虹ヶ咲学園の恥晒し 作:種子島
愛さんはニジガクをサンサンと照らす太陽なんだよ。サンだけに。
「トゥ!トゥ!ヘァー!」
「零士さん、口ではなくちゃんと床の拭き掃除をしてください!」
同好会にせつ菜が戻ってきた翌日、本格的にスクールアイドル同好会を再開するために俺たちは部室の大掃除を行なっていた。
「おぉ〜綺麗になったねぇ〜」
「はっ! 彼方先輩! コレは俺にお任せを!」
「気が効くね〜ありがとう零士くん」
「ははっ、彼方先輩にこんな重たい物を持たせては紳士の名折れですから」
彼方先輩が手に持っていた椅子を受け取ると、何故か横からまた別の椅子が重ねられる。何事かと視線を横に向ければ、何故かせつ菜がニコニコと笑いながら俺を見ていた。
「……せつ菜嬢、これは一体?」
「ふふっ、これもお願いしますね。紳士の零士さん」
ドスッ ドスドス ドサッ
「……君たち?」
「ふふっ、紳士なんだもね?」
「コレもお願いしまーす。紳士の零士せんぱ〜い」
歩夢とカッスが椅子の上からさらに小道具やら物入れやらを乗せていく。それを見た他のメンツも買い物カゴに商品を入れるくらいのノリで俺の持つ椅子の上に移動させる物を積み上げる。
「ふっ、ぐぐっ…! ぬ、ぉぉぉぉ!!!」
「お〜、流石は男子」
「先輩力持ちなんですね」
「零士くんカッコいいよ〜」
ハッ…! エマ先輩が俺を褒めている…! その声だけで俺はいくらでも力が湧いてくるゥ!
「余裕すぎてこのまま校内一周してこようかなぁ!?」
「いや、そんなことする意味ないですから」
「やっほー!!」
掃除がほぼ終わり、ようやく同好会としての活動が再開されるかというところで、俺たちの集団に向けて遠くから声がかけられる。目の前に積み上げられた荷物が邪魔すぎて何も見えないけど。
「もしかしてスクールアイドル同好会の人たちだよね……って、どういう状況?」
「聞くなっ…!これは男の意地とプライドを賭けた戦い中だっ…! ぐぎぎっ!」
「って零さんじゃん! 久しぶり〜!」
「何で俺のこと知ってんだ!? もしかして俺のファンか!?」
「いや違うけど」
俺は手に持った荷物を一旦置いて声の主を確認する。そこには笑顔のギャルと真顔のロリッ子が立っていた。
「やっほ、愛さんのこと覚えてる?」
「おー宮下か。覚えてる覚えてる。確かあの日は黒のパン……」
「ん? 黒いパン? 焦げちゃったの?」
「いや、何でもないから気にすんな、はっはっは」
あっぶないあぶない。ついあの日見たパンツの光景が思い浮かんでしまったぜ。アレは俺の心の中に思い出としてしまっておこう。
「あれ? この間の」
「あっ、2人とも同好会入ってたんだ!」
宮下とロリッ子の顔を見て歩夢と侑が反応を示す。リアクション的に顔見知りだろうか。侑ちゃんったらまた知らない間に女の子の知り合い作っちゃってぇ。
「情報処理学科2年宮下愛!」
「1年、天王寺璃奈です」
「愛さんたち、この前の屋上のライブ見てドキドキしちゃってさぁ! と言うわけで、2人とも入部希望で!」
まさかまさかの新入部員に皆は歓喜の声を上げる。ついこの間せつ菜と2人で創った同好会だというのに、気がつけば随分と大所帯だ。
「やるからには本気で頑張るよ! ところで、スクールアイドル同好会って何するの?」
「破廉恥な衣装を着て公衆の面前でダンスと歌を披露すr」
「この人の言うことは無視してください。実は、それを私たちも今探してるとこでして」
「ん?」
