虹ヶ咲学園の恥晒し 作:種子島
ここまでアニメ前
歩夢と侑と別れた後、俺はクラス分けの貼り紙を眺めて自分の名前を探していた。
「お、あったあった。同じクラスに知り合いは……おらんがな」
残念なことに同じクラスに歩夢や侑、そしてアイツの名前は見当たらない。皆普通科だろうからワンチャンあると思ったが……いや、今歩夢と同じクラスになっても気まずいっちゃ気まずいな。
「零士さん、おはようございます」
「ん? おぅ菜々か」
背後から声をかけられ振り向くと、そこにはおさげで眼鏡をかけた小柄な女子が立っている。
彼女がアイツこと、俺と同中である
「クラスどうでしたか?」
「おー、知ってる人全然いねぇわ。お前とも別々」
「そうですか……残念です」
「中学ん時は3年間同じだったのにな」
1年生の時につるむようになって以降、2年3年と同じクラスだった俺たち。中学生活3年間の記憶を思い返せば、そこにはいつだって菜々の姿があるくらいだ。
菜々はめちゃくちゃ真面目なヤツで、俺はその限りではない。じゃあなんでそんな俺たちが友だちのになったのかといえば、それは俺たちに共通する趣味があったからだ。
「あ、零士さん。この前お借りした漫画をお返ししますね」
「うぃー、おもろかった?」
「はい! もう常にドキドキの展開でとても面白かったです! 特に女型の巨人の正体がまさかあの人だったなんて!」
「はっはっは! その辺めちゃくちゃおもしれーよな。続きもまた今度もってくっから、後でゆっくり語り合おうぜ」
「はい!!」
俺と菜々の共通していること、それはアニメや漫画がめちゃくちゃ好きなことである。元はと言えば俺が中学の教室に漫画を持ち込んでいたのを菜々に見られたのがきっかけで、そこから菜々との友人関係が始まった訳だ。
とはいえコイツの親はそういうのをあまり快く思わないタイプらしく、菜々は大好きなアニメや漫画を禁止されている。
その影響もあってか、菜々は超有名な作品でも読んだことのない漫画や見たことのないアニメが多く、こうして度々俺が自分の好きな作品を布教しているのだ。とてもいいリアクションをしてくれるので教え甲斐があるってもんよ。
「そういえば、零士さんは高校では部活や同好会に入るんですか?」
「俺? うーん、特に考えてねぇけど……菜々は?」
「私は生徒会に入ろうかと」
「おぉ〜中学に続いて生徒会長の座を狙ってる訳か。菜々が虹ヶ咲の頂点に立つ日もそう遠くないなこりゃ」
「べ、別に頂点を狙ってるとかそういう話ではないですけどね?」
部活かぁ……運動は嫌いじゃないし割と得意ではあるけど、何か決まって好きな種目がある訳じゃないんだよなぁ。
「……女子とイチャイチャできるような部活とか同好会ないかな?」
「また貴方は……そんな不純な動機で入っても長続きはしませんよ?」
「うーん……もういっそ俺も生徒会入ろうかな」
「えっ、生徒会の活動は頭使いますよ?」
「お前ナチュラルに俺を馬鹿にしてるよな」
きょとんとした表情で俺を見上げる菜々。完全に俺をアホと思ってやがるなこんちくしょう。
「でもどうして生徒会に?」
「だってお前がいるじゃん」
「ふぇっ!?」
俺の言葉に対して菜々は何故か顔を真っ赤にして慌てふためく。チャームポイントのメガネに至っては今にもずれ落ちそうだ。
「れ、れれれ零士さん……それは一体どういう…?」
「だって菜々と一緒にいれば、いつでも困った時に課題とか写させてもらえるだろ?」
「……あー、はい。ソウデスカ」
「?」
赤かった菜々の顔がスンッと冷めていく。一体なんなんだと思っていたその時、校内にアナウンスが鳴り響いた。
『新入生の皆さん、これより入学式を開始するので速やかにホールまでお越しください』
「そろそろ入学式が始まりそうですね」
「体育館とかじゃなくてホールってところがやっぱ普通の学校とは違うよな」
「ふふ、そうですね。それじゃあ一緒に行きましょうか」
「お嬢、お手をどうぞ。エスコートいたしますぜ?」
「はいはい、ふざけてないで行きますよ」
この後めちゃくちゃ入学式に参加して、めちゃくちゃ長い校長の話を聞いて、めちゃくちゃ人混みにのまれて菜々とはぐれた。ちゃんちゃん。
………
「サッカー部どうですか!!」
「映画研究会!! 楽しいですよ!」
「料理部もあるよー!」
「おぉ、活気あるなぁ」
入学式後、クラスでの軽いHRを終えた俺たち新入生を待っていたのは、獲物を刈り取る目つきをした先輩たちによる部活勧誘ラッシュだ。
どの部活も新入生を捕獲するために目をギラギラとさせているぜ。
とまぁ、そんなことを考えていると、俺の元にも目をギラギラさせた先輩方が我先にと駆け寄ってくる。目をギラギラさせた女子の先輩に迫られるのはいい気分だ。
「ねぇねぇ! 弓道部とか興味ない?」
「弓道にも興味はありますが、素敵なアナタの方に興味津々です。正射必中、アナタという鋭い矢の魅力に俺の心は貫かれて」
「あっ、結構でーす」
む、何故か俺の方が断られたぞ。
「そこの新入生くん! 料理研究会とかどう!」
「えっ!? 毎日俺の味噌汁作ってくれるんですか!?」
「あっ、言ってないでーす」
あれれ〜? おかしいぞ〜?
