108─ワンハンドレッド・エイト─   作:Shohei Hayase

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Please take my hand

契約書の書面や流し込まれた操縦方法から薄々勘付いていたが、このアイガイオンはどうやら日本陸軍用の最新鋭E3Sらしい。

 

その証拠に、ビームブレードが無人機の装甲ごと貫通するのにかかった時間は1秒にすら満たなかった。

 

右手のビーム刃を収納し左足のビームスパイクを起動。膝蹴りを入れてもう一機を叩き壊す。

 

蹴り飛ばされた無人機は後続の数機を巻き込みながら吹き飛び、残りの無人機の照準はこちらに合わせられる。

 

「E3Sにシールドが無くったって!」

 

一応『アイガイオン』は7.62mm弾程度なら防げる装甲を持っているらしいが、だからと言って棒立ちで受けるつもりなど更々無い。

 

右腕に残った物理ブレードに刺さったままの無人機をシールド代わりに構えて突撃し、銃弾を弾きながら手近な一機を左腕のビームブレードで切り裂き、機関銃を取り上げる。

 

幸いグリップが付属していてマニピュレーターで保持できそうな構造だったため、トリガーガードを破壊してトリガーに指を掛けた。

 

(撃つ……!)

 

照準予測データが表示され、アシストの通りに引鉄(ひきがね)を引く。

 

銃なんて一度も扱ったことが無いのに、正確にセンサー部に弾丸が直撃し、3機の無人機を沈黙させる。

 

反動は『アイガイオン』によって吸収され、僅かな腕を震わせる感覚だけが残った。

 

「3機撃破、3機沈黙、6機健在……か」

 

アクティブレーダーを放ちながら無人機の管制ユニットを探し、適宜無人機に対しても感知を行って状況の更新に努める。

 

流石に日本陸軍の装備を奪いに来た連中が日本の……『セプティリオン』の監視システムに反応しないとは考えられない。この無人機は無線か量子通信で人間からのコントロールを受けていて、近くに中継点があるはずなのだ。

 

(アラート、スマートグレネードじゃない……嘘だろ対戦車ミサイル!?)

 

先程までコンテナの破壊に使用していたスマートグレネード……自発的に敵に突っ込んで爆発するマイクロドローンとは異なる熱源体接近警報。

 

時速400kmで迫りくるミサイルに対して選択したのは、回避ではなく迎撃。

 

ウイングユニット上部にあるプラズマキャノンを展開し、極低出力、高拡散モードで発射すると、砲口から飛び出したプラズマの雨に突っ込んだ対戦車ミサイルが爆散し、腕を交差して飛んでくる破片から身を守る。

 

(対戦車ミサイルで良かった……対人兵器なら周りにも被害が出てたし、俺も助からなかった)

 

付近には民家もあるし、スーパーやコンビニもある。それらに流れ弾が向かうことは出来るだけ避けたかった。

 

チラホラと付近の民家の窓に明かりが付き始め、それを嫌ったのか無人機は昭和島の方に向けて一斉に撤退を始める。

 

(……逃したくはない。が、藪をつついて蛇を出すのはゴメンだ)

 

数秒の思考の後、「程々に距離を取りつつ監視する」という結論を出し、ブースターで無人機の動きを先回りして本州と昭和島との境界、壁面緑化された護岸の上に足を着ける。

 

「周囲サーチ、反応……これか」

 

護岸に乗り上げた中継点を兼ねたコンテナに機体の手を触れさせ、音波による構造把握を開始。

 

「結構巨大なのに、中身は空……なら、伏兵がいるか?」

 

先程の無人機なら20機は入りそうなスペースだが、中身は全て出払っていた。

 

思考が「監視」から「攻勢防御」に移り変わっていくのを自覚しつつ、アイガイオンの演算能力ではコンテナの無力化には不足すると判断し、『セプティリオン』に要請を飛ばす。

 

(『アイガイオン』より『セプティリオン』の非常用演算リソースの使用申請。目的:不明な敵対的ユニットの電子的無力化……可決確認)

 

展開したブレードでコンテナの装甲を切り裂き、国際規格のコネクターを露出させる。

 

アイガイオンのコネクターは左腕手根部に内蔵されているので、右手で掴んで接続、ハッキングを開始する。

 

「全ファイアウォールの無力化、パラメーター書き換え開始……さすが『セプティリオン』。名前通りの活躍だ」

 

Septillionとは10の24乗を表し、SI接頭辞ではY(ヨタ)、日本の命数法では(じょ)となる。設計時の状態でさえ、かつてのスパコンの1万倍にも達する演算性能を誇る『セプティリオン』は、度重なる自己改造によってその性能をさらに1万倍以上に引き上げているとも聞く。

 

非常用のリソースとは言え、僅か0.1秒未満で制御用コンテナは完全に乗っ取られ、沈黙した。

 

「無人機への攻撃停止、及びコンテナへの帰還命令を発令。……あれ、まだ電波通信は死んでるのか」

 

どうやってかは知らないが、アイガイオンと直結させられた生体コンピューターによる電波通信は、まだジャミングを受けたままだ。

 

「まだコンテナがあるってことか? けど……」

 

アイガイオンを動かして、コンテナの下部と後ろを覗き込む。

 

出っ張った足はフロートを取り付けられる構造にもなっていないし、周りにもそのような残骸は認められない。同様に、このコンテナに推進機は存在しない。

 

つまり……

 

「揚陸じゃない、空挺か。 ……『アイガイオン』より『セプティリオン』に緊急申請。俺を起点として半径1kmを走査可能な光学、赤外線観測機器を用いて空中を探索してくれ」