せつ菜の言葉に対し、宮下はポカンとした表情を浮かべて首を傾げた。
………
「もちろんやりたいことはあります! まずはライブ! スクールアイドルと言えばやはりライブです!」
「彼方ちゃんたちはまだやったことないしねぇ〜」
部室に戻り、これから何を目指して活動するかを話し合うことになった俺たち。ホワイトボードを勢いよく叩いたカッスが声高らかにライブへの意欲を叫ぶ。
「どんなライブにしたいかが大事ですよね」
「かすみん全国ツアーやりたいです!」
カッスの言葉を皮切りに、各々がやりたいライブへの意見を出す。やれ芝居がしたいだのやれお昼寝がしたいだのやれ火薬を使いたいだの、まるで統一感はない。
「よし、じゃあ意見をまとめると、皆んなで輪になって昼寝をする芝居をしながら火薬で大爆発する全国ツアーだな」
「どんなイカレ集団?」
「うるせぇやい。チミたちの意見を参照したまでにすぎないのだよ。ちなみに新顔のお二人さんはしたいこととかあるん?」
「ん〜? そうだなぁ」
宮下は顔を上に向けてあーでもないこーでもないと唸り声を上げる。そして何かを思いついたようにパッと笑顔浮かべた。
「やっぱり楽しいのがいいな!」
その意見に周りも賛同の声を上げる。各々やりたい事はあれど、楽しい事は大前提という訳だ。それについては俺も賛成だ。
「じゃあライブことは追々考えるとして、楽しいライブをするために特訓です!」
「それなんだけど、しばらくはグループに分かれてそれぞれがやりたい練習をするのはどうかな?」
「いいですね、私は歌の練習がしたいし」
「よしっ!じゃあ俺は木の枝にタイヤを吊るしてそれを受け止める特訓をしようかな」
「どこの超次元サッカーRPGの特訓ですか」
という訳で、グループに分かれての特訓が開始された。宮下と天王寺は雰囲気を掴むために全ての特訓に参加するらしい。
ちなみに俺もマネージャーとして全ての特訓に顔を出せとのご命令だ。マネージャー使いが荒すぎるッピ!
「ふぉぉぉぉ〜〜〜〜! むりむりむりぃ〜〜!」
うぉぉぉぉぉぉぉ!!! えっちすぎるッ!!!!
はいっ、という訳でまず最初はダンスをするためのしなやかさを身につけるために、柔軟体操をする組の方に顔を出しているんだが、彼方さんがえっちすぎてまいっちゃうねしかし。
背中を押される彼方さんは普段出さないような呻き声を上げながら必死に指の先をつま先へと伸ばしているが、全く体は伸びていない。そんなとこも可愛らしくて素敵だ。
「お、おぉぉぉぉ」
ちなみに隣の天王寺も全く体が伸びていない。なんなら彼方さん以上にカッチカチやぞ!
「つか、何で当たり前のようにいるんスか? 童貞キラーパイセン」
「別にいいじゃない、暇だったのよ」
「果林ちゃん、零士くん。童貞ってなに?」
俺と果林さんの会話を聞いたエマ先輩が首を傾げる。エマ先輩の口から童貞というワードが出たという事実だけで……ふぅ。今日はこれでいいや。
「エマの前で変な事言わないで頂戴? それと私への風評被害になるような事もね」
「あっはっは、痛い痛い痛い。アイアンクローが俺のご尊顔にめり込んでますよ、あっ、ちょっマジで潰れる。え、どんな力してんのあだだだだ」
「ふふっ、骨が折れる時ってどんな感触なのかしら」
「ひえっサイコパスや…ぁだだだだだ!!!! マジで折れるよパイセン!?!?!?」
すみません僕の頭蓋骨からミシミシと鳴っちゃいけない音がなっている件について。アカンこれじゃ俺のイケメンフェイスが死ぬゥ!