「やぁ、そこのキミ。演劇部に興味はないかい? 顔立ちも良くてスタイルもいいからきっといい役者になるよ」
「えっ!? 俺とラブロマンスを演じたい!?」
「すまない、今の話は無かったことに」
……何故だ。さっきまで色々と勧誘されていたのにめっきりと誘いが来なくなった。このままだと唯一好意的だった流しそうめん同好会に入部せざるを得ないぞ。
「いや、先輩たち普通に可愛かったしアリだが」
「ん? キミ! もしかしてまだ部活決めてないのかい!」
「えっ、まぁ」
そうこうしていると、背の高くてガタイのいいガチムチにいちゃんが俺に声をかけてきた。虹ヶ咲にいる数少ない男子生徒仲間だ。
「だったらバスケ部はどうだ! 背高いしきっとキミに合ってるぞ!」
「……それって女子バスケ部じゃなくて男子バスケ部の勧誘ですよね?」
「……? あ、当たり前じゃないか」
「男子バスケ部って女子いないっスよね?」
「だ、男子バスケ部だからね」
「……すみません、じゃあ遠慮します」
「なにぃ!? ど、どういうことだ!」
バスケ部パイセンはぐわんぐわんと俺の肩を掴んで揺さぶってくる。ちょっ、普通に気持ち悪いんだがこのままだと吐きそおrrrrrr
「はっ、すまない。つい興奮してしまった」
「いえ別に、じゃあ俺はこれで」
「ま、待ってくれ! さっきの言葉の意図を教えてくれ!」
「意図もクソも……俺、女子と混合の部活じゃないと入る気ないっスから。それが最低条件っスね」
「な、何故だ…?」
「イチャイチャしたいから」
「なん……だと……」
おーん、そらそうよ。何が悲しくて野郎ばかりのむさ苦しい集まりに顔出さにゃいかんのだ。いやまぁ男子同士の友情とかも大事だとは思うしそれは否定しないけどね、せっかく虹ヶ咲に入ったんだから俺は女子に囲まれて生きていきたい。
「じゃあ今度こそ行きます」
「ま、待ってくれ! キミの女子生徒と仲睦まじい関係になりたいと言う欲を否定するつもりはない! だが、キミはまだ知らないだけなんだ! 男同士の熱い友情でしか得られないものもあるんだ!」
「え、いや……だから別に俺は」
「知らずに否定するなんてもったいない! 一歩踏み出してみれば、そこにはきっとキミの知らない世界が広がっている!」
ガシっ
「いや、ちょっ」
「さぁ一緒に体感しよう! 男と男の熱い友情を! 一緒に行こうじゃないか!」
「あ、あの」
な、なんか不穏な流れじゃないか…? この人目が完全にキマっちゃってるんだが…? なんか鼻息荒いんだが…!?
これ、部活の勧誘の話だよな…!?
「あ、あの俺マジでそろそろ行かなきゃいけないとこあるんで!」
「待ちたまえ!ボクがキミに教えてあげよう! 男同士もそう悪いもんじゃないってことを!!!」
「いやぁぁぁぁ!!! 誰か助けてー!!!!」
へ、変態だぁぁぁぁぁ!!!!!