 

1秒程度掛かって要請が受理され、観測データが集まり始める。

 

「戦術データリンクは50km程度までは届くけど、民間電波のジャミングとなると、そこまで距離は離れていないはず……」

 

民間の高周波電波を妨害するための装置は、ごく狭い範囲……少なくとも100m程度しか射程距離がない。軍用の技術を使った所で、1kmは超えないのではないか、という考えがあった。

 

(ビンゴ……上空800mか。思ったより近いな)

 

直線距離では60km少々、筑波の赤外線望遠鏡が丸裸にしたのは、2重反転プロペラが特徴的な輸送ヘリだった。

 

「イメージ検索……該当機体無し。嘘だろ新型?」

 

人の聴力では聞き取れないし、アイガイオンの集音マイクでも、目標のローター音を識別できない。

 

「外洋へ移動してる? 引いて……いや違う!」

 

輸送ヘリは更に高度を上げ、一旦大きく機体を振って内陸に向けて速度を上げる。

 

(アイガイオンの全速力でも追いつけない……どこに向かって……!?)

 

ブースターを使わず、それでも時速50kmで疾走するアイガイオン。その赤外線感知センサーが膨大な熱反応を捉える。

 

上ではない。無人機の物とも違う。しかし……

 

(IFFが反応している……味方?)

 

熱源に重なって表示された識別コードは『Loading』のままだが、先程無人機を敵機として認識した時とは異なる挙動だ。

 

「この壁の向こう……3、2、1」

 

路地からもう一本向こうの大通りに飛び出すと、銃弾による熱烈な歓迎を受けた。

 

(やっぱ釣りか!)

 

ブースターを吹かして横にスピンし、避け切れない弾は体勢を斜めにすることで跳弾させる。

 

そのままブースターの角度を変更し、敵に接近して殴り飛ばす……が。

 

「これ……人?」

 

腕に伝わってきた感触、殴った時に漏れた呻き声。それらが合わさって、一瞬俺の動きを止める。

 

「……しまった!」

 

スマートグレネードの接近警報、複数方向からの射撃。

 

いかなアイガイオンとは言えど、この攻撃を耐えきることは難しいだろう。

 

自分の迂闊さを呪いつつ、腕を顔の前で組み、体勢を低くして防御の姿勢を取る。

 

固く歯を食いしばり──衝撃は来なかった。

 

「……え」

 

顔を上げる。目に入ったのは、美しい、翼。

 

機械の翼を生やした人が、銃弾とグレネードを止めていた。

 

生命の危機と、それを脱出したこと。それと目の前の超常的な現象に、膝立ちの体勢が崩れ、地面に手をつく。

 

髪は肩甲骨の辺りまで伸ばされ、身長は小柄だった。手足は細く、人間の女性の後姿に見えるが、背中に生えた翼は全く人が持つ物だとは考えられない。

 

女性はゆっくりと振り返り、その顔をこちらに向ける。

 

刹那、全身が総毛立った。

 

年の頃は16、7だろうか。女性とも少女ともつかない容貌と体は、SFチックな……言い方を変えればとても実用的とは言えない薄いスーツに包まれている。

 

ただその姿は完璧で、この世の何よりも美しい。世界中の宝石、絵画を集めたとしても、彼女の前には霞んでしまうだろう。

 

深い、吸い込まれそうな真紅の瞳が、俺を捉える。

 

「君、は……?」

 

意図せず出た言葉に少女が答えるのと、アイガイオンが彼女の詳細情報を表示したのはほぼ同時だった。

 

「私は……エリアス。エリアス型HMAT一号機です」

 

『Data was reflected. Type-Elias HMAT Unit 1 "Elias / Centurion class" She is crowned with "Sagarmatha"』

 

それに目を通すよりも早く破裂音が連続して響き、慌てて立ち上がろうとする俺を片手で制した彼女は尋ねる。

 

「なぜ、貴方はここに来たのですか?」

 

「釣られている……と思わなかった訳じゃないけど、ここであのヘリをフリーにすれば被害が拡大しかねない。……君も、アレに追われていたんじゃないのか?」

 

『セプティリオン』とのリンクから得ている情報を辿り、ヘリを指差す。少女は指先を辿り、頷く。

 

「私は先程から所属不明の武装勢力による攻撃を受けています。通信リンクの度合いから鑑みるに、あのヘリが母艦で間違いないと思われます」

 

甲高い音がして下を見ると、少女の足元には夥しい数の銃弾が散らばっていた。

 

「これは、君が?」

 

「私が保有する能力によるものです。これを攻撃に転用すれば彼らを確実に排除できます。ですが私は未登録のHMAT。自己の防衛は出来ても、人を傷つける「権利」は存在しません」

 

HMATは現行の法制上はあくまでも「モノ」でしかない。本来所有者がしなければならない仕事、家事といったものを限りなくスマートに代行する、そういう扱いになっているからだ。

 

HMATが有する権利は基本的に「所有者の代行として振る舞う」権利だけ。

 

「故に……私は貴方に提案します」

 

彼女の翼に引かれたラインと、スーツに取り付けられたパーツが白く光る。

 

奥から投げつけられたグレネード。スマートグレネードではない、17世紀から続く爆圧によって敵を殺傷する兵器が、少女の手前で不自然に跳ね返り、地面に落ちる。

 

「この状況を打開するため、私と契約して下さい」

 

衝撃は自分が予想していた物よりもずっと小さく、ふわりと少女の髪を揺らした。

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