「ふぅ、お仕置きはこのくらいにしといて。さぁ2人とも柔軟を続けるわよ」
「えぇ〜! 彼方ちゃん壊れちゃうよぉ」
「彼方さん、今の録音しそびれたんでもう一回言ってくれませんか? リピートアフタミー、壊れちゃうよ〜」
「え、ていうか壊れてるのは零士くんの顔だと思うけど……大丈夫? お顔が月のクレーターみたいになってるよ?」
え? そんなんなってます? はっはっは、通りで前が見えねぇ訳だぜ。まったく俺でなきゃ死んでますぜ果林の姉御。
「大丈夫だよ!」
柔軟に苦しむ彼方先輩と天王寺に宮下が声をかける。そしてこれぞ手本だとでも言わんばかりに足を大きく開いて上半身を前に倒す。
「「おぉ〜」」
「じゃあもう一回やってみよっか!」
そこからは宮下による2人への指導が開始した。大きく息を吐きながらゆっくりと上体を前に倒す2人は、少しではあるが確実にさっきよりも体が前に倒れている。
はぇ〜すっごい。まるでスポーツジムのインストラクターみたいだぜ。
「流石部室棟のヒーローね」
「ヒーロー?」
「なんすかそれかっけぇ」
「知らないの?彼女、色々な体育会系の部活で助っ人として活躍してるみたいよ」
なんじゃそりゃ。チートやないですかチート。なんか女子にめっちゃモテてそうだな。別に羨ましくなんかないけど。別に羨ましくなんかないけど。別に羨ましくなんか……
「そういえば彼方ちゃん、てっきり果林ちゃんも同好会入るかと思ってたよ〜」
唐突に話を変えた彼方先輩の言葉に、果林さんは口を尖らせて答える。
「そんな訳ないでしょ」
「そうですよ、果林さんは俺だけのアイドルなんだから」
「……えっ!? 2人ってそういう関係なん!?」
「ふふっ、それこそそんな訳ないでしょ」
「あだだだだだだだだ!!!!! 顔が戻らなくなるくらいメリメリ言ってる!!!!!!」
この後も果林さんのアイアンクローを定期的にお見舞いされながらめちゃくちゃ柔軟を続けた。皆は体が柔らかくなったけど俺は頭蓋骨が柔らかくなったぜ。はっはっは。
………
その後は部室でカッス主催のスクールアイドル概論を履修したり、映像系の部活が使用する収録ブースで歌の練習をしたりと、俺と宮下と天王寺は休む暇なく特訓を味わい尽くした。
そして今は部室で宮下のお婆ちゃんお手製のぬか漬けをテイスティングしている。これがまぁ美味いのなんの。
「宮下のお婆ちゃんしか勝たん」
「あははっ、そんなに気に入ってくれたの?」
「毎日俺の漬け物作ってほしい……」
「コラコラ、あたしのお婆ちゃん人妻だぞー」
「じゃあ宮下でいいや。毎日俺のためにぬか漬けを漬けてくれないか?」
「へっ!?」
あれ? 俺の想像してたリアクションと違う。てっきり『毎日ぬか漬けは普通に面倒じゃん〜』みたいな返しが来ると思ったのに、宮下は目を見開いて顔を赤くした。
「……いや、普通に冗談だぞ?」
「あっ、そっ、そうだよね! あははっ! いや〜、焦ったぁ〜!」
「……」
「……」
「お前、ギャルなのにめっちゃウブだな」
「べっ、別にそんなことなくない!?」
いやぁ〜俺は結構アリだと思うぞウブギャル。ギャルなのにウブ、ウブなのにギャル、そこのキャップにグッと来る男は多いと思う(俺調べ)
「お前アレだろ、ギャルの女友達から『彼氏とえっちする時にさ〜』みたいな話振られて顔真っ赤にした経験絶対あるだろ」
「うぐっ」
「分かる分かる、アレ辛いよなぁ。俺も男友達から彼女に関する相談とかされて血の涙流したことあるし」
「いや、零さんのソレとは一緒くたにされたくないんだけど」
ぴゅあぴゅあギャルの宮下を弄って遊んでいると、肩を叩かれたので振り返るとそこには笑顔の歩夢が立っていた。
「零士くん、あんまり女の子のこと揶揄っちゃダメだよ」
「お、おぉ」
「それとね、さっきみたいなことは、冗談でもあんまり言わない方がいいよ?」
「いやでも冗談でんがな」
「お返事は?」ニコニコ
「……へい」
「歩夢凄いね、あの零さんを一方的に黙らせちゃったよ」ヒソヒソ
「零士くん、歩夢には弱いとこあるから」ヒソヒソ
聞こえてんぞ、高咲&宮下。言っておくが俺は別に歩夢の背後から滲み出てる修羅にビビってる訳じゃないんだからねっ!