助けてくださぁ〜い! 変態に襲われてま〜す!
「さぁ、キミの知らないセカイを一緒に見に行こうじゃないか♂」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
勧誘エリアに俺の悲痛な叫び声が鳴り響いた。
………
「はぁ、はぁ、ひ、酷い目にあったぜ」
アレからほぼ無理やり体育館に連行された俺は、制服を脱がされ体操服に着替えさせられ、バスケ部の練習メニューに一通り参加させられた。
別に変なことをされた訳じゃないが、あの変態先輩の目つきはやけにねっとりしていて貞操の危機を感じたので、金輪際体育館には近づかないことにした。
「とっとと着替えてこんなとこ早くずらかろう」
「松本くん!」
「ひぇっ!?」
体操服を脱いでパンツ一丁になっている時に勢いよく更衣室の扉が開く。そして中に入ってきたバスケ部パイセンがつま先からつむじまでをねっとりとした視線で観察してくる。
「ふぅん……素晴らしい肉体だ。やはりキミはバスケ部になるべきだ」
「そんな猗窩座みたいな勧誘されても俺はバスケ部にはなりませんってば!」
「……そうか、ならば今日はここで引くとしよう。だがまたそのうち勧誘しにいくから考えておいてくれ。一緒に男同士の熱い友情を育もうじゃないか!! ははは!!!」
そう言って高笑いを浮かべながらパイセンは姿を消した。次この人に話しかけられたら全力ダッシュで逃げることを決意しながら着替えを再開しようとしたのだが、さっきまでそこに畳んで置いてあった俺の体操服と制服が無い。
「あり?」
俺の服は無いが、さっきまで置いてあった場所の横に全く知らない人の服は置いてある。ジャージに増井とか書いてあるし。
「……もしかして増井くんが間違えて着て帰ったんか?」
名探偵零士の推理はこうだ。俺と同じくバスケ部の体験入部に参加していた増井くんが間違えて俺の制服を着てそのまま体操服も持って帰った。
うむ、まぁこれしか考えられない。仕方ない、今日は増井くんの服を着て帰って明日にでも増井くんを探すとしよう。
「よいしょ……んん?」
なんか……小さくない……?
てか………入らん。
いや、ピッチピチになるとかいうレベルじゃなくて物理的に入らん。裾が通らない。
「……着られねぇし」
いやいやいや、ここまでサイズ差あるんなら増井くんは俺の制服着た時点で気づこうよ。絶対ダボダボだろ今。
いやちょっと待てよ。というか俺はどうすればいいんだ? 今ここにある増井くんの服は入らないし着る物がないぞ? どうやって家に帰れと?
「まぁ、仕方ねぇか」
着るモンが無いなら、そのまま帰ろう。
………
ザワザワ
「な、なんだアイツ!?」
「ぱっ、パンイチで堂々と歩いてるわよ!?」
「うわぁぁぁ! 変態がニジガクを練り歩いてるぅぅぅぅ!!!」
うん、まぁそりゃあそうなるか。
でも許してくれ。着る服が無いんだ。
俺はファッションモデルも顔負けの堂々とした態度で虹ヶ咲のメインストリートを歩いていく。このまま学校の出口へ向かってマイホームにシュウゥゥゥゥゥゥゥ!!!
「なんでパンイチであんなに堂々してるの!? 羞恥心とかないの!?」
「ちょっとドヤ顔なの腹立つんだけど」
「アホなんでしょ」
「いやあの堂々とした態度。まるで帝王の風格すら感じさせる……パンイチだが」
「やはり素晴らしい。キミはバスケ部に入るべきだ♂」
「な、なんだアイツは!? 恥晒しめ! あんな奴は虹ヶ咲の恥晒しだ!!」
誰が言ったか恥晒し。この一言が予想外に広まっていき、俺は虹ヶ咲学園の恥晒しという大変不名誉な異名を手に入れたのだった。
これが約1年前の話。虹ヶ咲学園の恥晒しと密かに呼ばれている俺は現在2年生。
2年生になって同じクラスになった菜々の一言で俺の運命は大きく変わることになる。
「んぁ? 今なんて言った?」
「スクールアイドル同好会を創ります!!」
スクールアイドル? 何それ美味しいの?
こっからアニメの話