した高潔な精神。人の善性を信じてやまず、それなのに自分なんかを含めてはいけないと思い込むアンバランスさが、どことなく似ていると感じてしまった。

 

きっと彼女も特殊な生い立ちがあるのか、はたまた特殊な事情を抱えてしまったのかも知らない。

もしかしたら人間として歩むべき物語を知らないから、たった一人で頑張ろうとしているのかもしれない。

 

「……分かったよ」

 

だからせめてボクが手を取ろう。

目の前で頑張ろうとする年下の子を無碍に扱うなんて真似は、大人として恥ずべき行為だと思うから。

 

「何処かの日和見魔術師に習う訳じゃないけれど…悲しいだけの結末なんてボクだって見たくない。…だから君の願いに微力ながら力を尽くそう」

 

そう告げると彼女は安心したように力無い微笑みを浮かべた。

すると役目を終えたとばかりに温かな光を携えた路面電車は逆光の眩しさだけを残して幻のようにフェードアウトしていく。

いったい彼女が何を願ったのか…。詳細を聞くのをつい忘れてしまったが、人理を焼却されるという未曾有の危機を乗り越えた自分なら乗り越えられるはず。

そんな決意を胸に秘める一方で、少しずつ穏やかに意識が薄れていく。

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザッ

 

 

 

「なんで■■先輩が……答えろ■■!」

「■■■は勇者ではありません。サーヴァント・セイバー。召喚に応じ、参上しました」

「私は魔女なんだよ。だって本物の神父様に教えてもらったんだから☆」

「こちらRABBIT1。これよりサンクトゥムタワー改め、■■■の伐採を開始します」

「あぁ! 巨大なパンケーキとパンケーキが戦ってる!?」

「■■■ではなく■■■…どちらにせよ■■■■である事は変わりませんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー以上の工程を以って、彼のクラスは決定された」

 

「色彩の嚮導者なぞ偽りの称号。其は人類が進むべき地平の象徴にして、あまねく恐怖の終局点」

 

「未来という輝きの御旗を掲げ、されど葬列を率いる大災害」

 

 

「その名をーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー先生、起きてください」

 

何かのビジョンが頭を過ぎったロマニ・アーキマンだったが……その記憶は誰かの声によって掻き消されて記憶の外に弾かれてしまう。

 

加えて彼の眼前に広がる光景はついさっきまで滞在していたと思われる不可思議な路面電車とは打って変わって、都会であればよく見かけるであろうオフィスビルの一角だった。

何処にでもあるようなステンレスの机に市販品であろう文具に調度品。あまりに普通すぎる景色が違和感という名の毒気を抜いてしまう。

 

ロマニはかつて似たような感覚に襲われた覚えがある筈だったが、いくら頭を捻っても何も思い出せず、歯噛みする。時間神殿から続く怒涛の状況変化に振り回されていると言ってもいい。

 

「あの…どうかされましたか?」

 

そこへ先ほどの眼鏡をかけた少女が心配するように覗き込んできた。少々奇抜なデザインの学生服だが、いかにも現代社会を生きる学生といった雰囲気だ。

 

ロマニは取り敢えず荒れた感情の諸々をリセットしてから口を開く。

 

「いや〜何というか、うん。大丈夫だと思うよ?」

「万が一お疲れでしたら遠慮なく申し出て下さい。先生」

「すまないね……って今、ボクの事を先生って呼んだ?」

「はい」

「それはまたどうしてだい?」

「どうと言われましても…私はそのように呼ぶよう指示されていましたので」

 

どうやら彼女は路面電車の少女が手配していたメッセンジャーらしい。

 

「なら始めは自己紹介から始めようか。…僕の名前はロマニ・アーキマン。気軽にDr.ロマンとでも呼んでくれ」

「ドクター…医療関係の方でしょうか」

「その通り。それで君からも教えてくれるかい?」

「あっ、申し遅れました。私は七神リン。ここ学園都市キヴォトスの連邦生徒会に所属する一人で、Dr.ロマンが教師として働けるようお手伝いに参りました」

「ふむふむ……ではリンちゃん。早速だけど色々と質問させてもらってもいい?」

 

少しでも詳細に状況を把握しようと会話を重ねるロマニ。しかしそこから説明されたのは今までの常識とは大きく異なる事情ばかりだった。

 