ガラッ
「うっ、何ですかこの匂い?」
「ぬか漬けだよ? 食べる?」
ドアを開いたカッスの背後から他の同好会メンバーもぞろぞろと帰ってくる。それぞれ特訓に精を出していたのが疲労具合からも伝わってくる。
「彼方ちゃんクタクタだよ〜」
「彼方先輩、今の録音するんでもう一回言ってもらっていいですか?」
「あ、零士くん顔元に戻ったんだね〜、よしよし〜」
「あ〜^」
彼方先輩の麗しのおててが俺の頬を撫でる。あ〜たまらねぇぜ。
「今日はこのくらいかな」
「そうですね。あっ、零士さんとかすみさんはお話があるのでいいですか?」
Why?
そして休憩もほどほどに、せつ菜と名前を呼ばれたメンバー以外が部室から出て行き、真面目な表情を浮かべたせつ菜が一つ息を吐いた。
「お話というのは、私たちの今後についてです」
「……まさか、告白か?」
「はい!?」
え、違うの? わざわざ部室に残して真剣な話をするんだから、俺はてっきり愛の告白をされるもんだとばかり。
「零士先輩、そんな訳ないじゃないですか。今は真面目な話をするとこですよ」
「俺はいつだって真剣だ」
「か、かすみさんの言う通りです! そっ、それに、告白をするのならもっとちゃんと時と場所を選んで……」
「せつ菜先輩、本題本題」
「あっ、すみません。つい取り乱して」
こほんと一つ咳払いをして空気を整えるせつ菜。そして今度こそ真剣な表情で俺たちを残したワケについて話し出す。
「……ソロアイドルですか」
「はい、私たちだからこそできる新しい一歩です」
「でもそれって、簡単には決められないですよね」
せつ菜からの提案、それは同好会のメンバーが一人一人別々のアイドルとしてステージに立つことだった。それを聞いたカッスは納得こそしてはいるがどこか神妙な面持ちだ。
「それって珍しいのか?」
「まぁ、基本的にスクールアイドルは部員のメンバーでグループを組むものですから」
「ふーん」
まぁ、それもそうか。同じ学校で同じ部活の仲間がいれば、わざわざそれぞれが別々にステージに立つこともないか。
「俺はいいと思うけどな」
「え?」
「まぁ俺がスクールアイドルに疎いってのもあるんだろうけど、お前らがソロアイドルってのは何かしっくりくるような気がする。無理に型にハマる必要もないだろ?」
「それは……はい」
「それにさ、これなら実現できるだろ? 同じ同好会で活動しながら、可愛いアイドルも熱いアイドルも両方できる」
グループでやろうとするから方針が合わず、ぶつかったのが前のごたごただ。それならいっそのことソロアイドルとして活動すれば方針でぶつかり合うこともないだろう。
「そうなりゃ、もうせつ菜とカッスが喧嘩することもないだろうしな」
「「ソロでなくてももう喧嘩なんてしません!!」」
「はっはっは! そりゃ結構!」
結局、その日は一旦保留ということで解散になった。
そしてその日の夕方、明日は朝の9時にレインボー公園に集合という連絡がカッスから送信された。こりゃ今日は夜更かしできんな。
………
翌朝、ゴミ出しを終えて朝日で光合成をしていると、向かいの道を練習着姿の宮下が走っている光景を見かけた。向こうも俺に気がついたのか笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「おっはよ! 零さん」
「おっす、これから練習でランニングするってのに、その前にもランニングなんて元気じゃのぉ」
「愛さん体力有り余ってるから! そうだ! 零さんも一緒に今から走って行こうよ!」
「えっ……いや、まだ7時半だし俺はもうちょい家でゆっくりしてから」
「9時集合なんだからそんな変わらないって! さぁレッツゴー!」
「チョマテヨ!」
宮下は俺の腕を絡め取ると引っ張るように駆け出した。半ば引きずられる形で連れ出された俺は仕方なく歩幅を宮下に合わせて走り出す。
……さっきちょっとおっぱい当たってたな。まさか俺を誘惑してるのか!?
「ねぇ零さん、愛さんたちがソロアイドルやるってなったらどう思う?」
「ん? ソロ?」
「あっ、昨日零さんとかすかすがせっつーに呼ばれたでしょ? その時こっちの皆でも話してて」
悩んでいるのか、宮下にしては珍しく笑顔のない表情だった。というかあっち側の皆もソロ活動っていう発想には行き着いていたんだな。
「で、どうかな?」
「俺はいいと思うぞ。一人一人やりたいことが違ってもそれぞれが輝ける道だと思う。それに」
「それに?」
「単純に俺が見てみたいってのもあるがな」
「ははっ、何それ」
小気味良いテンポで快走を続ける宮下の横に並び立ち足を回す。互いの呼吸音が聞こえる距離で俺たちは会話を続ける。
「愛さんさ、よく考えたら今までチームスポーツばっかやってきててさ。自分1人でどうやって自分を表現するのかって考えてたら……なんかハードル高いなって」
……コイツめっちゃ乳揺れてんな。
「零さん? 聞いてる?」
「ふぁっ!? あっ、あぁ聞いてる聞いてる! よそ見なんて全くしてないが!?」
「お、おぉ……別にそんな必死で否定するようなことでもなくない?」
ふぅ、危ない危ない。ギャルおっぱいをチラチラ見ていたのがバレるところだったぜ。こんなのバレたら俺が変態だという誤った情報を学校中に流されてたかもしれないからな。
「それで? 自分を出すのがハードル高いって話だっけ?」
「うん」
「……うーん、お前さなんか難しく考えすぎじゃねぇ?」
「え?」
「スポーツとかする時、そんな小難しいこと一々考えてんのかよ?」
「それは……違うけど」
「じゃあ何考えてんの?」
「普通に楽しいなとか、愛さんが活躍してチームが勝ったら皆が喜んで笑顔になるから嬉しいなとか」
「スクールアイドルもそれでいいじゃん」
宮下本人は気づいていないのかもしれないが、コイツが普通に仲間と接するだけで周りも呼応するように明るくなっていく。この前の特訓の時だって宮下の周りには常に笑い声が溢れていた。
「まずはお前が楽しむことだろ。そうすれば周りもお前の楽しいが伝播してくよ。お前にはそういう力があると俺は思う」
「……確かにあたし、自分が楽しむのも、誰かに楽しんでもらうのも好きだなぁ」
「まぁそのためには練習あるのみだけど……おぉっ!? おい!あそこにいるの大天使エマエル先輩じゃないか!? おーい!エマ先輩〜!!」
向こうのほうに見えたエマ先輩に声をかけて手を振ると、向こうも俺たちに気づいたのか笑顔で手を振りかえしてくれる。
「おい見ろよ、天界から舞い降りた女神がこっちに向かって手を振ってるぜ? はぁ〜ありがたやありがたや」
「そっか、それで良かったんだ」ボソッ
「あん? 何か言ったか?」
「ごめん零さん! ちょっと走ってくる!」
「はぁっ!? ちょっ、おまっ!」
方向転換した宮下がさっきまでとは比べ物にならないペースで走り出す。無我夢中で走り続ける彼女を追って走っていると、人がそれなりにいる公園に辿り着いた。
そして静かな公園で宮下は歌い出す。最初こそは困惑していた周りの人だかりも次第に盛り上がって笑顔になっていく。後から追いついてきたエマ先輩以外の同好会メンバーも楽しそうに目を輝かせている。