広大という規模に収まらない敷地面積を持つ学園都市キヴォトス。

学生の全てが女性であると同時に人間の大人が一人もいない環境。

獣人やロボットといった霊長類に属するか分からない知性体の存在。

もはやSFの段階まで高い発展を遂げた科学技術。

そして最も恐ろしいのは“神秘“の加護を受けたうら若き少女達は銃弾の直撃を当たり前のように耐え、鉄の塊である銃火器を軽々と振り回すのが当たり前だという。

 

これらを踏まえた上で彼女達を正しい道に導き、キヴォトスで発生するであろう問題を解決するために赴任してきたのがロマニ・アーキマンという存在であり、同時に超法規的な権力を持つ連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの顧問になるのが先生としての仕事らしい。

 

「…うん、どう考えても厄ネタの気配しかしないぞぉ!」

 

高い科学技術までは特異点やら文化の違いで何とか理解が及ぶ範囲だが、元の世界では失われて久しい“神秘“が公然と存在していると聞かされては落ち着いてはいられない。

 

ロマニの知識によれば神秘とはそれ即ち紀元前の地球上に漂っていた真エーテルを指す言葉に違いなく、これは現代に生きる魔術師にとっては非常に有益な代物であると同時に、常人が何の対策も無く取り入れてしまえば即座に死に至るような猛毒に近い特性を持つ。

流石にまったく同質のものがこの世界に存在するとは思わないが、もし似たような性質であれば使いようによっては天変地異や奇跡の真似事すら可能としてしまう。いたずらに扱って良いクリーンなエネルギーだとは微塵も思えないのが本心だ。

 

(これは暇な時間を見つけてボクなりに研究を進めるべきだな。…やれやれ、多少はサボれると思ったんだけどなぁ…)

 

あの時と同じだった。

他の誰かが出来ないなら、自分がやるべき。後になって後悔するくらいであれば頑張ってみるべきだと思う。

だから目の前で不安そうにしている七神リンを安心させるようと気を取り直し、いつもの柔らかな笑顔を心がけて言葉を返す。

 

「まぁきっと大丈夫! ボクなりにだけど頑張ってみるよ」

 

そして、最初にこなすべき仕事として任されたのは今後の活動拠点となるビル内部に安置された特殊なデバイスの取得だった。

 

どうやら現在のキヴォトスでは連邦生徒会長というトップの立場だった人物が突然失踪した事で凡ゆる手続きが遅延している上に、インフラや行政の管理などを任されていたサンクトゥムタワーなる建物がその機能を停止しているらしい。

 

しかも泣きっ面に蜂とばかりにキヴォトス全体に根を伸ばしている不良や悪徳集団が活動を活性化しさせ、都市全体の犯罪率まで跳ね上がっている始末。

この状況を打破するには少なくともサンクトゥムタワーを正常に再起動させる必要があり、そのためには上位権限の一時的な移行権を持つ謎のデバイスが必要不可欠だと言う。

 

それならば早急に対処する必要があるとしてリンを伴いながらオフィスから出る。清潔感のある廊下を通り、ガラス張りのエレベーターを使って一階にあるエントランスホールへと順調に足を運ぶ。

 

到着を待つまでに訪れる無言の時間。

外の景色はゆっくりと上へと流れていき、規則正しく並ぶ高層ビルの谷間を航空ドローンが飛び交う。ロマニが知る日常風景とは少し異なるが平和な世界は今日もそこかしこで銃火器の発砲音を奏でながら青い空に包まれて…。

 

「………先生あまり熱心に太陽を直視するのはおススメしませんが」

「あ…あぁ、自分でもよく分からないんだけど…久しぶりに空を見たせいか、ちょっと感動してたんだ」

「はぁ……」

 

その言葉に嘘は無かった。

カルデアは人理焼却の余波によって一年以上侵入も脱出も出来ないシェルターと化していのだ。しかも建設されていたのは人通りなど皆無の南極。更には標高6000mの山の上という僻地とあって普段から晴天そのものが稀な環境だった。直に感じる陽の暖かさも相まって涙腺の脆い職員ならもう号泣してもおかしくは無い。

 

……そんな一幕を挟みながらエントランスに辿り着いた二人を待ち受けていたのは姦しい女学生達の喧騒で、不意の感覚はすぐさま有耶無耶にやって蒼穹の空へと溶けていった。

 

久しぶりの晴れ模様。

燦々と輝く太陽はキヴォトス全体を包み込むような大きさで、今日も光の輪を描いている。

 

 

 

 

 




啓示:B--
“天からの声”を聞き、最適な行動をとる。
『直感』は戦闘における第六感だが、啓示は目標の達成に関する事象全てに該当する。
ある理由で大幅に弱体化しており、啓示を受けてもそんな気がする程度しか察知出来ない。
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