それにしても、スクールアイドルってやつは誰でも領域展開が使えるのか…? 一瞬周りの景色も宮下の身に纏っている練習着もまるで違うものに見えたんだが……
「……まぁ、なんでもいいか。楽しければ」
そして即興でのライブを終えた宮下は満足そうに満面の笑みを浮かべて声を張り上げる。
「さいっっっっこ〜〜〜〜!!!!!」
「……愛ちゃん、凄いね」
「負けてられません…!」
「うん! 私もライブやりたい!」
宮下のライブに刺激を受けた他の同好会の面々はやる気に満ち溢れている。互いが互いにとっての刺激になる、実に結構なことじゃないか。
「零さん!」
「おつかれ」
「うん! さいっこうに楽しかった! それに、愛さんの楽しいを周りの皆とも分かち合えて…! それがまた更に最高だよ!!」
「ははっ、そりゃなによりだ」
「うん! 零さんも楽しかったよね!?」
ははは、近い近い。あとそんな軽率に手を握るなよ好きになっちゃうだろ。ハイになったギャルの距離感ってやつは恐ろしいね。マジでね。何で汗だくなのにこんないい匂いすんのコイツ?
「ま、まぁ……そっそそそそそそれなりに?」
「やった! じゃあ愛さんのファン1号だ!」
「ファン1号ってことは特別なファンサービスとかあるのか!?」
「うわっ、いきなり豹変するなぁ。まぁ別にファンサくらいなら」
「エッチなファンサービスとかあるのか!?」
「はぁっ!? あ、ある訳ないじゃん!!!」
宮下はサッと俺から体を隠すようにして抗議の視線をぶつけてくる。
「もうっ! 零さんってばなんですぐ下の方に話を持っていくのさ! 愛さんそういう話苦手だって分かってるくせに!」
「はははは! どうだこれを機に苦手を克服してエロギャルにキャラ変するのは? そうすればもっとファンになるぞ」
「ならないし!というか零さんほんっっとえっちだよね! さっきだって走ってる時…! ち、チラチラ見てたのバレてるから!」
「みっ、みみみみみみみ見てないが!? 我が父に誓って! 乳だけに!」
「…………んふっ」
「はい笑ったー! 俺の勝ちー!」
「あの、先輩方……痴話喧嘩もその辺にしておきませんか?」
カッスの声で我に帰る。すっかり周りに他の奴らもいることを忘れていた。そしてそれは宮下も同じようで、顔を赤くして硬直したところをエマ先輩にぎゅっとしてもらってよしよしされている。
うおっ、羨ましい。
そう思って俺もエマ先輩の方に行こうたのだが、両肩を物凄い力で掴まれて振り返ると、笑顔を浮かべた歩夢とせつ菜が立っていた。
「零士くん、すぐに女の子の体のことジロジロ見るのは良くないんだよ?」
「節操なしの零士さんには一度お灸を据える必要がありますね」
「……ふぅ、いや待てお前ら。健全な男子なら揺れるおっぱいに視線が吸われるのは普通のことであって決して俺は悪くないんだ」
「「言い訳は無用」」
この後めちゃくちゃ説教された。
次話で一旦栞子を出したい。
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